呼吸器学

呼吸器学 · 03

運動負荷試験:6分間歩行試験

Exercise testing 6MWT

前提:正常
体位変換・運動時の心肺適応
スコア
2分間歩行試験6分間歩行試験

ポッドキャスト

🧠 全体像:は、平地を6分間でどれだけ歩けるかを測る自己ペースの運動試験で、機能的運動能の検査と位置づけられる。日常生活に近い機能的運動能、労作時の・低下、治療反応を総合的に評価する。ただし「機能的=負荷が軽い」ではなく、最高酸素摂取量・最高心拍数はと同程度に達する。

運動耐容能を測る3つの方法

歩行試験だけがの測り方ではない。自己ペースの歩行試験()、外部ペースのシャトル試験(ISWT・ESWT)、(CPET)の3層があり、得られる情報の粒度と必要な設備が段階的に変わる。

試験 性質 コース・所要時間 主な指標
() 自己ペース。患者が自分で速度を決める 直線コースを往復、6分間 歩行距離、、心拍、
漸増シャトルウォーキング試験(ISWT) 外部ペース。音声信号に合わせて速度が段階的に上がる症候限界性試験 10 mコース、最大12分 歩行距離(10 m単位)、SpO₂、心拍、
持久性シャトルウォーキング試験(ESWT) 外部ペースで一定速度を維持し、続けられなくなるまで歩く 10 mコース、最大20分。速度はISWTの結果から決めるためISWTを先に行う ・距離
(CPET) 等での漸増負荷。呼気ガス分析を伴う 検査室 最高仕事率(W)、、換気・ガス交換・心電図応答

⭐ 「距離が伸びた/縮んだ」だけを知りたいのか、「なぜ動けないのか」を知りたいのかで選ぶ試験が変わる。 歩行試験は日常生活に近い機能的運動能を簡便に測れるが、換気制限・循環制限・末梢筋の問題を区別できない。CPETは情報量が多く精度も高いぶん、設備と専門性を要する。歩行距離とCPETのには相関があり、では6MWDとV’O₂peakでr=0.4〜0.8、ISWTではr=0.75〜0.88と報告されている。1

⚠️ 「歩行試験はCPETより軽い負荷だから安全」とは読まない。 とCPETを直接比べた研究では、最高酸素摂取量と最高心拍数は両者で同程度である——低いのは換気側の要求(最高CO₂産生量・最高換気量・呼吸交換比)で、これがの患者にとっての実施しやすさにつながっていると考えられている。2002年以降のこの知見を理由に、/の技術標準はCPETの・をそのまま歩行試験に採用した。ESWTの最高酸素摂取量もISWT・と有意差がない。2

💡 自己ペースか外部ペースかで変わるのは到達する高さではなく、そこへ至る「形」である。 同技術標準によれば、外部ペースのISWTは検査室の漸増と同じくV’O₂が時間とともに漸増するのに対し、自己ペースのは3分目以降はV’O₂が定常状態になる。ISWTの反応がCPETに似ているため、ピーク値の何%という形で運動処方を組むのはISWTのほうがやりやすいとされる。2

目的

標準的な実施

  1. 平坦で硬い、人の往来の少ない直線コースを用いる。推奨されるのは30 m以上の直線を往復する形で(基準式が作られたコース長に合わせるため)、コース長・レイアウトが変われば歩行距離も変わるため、記録し、経時比較では同じコースを使う。2
  2. 安静時の血圧、脈拍、SpO₂、呼吸困難・下肢疲労のを記録する。
  3. 標準化した説明と毎分の励ましを用い、6分間で可能な限り遠く歩いてもらう。走らない。
  4. 休憩は可能だがタイマーは止めない。再開可能になれば歩行を再開する。
  5. SpO₂と脈拍を連続測定し、6MWD、、終了時脈拍、症状、休憩回数、と酸素条件を記録する。終了時SpO₂だけでは最低値を捉えないことがある。2

ボルグ尺度とは

で使うのは、患者自身が感じる呼吸困難の強さと下肢または全身の疲労の強さを数値化する(CR10)である。検査前と終了時に、呼吸困難と疲労を別々に尋ねる。SpO₂や歩行距離が同じでも症状負担は異なりうるため、指標を補う患者報告指標として使う。3

点数 言語的な目安
0 まったくない
0.5 ごくごくわずか。やっと感じる
1 ごくわずか
2 わずか
3 中等度
4 やや強い
5 強い
6 言語的アンカーなし
7 とても強い
8〜9 言語的アンカーなし
10 これ以上ない最大の強さ

⭐ 見るべきなのは絶対値だけでなく前後差である。 たとえば呼吸困難が1から5へ増えたなら、歩行距離ととともに「運動で症状がどれだけ増えたか」を記録する。これは主観尺度なので、異なる患者同士の1点差を生理学的な一定量として扱わず、同じ説明・同じ尺度で経時比較する。

一般的な運動強度で使われる6〜20点の原型とは範囲が異なる。の記録用紙で単に「Borg」と書かれている場合は通常0〜10点の修正版を指すが、使用した版と評価対象(呼吸困難か疲労か)を明記する。

💡 上の言語的アンカーの出どころは2002年の声明である。 の実施手順そのものは2014年の/技術標準が2002年の文書を更新し、ISWT・ESWTまで対象を広げたもので2、2014年の技術標準はの点数表自体は再掲していない。手順は2014年版、尺度の文言は2002年版、と出どころが分かれている点に注意する。

酸素投与の扱い

連続評価では酸素流量・デバイスを同一条件にする。慢性中なら通常の処方流量または事前プロトコルに従い、距離を評価する検査中には酸素をしない。酸素流量のが目的なら別の試験として行う。安全上、条件を変更した場合は結果に明記する。2

⚠️ 授業資料との差:授業資料は「検査中にSpO₂が90%を下回ったら、90%以上になるよう酸素流量を調整する」としている。これは酸素流量を決めるための試験であれば妥当だが、歩行距離を測る試験の途中で行ってはならない。検査中に酸素条件が変われば、その回の距離は前回とも次回とも比較できなくなり、の主目的である経時評価が成立しない。労作時低酸素血症の程度そのものも測れなくなる。現行の標準は、距離を測る検査は処方どおりの酸素条件を変えずに行い、酸素のが目的なら別日に別プロトコルで実施するというものである。安全上の理由で条件を変えた場合は、その旨を結果に明記して比較対象から外す。2 なお「酸素条件を変えない」ことと「中止基準をする」ことは別である——後述のSpO₂ 80%未満などに達したら試験そのものを中止する。

声かけの間隔も、授業資料は30秒ごととするが、上記の標準手順は毎分の定型句を用いる。励ましの量と間隔は歩行距離を実際に変えるため、どちらを使うにせよ施設内で統一し、同じ患者には同じプロトコルを使うことが要点である。2

安全管理

実施前にCPETの禁忌をそのまま確認する。/の技術標準はCPETの一覧を転載しており、禁忌とが分かれている。2

区分 主な項目
(3〜5日以内)、、症状や血行動態障害をきたす制御不能な不整脈、失神、活動性心内膜炎、急性心筋炎・、症候性の重症、制御不能な心不全、急性肺塞栓症・、下肢の血栓症、の疑い、制御不能な喘息、肺水腫、での安静時SpO₂ 85%以下、、運動で悪化しうる/運動能に影響する急性の非(感染症・腎不全・など)、協力が得られない
相対的 部狭窄またはそれに相当する病変、中等度の狭窄性弁膜症、安静時の重症未治療高血圧(収縮期200 mmHg・拡張期120 mmHg)、頻脈性/、、、有意な肺高血圧、進行した/合併症のある妊娠、電解質異常、歩行を妨げる整形外科的障害
  • 安静時SpO₂ 85%以下は「を使って実施する」という注記つきの項目である。 酸素を付けずにそのまま歩かせない。2
  • ⚠️ 安定したは禁忌ではない。 ただしを使ってから実施し、のを手元に置く。「狭心症」とひとくくりにして検査を見送らない。2
  • 該当項目がある患者は、検査を指示した/監督するへ戻して個別に判断してもらう。2
  • 救急対応手段、酸素、連絡を準備する。

検査者が試験を中止する基準

  • SpO₂が80%未満へ低下したら中止する。 80%未満で中止するプロトコルは有害事象のが極めて低いことが示されており、漸増の勧告とも一致する。SpO₂が85%以上へ回復すれば歩行の再開を求めてよい。 ISWT・ESWTについては直接のデータが無いが、同じく80%未満で中止することが合意とされている。2
  • そのほかの中止理由は、胸痛、耐え難い呼吸困難、下肢の痙攣、よろめき、発汗、蒼白または土気色の顔色である。2
  • 中止したら、状態に応じて座らせるか仰臥位にし、検査者の判断で血圧・脈拍・SpO₂を測り、の診察を受けさせる。必要に応じて酸素を投与する。2

距離低下の原因

分類 代表因子 低下の機序
呼吸器 、喘息、 換気制限、、
心血管 心不全、冠動脈疾患、、 心拍出量・筋血流・の低下
筋骨格 関節炎、疼痛、筋力低下 ・の制限
薬剤 β遮断薬、オピオイド、鎮静薬など 心拍応答低下、疲労、めまい
、不活動
心理 不安、抑うつ、ストレス 症状知覚・意欲・ペーシングへの影響

年齢、身長、体重、性別、学習効果、励まし方、コース長も結果に影響する。連続評価では標準化が重要である。

解釈

  • 6MWDだけでなく、、心拍応答、、休憩・補助具・酸素条件をまとめて解釈する。
  • 治療反応やを評価するベースラインでは学習効果を避けるため2回行い、最良の6MWDを採用する。同日に行うなら30分以上空け、脈拍とSpO₂がベースラインへ戻ってから再検する。2
  • ⭐ 学習効果はできる大きさではない。 の13研究をまとめると2回目のは平均26.3 m延び、最大の研究(1,514例)の95%信頼区間は24〜29 mである。後述のとほぼ同じ大きさなので、1回だけ測って「治療で伸びた」と読むと学習効果を効果と取り違える。一方、やリスク評価のために一度だけ測る場面では学習効果の重みは小さく、1回で足りることがある。2
  • 30歳を超える健常成人の6MWDは概ね538.7〜643 mと報告されている。ただし年齢・性別・身長・体重で大きく変わるため、実際の解釈には基準式を用いる。1

最小重要差——どの値が誰の言い分かを分ける

/の技術標準(2014)は、成人のにおける6MWDのを30 mとし、「研究や算出法による幅はあるが、蓄積された根拠から25〜33 mの間にあると確信できる」と述べている。同標準は、が肺疾患の種類やベースラインの6MWDによって変わるという根拠は現時点では乏しいとも明言している。ISWTについては同標準の値は47.5 m、ESWTについてはでの検討から65秒(95%信頼区間45〜85秒)または85 m(同60〜115 m)、では180秒前後という予備的な値である。2

一方、が2024年11月時点でまとめている疾患別・試験別の一覧は、個々の研究から得られた値を並べたもので、下の表はその主な報告例である。1

試験 疾患
6MWT COPD 25〜33 m
非嚢胞性線維症性 25 m
6MWT 21.7〜45 m
6MWT 肺癌(悪化の指標として) 22〜42 m
ISWT COPD 35〜36.1 m
ESWT 174〜279秒()/154〜164 m(距離)

⚠️ この表の疾患別の数値は2014年の技術標準に載っているものではない。 技術標準が示すのは上記の30 m(25〜33 m)・47.5 m・65秒などであり、「21.7〜45 m」「35〜36.1 m」「174〜279秒」はいずれもの一覧が個別研究から引いた値である。どちらの数字を使うにせよ、誰の何年の文書の値かを添える。

これらは主に集団平均の変化から導かれた値で、集団平均の変化を解釈するのに適している。ただし、個人へ適用できる方法論で算出した研究も同程度の値を報告している。2 いずれにせよ、疾患・介入・個人に一律の閾値として機械的に当てはめない。

まとめ

  • の評価は、自己ペースの、外部ペースのシャトル試験、呼気ガス分析を伴うCPETの3層で考える。は日常生活に近い機能的運動能の簡便な評価法である。
  • 自己ペースでも最高酸素摂取量・最高心拍数はCPETと同程度に達する。だからCPETの・がそのまま適用される。低いのは換気側の要求である。
  • は0〜10点で呼吸困難と疲労を別々に自己評価し、検査前後の変化を距離・SpO₂と合わせて読む。
  • 条件を標準化し、距離・症状・SpO₂・酸素条件を一体として記録する。コースは30 m以上、励ましは毎分、SpO₂は連続測定。
  • 中止の線はSpO₂ 80%未満。85%以上へ回復すれば再開してよい。ほかに胸痛・耐え難い呼吸困難・下肢痙攣・よろめき・発汗・蒼白で中止する。
  • 距離を測る検査の途中で酸素をしない。が目的なら別の試験として行い、安全上の変更は結果に明示する。
  • ベースラインで2回測るのは学習効果(で平均26.3 m)がと同じ大きさだからである。
  • は、2014年の技術標準では全体で30 m(25〜33 m)。疾患別の細かい数値はが個別研究から集めた一覧の値であり、どちらの数字も出どころを添えて使う。

出典

  1. 1.Field Walking Tests(American Thoracic Society・2024)ページのHTMLを直接取得して、3試験それぞれの要約欄に Date of most recent changes として November 2024 と記載されていること、実施法(自己ペースか外部ペースか、10 mコース、所要時間は6MWTが6分・ISWTが最大12分・ESWTが最大20分、ISWTを先に行ってESWTの歩行速度を決めること)、健常成人30歳超の6MWD基準値538.7〜643 m、CPETのV'O₂peakとの相関が6MWTのCOPDでr=0.4〜0.8・ISWTのCOPDでr=0.75〜0.88であること、要約欄の最小重要差が6MWTでCOPD 25〜33 m・非嚢胞性線維症性気管支拡張症25 m・IPF 21.7〜45 m・肺癌22〜42 m、ISWTでCOPD 35〜36.1 m、ESWTでCOPD 154〜164 mおよび174〜279秒であることを確認した。これらはATSが個別研究から集めた値であり、2014年のERS/ATS技術標準が自ら示す値(6MWD 30 m、ISWT 47.5 m など)とは別である。閲覧 2026-09-21
  2. 2.An official European Respiratory Society/American Thoracic Society technical standard: field walking tests in chronic respiratory disease(European Respiratory Society / American Thoracic Society・2014)誌上版PDF全文(thoracic.orgが公開する公式PDF、19頁、Eur Respir J 2014; 44 1428-1446)で次を確認した。歩行路は30 m以上を推奨、励ましは60秒ごとに定型句、SpO₂は連続測定、距離を測る試験では酸素を滴定せず滴定が目的なら別試験にすること。中止はSpO₂が80%未満へ低下したときで、85%以上へ回復すれば再開を求めてよく、ほかの中止理由は胸痛・耐え難い呼吸困難・下肢痙攣・よろめき・発汗・蒼白または土気色の顔色であること。ベースラインでは2回実施して最良の6MWDを採り、同日なら30分以上空けて脈拍とSpO₂がベースラインへ戻ってから行うこと。学習効果はCOPDの13研究で2回目が平均26.3 m延び、最大の研究の95%信頼区間は24〜29 mであること。最小重要差は成人の慢性呼吸器疾患の6MWDで30 mであり25〜33 mの間にあると確信できるとされ、肺疾患の種類やベースライン値で変わる根拠は乏しいとされること、ISWTは47.5 m、ESWTは気管支拡張薬で65秒(95%信頼区間45〜85秒)または85 m(同60〜115 m)・呼吸リハビリテーションでは180秒前後の予備的値であること。禁忌はCPETの絶対的・相対的の一覧を転載しており、室内気での安静時SpO₂ 85%以下は絶対的の側にあって補助酸素下で実施する注記が付き、安定した労作性狭心症は絶対的禁忌ではないと明記されていること。6MWTとCPETの直接比較では最高酸素摂取量と最高心拍数は同程度で換気側の要求が低いこと、ISWTはV'O₂が漸増し6MWTは3分目以降定常状態になること。閲覧 2026-09-21
  3. 3.ATS statement: guidelines for the six-minute walk test(American Thoracic Society・2002)6MWTの前後に修正ボルグ尺度を用いて呼吸困難と全身疲労を別々に評価する方法、および0〜10の言語的アンカーを確認した。閲覧 2026-09-08