内科学

内科学 · L-02

狭心症

Angina pectoris

前提:病態
狭心症・慢性虚血性心疾患アテローム性動脈硬化症心臓の酸素需要・供給に作用する薬
前提:正常
冠循環
疾患
慢性冠症候群(安定狭心症)
症状
安静時痛狭心痛発汗

🧠 全体像:狭心症は一過性による臨床症候である。まずを除外し、安定例では「症状の特徴」「冠動脈疾患の」「またはの証明」を組み合わせ、症状軽減と心血管イベント予防を並行する。

虚血性心疾患の連続体

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary atherosclerosis'>冠動脈硬化</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial dysfunction'>内皮機能障害</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='silent coronary artery disease'>無症候性冠動脈疾患</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic coronary syndrome (stable angina)'>慢性冠症候群</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='stable angina'>安定狭心症</span>"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plaque rupture'>プラーク破綻</span>・血栓"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unstable angina'>不安定狭心症</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-ST-elevation myocardial infarction'>NSTEMI</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ST-elevation myocardial infarction'>STEMI</span>"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary vasospasm'>冠攣縮</span>・微小血管機能障害"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasospasm'>血管攣縮</span>性/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microvascular angina'>微小血管性狭心症</span>"]

💡 「」という呼び方は「(CCS)」へ置き換わった。 2019が、2013年版の「」という静的な枠組みに代えてこの呼称を採用した1。「安定」に見える時期も動脈硬化は進行しており、といつでも移行し得るという連続体の理解を反映している。2024年版がこの枠組みを更新した2。試験では旧称の「」で問われることがあるため、両方の呼び方を対応づけておく。

症状と分類

典型的は、の圧迫感・、労作または精神的ストレスによる誘発、安静または短時間作用型での軽快という特徴を持つ。、肩、頸部、顎、へ放散し、呼吸困難、発汗、悪心を伴うことがある。高齢者、女性、糖尿病患者ではや無痛性虚血もある。

⚠️ 新規発症、、増悪傾向、持続痛、・失神・呼吸困難、循環不安定を伴う場合はとして扱わずACSを疑う。

カナダ心血管学会(CCS)分類

分類 労作制限
I 強い・長時間の労作でのみ
II が軽度制限される
III が高度に制限される
IV 安静時にも起こり、が困難

病態別の特徴

病態 典型的特徴 診断の要点
再現性のある労作時症状 またはで解剖・虚血を評価
夜間〜早朝、安静時、発作性ST変化 ECG、必要時専門施設で誘発試験
症状があるがが乏しい ・微小循環機能を評価
新規・増悪・安静時症状 陰性でもACSとしてリスク評価

診断アプローチ

  1. バイタル、12誘導ECG、でACSを除外する。
  2. 貧血、甲状腺機能亢進、頻脈、高血圧、などの原因を確認する。
  3. 安定例では年齢、性別、症状、危険因子、既知の動脈硬化から冠動脈疾患の可能性を見積もる。 2024は、年齢・性別・症状に5つの臨床危険因子(および得られれば)を組み合わせる危険因子重みづけ臨床(RF-CL)モデルをの次の段階として推奨し、確率が非常に低い群では追加検査の見送りを考慮するとしている2。
  4. または検査を、、石灰化、腎機能、運動能力、施設経験に応じて選ぶ。
  5. 、薬物治療抵抗性症状、などでは侵襲的を検討する。

は運動能力と症状評価には有用だが、の診断精度はやCCTAより低く、単独で全例の第一選択とはしない2。

治療

心血管イベント予防

  • 禁煙、運動、体重、血圧、糖尿病の管理
  • を基本としたコレステロール低下。確立した冠動脈疾患はに当たり、目標はLDL-C <55 mg/dLかつベースラインから50%以上の低下である。この目標は/EASの2019年版が定めたもので(でクラスI・A)3、2025年の焦点改訂でも据え置かれた4
  • ⚠️ さらに低い <40 mg/dL は「考慮してもよい」(クラスIIb)どまりで、冠動脈疾患があれば全例に課される目標ではない。 2019年版はこれを「最大量のスタチンを基礎とする治療中に2年以内に2回目のを起こした患者」に限って示していた3。2025年の焦点改訂はの図でこの層に「極めて高いリスク」という区分名(図中の表記は Extreme risk)を与え、多(例:冠動脈と末梢動脈)の動脈疾患を対象に加えたが、対応する推奨表は置かれておらず推奨の強さはIIbのままである4
  • 確立した動脈硬化性冠動脈疾患ではを検討するが、出血リスクと併存するを考慮する
  • 阻害薬/は高血圧、心不全、糖尿病、腎疾患などの併存に応じて用いる

抗狭心症治療

薬剤群 主な使い方・注意
β遮断薬 心拍数と収縮力を下げる。徐脈、、に注意
Ca拮抗薬 β遮断薬が不適または症状残存時。では中心的治療
短時間作用型 または予測される労作前。阻害薬との
症状予防。耐性を避けるを設ける
その他 、などを心拍数、血圧、、併存症に応じて選択

再血行再建

十分な薬物治療でも生活制限症状が残る場合、・近位LADを含む高リスク解剖、、などではまたはをで検討する。選択は、糖尿病、、患者希望を統合する。

💡 安定例で「虚血があるから早くする」という考え方はISCHEMIA試験以降にした。 中等度〜高度のをもつ5,179例を初期侵襲的戦略と初期保存的戦略に割り付けたところ、5年イベント率は16.4%対18.2%で差がなく、むしろ6か月時点では侵襲的戦略のほうがイベントが多かった(5.3%対3.4%)5。したがって安定例のは症状の改善と、・といった限られた予後的適応で位置づける。虚血の広がりだけを理由に一律に前倒ししない。

まとめ

  • 狭心症では最初にACSを除外し、安定例で解剖学的病変と機能的虚血を評価する。
  • 治療は症状軽減だけでなく、禁煙・脂質・血圧・・によるイベント予防を含む。
  • や微小血管機能障害はがなくても起こる。

関連ノート

出典

  1. 1.2019 ESC Guidelines for the diagnosis and management of chronic coronary syndromes(European Society of Cardiology・2020)2013年版の「安定冠動脈疾患(stable coronary artery disease)」という枠組みに代えて「慢性冠症候群(chronic coronary syndromes, CCS)」という呼称を採用し、冠動脈疾患を急性冠症候群と慢性冠症候群という2つの臨床像として整理した閲覧 2026-08-25
  2. 2.2024 ESC Guidelines for the management of chronic coronary syndromes(European Society of Cardiology・2024)閉塞性冠動脈疾患の検査前確率の推定に、年齢・性別・症状に5つの危険因子(および利用できれば冠動脈石灰化スコア)を組み合わせた危険因子重みづけ臨床尤度(risk factor-weighted clinical likelihood, RF-CL)モデルを初期段階で用いることを推奨し、確率が非常に低い例では追加検査の見送りを考慮するとした。症状と心筋虚血を対応づけるための機能画像検査(負荷心エコー・SPECT/PET・負荷心臓MRI)と冠動脈CT血管造影の使い分けも規定している閲覧 2026-08-25
  3. 3.2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias: lipid modification to reduce cardiovascular risk(European Heart Journal(Mach F, et al., 2020, DOI 10.1093/eurheartj/ehz455)・2020)ジュネーヴ大学のリポジトリ archive-ouverte.unige.ch から誌上版PDF(80頁)を自分で取得して確認した。二次予防の超高リスクでベースラインから50%以上の低下かつ<1.4 mmol/L(<55 mg/dL)がClass I・Level A であること。逐語で `For patients with ASCVD who experience a second vascular event within 2 years (not necessarily of the same type as the first event) while taking maximally tolerated statin-based therapy, an LDL-C goal of <1.0 mmol/L (<40 mg/dL) may be considered.` とあり、Class IIb・Level B で、40 mg/dL未満という目標がこの2019年版に既に存在すること閲覧 2026-09-17
  4. 4.2025 Focused Update of the 2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias(European Society of Cardiology / European Atherosclerosis Society・2025)Internet Archive 経由(web.archive.org の id_ 付きURLが academic.oup.com の advance-article-pdf を watermark02.silverchair.com へ転送する)で advance article 版PDF(20頁)を自分で取得して確認した。Figure 1 が、確立した動脈硬化性心血管疾患(臨床的または画像上のASCVD)を超高リスクに置き、LDL-Cの目標を<1.4 mmol/L(<55 mg/dL)かつベースラインから50%以上の低下(Class I。一次予防のFH例のみIIa)としていること。本文に `It is important to note that the LDL-C treatment goals (Figure 1) and therapeutic guidance (Table 4) for persons in each risk category have not changed from the 2019 ESC/EAS Guidelines.` とあり、この目標が2019年版から変わっていないこと。Figure 1 はさらに下位に `Extreme risk` の区分を置き、最大耐容量のスタチンを基礎とする治療下で血管イベントを繰り返す例と多血管床(例:冠動脈と末梢動脈)の動脈疾患に<1.0 mmol/L(<40 mg/dL)をClass IIbで示すが、対応する Recommendation Table は無いこと閲覧 2026-09-17
  5. 5.Initial Invasive or Conservative Strategy for Stable Coronary Disease(The New England Journal of Medicine・2020)中等度〜高度の心筋虚血を有する安定冠動脈疾患5,179例で、初期侵襲的戦略は初期保存的戦略に比べ主要複合エンドポイントを減らさなかった(5年累積イベント率16.4%対18.2%、差 -1.8ポイント、95%信頼区間 -4.7〜1.0)。6か月時点では侵襲的戦略のほうがイベントが多かった(5.3%対3.4%)閲覧 2026-08-25