病態生理学

病態生理学 · P-2-4

肝疾患 症例1

Liver disease, Case 1

前提:病態
肝機能障害(1)

🧠 全体像: ウイルス感染後に黄疸・脱力・をきたした15歳男児。ストレス後の間欠的黄疸、の、父の間欠的黄疸、父方祖父の・胆嚢摘出という家族歴がある。鍵は 優位の黄疸+・上昇・低下(溶血)+直接Coombs陰性+塗抹の+脾腫 の組み合わせで、による溶血性()黄疸と読む。当初疑われたは溶血所見と脾腫を説明できない。提示されたどうしは計算上かみ合わない点に注意する。

症例提示

15歳男児。3日前のウイルス感染後に皮膚へ気づき、嘔吐と下痢を伴っていた。以前から、身体的または精神的ストレス後に黄疸が出現することがあったが、自然軽快するため気にしていなかった。今回は脱力、めまい、頭痛、も出現したためGPを受診した。

は当初、間欠的黄疸からを疑い、その他の症状はウイルス感染に伴うものと考えた。では脾腫も認めた。

確定診断のため母親から追加病歴を聴取すると、出生後にがあり、とで改善したことが判明。さらに父にも間欠的黄疸があり、父方祖父は小児期に重症黄疸のためと胆嚢摘出を受けていた。

病態の本質は、GPが依頼した検査とで明確になった。

検査 — 血液:

  • 白血球: 12 G/L
  • 赤血球: 3.2 T/L
  • HGB: 80 g/L
  • Ht: 0.3
  • MCV: 92 fL
  • MCH: 28.6 pg (正常)
  • : 380 g/L (高値)
  • : 19% (高値)
  • reticulocyte: 10%
  • AST: 19 U/L
  • ALT: 23 U/L
  • 総bilirubin: 33 μmol/l
  • direct bilirubin: 5.2 μmol/l
  • LDH: 250 U/L (高値)
  • haptoglobin, haemopexin: 低値
  • 直接Coombs反応: 陰性
  • : abnormal

尿:

  • UBG: 高値
  • bilirubin: 陰性
  • HGB: 陽性

:

  • ・小型・細胞
  • anisocytosis, poikilocytosis

主要所見と解釈

引用 / 値 解釈
: “で小型の”、浸透圧脆弱性 “異常” + 浸透圧脆弱性亢進は、異常による破壊を示唆
家族歴: 父の間欠的黄疸、祖父の + 胆嚢摘出、 父・父方祖父と世代をまたぐ家系内発症はのパターンに合い、を支持
HGB 80 g/L、reticulocyte 10%、 380(高値)、 19%(高値) 貧血に対しが亢進し、過染色性・を伴う活動性溶血像。⚠️ ただし提示されたは互いに整合しない。HGB 80 g/L・Ht 0.3 から計算するは約267 g/L、HGB 80 g/L・赤血球 3.2 T/L から計算するMCHは25 pg、MCH 28.6 pg・ 92 fL から計算するは約311 g/Lで、いずれも提示の「MCH 28.6(正常)」「 380(高値)」と合わない。高値はのだが、本例では他の値から検算できないので、の数字だけに頼らず塗抹・・溶血所見・家族歴の組み合わせで読む
総bilirubin 33、direct 5.2 µmol/L、尿bilirubin陰性、UBG上昇 非抱合(間接)bilirubin優位の高bilirubin血症で、/に一致
高値、haptoglobin/haemopexin低値、尿HGB陽性 血管内/の所見(放出、haptoglobin消費、)
直接Coombs陰性 を否定し、赤血球固有の膜異常を支持
脾腫 異常の・破壊を反映

要点整理

  • 診断: による性貧血と。
  • 病態生理: 遺伝的な蛋白異常 → 赤血球がして低下 → 脾で破壊亢進 → 溶血。
  • 黄疸のタイプ: 非抱合高bilirubin血症(尿bilirubin陰性、上昇)で、や閉塞型ではない。
  • 増悪因子: 感染やストレスで溶血が増悪し、間欠的黄疸として出現する。
  • 鑑別の決め手: Coombs陰性(自己免疫性でない)、浸透圧脆弱性異常、塗抹での、強い家族歴。間欠的黄疸だけならも挙がるが、は・上昇・低下といった溶血所見や貧血・脾腫を伴わない。
    • 💡 英国血液学会(BSH)2011年改訂ガイドラインは、家族歴・典型的な臨床像・・高値・がそろう新規診断例では追加検査を要さないとし(grade 1、エビデンスA)、診断が曖昧なときのスクリーニングにはEMA(eosin-5-maleimide)結合試験または低温溶血試験を推奨、本症例で用いられたはルーチンには推奨していない1。総説が引く先行研究の報告値では、EMA結合試験の感度90〜95%・特異度95〜99%に対しは感度66%・特異度81.8%である2。
  • 合併症: 胆石(祖父の胆嚢摘出歴と整合)と、重症例での適応。
    • 重症度: BSH 2011はHb・・ビリルビンで軽症・中等症・重症に分け、の判断は診断名だけでなく症状と合併症で行い、重症の小児では行い、中等症では検討し、軽症ではおそらく行わないとする。行う場合は理想的には6歳以降(grade 2、エビデンスC)、を推奨する(grade 1、エビデンスB)1。本例の値は項目ごとに別の区分に当たり(HGB 80 g/Lは中等症80〜120と重症60〜80の境界、10%は中等症の「6%超」、33 μmol/Lは軽症の17〜34)、しかもウイルス感染後に黄疸が出た時点の値なので、この1回の検査だけで重症度を決めない。
    • ⚠️ する場合の感染対策: の重症感染リスクは術前ワクチンと抗菌薬予防でも完全には消えず、BSHはワクチンを各国の指針に従って接種するよう求めている1。米国の成人向けスケジュールでは、・予定例に肺炎球菌・髄膜炎菌・などのワクチンを挙げている(15歳の本例には小児・思春期向けのスケジュールが別にある)3。あわせて(OPSI)への生涯にわたる注意を患者に教育する。

出典

  1. 1.Guidelines for the diagnosis and management of hereditary spherocytosis—2011 update(British Committee for Standards in Haematology・2012)2004年版を置き換えた2011年改訂版(Br J Haematol 156巻1号37〜49頁、2011年11月オンライン公開)の全文(Wayback保存の出版社HTML)で確認した。家族歴・典型的な臨床像・球状赤血球・MCHC高値・網赤血球増加がそろう新規診断例では追加検査は不要(grade 1、エビデンスA)、診断が曖昧なときのスクリーニングにはcryohaemolysis試験とEMA結合試験を推奨し(grade 1、エビデンスA)、浸透圧脆弱性試験はルーチンには推奨しない。重症度はHb(軽症110〜150、中等症80〜120、重症60〜80 g/L)・網赤血球(3〜6%、6%超、10%超)・ビリルビン(17〜34、34超、51超 μmol/L)で分類し(Table II)、脾摘の判断は診断名だけでなく症状と合併症(胆石など)で行い(grade 2、エビデンスC)、本文は重症の小児では行い・中等症では検討し・軽症ではおそらく行わないとする。行う場合は理想的には6歳以降(grade 2、エビデンスC)、腹腔鏡下を推奨(grade 1、エビデンスB)。脾摘後の重症感染リスクは術前ワクチンと抗菌薬予防でも消えず、ワクチンは各国の指針に従って接種するとしている。閲覧 2026-09-24
  2. 2.The diagnostic protocol for hereditary spherocytosis-2021 update(Journal of Clinical Laboratory Analysis・2021)遺伝性球状赤血球症の診断でeosin-5'-maleimide結合試験(EMABT)は感度90〜95%・特異度95〜99%、本症例で用いられた浸透圧脆弱性試験(OFT)は感度66%・特異度81.8%と、本総説が先行研究(EMABTはManciuら、OFTはShimら)の値を引いて紹介していることを全文(PMC8649336)で確認した。いずれも本総説自身が測定した値ではない閲覧 2026-08-26
  3. 3.Adult Immunization Schedule by Medical Condition and Other Indication(Centers for Disease Control and Prevention・2025)解剖学的無脾症・脾摘予定例では肺炎球菌・髄膜炎菌・Hib・季節性インフルエンザワクチンを免疫歴に応じて接種することを推奨する閲覧 2026-08-26