病理学

病理学 · C/83

前立腺癌

Carcinoma of the prostate

応用トピック
前立腺・膀胱腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断前立腺癌の頻度・症状・診断限局性前立腺癌
薬剤
フルタミド
疾患
前立腺癌
スコア
Gleasonスコア

🧠 全体像:前立腺癌はの腫瘍で、辺縁帯(前立腺の後方)に生じるためで触知できる一方、尿道からは離れているぶん症状が出るのが遅い——BPH(・早期閉塞)と対照的なこの部位の違いが、両者の臨床像を分ける最大の軸である。診断は(前立腺特異的だが癌特異的ではない)とGleason分類(の合計スコア)を組み合わせて行う。

概要

  • 米国の統計では男性で最も多いで、男性の癌関連死の第2位(肺に次ぐ)。
  • 世界全体(2024年推計)では、前立腺癌は男性で2番目に多い癌(新規約150万例)で、癌死では第4位(約42万人)である。男性の罹患・死亡とも最多は肺癌だが、186か国中123か国では前立腺癌が男性で最も多く診断される。1
  • 高齢男性(50歳超)の疾患。
  • 95%が腺房型腺癌。

発生機序

A)ホルモン性

  • アンドロゲンが腫瘍発生の「土壌」を提供 — 前立腺は。

B)遺伝性

  • が罹患するとリスク増加(家族性)。
  • 白人・アジア人よりアフリカ系アメリカ人に多い。

C)遺伝子

  • TMPRSS2-ETS融合遺伝子 — アンドロゲンプロモーターがETS転写因子のに融合。
  • 変異による/AKT経路の活性化 → 腫瘍細胞の増殖+生存。

D)環境

  • 工業環境、地理的差異。
  • に富む食事、喫煙。

形態

  • 検出時、多くの癌は肉眼で見えない。
  • :隣接腺に浸潤する硬く灰白色〜黄色の病変。
  • 辺縁帯(後方)に生じる — で。2
  • 組織像:
    • 腺癌、高分化からまで。
    • のない細胞に裏打ちされた腺(の消失 = 重要な診断的特徴)。
  • :。

臨床像

  • 早期にはしばしば臨床的に無症状、偶発的に発見。
  • :硬く不整な結節、固定した前立腺。
  • 広範な癌 → 局所不快感+尿道の合併症(辺縁帯のため後期)。
  • 進行性の癌は転移で発症しうる:
    • — 多くは(骨形成性)病変、のことも。
    • +骨盤+が好発部位。
    • 局所浸潤:、膀胱、直腸。
    • +血行性の播種。

治療

診断

直腸診

  • 辺縁帯のな硬い結節。
  • ⚠️ 原資料には「55〜69歳に2年ごと」とあるが、これはの推奨ではない。米国予防医療専門委員会()の現行推奨(2018年、改訂作業中)は、55〜69歳の検診を利益と害を説明したうえでの、70歳以上は推奨しない(grade D)とし、は利益の証拠が無いため検診手段として推奨しない。4 欧州泌尿器科学会()の2026年版も、一般に50歳から余命を考慮したリスク適応型の早期発見を勧めている。5

前立腺特異抗原

  • 精液中に分泌される。
  • 前立腺癌は正常組織の10倍のを分泌(正常値 < 4 ng/mL)。
  • 前立腺特異的だが癌特異的ではない:BPH、前立腺炎、、器具操作でも上昇。
  • 他の検診法と併用+治療反応のモニタリングに最適。⚠️ 検診による死亡率減少効果は無作為化試験間で結果が一致しない——ERSPC(欧州)は13年時点で前立腺癌死亡の有意な減少(0.79)を示した一方、PLCO(米国)は13年時点で有意差を認めなかった(1.09)。過剰診断への懸念が背景にある。67
  • > 10 ng/mL → 強い疑い、生検。

生検

  • ので確定診断(原資料は経直腸的生検)。
  • 現行のガイドラインは、不要な生検を避けるために生検前のマルチを推奨し、生検を行うときは標的生検と領域(系統的)生検を組み合わせる。5

Gleason分類

  • 細胞がどれだけ異常に見えるか+進行の可能性を示す。
  • 低 → 高分化、非攻撃性。
  • 高 → 最も低分化、攻撃性。
パターン 記述 分化
1 小さく均一な腺 高分化(現在は生検でほぼ用いない)
2 腺間の間質が増加 高分化(現在は生検でほぼ用いない)
3 明瞭に浸潤性の辺縁 中分化
4 腫瘍腺の不整な塊 低分化・
5 時折ののみ 低分化・
  • 最終スコア:最も多い2パターンの和(原法の範囲は2〜10)。⚠️ 2014年ISUP合意以降、実務で割り当てる最低スコアは6で、パターン1・2は事実上使われない。8
  • スコア≤6 = 低リスク、7 = 中間、≥8 = 高リスク。

⚠️ 現行のではに加え、ISUP(国際泌尿器病理学会)Grade Group(1〜5)を併記するのが標準(2014年ISUPコンセンサス、 2016年分類以降)。89 Grade Group 1は最低スコアが「6」ではなく「1」から始まるため、6という数字が中間程度の悪性度と誤解されやすい問題を避け、患者説明を容易にする狙いがある。同じ合計スコア7でも主パターンが3か4かで予後が異なるため区別する。10

Grade Group 生化学的再発(Gleason 6基準)10
1 ≤6(3+3以下) 1.0(基準)
2 3+4=7 1.9
3 4+3=7 5.1
4 8 8.0
5 9〜10 11.7

比較 — BPHと前立腺癌

特徴 BPH 前立腺癌
部位 () 辺縁帯(後方)
平滑、ゴム様、腫大 硬い結節、不整、固定
軽度上昇 上昇(BPHと重なる。> 10 ng/mL で強く疑う)
保たれる 消失
症状発症 早期閉塞 後期(進行するまで無症状)
なし

💡 ポイント: 米国で男性の第1の、癌死第2位。腺房型腺癌95%、辺縁帯(で触知 = 硬い結節)。発生機序:TMPRSS2-ETS融合、喪失、。アフリカ系アメリカ人でリスク増加。組織像:のない腺。 = (、骨盤、)。診断:+(癌特異的ではない。検診手段としてのは推奨されない)+生検前+生検。Gleason分類(最多2パターンの和、実務上は6〜10)+Grade Group 1〜5。治療:手術+放射線+進行例に(、抗アンドロゲン)。 = HGPIN。

まとめ

  • 前立腺癌は米国では男性で最も多いで、男性の癌関連死の第2位(世界全体では男性の罹患・死亡とも肺癌が最多)。
  • 95%が腺房型腺癌で、TMPRSS2-ETS融合遺伝子・喪失による/AKT経路活性化が関与する。
  • 辺縁帯(後方)に生じるためで硬く不整な結節として触知できるが、進行するまで無症状のことが多い。
  • 組織学的にはの消失が重要な診断的特徴。
  • は前立腺特異的だが癌特異的ではなく、BPH・前立腺炎・などでも上昇する。
  • Gleason分類は最も多い2パターンの和で評価し(原法は2〜10だが現在の実務上の最低は6)、現行はISUP Grade Group(1〜5)も併記する。
  • は多くがで・骨盤・に好発する。
  • 治療は手術・放射線・で、転移性例では早期からまたはを併用するのが現行標準。

出典

  1. 1.Global cancer statistics 2024: GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 34 cancers in 186 countries(American Cancer Society / International Agency for Research on Cancer (IARC)・2026)全文(PMC13343830)で、2024年の世界推計で前立腺癌は男性で2番目に多い癌かつ癌死の第4位であり(新規約150万例・死亡約42万人)、186か国中123か国では男性で最も多く診断される癌であること、肺癌は男性で罹患・死亡とも第1位であることを確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.Zonal distribution of prostatic adenocarcinoma. Correlation with histologic pattern and direction of spread(The American Journal of Surgical Pathology・1988)根治的前立腺摘除標本104例のうち発生帯を同定できた88癌では、68%が辺縁帯、24%が移行帯、8%が中心帯から発生していたことを確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Fifteen-Year Outcomes after Monitoring, Surgery, or Radiotherapy for Prostate Cancer(The New England Journal of Medicine・2023)PSA検出限局性前立腺癌では15年前立腺癌特異的死亡率に監視・手術・放射線の治療群間で有意差がなく、監視群では転移・病勢進行が多かったことを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Screening for Prostate Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement(2018)USPSTF推奨声明の全文(USPSTFサイト掲載版。2026-09-24時点で「Update in Progress」表示のまま2018年版が現行)で、55〜69歳のPSA検診は個別の判断(grade C)、70歳以上は推奨しない(grade D)こと、直腸診は大規模検診試験から除かれたか含まれておらず利益の証拠が無いため検診手段として推奨しない("The use of digital rectal examination as a screening modality is not recommended")ことを確認した閲覧 2026-09-24
  5. 5.EAU-EANM-ESTRO-ESUR-ISUP-SIOG Guidelines on Prostate Cancer-2026 Update. Part I: Screening, Diagnosis, and Local Treatment with Curative Intent(European Urology・2026)2026年版の要約(抄録)で、前立腺癌を発症しうる男性の同定には一般に50歳から始め個別の余命に基づくリスク適応型の戦略を勧めること、不要な生検を避けるためにマルチパラメトリックMRIの使用を推奨し、生検を行う場合は標的生検と領域生検を組み合わせることを確認した閲覧 2026-09-24
  6. 6.Screening and prostate cancer mortality: results of the European Randomised Study of Screening for Prostate Cancer (ERSPC) at 13 years of follow-up(The Lancet・2014)欧州8か国でPSA検診を評価した多施設無作為化試験(ERSPC)で、13年時点の前立腺癌死亡率比は0.79(95%信頼区間0.69-0.91)であり、9年時点(0.85)・11年時点(0.78)より絶対効果が大きくなったこと、招待された781人に1人の前立腺癌死亡を防ぐ計算に相当することを確認した閲覧 2026-08-27
  7. 7.Prostate cancer screening in the randomized Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian Cancer Screening Trial: mortality results after 13 years of follow-up(Journal of the National Cancer Institute・2012)米国10施設で76,685例を登録したPLCO試験の13年追跡結果で、介入群(年1回のPSA検査+直腸診)と対照群(通常診療)の前立腺癌死亡率比は1.09(95%信頼区間0.87-1.36)で有意差がなく、組織的スクリーニングによる死亡率減少の明確な証拠は得られなかったことを確認した。同じPSA検診を評価したERSPCとは結果が食い違う閲覧 2026-08-27
  8. 8.The 2014 International Society of Urological Pathology (ISUP) Consensus Conference on Gleason Grading of Prostatic Carcinoma: Definition of Grading Patterns and Proposal for a New Grading System(The American Journal of Surgical Pathology・2016)2014年ISUP合意会議で各Gleasonパターンの定義が改訂され、篩状腺管はすべてパターン4、糸球体様構造もパターン4、面疱壊死はパターン5と定められたこと、実務で割り当てられる最低スコアは6であり、grade group 1(3+3=6)〜5(9〜10)の5段階制が提案されたことを確認した閲覧 2026-08-27
  9. 9.The 2016 WHO Classification of Tumours of the Urinary System and Male Genital Organs-Part B: Prostate and Bladder Tumours(European Urology(WHO 2016年分類の要約)・2016)2016年WHO分類は前立腺癌にGleasonパターンに基づく5段階のgrade groupingを採用し、Gleasonスコア7ではパターン4の割合を報告することを推奨したことを確認した閲覧 2026-08-27
  10. 10.A Contemporary Prostate Cancer Grading System: A Validated Alternative to the Gleason Score(European Urology・2016)2005年・2014年の改訂を経てもGleason分類には限界があるとして、根治的前立腺摘除20,845例・放射線治療5,501例の多施設データで5段階grade group分類を検証した研究で、手術コホートにおけるGleason 6を基準とした生化学的再発のハザード比はGleason 3+4で1.9、4+3で5.1、8で8.0、9〜10で11.7であり、3+4と4+3で予後が明確に異なることを確認した。最低グレードを6ではなく1とすることで、grade group 1が中間程度の悪性度と誤解されることを避ける狙いも確認した閲覧 2026-08-27