薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B5 Antiarrhythmics / 抗不整脈薬 · 必修

アデノシン

adenosine

分類
Antiarrhythmics / 抗不整脈薬
商品名(日本)
アデノスキャン
商品名(EU)
Adenocor
科目
Pharmacology
トピック
B5: Drugs influencing cardiac electrophysiology
禁忌疾患
気管支喘息徐脈性不整脈(洞不全症候群・房室ブロック)
副作用
胸痛呼吸困難
相互作用
テオフィリン
対象疾患
上室性頻拍症
原因となる疾患
心房細動

🧠 全体像:アデノシンはどの箱にも入らない。イオンチャネルを塞ぐのではなく、A1受容体を介してを一瞬だけ電気的に「切る」薬である。効果発現も消失も数秒単位というで最も半減期が短い薬の一つで、この性がそのまま「なぜ発作性SVTの第一選択になるか」「なぜ副作用が怖くないか」の両方を説明する。

薬効群の中での位置づけ

の王道は(どのイオンチャネルを遮断するか)だが、アデノシンはNa・K・Ca・βのどれも標的にしない。の薬として独立した立ち位置を持つ。

分類 代表薬 標的 この中でのアデノシンの位置
Ⅰ群(Na遮断) Naチャネル 標的にしない
Ⅱ群(β遮断) β受容体 標的にしない
Ⅲ群(K遮断) Kチャネル 標的にしない
Ⅳ群(非DHP Ca拮抗) Ca流入 抑制という結果は共有するが機序は別
アデノシンジゴキシン A1受容体/迷走神経↑/ A1受容体作動薬。に特化した唯一の薬

アデノシンと/ジゴキシンは「を抑える」という結果は同じでもが違う。 を直接遮断し、ジゴキシンはを高めて間接的に抑える。アデノシンはさらに別の経路(A1受容体→K流出↑)で膜を過分極させる。3剤ともが回路に必須なAVNRT・AVRTには効くが、を介さない・心房細動そのものは止められない。

💡 なぜアデノシンだけが「診断にも治療にも使える」のか。 を1〜数拍だけブロックする効果は、AVNRT・AVRTなら回路を断ち切って頻拍そのものを止める。一方、・心房細動では回路が心房内で完結しているため頻拍は止まらないが、が一瞬止まることで隠れていたF波・が心電図上に露出し、のためのにもなる。

機序

flowchart TD
    A["アデノシンがA1受容体(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Gi protein-coupled'>Gi蛋白共役</span>)に結合"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adenylyl cyclase, AC'>アデニル酸シクラーゼ</span>抑制→cAMP↓"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='GIRK channel'>GIRKチャネル</span>(IK,Ado)活性化"]
    C --> D["K+流出↑→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinoatrial (SA) node'>洞結節</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrioventricular (AV) node'>房室結節</span>細胞の過分極"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='L-type calcium channel'>L型Caチャネル</span>電流を間接的に抑制"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrioventricular (AV) node'>房室結節</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conduction velocity'>伝導速度</span>↓・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractory period'>不応期</span>↑"]
    E --> F
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrioventricular (AV) node'>房室結節</span>を回路に含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='re-entry'>リエントリー</span><br>(AVNRT・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orthodromic'>順方向性</span>AVRT)を遮断"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AV conduction'>房室伝導</span>が一瞬止まり<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrial flutter'>心房粗動</span>/細動の波形が露出(診断的価値)"]
    I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adenosine deaminase (ADA)'>アデノシンデアミナーゼ</span>(赤血球・血管内皮)が<br>数秒で代謝"] -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ultra-short half-life'>超短半減期</span>の理由"| A

💡 効果が数秒で消える理由は代謝ではなく「その場で壊される」こと。 アデノシンは投与直後から赤血球と血管内皮のされ、加えて細胞内への取り込み()でも消費される。という通常のクリアランス経路をほぼ経ない、分解だけで完結する薬である。

⚠️ が禁忌である理由は心臓ではなく肺の受容体。 のA2B/A3受容体が刺激されるとが誘発される。心臓のA1受容体とは別の受容体が原因であり、「不整脈の薬だから肺と」ではない。

薬物動態

項目 値・特徴
のみ(経口では無効)
作用発現 投与後数秒(からだと中枢静脈より到達に時間がかかるため急速フラッシュが必須)
半減期 10秒未満(赤血球・血管内皮のによる分解+細胞内取り込み)
クリアランス経路 肝・腎をほぼ経ない分解。腎機能・肝機能によるは不要

投与法そのものがを反映している。 半減期が10秒未満のため、からのでは途中で失活しないようで即座にフラッシュする。から投与する場合は到達が速いぶん通常量では過量になりやすく、減量する。

適応

領域 使いどころ
不整脈治療 発作性(AVNRT・AVRT)の停止性頻拍が無効なときの次の一手
不整脈診断 整・QRS幅の狭い頻拍でを一瞬止め、・心房細動の波形を露出させて鑑別する
画像診断 の薬物負荷(冠を利用)。日本ではこの適応で「アデノスキャン」の商品名でされている

⚠️ )を伴う不規則で幅広いQRSの心房細動では、を介さずする興奮をアデノシンが止められないばかりか、側の伝導を抑えることで相対的に優位となりへ移行しうる。この病型では(アデノシン・β遮断薬・・ジゴキシン)をすべて避ける。

用法・用量

SVT停止(できるだけ中枢に近い太い静脈)から6 mgを急速静注し、直後にでただちにフラッシュする。1〜2分で無効なら12 mgを追加投与し、なお無効なら12 mgをもう一度追加できる(施設プロトコルによる)。後で状態にある患者は受容体感受性が著しく高まっているため、通常量の1/4〜1/2程度から開始するなど大幅な減量を要する。実際の用量は年齢・体重・・併用薬で変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌誘発)、(機能するのない2度/3度房室ブロック・
  • ⚠️ を伴う不規則な広いQRS頻拍(WPW+心房細動)では回避へ移行するリスクがある
  • 相互作用はA1受容体のとして働き、アデノシンの効果を弱める(通常量で無効なことがある)。逆にはアデノシンの細胞内取り込みを阻害して作用を著しく増強するため、併用時は大幅な減量が必要
  • 後(心):迷走神経による緩衝がなく受容体感受性が高いため、通常量でも高度徐脈・遷延性の心停止を来しうる

副作用

頻度 内容
高頻度 一過性の・胸痛呼吸困難感(いずれも数秒〜1分程度で自然消失)
注意 一過性の・心停止感(そのものであり、通常は数秒で回復する想定内の反応)、一過性の心房細動誘発、強い不安感(sense of impending doom)
重篤・まれ 患者での遷延性心・での遷延性徐脈/心停止、(きわめてまれに)の誘発

まとめ

  • に属さないの薬。A1受容体()→cAMP↓・K流出↑でを一瞬過分極させる。
  • 半減期10秒未満。赤血球・血管内皮ので即座に分解され、肝・腎機能による調整は不要。
  • が回路に必須なAVNRT・AVRTを停止させる。・細動そのものは止めないが、波形を露出させ診断に使える。
  • 6 mg急速静注→生食フラッシュ→無効なら12 mgを最大2回まで追加、が標準プロトコル。
  • には禁忌(A2B/A3受容体を介した)。WPW+心房細動の不規則な広いQRS頻拍では回避する。
  • は拮抗、は増強。後は感受性が著しく高く大幅減量する。
  • 副作用(・一過性の房室ブロック感)は半減期の短さゆえほぼ全例で数秒〜1分以内に消退する。