Physiology

Physiology · 6.3

唾液腺の機能と唾液分泌の調節。胃液分泌とその調節。

Function of the salivary glands and regulation of salivary secretion. Gastric secretion and its control.

応用トピック
食道・胃疾患消化性潰瘍・Helicobacter pylori感染胃炎消化性潰瘍の外科的側面胃の良性疾患・胃十二指腸の検査と外科的側面
疾患
う蝕
症状
流涎
検査値
ガストリンペプシノゲン抗内因子抗体・抗胃壁細胞抗体

🧠 消化管分泌はどこでも「(一次分泌・等張)→(修飾・低調整)」という二段階モデルで捉えられる。唾液腺ではこの二段階が流量依存的に組成を変え、胃では細胞ごとの役割分担(=酸、主細胞=酵素、表層上皮=防御)と神経・内分泌・の三重制御(ACh//ヒスタミン)が同じ目的(消化と防御の両立)に収束する。

消化管分泌の一般原則

分泌腺の種類: (exocrine gland:唾液腺・膵臓・肝臓)、の腺(Lieberkühn陰窩, crypts of Lieberkühn・, Brunner’s gland)、腸粘膜。

分泌の機能: ①防御(化学的・機械的・免疫学的)、②消化・吸収(の希釈・潤滑)。

分類 分泌物
無機物 水(水性環境・希釈機能に必須)、電解質(H⁺/Cl⁻=胃酸、HCO3⁻=酸性の緩衝、Na⁺+Cl⁻=水分泌の駆動)
有機物(蛋白質) (高分子を分解)、(潤滑・性でと腸壁の直接接触を防ぐ)、免疫グロブリン(防御)
胆汁酸・

分泌機序: (Ca²⁺/cAMPシグナルによる放出など)、イオン輸送を介した水・電解質分泌(主にCl⁻の能動輸送が駆動)。

分泌の調節: 調節と全身性調節(ENSを介する)。PARAは食事に応じて分泌速度を↑させ、SYMはを促進/抑制する二面的効果を持つ。

唾液分泌

1日800〜1500mL分泌(90%は食事中)、pH〜7。

唾液の組成: 水、電解質(Na⁺・K⁺・Ca²⁺・Mg²⁺・Cl⁻・HCO3⁻)、、IgA、

唾液の機能:

  • 食物を小片に
  • 嚥下のための潤滑(唾液なしでは嚥下不可能)
  • ・脂質消化の開始(特に乳児で重要)
  • 味覚の補助(唾液なしでは味物質を溶解できない)
  • 洗浄作用(歯表面の粒子を洗い流す)
  • 壁を切断する酵素)
  • 食道への逆流胃分泌物の中和(産生障害→, dental caries)
  • 発声(口腔が湿っている必要がある)
  • Ca²⁺に捕捉)が歯の健康を保つ——過度の歯磨き・洗浄はこの蛋白を除去しを招く

⚠️ が不十分(=xerostomia)だと、・食道びらんなどが生じる。

主要唾液腺

構造: 。腺房部分は漿液性(酵素顆粒=チモーゲン顆粒を含む)とという糖蛋白を産生)に分類される。→小葉間排泄導管→主排泄導管。

分類
外因性(口腔外) 耳下腺 漿液性
主に
内因性(口腔内) 頬腺・口唇腺・口蓋腺 、常時分泌して口腔を湿潤に保つ

唾液分泌の二段階モデル

flowchart TD
  A["一次分泌:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acinar cell'>腺房細胞</span>"] --> B["蛋白質・水・電解質を産生<br>血漿と同程度の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isotonic fluid'>等張液</span><br>Cl⁻の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary active transport'>二次性能動輸送</span>が駆動"]
  B --> C["二次分泌:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duct cell'>導管細胞</span>"]
  C --> D["Na⁺・Cl⁻を吸収、K⁺・HCO3⁻を分泌<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Aquaporins'>アクアポリン</span>欠如+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tight junction'>密着結合</span>→水不透過性上皮"]
  D --> E["流量依存的な組成変化<br>低流量:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypotonic'>低張</span>・低HCO3⁻<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='high flow'>高流量</span>:一次分泌に近い組成"]

💡 唾液はどの流量でも常に血漿に対してである。 導管上皮はを欠きで覆われているため、イオンが吸収/分泌されても水がそれに追随できない。流量が高いほどがイオン修飾にかける時間が短くなり、最終的な唾液組成は一次分泌(等張)に近づく——「流量が唾液組成を決める」という関係の核心。

唾液分泌の調節(純粋に神経性)

系統 機序 効果
副交感神経 VIP(Gs)→血管拡張 水分泌↑↑
ACh(、Gq)→Ca²⁺シグナル ↑(/リパーゼ)+収縮→細胞間隙拡大→傍細胞性の水分泌↑
交感神経 NE→ 分泌↑(内容・容量↑)
NE→α1受容体(血管) 血管収縮→水分泌↓

の調節はSYM・PARAどちらも「体液分泌を増加させる」方向に働きうる点が消化管の他部位と異なる。 SYMが通常は抑制的に働くとは対照的に、唾液腺ではβ2を介した分泌増加という促進的な側面も持つ。

胃液分泌

が分泌する胃液は複数の細胞由来の分泌産物の混合物で、各種細胞が並行して胃内腔へ分泌する。1〜1.5L/日。組成:水、電解質(H⁺・Cl⁻)、HCO3⁻、蛋白質()。

胃液の機能:

  • H⁺(プロトン):消化・微生物殺菌・食物の消毒に重要
  • への変換→蛋白質の化学的消化
  • ビタミンB12吸収に必須(欠損すると重篤な病態)
  • HCO3⁻+による粘膜の保護(酸性の管腔環境から;欠如すると潰瘍, ulcer)
  • H2Oによる等の潤滑

の細胞構成:

細胞 分泌物
HCl+(B12吸収)
主細胞
HCO3⁻・→粘膜を胃酸から保護

壁細胞

胃酸産生を担う。静止型は細胞質内にを持ち、活性型では①小管小胞膜がの細胞膜と融合し表面積が増大、②膨大なミトコンドリアが高いエネルギー需要を支える。

⚠️ 長期の嘔吐はを招く。 胃内腔のH⁺が失われる一方、はHCO3⁻を産生して血中へ放出し続けるため、この血中HCO3⁻蓄積がアルカローシスとして現れる。

・水分泌・分泌()を担う。

壁細胞の調節

経路 因子
神経性 神経由来のACh
血流由来の
ヒスタミン(メディエーター)

胃酸分泌の調節

の最重要調節因子——を分泌し、またはする。

を活性化する因子: ACh、GRP(放出ペプチド, gastrin-releasing peptide)、壁の伸展(摂取食物の存在)、アルコール、炭酸飲料・コーラ・紅茶・(持続的な↑→潰瘍性疾患)、NE→

は血流を介して作用するため調節因子として働く。

ECL(腸様, enterochromaffin-like)細胞: PARAまたはにより活性化され、ヒスタミン(メディエーター)を放出しに作用する。

胃酸分泌の相

  • 食物の匂い・味がを介してを↑させる。
  • 食後の一定期間に最大の胃分泌刺激を生む。性線維がAChを放出し胃上皮の細胞を活性化。により・粘液・HCO3⁻・の分泌が生じる。

で食物の存在により活性化される。胃壁の伸展・拡張がで検出され、脳幹を刺激し迷走神経性線維の活動を駆動する。

胃酸分泌のフィードバック調節

胃前庭部・の酸の存在はを抑制する負のフィードバッを誘導する。管腔pH < 3になるとからソマトスタチンが放出され、に作用して分泌・を減少させる。

壁細胞のシグナル伝達機序

cAMP+Ca²⁺シグナル→↑:が活性化し内膜がと融合→輸送体が移行し表面積↑、②これら輸送体の活性が増強される。

PG(プロスタグランジン, prostaglandin)+SST(ソマトスタチン)シグナル→↓: 過剰分泌からの防御。

⚠️ PGはにより産生される。アスピリンはPG形成を阻害するため、Gi シグナルによる基礎抑制効果を阻害してしまう——過剰なアスピリン摂取が粘膜を傷害し潰瘍を招く機序はここにある。

分泌速度と胃液のイオン組成

時は多量のNa⁺・Cl⁻、少量のK⁺・H⁺が分泌される。分泌速度が上昇するとH⁺分泌も上昇する。

指標
1.5〜2.5 mmol H⁺/時間
最大量(peak acid output, PAO、食後反応) 女性:25 mmol H⁺/時間、男性:35 mmol H⁺/時間(数がより多いため)

表層上皮細胞

全域に存在し、防御的役割を担う。無機成分(Na⁺・Cl⁻・HCO3⁻)と有機成分()から構成され、両者が防御機能を果たす。食事に応じて胃酸産生が増えると、それだけ・HCO3⁻の需要も増える。

厚さ0.2mmのに富む性の薄層。HCO3⁻に富む分泌によると、の高による混合の抑制により、胃液内腔のpHが1〜2であるのに対し、細胞表面のpHは7近くに保たれる。(糖蛋白、重量の80%が炭水化物)はにより分解されるため、継続的な再生が必要。

主細胞

に存在し、、低pHで活性化)と(脂質分解)を産生する。分泌は(Gq)、ACh(M3)、ヒスタミン(Gs)、により刺激される。の深部に位置し、食事に応じてを分泌する。

分泌刺激: 神経性(PARA、ENSを介したACh)、液性(、CCK→主細胞の分泌↑)。

小腸の分泌

小腸粘膜表層の約2/3は吸収、残り1/3が分泌を担う(増殖細胞が上皮を更新)。分泌量1.5〜2.0L/日、主に水+(HCO3⁻に富み酸性内容物を中和)。産生はない(粘膜自体は消化を担わない)。多量のを産生し、維持と微生物の洗い流しに寄与する。

⚠️ 下痢は代謝性アシドーシスを招く。 小腸からの持続的な体液産生に伴いHCO3⁻が体外へ失われ続けるため。

大腸の分泌

構造の違いから小腸粘膜分泌とは異なる。表面積は小さく体液分泌量は少ないが、便の維持のためが多くに富む溶液を分泌する。容量は小さいがに富み、を含まないのHCO3⁻に富む溶液である。

大腸分泌の調節(純粋に神経性)

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholera toxin'>コレラ毒素</span>"] --> B["Gαs サブユニットを不可逆的に活性化"]
  B --> C["cAMPシグナル持続的高値"]
  C --> D["CFTR(Cl-チャネル)のリン酸化・膜移行↑"]
  D --> E["Cl-分泌↑→Na+・H2O分泌↑"]
  E --> F["水様性下痢(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholera'>コレラ</span>)"]
  • PARA→分泌↑(VIP・ACh):VIPはGs→cAMPシグナル→PKAによるCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)チャネルのリン酸化・移行を介してCFTRチャネル数を増加させる。はこの経路のGαsを不可逆的に活性化し続けることで水様性下痢を引き起こす。
  • SYM→分泌↓
  • ENS→分泌↑:腸壁の伸展・細胞の活性化を介する。
  • メディエーター(セロトニン、5-HT): 小腸局所の免疫系を活性化し、体液産生増加により有害微生物を洗い流す。

まとめ

  • 消化管分泌は「一次分泌(腺房・等張)→二次分泌(導管・修飾)」の二段階モデルで統一的に理解できる。唾液は流量依存的に組成が変わり、常に血漿より
  • は純粋に神経性(PARA=VIP/ACh、SYM=β2/α1)で、消化・潤滑・抗菌・歯保護など多面的な機能を持つ。
  • 胃液は(HCl・)、主細胞()、・HCO3⁻)が分業し、(内分泌)・ヒスタミン()・ACh(神経性)の三重制御と、pH<3でのソマトスタチンによる負のフィードバックでバランスが保たれる。
  • 小腸・大腸の分泌は水・HCO3⁻・が主体で、PARA/VIPを介したCFTR活性化が生理的機序である一方、はこの経路を病的に固定化することで水様性下痢を引き起こす。