病理学

病理学 · C/29

鼻腔・上咽頭・喉頭の腫瘍

Tumors of nasal passages, nasopharynx and larynx

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High-yield / ポイント
応用トピック
副鼻腔の良性・悪性腫瘍と治療原則上咽頭疾患とアデノイド増殖症の症状喉頭・下咽頭の悪性腫瘍
疾患
上咽頭癌内反性乳頭腫(副鼻腔)反復性呼吸器乳頭腫症

🧠 全体像:鼻腔・上咽頭・喉頭の腫瘍は部位で性格が大きく異なる——は関連で中国南部・東南アジア・北アフリカなどに多い非角化癌が主体、喉頭腫瘍は非悪性(・乳頭腫)と悪性(扁平上皮癌)を分けたうえで、悪性は・・という発生部位がそのままリンパ豊富さと予後を決める。

A)鼻腔の腫瘍

  • 扁平上皮癌:最も多い鼻腔悪性腫瘍
  • 腺癌:腺由来、鼻腔・副鼻腔で2番目に多い。腺癌は木材・皮革粉じんへのと強く関連する1
  • 悪性黒色腫:由来、進行性、この部位の腫瘍の約1%のみ
  • :良性の増殖、扁平上皮癌へ進展しうる。第5版では旧称シュナイダー乳頭腫の一型として「副鼻腔乳頭腫・型」と呼ばれ、約90%にがある1
  • :稀、性の由来、と区別する必要
  • :顔面正中の壊死性病変、の破壊性粘膜病変(下の⚠️)
  • リンパ腫、肉腫

💡 腺癌と木材粉じん曝露。 のに関する系統的レビュー・(コホート11・症例対照17研究の統合)では、木材粉じん曝露のはで5.91(95%CI 4.31-8.11)・で1.61(95%CI 1.10-2.37)で、組織型別では腺癌との関連が最も強かった(29.43と35.26)。皮革粉じん(11.89)や・クロム化合物(18.0)との関連も示された2。

の癌化と再発の実測値。 63件の症例集積をまとめた文献検討では、診断時に癌が併存する同時癌が7.1%、経過中に生じる異時癌が3.6%で、異時癌の発生までは平均52か月(6〜180か月)だった。ただし3次医療機関からの報告が多く、に偏っている可能性を著者自身が注記している3。内視鏡切除後でも単一施設85例の15.3%が再発し(中央値22か月)、再発時に症状の変化がなかった4。症状で再発を拾えないため、長期の内視鏡フォローが必要になる。

⚠️ 「」は臨床形態を指す古い呼称で、単一の組織診断名ではない。 かつて破壊性の壊死性病変として一括りに記述された「」には、(旧称)などの炎症性疾患も含まれていたが、その多くは現在、陽性のNK/T細胞リンパ腫・鼻型として理解されている。鼻のT/NK細胞リンパ腫は1996年の国際ワークショップでと強く関連する独立した病型とされ、壊死がほぼ常に存在し、大部分で血管侵襲を伴い、CD2陽性・CD56陽性だが通常は表面CD3陰性という特徴的なをもつ5。

B)上咽頭癌

疫学

発生機序

  • EBV感染と関連8。確立した危険因子はに対するの上昇、塩蔵魚の摂取、の家族歴、特定のクラスI遺伝子型6
  • はまず上咽頭上皮で複製 → 扁桃の近傍B細胞に感染 → 一部で上皮細胞の形質転換に至る

形態

  • 組織像:扁平上皮癌(形質転換した上皮細胞)
  • 講義資料の3群(高分化の/中分化の非/)は旧い分類の1型・2型・3型にあたる9
  • 現行の第5版(2022年)の3亜型7:
    1. 非:最多で、大部分が関連。旧分類の非角化癌とはここに入り、分化型・と細分されることもある。は境界不明瞭な大型上皮細胞(「」増殖)+明瞭な好酸性核小体を示す
    2. :他部位のと同様に・を示す
    3. :稀な亜型(2005年版から加わった)
  • の検出(EBER in situ)は非角化型の大部分で陽性だが、角化型・様型では結果がまちまちである7。ただし角化型でもがというわけではなく、全組織型がクローン性のゲノムを持ち、扁平上皮・角化の強い部分ではEBERの発現が少ないという関係である9

臨床

  • 局所浸潤 → 頸部リンパ節へ広がる → 遠隔転移
  • 治療:放射線治療(IMRT)が主体。局所進行例にはシスプラチンを用いたを併用する。手術は解剖学的到達性が悪く、の一次治療にはならない(講義資料に挙がるによる免疫療法は現在の標準治療ではない)
  • 病期は/ 分類で決める。第5版の解説(2022年)は当時の第8版の使用を推奨していたが7、その後の第9版ではN分類とM分類を中心に改訂が加えられた10

💡 血漿 が実臨床で使われている。 では血漿 が適切な集団・病期において、集団スクリーニング、、治療反応の予測、治療強度の個別化、再発監視の補助に用いられている8。

C)喉頭の腫瘍

非悪性病変

1. (「ポリープ」)

  • 上の平滑な半球状の突出腫瘤
  • からなりに覆われる(接触外傷ですることも)
  • ヘビースモーカーや歌手に発生(「歌手結節」)→ 慢性刺激への反応
  • 良性増殖ではない — 傷害・刺激への非炎症性反応

2.

  • 喉頭の扁平上皮乳頭腫、上の良性腫瘍。喉頭で最も多い良性上皮性腫瘍で、主に(6・11型)による11
  • 組織像:中心にをもつ、に覆われる
  • 外傷 → → 喀血
  • 小児:通常多発、悪性化しない、しばしば思春期に、 6・11、母子12
  • 成人:通常孤立性、男性に多い、再発でしばしば異形成を示す

⭐ は反復手術を要するほど再発を繰り返すが、ワクチンの普及で減りつつある。 米国の推定は小児4.3/10万人・成人1.8/10万人で、小児例は経腟分娩時の母子と関連する12。米国の19年間コホート(1854例)では、若年発症型の受診ベースが2006年の10万人あたり3.1から2024年の1.1へ65.2%低下し、この低下はワクチン接種率の上昇と関連していた13。

悪性病変

  • 40歳超、男性に多い
  • 危険因子:喫煙、、曝露。喫煙と飲酒は併用でに働く主要な危険因子で、と違いはおそらく大きくは寄与しない11
  • 大部分は扁平上皮癌
  • 増殖:上皮内 → 灰色のしわ状プラーク → ・壊死

部位と予後:

部位 場所 予後 備考
声帯上 最良(早期症状、リンパ供給が乏しい) 最多、角化性・中分化
声帯より上 中間 リンパ豊富、1/3が頸部リンパ節へ転移
声帯より下 最悪(早期症状なし、リンパ豊富) 頻度は低い
  • 転移:+肺、甲状腺・頸静脈への直接進展
  • 治療:手術、放射線、または併用
  • 約1/3の患者が死亡(遠位呼吸器感染、転移、による)

💡 ポイント: = 、非角化型が最多で大部分が関連、中国南部・東南アジア・北アフリカ。 = 喫煙者/歌手、腫瘍ではない。 = 6+11、小児 = 多発、思春期に退縮。 = SCC、 = 予後最良、 = 最悪。

まとめ

  • 鼻腔腫瘍は扁平上皮癌が最多、次いで腺癌(腺癌は木材・皮革粉じんと関連)、は扁平上皮癌へ進展しうる。「」の多くはNK/T細胞リンパ腫・鼻型である。
  • は感染と関連し、中国南部・東南アジア・北極圏・北アフリカなどの限られた集団で高頻度。第5版では非角化型・角化型・様の3亜型で、非角化型(旧分類の非角化癌・)が最多かつ大部分が関連。
  • 喉頭の:はヘビースモーカー・歌手に生じる非炎症性反応で腫瘍ではない、は 6・11関連で小児は多発・しやすい。
  • は40歳超の男性に多く大部分が扁平上皮癌で、喫煙・・曝露が危険因子。
  • の部位別予後:(最良)>(中間)>(最悪、リンパ豊富で早期症状に乏しい)。

出典

  1. 1.Update from the 5th Edition of the World Health Organization Classification of Head and Neck Tumors: Nasal Cavity, Paranasal Sinuses and Skull Base(Head and Neck Pathology・2022)全文(PMC9018924、2025年2月のWayback保存版)で、WHO頭頸部腫瘍分類第5版が旧称シュナイダー乳頭腫を副鼻腔乳頭腫(sinonasal papilloma)の内反型・オンコサイト型・外向型として扱うこと、内反型の約90%とそこから生じた癌の約80%にEGFRの体細胞変異がみられること、腸型腺癌が木材・皮革粉じんへの職業曝露と強い病因的関連をもつこと、嗅神経芽腫を鼻腔・副鼻腔・頭蓋底の章に置くことを確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Occupational exposure and sinonasal cancer: a systematic review and meta-analysis(BMC Cancer・2015)抄録で確認した。63論文のうち28研究(コホート11・症例対照17)を統合した系統的レビュー・メタ解析で、木材粉じん曝露と鼻副鼻腔癌の統合リスク比は症例対照研究で5.91(95%CI 4.31-8.11)・コホート研究で1.61(95%CI 1.10-2.37)、皮革粉じんは11.89(95%CI 7.69-18.36)、ニッケル・クロム化合物は18.0(95%CI 14.55-22.27)であり、最も強い関連は腺癌との間にみられ(29.43と35.26)、木材粉じんでは曝露反応関係も示唆されたことを確認した。抄録は腺癌が何番目に多い組織型かには触れていない。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Sinonasal inverted papillomas: recurrence, and synchronous and metachronous malignancy(The Journal of Laryngology & Otology・2007)抄録で確認した。文献の症例集積63件の解析で同時癌は2297例中163例(7.1%)、異時癌は2047例中74例(3.6%)、異時癌の発生までの平均は52か月(6〜180か月)、再発率は内視鏡手術12.8%・外側鼻切開+上顎内側部分切除17.0%・鼻茸切除などの限局的切除34.2%だった。多くが3次医療機関からの報告で再発・難治例が多く含まれうるため真の母集団は不確かだと著者自身が注記し、長期の追跡を勧めている。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Evaluation of inverted papilloma recurrence rates and factors associated recurrence after endoscopic surgical resection: a retrospective review(Journal of Otolaryngology - Head & Neck Surgery・2023)抄録で確認した。単一施設で内視鏡下に切除した85例(平均追跡39.5か月)のうち13例(15.3%)が再発し、再発までの中央値は22.0か月、再発はすべて原発巣の付着部に生じ、再発の検出時に鼻副鼻腔症状の変化がなかったため長期追跡が必要と結論したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Report of the Workshop on Nasal and Related Extranodal Angiocentric T/Natural Killer Cell Lymphomas. Definitions, differential diagnosis, and epidemiology(The American Journal of Surgical Pathology・1996)抄録で確認した。鼻に生じるT/NK細胞リンパ腫(nasal T/NK cell lymphoma)がEBVと強く関連する独立した臨床病理学的病型であること、壊死がほぼ常に存在し大部分の例で腫瘍細胞の血管侵襲を伴うこと、CD2陽性・CD56陽性だが通常は表面CD3陰性という特徴的な免疫表現型をもつことを確認した。抄録は「正中肉芽腫」という臨床名には触れていない。閲覧 2026-08-27
  6. 6.The enigmatic epidemiology of nasopharyngeal carcinoma(Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention・2006)上咽頭癌が中国南部(Cantonese)・東南アジア・北極圏先住民・中東/北アフリカのアラブ人という限られた集団で高頻度にみられる特異な人種・地理分布をもつこと、EBVに対する抗体価上昇・塩蔵魚の摂取・上咽頭癌の家族歴・特定のHLAクラスI遺伝子型が確立した危険因子であることを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Update from the 5th Edition of the World Health Organization Classification of Head and Neck Tumors: Oropharynx and Nasopharynx(Head and Neck Pathology・2022)全文(PMC9019010、ブラウザUA付きのPMC HTML)で、上咽頭癌の高頻度地域として広東・香港、地中海地域、北アフリカ、グリーンランド・アラスカのイヌイットを挙げ、平均発症年齢は45〜55歳で小児例も報告されていること、WHO第5版の組織亜型は非角化型扁平上皮癌・角化型扁平上皮癌・基底細胞様扁平上皮癌の3つで第4版から大きな変更がないこと、非角化型が最多の亜型で大部分がEBV関連であり、EBVのRNA in situハイブリダイゼーションは非角化型の大部分で陽性だが角化型・基底細胞様型では結果がまちまちであること、上咽頭癌の病期にはUICC/AJCC TNM第8版の使用が推奨されることを確認した。閲覧 2026-09-24
  8. 8.Nasopharyngeal carcinoma(The Lancet・2019)上咽頭癌は東アジア・東南アジアに特徴的な地理的偏りをもつこと、血漿EBV DNAが集団スクリーニング・予後予測・治療反応予測・治療強度の個別化・再発監視に用いられていること、強度変調放射線療法と病期に応じた化学療法の最適化により生存が改善していることを確認した。閲覧 2026-08-27
  9. 9.Undifferentiated, nonkeratinizing, and squamous cell carcinoma of the nasopharynx. Variants of Epstein-Barr virus-infected neoplasia(The American Journal of Pathology・1995)抄録で確認した。当時のWHO分類の扁平上皮癌(1型)・非角化癌(2型)・未分化癌(3型)のいずれでも大部分の腫瘍細胞にEBV-encoded RNA(EBER)がin situで検出され、低分化な腫瘍内の扁平上皮分化・角化巣や高分化な扁平上皮癌全体ではEBER発現が少なかったこと、扁平上皮癌を含む全組織型がクローン性のエピソーム型EBVゲノムをもち同じEBV遺伝子を発現するEBV感染細胞のクローン性増殖であると結論したことを確認した。抄録は各組織型の頻度や予後には触れていない。閲覧 2026-08-27
  10. 10.Advances in Nasopharyngeal Carcinoma Staging: from the 7th to the 9th Edition of the TNM System and Future Outlook(Current Oncology Reports・2025)抄録(PubMed)で、上咽頭癌のTNM分類が第7版から第9版へ改訂されてきたこと、第9版では予後の精度を高めるためにとくにN分類とM分類に重要な変更が加えられたこと、EBV DNAなどのバイオマーカーの組み込みが検討されていることを確認した。個々の変更内容は抄録には書かれていない。閲覧 2026-09-24
  11. 11.Update from the 5th Edition of the World Health Organization Classification of Head and Neck Tumors: Hypopharynx, Larynx, Trachea and Parapharyngeal Space(Head and Neck Pathology・2022)全文(PMC9018940、Europe PMCのfullTextXML)で、喉頭・下咽頭の扁平上皮癌の主要な危険因子は喫煙と飲酒でその併用は相乗的に働き、HPV感染はおそらく大きくは寄与しないこと、扁平上皮乳頭腫・乳頭腫症は喉頭で最も多い良性上皮性腫瘍で主にHPV 6・11型の低リスクHPVにより起こり、小児と成人の双方にみられ再発しやすいことを確認した。閲覧 2026-09-24
  12. 12.Recurrent respiratory papillomatosis: a review(The Laryngoscope・2008)反復性呼吸器乳頭腫症はHPV 6・11によって起こり、小児の喉頭で最も頻度の高い良性腫瘍かつ小児嗄声の第2の原因であること、米国での推定発生率は小児4.3/10万人・成人1.8/10万人であること、小児例は経腟分娩時の母子垂直感染と関連し反復手術を要することがあることを確認した。閲覧 2026-08-27
  13. 13.Juvenile-Onset Recurrent Respiratory Papillomatosis and Human Papillomavirus Vaccine Uptake: A 19-Year Retrospective Cohort Study(Otolaryngology–Head and Neck Surgery・2026)米国の19年間コホート(1854例)で、若年発症型反復性呼吸器乳頭腫症の受診ベース発生率は2006年の10万人あたり3.1から2024年の1.1へ65.2%低下し、この低下がHPVワクチン接種率の上昇と関連していたことを確認した。閲覧 2026-08-27