病理学

病理学 · A/48

肥満の病態機序と合併症

Pathomechanism of obesity and its consequences, examples

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Mechanism / 機序High-yield / ポイント

🧠 全体像:肥満の合併症はすべて「という内分泌臓器の暴走」から説明できる——摂取が消費を上回ってが蓄積すると、/IL-6の増加との低下が慢性炎症とインスリン抵抗性を招き、そこから・2型糖尿病・()が枝分かれする。

定義

肥満 = 健康に悪影響を及ぼすほどの脂肪組織蓄積による体重増加。 = 体重(kg) / 身長(m²) で測定。の定義では成人の 30以上を肥満、25以上をとする1(25〜29.9、肥満30〜34.9、高度35〜39.9、病的≥40)。

⚠️ は・を区別せず、同じでも民族によって代謝リスクが異なる。 が多い人・少ない人では同じでも体脂肪量が異なり、東アジア系集団では欧米人と同じでもが高く代謝リスクが高くなりやすい。西太平洋地域事務局・IASO・IOTFによるアジア太平洋基準は、を 23以上、肥満を 25以上とし、上記の欧米基準(25以上・肥満30以上)より低いを提案している2。

⭐ 2025年、肥満の診断の枠組みの見直しが提言された。 Lancet Diabetes & Endocrinologyの国際委員会は、単独での診断をやめ、体脂肪量の直接測定またはに加えた指標(など)で過剰脂肪を確認したうえで、臓器・組織の機能障害やの著しい制限を伴う「」(慢性疾患状態として速やかな治療の対象)と、機能は保たれているがリスクが高い「」(健康と経過観察の対象)を区別する新しい診断枠組みを提唱した。ただしが非常に高い人(40超)では、過剰脂肪を実際的に推定してよく追加の確認は要らないとしている。委員会は、は集団レベルの健康リスクの代替指標として疫学研究やスクリーニングに用いるものであり、個人の健康の指標として単独で使うべきではないと勧告している3。⚠️ これは委員会の提言(76団体が承認)であり、の成人の定義( 25以上を、30以上を肥満)は現行のファクトシートでもそのまま使われている1。

病因

脂肪分布

  • 中心性・内臓型(「リンゴ型」) — 体幹・腹部の脂肪、代謝的に危険。
  • 末梢性・皮下型(「洋ナシ型」) — 腰より下、低リスク。

病態機序 — エネルギーバランスと脂肪の内分泌シグナル

摂取 > 消費 → の肥大・過形成。脂肪量シグナルに応答する視床下部の・回路により調節される:

ホルモン 由来 摂取への効果
(LEP遺伝子) 摂取を減らす(POMC/CART↑、NPY/AgRP↓)—「食べるのをやめる」。肥満では
「脂肪」。肥満では低下。↑、抗炎症・
胃 摂取を増やす(NPY/AgRPを刺激)
(PYY) 回腸・結腸 摂取を減らす(満腹)

= 内分泌臓器: /IL-6増加、低下 → 慢性の低グレード炎症+インスリン抵抗性。

flowchart TD
    A["摂取 > 消費"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adipocyte'>脂肪細胞</span>の肥大・過形成<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral fat'>内臓脂肪</span>の蓄積)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>・IL-6増加<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='adiponectin'>アディポネクチン</span>低下"]
    C --> D["慢性の低グレード炎症"]
    D --> E["インスリン抵抗性"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolic syndrome'>メタボリック症候群</span>・2型糖尿病・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease'>MASLD</span>"]

合併症

💡 IARC作業部会は、過剰な体脂肪の回避によりリスクが低下するという十分な証拠があるとして、・胃癌・大腸癌・・・・・・卵巣癌・・・・の13種を挙げている5。上記の部位別リストと重なるが完全には一致しない。

💡 受容体作動薬の登場で、肥満治療の位置づけそのものが変わりつつある。 45歳以上・心血管疾患の既往があり糖尿病の既往のない 27以上の成人17,604例を対象とした(SELECT試験)で、週1回皮下2.4 mgはと比べ(心血管死・・の複合)を0.80(95%CI 0.72-0.90)で減少させた(平均追跡39.8か月)6。糖尿病のない・肥満( 30以上、または合併症を伴う 27以上)の成人1,961例を対象とした別の(STEP 1試験)では、生活介入にした同用量のが68週後に平均14.9%の体重減少をもたらした(は2.4%)7。肥満の薬物治療が、体重だけでなく心血管イベントという臨床転帰の改善まで示した例である(ただしSELECT試験の対象は、心血管疾患の既往がある45歳以上の人に限られる)。

💡 ポイント: 肥満 = 30以上()、中心性・内臓型(「リンゴ型」)が危険。 =「食べるのをやめる」(肥満では抵抗性)、は肥満で低下、↑・PYY↓が食欲。 → /IL-6 → インスリン抵抗性 → 、2型糖尿病、、OSA。癌はインスリン/IGF-1を介す(子宮内膜、結腸、乳房)。

まとめ

  • 肥満はの定義では 30以上(アジア太平洋基準では25以上)で、中心性・内臓型(「リンゴ型」)が代謝的に危険。2025年の国際委員会は単独での診断をやめ、過剰脂肪の確認との有無で「」と「」を分ける枠組みを提唱した。
  • は「食べるのをやめる」シグナルだが肥満ではが生じ、は肥満で低下する。
  • は内分泌臓器として/IL-6を増やしを減らし、慢性炎症とインスリン抵抗性を招く。
  • インスリン抵抗性は、2型糖尿病、/MASH(旧/NASH)、へとつながる。
  • 癌との関連はインスリン・IGF-1の増加、効果、慢性炎症を機序とし、女性では・、男性では結腸・のリスクが上がる。

出典

  1. 1.Obesity and overweight(World Health Organization(ファクトシート)・2025)2025年12月8日付のファクトシートで確認した。2022年に18歳以上の成人25億人が過体重で、うち8.9億人が肥満であり、成人の43%が過体重・16%が肥満だった。世界の成人の肥満は1990年から2倍以上に、青年の肥満は4倍になった。成人の定義はBMI 25以上を過体重、30以上を肥満とし、BMIは体脂肪の代替指標でウエスト周囲径などの追加測定が肥満の診断を助けると述べる閲覧 2026-09-24
  2. 2.The Asia-Pacific perspective: redefining obesity and its treatment(WHO西太平洋地域事務局 / IASO / IOTF・2000)アジア太平洋地域の集団ではBMI 23以上を過体重、25以上を肥満とする、欧米基準(過体重25以上・肥満30以上)より低い集団特異的カットオフを提案していることを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Definition and diagnostic criteria of clinical obesity(Lancet Diabetes & Endocrinology(国際委員会報告)・2025)BMI単独診断をやめ、体脂肪量の直接測定またはBMIに加えた身体計測指標で過剰脂肪を確認したうえで、臓器・組織の機能障害や日常生活動作の著しい制限を伴う「臨床的肥満」と、機能は保たれているがリスクが高い「前臨床的肥満」を区別する新しい診断枠組みを提唱したこと、BMIは集団レベルのスクリーニング・疫学研究に限って用いるべきとしたことを確認した。PMC全文で、現行の診断ではWHOの定義により成人のBMI 30 kg/m²以上を肥満とすると記述していること、BMIが非常に高い人(40 kg/m²超)では過剰脂肪を実際的に推定してよく追加の確認を要しないとしていることも確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.A multisociety Delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature(Hepatology・2023)3つの国際肝臓学会が主導した修正Delphi法の合意で、NAFLDに代わる名称として代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)、NASHに代わる名称として代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASH)が選ばれ、MASLDの定義に5つの心代謝リスク因子のうち少なくとも1つの存在を含めることで合意したことを確認した。閲覧 2026-09-23
  5. 5.Body Fatness and Cancer--Viewpoint of the IARC Working Group(International Agency for Research on Cancer / New England Journal of Medicine・2016)IARC作業部会は、過剰な体脂肪の回避によりリスクが低下するという十分な証拠がある癌腫として、食道腺癌・噴門部胃癌・大腸癌・肝癌・胆嚢癌・膵癌・閉経後乳癌・子宮体癌・卵巣癌・腎細胞癌・髄膜腫・甲状腺癌・多発性骨髄腫の13種を挙げたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes(The New England Journal of Medicine(SELECT試験、NCT03574597)・2023)45歳以上・心血管疾患の既往があり糖尿病の既往のないBMI 27以上の成人17,604例を対象とした多施設二重盲検無作為化比較試験(SELECT試験)で、週1回皮下セマグルチド2.4 mgは平均追跡39.8か月時点で主要心血管イベント(心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中の複合)をプラセボと比べてハザード比0.80(95%CI 0.72-0.90)で減少させたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity(The New England Journal of Medicine(STEP 1 試験、NCT03548935)・2021)糖尿病のないBMI 30以上(体重関連合併症が1つ以上あればBMI 27以上)の成人1,961例を2対1で無作為化し、週1回皮下セマグルチド2.4 mgを生活介入に追加した68週後の体重変化が平均マイナス14.9%、プラセボがマイナス2.4%であったことを確認した。閲覧 2026-08-27