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Drug Atlas · B3 Other / その他 · 必修

L-グルタミン

L-glutamine

分類
Other / その他
科目
Pharmacology
トピック
B3: Agents used in anemias
承認適応
鎌状赤血球症
副作用
便秘悪心頭痛腹痛咳嗽背部痛胸痛四肢痛

🧠 全体像:は、のように「を増やしてHbSの重合そのものを減らす」のではなく、赤血球の耐性を底上げするという別角度から鎌状赤血球症のになった薬である。作用機序は完全には解明されていない点も含め、ほど機序の説明力が強くない。と併用しても単独でもを減らすというのが米国の承認の根拠になったの読み方で、両者は競合ではなく併用可能な選択肢として位置づけられる。⚠️ ただし同じ試験を審査したは有効性が示されていないと判断しており、欧州に承認は無い。 この薬は「米国では承認薬、欧州では非承認」という上の分かれ目そのものが要点になる。

薬効群の中での位置づけ

薬剤 アプローチ 推奨の強さ・対象 エビデンスの性質
()↑によりHbS重合そのものを抑制 HbSS・HbSβ⁰(=)では生後9か月以降、重症度を問わず提示する(月齢9〜42か月は強い推奨、42か月超の小児・青年は中等度の推奨)。成人では条件つきで、年3回以上などに強い推奨。HbSC・HbSβ⁺では日常生活を妨げる反復性疼痛がある場合に専門医へ相談する中等度の推奨1 機序が比較的明確、長期使用データが豊富
赤血球のNADを改善し障害を軽減(仮説) 米国では5歳以上に適応。欧州では承認されていない2 機序は完全には未解明。第III相単独試験で有効性を確認したが、同じ試験を審査したは有効性が示されていないと判断した
・遺伝子治療(exagamglogene autotemcel等) 根本的にHbS産生を是正・置換 反復するの既往がある選択例 根治的だが侵襲性が高く対象が限られる

⭐ とは「どちらか」ではなく「併用できる」関係にある。 承認の根拠となったでは、を3か月以上安定用量で服用していた患者はその投与を継続したまま試験に参加しており(併合した安全性集団では63.4%が投与中)、添付文書も便益が使用の有無によらず観察されたと述べている3。の禁忌・例に限らず、すでにで治療中の患者に追加する選択肢としても位置づけられる。

💡 の推奨は「病型で強さが変わる」だけでなく「年齢でも段が変わる」。 上表の「重症度を問わず」が掛かるのは生後9か月以上の乳児・小児・青年であって成人ではなく、その強さも月齢9〜42か月では強い推奨(エビデンスの質は高)、42か月超の小児と青年では中等度の推奨(質は中)と2段に分かれている1。成人の推奨は年3回以上・日常生活を妨げる疼痛・重症または反復する・症候性の慢性貧血という条件つきの強い推奨である。⚠️ なおこの報告書は強い推奨・中等度の推奨・弱い推奨を別々の区分として使っているので、HbSC・HbSβ⁺の推奨(中等度)を「弱い推奨」と読み替えない。

機序

flowchart TD
    A["鎌状赤血球はHbSの重合・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='depolymerization'>脱重合</span>を繰り返し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>に曝露されやすい"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reactive oxygen species (ROS)'>活性酸素種</span>による膜障害・NAD<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidoreduction (redox)'>酸化還元</span>バランスの破綻"]
    B --> C["赤血球の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deformability'>変形能</span>低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor weakness'>脆弱化</span>"]
    C --> D["血管内皮への異常接着・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microvascular obstruction'>微小血管閉塞</span>が助長される"]
    E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='L-glutamine'>L-グルタミン</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral'>経口投与</span>"] --> F["グルタミン→グルタミン酸経路を介し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='reduced glutathione'>還元型グルタチオン</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='availability'>利用能</span>を高める(仮説)"]
    F --> G["NAD<span class='jp-term jp-term-diagram' title='redox potential'>酸化還元電位</span>が改善する"]
    G -.->|"詳細な機序は未解明"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>による赤血球障害が軽減"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vaso-occlusive pain crisis'>血管閉塞性疼痛発作</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute chest syndrome'>急性胸部症候群</span>の頻度が減る"]

💡 「機序が完全には解明されていない」ことを隠さずに書いてあるのがこの薬の特徴。 添付文書自体が“not fully understood”と明記しており、in vivoでNADの改善が確認されたという間接的な裏づけにとどまる3。の誘導という比較的説明力の強い機序と対比すると、この薬の位置づけの違いが分かりやすい。

適応

⚠️ 承認の状況は国によって違う。以下は米国の添付文書に基づく記述である。

米国では、5歳以上の成人・小児の鎌状赤血球症で急性合併症を減らす目的で承認されている(商品名Endari)3。添付文書の適応はの回数や病型で限定されていないが、承認の根拠となったは登録前12か月に2回以上のがあった・鎌状赤血球β⁰の患者(5〜58歳)を対象としており、実際の使用はこの集団が想定されている3。による治療中・治療歴の有無を問わず投与できる。

⚠️ 欧州では承認されていない。 Emmaus Medical Europe Ltdは鎌状赤血球症を対象にXyndariの商品名で販売承認を申請したが、2019年9月18日に申請を取り下げた。取り下げ時点のの見解は「承認を拒否すべき」であり、その理由は、主要試験がの回数も医療機関受診の回数も減らす有効性を示していないこと、および試験終了前の脱落者が多く(プラセボ群より本剤群で多い)その取り扱いが適切でないことであった2。⭐ 米国が承認の根拠にしたと、欧州が有効性を示していないと判断した「主要試験」は同じ試験である。 「が承認した=有効性が確立している」と読まないための、この薬の最も重要な注意点になる。

用法・用量

体重帯別の経口粉末製剤を1日2回、食品または飲料に混和して直前に服用する3。

体重 1回量 1日量
30kg未満 5g 10g
30〜65kg 10g 20g
65kg超 15g 30g

禁忌・注意

  • 米国の添付文書では禁忌の項が「None」とされており、明確な禁忌事項の記載はない3。⚠️ これはその1文書を読んだという事実の記述であって、この薬に禁忌が無いという事実ではない。欧州では承認自体が無いため対応するSmPCも存在しない
  • 同じ添付文書には独立した・注意の節(第5節)も薬物相互作用の節(第7節)も置かれておらず、安全性上の主な留意点は次項の副作用(主に消化器症状・疼痛関連症状)にとどまる3
  • は実施されていない3
  • ・のある患者でのは検討されていない3

副作用

2件のプラセボ対照試験を併合した安全性集団(本剤187例・111例)で発現率10%を超えた副作用は、いずれもプラセボ群より高頻度で、便秘(21%対18%)、悪心(19%対14%)、頭痛(18%対15%)、腹痛(17%対16%)、咳嗽(16%対14%)、(13%対7%)、(12%対5%)、胸痛(12%対8%)であった3。⚠️ この分母は次のの230例ではない。 副作用による投与中止はこの187例中2.7%(5例。・腹痛・・灼熱感・が各1例)にとどまり、は概して良好である3。

まとめ

  • は、誘導によりHbS重合そのものを抑えるとは異なり、赤血球のNADを改善し障害を軽減する(仮説段階の機序)という別角度からの。
  • 米国の添付文書上の適応は5歳以上の鎌状赤血球症で、の回数や病型による限定は無い(試験対象は年2回以上のクリーゼがあった集団)。と併用可能で、両者は競合する選択肢ではない。
  • (230例、48週。本剤152例対78例)で中央値(3件対4件)・(8.6%対23.1%)・入院日数中央値(6.5日対11日)のいずれも本剤群で少なかった3。
  • ⚠️ 同じ試験を審査したは有効性が示されていないと判断し、2019年9月に申請が取り下げられた2。欧州に承認は無く、「として確立している」とは書けない。
  • 米国の添付文書には明確な禁忌・独立した注意事項の記載がなく、主な有害事象は便秘・悪心・頭痛など消化器・疼痛関連症状にとどまる。
  • の記載は無い(米国添付文書)。

出典

  1. 1.Evidence-Based Management of Sickle Cell Disease: Expert Panel Report, 2014(National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI), National Institutes of Health・2014)推奨6が「生後9か月以上の乳児・小児・青年の鎌状赤血球貧血(本報告書の定義でHbSSとHbSβ⁰サラセミア)に対し、臨床的重症度を問わずヒドロキシ尿素による治療を提示する」であり、その強さが月齢9〜42か月では強い推奨・エビデンスの質は高、42か月超の小児と青年では中等度の推奨・エビデンスの質は中と2段に分かれること、成人については推奨2〜5が疼痛クリーゼ年3回以上・日常生活を妨げる疼痛・重症または反復する急性胸部症候群・症候性の慢性貧血という条件つきで強い推奨としており重症度を問わない推奨ではないこと、推奨10がHbSβ⁺サラセミアまたはHbSCで日常生活や生活の質を妨げる反復性の疼痛がある場合に専門医へ相談するという中等度の推奨・エビデンスの質は低であることを確認した。本報告書は強い推奨・中等度の推奨・弱い推奨を別の区分として用いており、推奨10は弱い推奨ではない。閲覧 2026-09-08
  2. 2.Xyndari — Withdrawal of application for marketing authorisation(European Medicines Agency・2019)鎌状赤血球症を対象としたXyndari(グルタミン)の販売承認申請をEmmaus Medical Europe Ltdが2019年9月18日に取り下げたこと、取り下げ時点で欧州医薬品庁は承認を拒否すべきとの見解であったこと、その理由が主要試験において疼痛クリーゼの回数や医療機関受診の回数を減らす有効性が示されなかったこと、および多数の患者(プラセボ群よりも本剤群で多い)が試験終了前に脱落しその取り扱いが適切でないと判断されたことを確認した。2012年7月4日に希少疾病用医薬品に指定されていたことも確認した。閲覧 2026-09-08
  3. 3.ENDARI (L-glutamine oral powder) — Highlights of Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / Emmaus Medical・2025)改訂表示が2025年6月(DailyMedの更新日は2025年6月20日、初回米国承認は2017年)である版で、機序(作用機序は完全には解明されていないが、還元型グルタチオンの利用能を高めNAD酸化還元電位を改善するとの仮説)、適応(5歳以上の成人・小児で鎌状赤血球症の急性合併症を減らす)、用法・用量(体重帯別に1回5〜15gを1日2回、飲料240mLまたは食品120〜180mLに混和して直前に服用)、禁忌の項が「None」であること、警告・注意(第5節)と薬物相互作用(第7節)の独立した節が置かれていないこと、腎機能障害・肝機能障害のある患者での薬物動態は検討されていないこと、薬物相互作用試験は実施されていないことを確認した。副作用は2試験を併合した安全性集団(本剤187例・プラセボ111例)で発現率10%超が便秘21%対18%・悪心19%対14%・頭痛18%対15%・腹痛17%対16%・咳嗽16%対14%・四肢痛13%対7%・背部痛12%対5%・胸痛12%対8%であり、副作用による投与中止は本剤群の2.7%(5例)であった。第III相試験(230例、5〜58歳、登録前12か月に2回以上の疼痛クリーゼ、48週)では本剤152例対プラセボ78例で疼痛クリーゼ中央値3件対4件、急性胸部症候群13例(8.6%)対18例(23.1%)、累積入院日数中央値6.5日対11日であり、ヒドロキシ尿素で3か月以上安定していた患者は継続投与のまま組み入れられ(併合集団の63.4%が投与中)、便益はヒドロキシ尿素使用の有無によらず観察されたと記されている。枠組み警告の記載は無い。閲覧 2026-09-08