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Symptoms · Published

手足症候群

Hand-foot syndrome

別名
手掌足底発赤知覚不全症Palmar-plantar erythrodysesthesia
臓器系
皮膚腫瘍
科目
OncologyPharmacology
トピック
腫瘍学 I-23:化学療法の副作用腫瘍学 I-26:分子標的治療の副作用薬理学 B31:抗がん薬I(代謝拮抗薬)薬理学 B35:抗がん薬V(低分子シグナル伝達阻害薬・レチノイド)
起因薬
5-フルオロウラシルアキシチニブカペシタビンカボザンチニブスニチニブソラフェニブチボザニブパゾパニブリプレチニブリポソーム化ドキソルビシンレゴラフェニブレンバチニブ

🧠 全体像:「」という一つの呼び名の下に、機序も分布も対処も別物の2つの病態が隠れている。などによるは、汗腺に濃縮された薬剤が手掌・足底全体をびまん性に傷害する現象であり、などによるは、で創傷治癒力が落ちた皮膚が日常の摩擦・荷重に耐えられなくなる現象である。重症度はのgrade1〜3で評価し(grade4は存在しない)、症状そのものが救急疾患なのではなく、との取り違えとgrade3の放置が実務上の落とし穴になる。

定義と2つの病型

は手掌・足底に生じる皮膚障害の総称で、では単一の用語()としてgrade付けされる。しかし臨床像・・対処は明確に異なる2つの病型に分かれ、この区別が実地での判断を左右する。

項目 型(
代表的な原因薬 、持続静注 など
分布 手掌・足底全体にびまん性、境界不明瞭、両側対称性 ・摩擦部に限局(踵、間、球など)、周囲に紅暈を伴い非対称のことも多い
主な症状 紅斑・浮腫・知覚不全(・灼熱感)が先行し、その後に 有痛性の角化性局面が主体で、疼痛が先行することが多い
発症の に伴いサイクルを重ねるほど増悪する緩徐な経過 発現が早く、多くは治療開始6週以内
機序の要点 薬剤がに濃縮され・血管内皮を直接傷害 VEGFR阻害で血管新生・創傷治癒能が低下し、日常の摩擦・荷重による微小損傷が修復されない

分布と発症までの時間を見れば型はほぼ判別できる。 に限局し疼痛が先行して6週以内に急に出た皮疹は型、びまん性で知覚不全が先行し的に緩徐に増悪する皮疹はを示唆する。

病態生理

2つの型は出発点がまったく異なる。は「薬剤がどこに濃縮されるか」で決まり、型は「どこが機械的ストレスを受けるか」で決まる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic anticancer drug'>細胞傷害性抗癌薬</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capecitabine'>カペシタビン</span>・5-FU・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytarabine'>シタラビン</span>等)"] --> B["薬剤が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eccrine sweat gland'>エクリン汗腺</span>に濃縮され<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='stratum corneum'>角層</span>を通じて表皮へ拡散"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratinocyte'>角化細胞</span>・血管内皮への直接的な細胞傷害"]
    C --> D["手掌・足底全体にびまん性の<br>紅斑・浮腫・知覚不全"]
    E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multikinase inhibitor'>マルチキナーゼ阻害薬</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sorafenib'>ソラフェニブ</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sunitinib'>スニチニブ</span>等)"] --> F["VEGFR阻害により<br>血管新生・創傷治癒能が低下"]
    F --> G["荷重・摩擦による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='routine'>日常的</span>な微小損傷が<br>修復されず蓄積"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='weight-bearing area'>荷重部</span>・摩擦部に限局した<br>有痛性の角化性局面"]

💡 なぜ分布が正反対になるのか。 (どこに薬剤が濃縮されるか)で分布が決まるため手掌・足底に均等に及ぶ。型は標的分子の生理機能(どこが機械的ストレスを受けるか)で決まるため、体重がかかる踵や靴で圧迫される部位に限局する。同じ「手足の皮膚障害」でも説明の出発点が異なる。

⚠️ 見逃してはいけない病態

⚠️ それ自体は生命を脅かす救急疾患ではない。 危険なのは症状の重さではなく、次の2点である。

  • との取り違え(SJS・TENを含む)は粘膜疹・水疱・広範なを伴う。これらを伴うならではない。 「いつもの」と誤認してを継続すれば、の進行を許すことになる。
  • 急性(GVHD)の皮膚病変との混同後の患者では、手掌・足底の紅斑が急性皮膚GVHDの初発部位になりうる。体幹・耳介への拡大や下痢・を伴えばGVHDを疑う。
  • grade3の放置:疼痛で歩行・身の回りのADLが障害された状態を「化学療法の副作用だから」と様子見にすると、・水疱からの(蜂窩織炎)やを招き、機能障害が固定しうる。

鑑別と評価の進め方

flowchart TD
    A["手掌・足底の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dermopathy'>皮膚症</span>状"] --> B{"粘膜疹・水疱・広範な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epidermal detachment'>表皮剥離</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hand-foot syndrome'>手足症候群</span>ではない<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='severe cutaneous adverse reaction (SCAR)'>重症薬疹</span>を疑い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='culprit (suspected) drug'>被疑薬</span>を直ちに中止"]
    B -->|"なし"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematopoietic stem cell transplantation, HSCT'>造血幹細胞移植</span>後で<br>体幹・耳介にも皮疹が拡大するか"}
    D -->|"あり"| E["急性皮膚GVHDを疑う"]
    D -->|"なし"| F{"分布は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='weight-bearing area'>荷重部</span>・摩擦部に限局するか"}
    F -->|"限局する"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multikinase inhibitor'>マルチキナーゼ阻害薬</span>型の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hand-foot skin reaction'>手足皮膚反応</span>と判断"]
    F -->|"びまん性"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classic form'>古典型</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hand-foot syndrome'>手足症候群</span>と判断"]
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Common Terminology Criteria for Adverse Events'>CTCAE</span> gradeを判定し対応を決める"]
    H --> I

上記いずれにも当てはまらないときは、(標的様紅斑、四肢伸側優位)、発作性のと紅斑を来す、境界明瞭でアレルゲン曝露歴を伴うも鑑別に挙げる。いずれも薬剤との時間的関連や分布パターンでと区別できる。

重症度評価と対応の考え方

重症度はのgrade1〜3で評価する。grade4・5は設定されていない——は本質的にADLへの影響で重さを測る所見であり、単独で臓器不全や死亡には直結しないためである1

grade 定義 対応の考え方
grade 1 疼痛を伴わない軽微な皮膚変化(紅斑・浮腫・角化のいずれか) 同一用量を継続し、保湿・スキンケアを開始・強化する
grade 2 疼痛を伴う皮膚変化(角質剥離・水疱・出血・・浮腫・角化のいずれか)で、に支障 症状が改善するまでし、改善後は同量または減量して再開することが多い
grade 3 疼痛を伴う高度な皮膚変化で、身の回りのADLに支障 症状が軽快するまでし、再開時は減量する

⚠️ 具体的な減量幅・日数は薬剤ごとに添付文書で規定が異なる。上表は考え方の枠組みであり、個々の薬剤の基準を代替しない。

支持療法の中心は保湿と物理的刺激の回避である。尿素配合は治療開始前からの予防的使用が広く行われてきたが、によるを対象にしたでは、通常ケアへの効果は示されなかった・重症度・を要した割合のいずれも有意差なし)2型では、投与開始前に既存の・角化病変を削るケアや、圧のかかる靴の見直しが再発予防として実地で行われる。局所ステロイドは疼痛・炎症の対症的軽減に用いられるが、有効性を裏付ける質の高いエビデンスは限られる。

⚠️ (ビタミンB6)の予防効果はで否定されている。 かつて経験的に広く使われていたが、進行・再発乳癌に対する療法を対象にした多施設で、併用群と対照群のgrade2以上に有意差はなかった(28.8% 対 31.3%)3確立した予防薬は無い——「予防にビタミンB6」は現在では推奨されない。

型の頻度は薬剤・で幅があるが、ではgrade3以上が投与群の17%に生じ、薬剤関連のgrade3以上有害事象で最多だった4。原疾患治療を止めるかどうかは、症状の重症度とそのでの代替薬の有無を天秤にかける判断になる——grade2までは・減量で治療を継続できることが多いが、grade3を繰り返す場合は薬剤変更も検討する。なお多くのQT延長も監視対象であり、と並行して定期評価する。

まとめ

  • 」は、びまん性・知覚不全先行・緩徐な増悪)と型(限局・疼痛先行・6週以内の早い発症)に分けて考える。
  • は薬剤のへの濃縮による直接傷害、型はVEGFR阻害による創傷治癒能低下と機械的ストレスの組み合わせで生じる。
  • この所見自体は救急疾患ではないが、粘膜疹・水疱・を伴うや急性皮膚GVHDとの取り違え、grade3の放置による機能障害・が実務上の危険である。
  • 重症度は grade1〜3で評価する(grade4は無い)。grade2以上は、grade3は後の減量が対応の骨格になる。
  • による予防効果、に対する尿素効果は、いずれもで否定的な結果が出ている。確立した予防薬は無く、保湿・摩擦回避とが対処の中心である。

出典

  1. 1.Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v6.0(National Cancer Institute (NCI), Cancer Therapy Evaluation Program・2025)手足症候群のCTCAE gradeを規定。grade1は疼痛を伴わない皮膚変化、grade2は疼痛を伴い手段的ADLに支障、grade3は疼痛を伴い身の回りのADLに支障で、grade4・5は設定されていない。v5.0(2017年)から本用語の定義文言に変更はない閲覧 2026-08-02
  2. 2.Regorafenib monotherapy for previously treated metastatic colorectal cancer (CORRECT): a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial(The Lancet・2013)転移性大腸癌に対するレゴラフェニブの第III相試験で、grade3以上の手足皮膚反応が投与群の17%(83例)に生じ、薬剤関連のgrade3以上有害事象で最多だった閲覧 2026-08-02
  3. 3.A randomized phase II study evaluating pyridoxine for the prevention of hand-foot syndrome associated with capecitabine therapy for advanced or metastatic breast cancer(Breast Cancer・2018)進行・再発乳癌に対するカペシタビン療法で、ピリドキシン併用群と対照群のgrade2以上手足症候群発生率に有意差はなく(28.8% 対 31.3%)、予防効果は示されなかった多施設ランダム化第II相試験閲覧 2026-08-02
  4. 4.Randomized controlled trial on the efficacy of topical urea-based cream in preventing capecitabine-associated hand-foot syndrome(BMC Cancer・2025)カペシタビン投与患者を尿素配合クリーム併用群(107例)と通常ケア群(109例)に割り付けたランダム化比較試験で、手足症候群の発生率・重症度・カペシタビンの用量調整を要した割合のいずれにも有意差はなかった閲覧 2026-08-02