病態生理学

病態生理学 · P-2-9

腎疾患 症例1

Kidney disease, Case 1

前提:病態
全身性エリテマトーデス・全身性硬化症・シェーグレン症候群慢性腎不全の原因と定義

🧠 全体像: 下肢浮腫・脱毛・関節痛・・倦怠感・頭痛を呈した20歳女性。鍵は 1:2560・抗dsDNA抗体・陽性とC3・C4低値(SLEの血清学)、高度の蛋白尿・アルブミン 19 g/L・浮腫(ネフローゼ)と、赤・多数の尿中赤血球・・高血圧・ 35(腎炎)の併存、でGBMに沿う の組み合わせで、と読む。治療強度を決めるのクラスは所見が無いので未確定である。WBC 12はSLEそのものでは説明しにくいので、感染などの別原因を探す。

症例提示

:

  • 20歳女性
  • この1か月: 倦怠感、頭痛
  • 下肢浮腫(約6か月)
  • 関節痛

症状・身体所見:

  • 血圧: 150/90 mmHg
  • 顔面:

検査(血液):

  • Haemoglobin (Hb): 80 g/L(低値)
  • Haematocrit (HTK): 24%(低値)
  • MCV: 85 fL
  • (WBC): 12 × 10⁹/L(高値)
  • Thrombocytes (PLT): 172 × 10⁹/L
  • Sodium (Na⁺): 136 mmol/L
  • Potassium (K⁺): 4.2 mmol/L
  • 尿素: 26.4 mmol/L(高値)
  • クレアチニン: 176 μmol/L(高値)
  • 血糖: 4.8 mmol/L
  • Albumin: 19 g/L(低値)
  • (): 70 mm/h(高値)
  • eGFR (CKD-EPI): 35.2 mL/min/1.73m²

検査(尿)— 試験紙:

  • ビリルビン: neg
  • : 0.2 mg/dL
  • ケトン: neg
  • Vitamin C: neg
  • 血糖: 28 mg/dL
  • 蛋白: 500 mg/dL
  • RBC: 300 RBCs/uL
  • pH: 7.5
  • 塩: neg
  • 白血球 (LEU): 25 WBCs/uL
  • 比重: 1.001
  • 度:
  • 色調: 赤褐色

尿沈渣:

  • 赤血球 (RBC): 1564 /uL
  • 白血球 (WBC): 54.1 /uL
  • 結晶: 2.6
  • : 1.8
  • : 2.6
  • 非上皮細胞: 3.1
  • 上皮細胞: 4
  • 細菌: 72.6
  • 粘液: 81.8

血液 — 自己免疫/自己抗体パネル:

  • ()titer: 1:2560
  • Anti-dsDNA抗体titer: >1000 IU/mL
  • Anti-Smith (Sm) antibody: 142 units
  • Anti-ribonucleoprotein (RNP) antibody: 114 units
  • SS-A: 121 units
  • SS-B: 39 units
  • Complement C3: 36 mg/dL(低値)
  • Complement C4: 6 mg/dL(低値)

病理: IgG()施行。

(EM): (GBM)に沿っての高い(免疫複合体)沈着を認める。

主要所見と解釈

引用 / 値 解釈
“”、脱毛、関節痛 (SLE)に典型的な多臓器症状。2019 /ACR分類基準では()6点と脱毛2点は同じ皮膚粘膜ドメインなので高いほうの6点だけを数え、関節病変(6点)は2関節以上の、または2関節以上の圧痛と30分以上のを要するため「関節痛」の記載だけでは数えない1
1:2560、anti-dsDNA > 1000、anti-Sm陽性、C3 36・C4 6(低値) 補体消費を伴う活動性変で、ループス血清学として高特異度。抗dsDNA抗体・は2019年分類基準で6点、C3・C4の両方低値は4点1
蛋白 500 mg/dL、albumin 19 g/L(低値)、下肢浮腫 大量蛋白尿とを伴い、ネフローゼ域のを示唆
尿RBC 1564/µL、赤褐色、“” 円柱を伴うで、活動性腎炎性過程を示す
尿素 26.4、クレアチニン 176 µmol/L、 35 は有意。 35はの区分でG3b(30〜44、中等度〜高度低下)に当たり、G5(15未満)の「腎不全」には当たらない。ただしと呼ぶには3か月を超える持続の確認が要り、活動性の腎炎で腎機能が急に変化しているときはの推算そのものが難しい2
EM: “GBM沿いの免疫複合体 沈着”、IgG 糸球体腎炎の所見でに合致する。ただし提示されているのはIF/EM所見のみで、確定診断・治療強度の決定には所見を合わせたISN/RPS病理分類(クラスI〜VI)が必要3
Hb 80 g/L、 70 mm/h、WBC 12(高値) Hb低値と高値は・高炎症状態に合致する。⚠️ 一方でWBC高値はSLE自体の所見としてはである。2019 /ACR分類基準の血液ドメインに挙がる項目は(WBC<4.0×10⁹/L、3点)・血小板減少(<100×10⁹/L、4点)・(4点)であって、はどのドメインにも含まれない1。同基準は各項目を「より可能性の高い別の説明が無い場合にだけ」SLEに数える1。症例提示には治療歴・内服歴の記載が無いので、まずステロイドなどを来す薬剤の使用歴を確かめ、それが無ければWBC 12は感染症の合併を疑う所見として扱う

要点整理

  • 診断: (SLEに伴う糸球体腎炎)。
  • 病像の特徴: 腎炎性所見(血尿、円柱、高血圧、)とネフローゼ所見(大量蛋白尿、、浮腫)が併存。
  • 血清学: 、anti-dsDNA、anti-Sm陽性に加え、C3/C4低下が診断の鍵。
  • 分類基準に当てはめると: 入口基準の(1:80以上)を満たし、()6点+抗dsDNA抗体または6点+C3・C4両方低値4点で、これだけで16点と分類閾値の10点を超える。腎生検でIII/IV型が確定すれば腎ドメインは10点になる1()。試験紙の蛋白 500 mg/dL は、腎ドメインの「0.5 g/日超の蛋白尿」を判定する24時間尿やとは別の測り方である。
  • 病態生理: がGBMに沈着 → → 炎症と。
  • 患者背景: 若年女性であり、SLEの典型的層に一致。
  • 次の一手: 病理分類(ISN/RPS クラスI〜VI)の確定には所見が必須である。活動性クラスIII/IVと確定すれば、 2024はグルココルチコイドに、①系、②低用量静注、③+系または低用量静注、④腎機能が高度に障害されていない場合の系+、のいずれか1つを加える初期治療を推奨している(いずれも1B)。④のうちは 45超の患者で検討された組み合わせなので、 35の本例には当てはまらない。あわせて禁忌がなければを用いる(1C)3。WBC高値の原因検索(感染合併の除外)も並行する。

出典

  1. 1.2019 European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology Classification Criteria for Systemic Lupus Erythematosus(ACR/EULAR・2019)全文(Arthritis Rheumatol版、PMC6827566)で確認した。ANA 1:80以上を必須の入口基準とし、7つの臨床ドメインと3つの免疫学的ドメインの加算基準を2〜10点で重み付けし、各ドメインでは最も高い項目だけを数え、合計10点以上で分類する。項目は、より可能性の高い別の説明が無い場合にだけSLEに帰属させる。血液ドメインは白血球減少(4,000/mm³未満)3点・血小板減少(100,000/mm³未満)4点・自己免疫性溶血4点で、白血球増多はどのドメインにも無い。皮膚粘膜ドメインは非瘢痕性脱毛2点・急性皮膚ループス(蝶形紅斑など)6点、筋骨格ドメインの関節病変6点は2関節以上の滑膜炎または2関節以上の圧痛と30分以上の朝のこわばりを要し、腎ドメインは24時間尿または尿蛋白/クレアチニン比で0.5 g/日超の蛋白尿4点・II/V型8点・III/IV型10点、補体はC3またはC4低値3点・両方低値4点、抗dsDNA抗体または抗Sm抗体は6点である。閲覧 2026-08-14
  2. 2.KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease(KDIGO・2024)KDIGO公式サイトのガイドラインPDFで、GFR区分がG1(90以上)・G2(60〜89)・G3a(45〜59)・G3b(30〜44、中等度〜高度低下)・G4(15〜29、高度低下)・G5(15未満、腎不全)であること、CKDの診断にはGFR 60未満などが3か月を超えて続くことを要すること、健康状態が急速に変化している人ではGFRの推算が難しいと述べていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Management of Lupus Nephritis(KDIGO・2024)ガイドライン全文PDFで確認した。推奨10.2.3.1.1は、活動性III/IV型ループス腎炎(膜性成分の有無を問わない)の初期治療を、グルココルチコイドに①ミコフェノール酸系(MPAA)、②低用量静注シクロホスファミド、③ベリムマブ+MPAAまたは低用量静注シクロホスファミド、④腎機能が高度に障害されていない場合のMPAA+カルシニューリン阻害薬、のいずれか1つを加えるものとしている(いずれも1B)。Figure 5はボクロスポリン+MPAAをeGFR 45超の患者に、タクロリムス+減量MPAAを血清クレアチニン3.0 mg/dL(265 μmol/L)未満の患者に位置づけている。推奨10.2.1.1は、ループス腎炎を含むSLE患者に禁忌がなければヒドロキシクロロキン(または同等の抗マラリア薬)を用いることを推奨している(1C)。治療はISN/RPS病理分類のクラスで分けて記述されている。閲覧 2026-08-14