薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B31 Antineoplastics / 抗腫瘍薬 · 必修

エスワン

S-1

分類
Antineoplastics / 抗腫瘍薬
商品名(日本)
ティーエスワン
商品名(EU)
Teysuno
科目
Pharmacology
トピック
B31: Drugs used in cancer treatment I (antimetabolites)
副作用
下痢悪心手足症候群
監視検査値
血算
相互作用
フェニトインワルファリン

🧠 全体像:S-1(日本の商品名ティーエスワン、ではTeysuno)はテガフール(の)に、代謝調節剤ギメラシルとオテラシルカリウムを配合した経口で、「1剤で3役」の配合設計を理解すれば全体が繋がる。①テガフールが体内で徐々にへ変換され持続的な曝露を作り、②ギメラシルがのDPD(と同じ標的)を阻害して血中濃度を高く保ち、③オテラシルカリウムは消化管粘膜に選択的に分布してリン酸化(活性化)を阻害し、消化管毒性(下痢)だけを軽減する。が「腫瘍組織での選択的活性化」を狙うのに対し、S-1は「消化管だけを守る」設計という対比で覚えると、同じ経口でも作りの違いが整理できる。日本で1999年から広く使われ、胃癌の術後の主力として国療ガイドラインに組み込まれている一方、でのは進行胃癌(シスプラチン併用)と一部の大腸癌に限られ、禁忌の範囲も日本より広い——同じ薬でも国によって適応・禁忌が違う代表例である。

位置づけ

S-1は・と同じ系に属する。3剤とも最終的なはで、DPDによる分解を受ける点は共通する。

薬剤 活性化の仕組み 消化管毒性への対策
投与された分子がそのまま作用(活性化不要) なし
肝→→腫瘍組織に多いの3段階でに変換 なし(は活性化酵素の分布による)
S-1 テガフールが徐々にへ変換。ギメラシルがDPDを阻害し血中濃度を高く維持 オテラシルカリウムが消化管粘膜でのリン酸化を選択的に阻害し下痢を軽減

⭐ 「ギメラシル=DPD阻害薬」「オテラシルカリウム=消化管を守る薬」と役割を分けて覚える。 DPD阻害によって単独投与より高い血中濃度を持続させられるが、同時にDPD欠損患者では毒性がより強く出うるため、1のには他の系薬剤・が並ぶ(ギメラシルがそれらの代謝も阻害し血中濃度を著しく上昇させるため)。

機序

flowchart TD
    A["テガフール(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-fluorouracil'>5-FU</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prodrugs'>プロドラッグ</span>)"] --> B["体内で徐々に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-fluorouracil'>5-FU</span>へ変換"]
    C["ギメラシル"] --> D["DPD(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-fluorouracil'>5-FU</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catabolism'>異化</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolic enzyme (metabolizing enzyme)'>代謝酵素</span>)を阻害"]
    D --> E["血中<span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-fluorouracil'>5-FU</span>濃度が高く持続"]
    B --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thymidylate synthase'>チミジル酸合成酵素</span>(TS)阻害→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>合成障害"]
    F --> G["腫瘍細胞の増殖抑制・アポトーシス"]
    H["オテラシルカリウム"] --> I["消化管粘膜に選択的分布し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-fluorouracil'>5-FU</span>のリン酸化(活性化)を阻害"]
    I --> J["消化管毒性(下痢)を軽減"]

適応・用法

地域 適応
日本 胃癌、結腸・、、、手術不能又は再発乳癌、、、陽性かつ陰性で再発高リスクの乳癌における術後薬物療法1
進行胃癌(シスプラチン併用)、大腸癌(他のを・心血管毒性のため継続できない転移例、単剤または/±併用)の2適応のみ2

⚠️ 日本とでの範囲がまったく違う。 ・・乳癌・・は日本のみの適応で、のTeysunoにはない2。

日本での用法はに応じた初回基準量(1.25 m²未満40 mg/回、1.25〜1.5 m²未満50 mg/回、1.5 m²以上60 mg/回)を1日2回食後し、疾患ごとにA法(28日投与14日)・B法(21日投与14日)・C法(14日投与7日)などのレジメンを使い分ける1。胃癌の術後では併用やCapeOX・SOXなど他剤併用レジメンも国療で行われる。実際の用量・周期はガイドライン・施設のプロトコルで確認する。

禁忌・注意

⚠️ 禁忌欄の中身が国で違う——特にDPD完全欠損の扱い。

日本の添付文書 のSmPC
DPD完全欠損 禁忌欄に独立項目としては無い(15.1.2で注意喚起のみ)1 禁忌(4.3に明記)2
ブリブジン併用歴 禁忌欄に記載なし 禁忌2
透析を要する 「重篤な腎障害」として禁忌 「透析を要する」として禁忌
妊娠・授乳 妊婦は禁忌(授乳は「望ましくない」) 妊娠・授乳とも禁忌

💡 どちらの文書の話かを明示せずに「S-1の禁忌は」と書かない。 のSmPCの方が禁忌の範囲が広く、DPD完全欠損・ブリブジン併用歴を明示的な禁忌としている2。

  • ⚠️ はギメラシルの作用が理由。 他の系抗悪性腫瘍剤(・テガフール・配合剤・ドキシフルリジン・)、・テガフール・療法、との併用は避ける。中止後もそれぞれ一定期間空けてから投与する1
  • フェニトイン:テガフールが代謝を抑制し中毒(・嘔吐・眼振・運動障害等)を起こしうる
  • ワルファリン:作用を増強することがある(機序不明)。凝固能をより頻回に確認する
  • 重篤な骨髄抑制のある患者、重篤な腎障害・肝障害のある患者には投与しない
  • B型肝炎ウイルスキャリア・者では再活性化に注意する

副作用

頻度 内容
高頻度 骨髄抑制(46.7%、血小板減少15.7%)、下痢、悪心・嘔吐、、色素沈着
注意 (前治療有乳癌で21.8%と高頻度)、、
重篤・まれ (でより高頻度)、等の重篤な肝障害、重篤な腸炎・/出血/穿孔、、白質脳症、、

まとめ

  • S-1はテガフール()+ギメラシル(DPD阻害で濃度を高く維持)+オテラシルカリウム(消化管を選択的に保護し下痢を軽減)の配合薬。「1剤で3役」の設計で覚える。
  • 日本ではティーエスワンとして胃癌・大腸癌・・・乳癌・・など幅広い適応を持ち、胃癌の術後の主力である。
  • EUのTeysunoは進行胃癌(シスプラチン併用)と一部の大腸癌のみが適応で、日本よりはるかに狭い。
  • 禁忌の範囲も国で違う——のSmPCはDPD完全欠損・ブリブジン併用歴を明示的な禁忌とするが、日本の添付文書は禁忌欄に独立項目を置かず注意喚起にとどめる。
  • は他の系薬剤・(ギメラシルによる代謝阻害のため)。フェニトイン・ワルファリンとは併用注意。
  • 副作用は骨髄抑制・下痢・悪心が高頻度、・・重篤な腸炎が重篤な副作用として挙げられる。

出典

  1. 1.ティーエスワン配合カプセルT20/T25、ティーエスワン配合顆粒T20/T25 添付文書(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)/大鵬薬品工業株式会社・2025)日本の現行添付文書(2025年1月改訂第4版)を取得して確認した。4. 効能又は効果は「胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、手術不能又は再発乳癌、膵癌、胆道癌、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術後薬物療法」。2. 禁忌は①本剤の成分に対し重篤な過敏症の既往歴のある患者、②重篤な骨髄抑制のある患者、③重篤な腎障害のある患者(ギメラシルの腎排泄低下により血中5-FU濃度が上昇するため)、④重篤な肝障害のある患者、⑤他のフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤を投与中の患者、⑥フルシトシンを投与中の患者、⑦妊婦又は妊娠している可能性のある女性の7項目で、**DPD完全欠損そのものは禁忌欄に独立した項目として挙げられていない**(15.1.2でごくまれな欠損患者での重篤な初期毒性に注意喚起するのみ)。6. 用法及び用量は体表面積に応じた初回基準量(1.25m²未満40mg/回、1.25〜1.5m²未満50mg/回、1.5m²以上60mg/回)を1日2回食後投与し、A法(28日投与14日休薬)・B法(21日投与14日休薬)・C法(14日投与7日休薬)などレジメンごとに投与日数・休薬期間が異なる。10.1 併用禁忌はフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤・テガフール・ウラシル配合剤・ドキシフルリジン・カペシタビン・ホリナート/テガフール・ウラシル療法・レボホリナート/フルオロウラシル療法・フルシトシンで、機序はギメラシルによる5-FU異化代謝阻害。10.2 併用注意にフェニトイン(代謝抑制により中毒)とワルファリンカリウム(作用増強、機序不明)を挙げる。11.1の重大な副作用は骨髄抑制・溶血性貧血、DIC、劇症肝炎等の重篤な肝障害、脱水症状を伴う重篤な下痢、重篤な腸炎、間質性肺炎、心筋梗塞・狭心症・不整脈・心不全、重篤な口内炎・消化管潰瘍・消化管出血・消化管穿孔、急性腎障害・ネフローゼ症候群、TEN・SJS、白質脳症等の精神神経障害、急性膵炎、横紋筋融解症、嗅覚脱失、涙道閉塞、肝硬変。閲覧 2026-09-22
  2. 2.Teysuno (tegafur/gimeracil/oteracil) — Summary of Product Characteristics(European Medicines Agency(EPAR、改訂版24)・2025)EU中央審査で承認されたTeysunoのSmPC(最終更新2025年10月30日、Revision 24)を取得して確認した。4.1 Therapeutic indicationsは「advanced gastric cancer when given in combination with cisplatin」と「metastatic colorectal cancer(他のフッ化ピリミジンを手足症候群・心血管毒性で継続できない患者に単剤またはオキサリプラチン/イリノテカン±ベバシズマブ併用)」の2適応のみで、**日本のような頭頸部癌・非小細胞肺癌・乳癌・膵癌・胆道癌は含まない**。4.2の胃癌用法用量はシスプラチン併用で25 mg/m²(テガフール換算)を1日2回・21日間投与後7日間休薬、4週ごとに繰り返す。4.3 Contraindicationsは過敏症、フルオロピリミジン療法による重篤・予期せぬ反応の既往、**既知の完全DPD欠損**、妊娠・授乳中、重篤な骨髄抑制、透析を要する末期腎不全、他のフルオロピリミジンとの併用、**ブリブジンの最近または併用投与**を含み、日本の禁忌欄より広い。4.4はDPD完全欠損を白人集団の0.01〜0.5%、部分欠損を3〜9%と推計し、血中ウラシル値16 ng/mL以上150 ng/mL未満を部分欠損の目安、150 ng/mL以上を完全欠損の目安とする表現型検査の基準を示す。閲覧 2026-09-22