疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 運動器 · 外傷

上腕骨近位部骨折

Proximal humerus fracture

別名
上腕骨近位端骨折
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 16:上腕骨近位端骨折・骨幹部骨折の治療外傷学 05:骨折の臨床症状と診断解剖学 5.2:上肢:肩と腋窩
合併症
偽関節凍結肩
治療薬
アレンドロネートゾレドロン酸デノスマブ
症状
肩痛腫脹圧痛皮下出血
原因となる疾患
骨粗鬆症

🧠 全体像:は、・と並ぶ骨粗鬆症の4大部位の一つで、高齢女性のが典型的な機転である。臨床判断の軸は2つ——骨片の転位・血流への影響を評価するNeer分類(骨頭・・・の4パーツをどう捉えるか)と、「転位があっても多くは保存治療で実用機能が得られる」という事実である。2015年に発表されたPROFHER試験は、この2つ目の直感を裏付ける形で、手術治療が保存治療に対して臨床的に優れないことを示した。骨折そのものの治療と同じ重みで、骨粗鬆症の評価・を組み込むことが現代の標準治療になる。

疫学:高齢女性の骨で、頻度は増えている

ドイツの一施設で2006〜2011年に診断された骨折815例のでは、年間症例数が113件から165件へ42.5%増加し、女性が67%・平均年齢66歳であった。60歳超の女性が全体の51.7%を占め、最大の患者群だった1。

⭐ 骨折型の複雑さ(3-part・4-partなど)は、年齢と性別で意味が違う。 骨折全体の約49%が複雑骨折だったが、若い男性では後に複雑骨折が生じやすい一方、複雑骨折の実数としては高齢女性に多く発生していた。は女性・60歳超・複数のと有意に関連していた1。⚠️ 「複雑骨折=若年の」と単純化すると、高齢者のでも複雑骨折が起こりうるという臨床上重要な事実を見落とす。

著者らは、骨折の70〜80%が骨粗鬆症を伴うと述べている1。⭐ 日本の原発性骨粗鬆症(2012年度改訂版)では、は「その他の」に分類され、・のように骨密度を問わず骨粗鬆症の診断根拠になるわけではなく、骨密度がYAMの80%未満であることと組み合わせて初めて骨粗鬆症の診断根拠になる2。この骨折を診た時点で骨密度評価につなげることが、診断上も治療上も要になる。

分類:Neer分類は「転位した骨片の数」を数える分類ではない

外傷学 16で扱うNeer分類は、骨頭・・・の4つの解剖学的部位を考え、の骨片が1 cm超または45°超転位しているかどうかで「転位骨片」と数える。

💡 「4-part骨折」はが4本という意味ではない。 がいくつあっても、転位した骨片が0であれば1-part(非転位)と数える。逆にが少なくても、結節が大きくずれていれば複数パートとして扱う。分類に加えて、骨頭分割の有無、解剖頸骨折の有無、の合併、、内側への支持の有無、結節転位の方向、骨質も同時に評価する必要があり、Neer分類の数字だけでは決まらない。

⚠️ 骨頭への血流は・に付着する腱と一体で走る。 骨片の転位が大きいほど、後内側から骨頭へ入る血流(後上腕回旋動脈の枝)が損なわれやすく、のリスクが上がる——これが手術適応を考えるときの背景にある。

臨床像と診断

  • 転倒後の・腫脹・圧痛、困難で発症する。受傷後数日で上腕〜前腕に及ぶ皮下出血(で下方へ広がる)がみられることが多い。
  • を含む二方向X線が基本で、近位端の複雑骨折や、手術計画を要する例ではを追加する(外傷学 05)。
  • ⚠️ を必ず評価する。 外側の感覚との収縮を、整復前後それぞれで記録する。・に伴う神経損傷のうち最も頻度が高いのがである。
  • 橈骨・の触知と末梢の色調・再充満も同時に確認する。やでは血管損傷の合併を疑う閾値を下げる。

治療:PROFHER試験が変えた重心

治療のは、開放骨折・血管障害・な・骨頭分割の有無である。これらがあればを上げて手術評価に進む。それ以外では、転位・安定性・骨質・年齢と機能目標を踏まえて手術か保存治療かを選ぶ(外傷学 16)。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal humerus fracture'>上腕骨近位部骨折</span>"] --> B{"開放骨折・血管障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='irreducible'>整復不能</span>な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fracture-dislocation'>骨折脱臼</span>・骨頭分割"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='timing'>緊急度</span>を上げて手術評価"]
    B -->|"なし"| D["転位が軽度で安定"]
    D --> E["短期の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='triangular sling'>三角巾</span>+早期の振り子運動から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='range-of-motion exercise'>可動域訓練</span>"]
    B -->|"なし"| F["高度転位・若年で骨頭温存の利益が大きい"]
    F --> G["ORIF(プレート固定)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intramedullary nail'>髄内釘</span>"]
    B -->|"なし"| H["高齢・再建困難な3-part/4-part・腱板機能不良・骨質不良"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reverse shoulder arthroplasty'>リバース型人工肩関節</span>"]

⭐ PROFHER試験は、この分岐の「軽度〜中等度転位」の領域に強い根拠を与えた。 英国33施設で、手術頸を含む転位型骨折の成人250例(手術群・非手術群)を無作為に割り付け、を2年間追跡した結果、6か月時に手術群がやや上回る傾向があったものの有意差はつかず(補正後差2.25点、p=0.058)、12か月・24か月時には両群がほぼ同等で、2年間を通じた主解析でも有意差はなかった(手術群に有利な差0.75点、p=0.479)3。

著者らのは「現在の手術治療は、手術頸を含む転位型骨折の大多数の患者においてより良好な転帰をもたらさない」であり、英国の医療制度下では手術はでも劣ると述べている(2年時点で手術群が1人あたり約1,781ポンド高い費用でむしろ低いQALY)3。

💡 この結果を「手術は不要」と単純化しない。 著者ら自身が、確定4-part骨折の組み入れがわずか11例にとどまり、この骨折型への外挿には限界があると明記している3。骨頭分割・な・開放骨折といった上の分岐で手術側に進む病態は、そもそもPROFHER試験の対象外である。⚠️ またを選ぶ場合も「経過観察だけ」ではない——著者らは、適切なスリング指導と迅速なアクセスに加え、非手術患者のおよそ5〜10%が合併症により追加手術を要しうることを前提にケアを組むべきだと助言している3。

手術を選ぶときの選択肢

方法 主な選択要因
プレート固定(ORIF) 再建可能な骨頭で、結節・内側支持を整復できる例
一部の〜近位骨折
人工骨頭置換 比較的若く活動性が高いが骨頭再建が困難で、結節治癒と腱板機能が期待できる限られた例
高齢者の再建困難な3-part・4-part骨折、、腱板機能不良、骨質不良での主要な選択肢

⚠️ 年齢だけでの適応を決めない。 の人工関節選択と同じ構図で、骨質・結節の再建可能性・腱板機能・活動性を組み合わせて判断する。

合併症

合併症 要点
転位が大きいほど後内側からの血流が損なわれやすい。特に解剖頸骨折・骨頭分割で危険が上がる
・スクリュー関節内 プレート固定後に骨質不良があると生じやすい
偽関節 骨質不良・不十分な固定・高齢者の複雑骨折で危険が上がる
長期の不動・疼痛を避けた保護姿勢から生じる。早期からの振り子運動・で予防する
受傷時または整復操作で生じうる。整復前後の診察記録が重要

二次骨折予防(骨粗鬆症治療)

⭐ は、・と同様に骨粗鬆症によるであり、骨折治療と並行して骨密度評価・評価につなげる。高リスクと判定されればなどのや、によるを開始する(詳細な層別化とレジメン選択は骨粗鬆症を参照)。

まとめ

  • は骨粗鬆症の4大部位の一つで、高齢女性のが典型的な機転である。頻度は増加傾向にあり、70〜80%が骨粗鬆症を伴うとされる。
  • Neer分類は骨頭・・・の4部位のうち、1 cm超または45°超転位した部位の数を数える分類であり、の本数ではない。骨頭分割・解剖頸骨折・内側支持の状態も併せて評価する。
  • 開放骨折・血管障害・な・骨頭分割がなければ、多くは保存治療(短期の+早期の)で実用機能が得られる。
  • PROFHER試験は、手術頸を含む転位型骨折の成人250例で手術治療が保存治療に対して2年時点のを有意に改善しなかったことを示した。ただし確定4-part骨折はわずか11例で、この骨折型への外挿には限界がある。
  • 手術を選ぶ場合はプレート固定・・人工骨頭置換・を骨質・結節再建可能性・腱板機能・活動性で選択する。合併症は、偽関節、、に注意する。
  • 骨折治療と同じ重みで骨密度評価・(・)を組み込む。

出典

  1. 1.Trends in epidemiology and patho-anatomical pattern of proximal humeral fractures(International Orthopaedics・2014)ドイツの一施設で2006〜2011年に診断された近位上腕骨骨折815例の記述疫学(PMC4115093の全文)で、年間症例数が113件から165件へ42.5%増加したこと、女性が全体の67%を占め平均年齢66歳であったこと、60歳超の女性が全体の51.7%で最大の患者群であったこと、骨折型の約49%が3-partまたは4-partの複雑骨折であったこと、複雑骨折は若い男性では高エネルギー外傷後に生じやすい一方、複雑骨折の実数としては高齢女性に多く発生したこと、低エネルギー外傷が女性・60歳超・複数の併存疾患と有意に関連したこと、著者らが近位上腕骨骨折の70〜80%は骨粗鬆症を伴うと述べていることを確認した。閲覧 2026-09-16
  2. 2.原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)(日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会 合同原発性骨粗鬆症診断基準改訂検討委員会・2012)学会公開の原本PDF全文(13頁)を取得して確認した。表2の診断が「I. 脆弱性骨折あり——1.椎体骨折または大腿骨近位部骨折あり(骨密度を問わない)2.その他の脆弱性骨折があり骨密度がYAMの80%未満」「II. 脆弱性骨折なし——骨密度がYAMの70%以下または−2.5SD以下」の3分岐であること。注3の「その他の脆弱性骨折」の部位が肋骨・骨盤(恥骨、坐骨、仙骨を含む)・上腕骨近位部・橈骨遠位端・下腿骨の5部位であること。注2に「形態椎体骨折のうち,3分の2は無症候性である」とあること。YAM(若年成人平均値)の基準年齢が「腰椎では20〜44歳,大腿骨近位部では20〜29歳」と部位で異なり、後者は「国際基準に合わせる目的で」変更されたこと。注4により複数部位測定時はより低い%値またはSD値を採用し、橈骨・第二中手骨では「%表記のみを使用する」こと。骨量減少(骨減少)が「国際的な基準と同じ−2.5SDより大きく−1.0SD未満」と定義されることを確認した。⚠️ 本改訂は冒頭に「今回,国際的な整合性を目指すとともに新たな知見に基づき2012年度改訂版を作成した」と明記し、「このことから,腰椎と大腿骨近位部については,70%と−2.5SDを併記することとした」「骨粗鬆症の診断基準は,これまでの骨密度がYAMの70%未満から,WHOの定義に合わせてYAMの70%以下または−2.5SD以下とすることとした」と述べる。つまり日本の基準はSD(Tスコア)表記を排した別体系ではない。また「7)脊椎X線像での骨粗鬆化の表記を削除した——近年,デジタル化の普及により脊椎X線像での骨萎縮度判定が困難となっており」とあり、2000年度改訂版(表1)にあった骨萎縮度は本改訂で判定軸から外れている。閲覧 2026-09-16
  3. 3.The ProFHER (PROximal Fracture of the Humerus: Evaluation by Randomisation) trial – a pragmatic multicentre randomised controlled trial evaluating the clinical effectiveness and cost-effectiveness of surgical compared with non-surgical treatment for proximal fracture of the humerus in adults(Health Technology Assessment(NIHR Journals Library)・2015)PROFHER試験(英国33施設、2008〜2011年、16歳以上・受傷3週以内で手術頸を含む転位型近位上腕骨骨折の成人250例)の報告書全文(NCBI Bookshelf掲載章)を確認した。主要評価項目Oxford Shoulder Score(0〜48点、高いほど良好)の主解析対象231例(手術群114例・非手術群117例)で、6か月時は手術群が非手術群より高い傾向を示し補正後差2.25点(p=0.058、有意差に近いが非有意)であったこと、12か月・24か月時は両群でほぼ同等であったこと、2年間を通じた主解析で治療群間に有意差なし(手術群に有利な差0.75点、p=0.479)であったこと、著者らが「現在の手術治療は、手術頸を含む転位型近位上腕骨骨折の大多数の患者においてより良好な転帰をもたらさない」と結論し、英国の医療制度下では手術は費用対効果でも劣ると述べたこと(2年時点で手術群が1人あたり約1,781ポンド高くQALYはむしろ低かった)、非手術治療のケアには適切なスリング指導・迅速な理学療法アクセスに加え、非手術患者のおよそ5〜10%が合併症により追加手術(remedial surgery)を要しうることを認識すべきだと助言したこと、確定4-part骨折の組入れが11例と少なく著者ら自身がこの骨折型への外挿には限界があると明記していることを確認した。閲覧 2026-09-16