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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

通過遅延型便秘

Slow transit constipation

別名
STC
臓器系
消化器
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 L-57:便秘の鑑別診断内科学 G-04:大腸疾患と機能性消化管疾患
鑑別疾患
排便協調運動障害
治療薬
リナクロチドプルカロプリド
症状
便秘
検査値
カルシウム甲状腺刺激ホルモン
適応薬
プルカロプリド

🧠 全体像:(slow transit constipation、STC)は、(DD)と対をなす慢性便秘のもう一つの主要な表現型である。DDが「出口の協調」の問題であるのに対し、STCは大腸そのものの動きが遅い——結腸を送る神経・cajal・の異常による、実質的な神経筋疾患である。⚠️ 両者を取り違えると治療の方向性ごと外れる。 DDの第一選択はだが、STCではまず内科治療、難治例では大腸切除まで検討する。両者は併存しうるため、内圧検査等で出口の協調不全を先に除外・治療してから、検査でSTCを確定するという順序が重要になる。

慢性便秘の中での位置づけ

()は慢性特発性便秘をDD・STC・正常通過型便秘(NTC)の3表現型に分類する1。慢性特発性便秘全体のは14%(95%CI 12〜17%)とされ、女性・65歳以降の高齢が危険因子に挙げられる2。その中でSTCは最も頻度が低い表現型だが(慢性特発性便秘患者の15〜30%、一般人口での推定2〜4%)、最も難治化しやすく心理社会的な負担や医療費も大きい1。

flowchart TD
  A["慢性特発性便秘"] --> B["DD:出口の協調不全<br>(排出圧・肛門弛緩の問題)"]
  A --> C["STC:結腸通過そのものの遅延<br>(神経筋疾患)"]
  A --> D["NTC:通過も出口も正常<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='irritable bowel syndrome'>IBS</span>-Cとの重なりが多い)"]
  C --> E["重症型:colonic inertia<br>食後運動亢進なし・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Stimulant laxative'>刺激性下剤</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-response'>無反応</span>"]

病態生理

  • 結腸の蠕動は、とcajal(ICC。として電気的スローウェーブを生成・伝播する)を介した神経筋協調で成り立つ。STCではこの経路の異常が観察され、内圧検査での収縮低下、検査での排出遅延、組織学的なICCの減少、でのの減少が報告されている1。
  • ⭐ 原因不明の重症型は「colonic inertia(結腸無力症)」と呼ばれる。 食後の運動亢進が欠如し、にも反応しない、より重度の病態を指す用語である1。
  • 病因は依然として不明だが、やホルモンの関与が仮説として提唱されている1。

二次性の原因

STCは特発性のことが多いが、次のような・代謝性疾患・薬剤でも生じうる1。

分類 代表例
Parkinson病、、脳卒中、、糖尿病性障害
筋疾患 、
代謝性疾患 甲状腺機能低下症、、、糖尿病
薬剤 オピオイド、(抗うつ薬・・抗精神病薬)、、、

⚠️ はDDとSTCが重なりやすい代表的な原因である。 神経障害が出口の協調と結腸の通過の両方に及ぶためで、こうした重複例では病態の切り分けがより難しくなる1。

診断

DD・NTC・二次性便秘を除外したうえで、でSTCを確定する1。

検査 方法 特徴
X線不透過マーカー法 20個のマーカーを内服し5日後にを撮影。5個以上(または当初数の20%以上)の残存で通過遅延と判定 最も標準的で簡便。残存数は重症度・とは相関しない
コロン 標識食を摂取し24・48時間後の残存を測定 マーカー法より利用可能な施設が少ない。全消化管の同時評価も可能
ワイヤレスモチリティカプセル カプセルが消化管内の化学的性質を測定しを算出 研究施設中心。胃・小腸の通過も分かるが結腸内の区域別評価はできない

⭐ 検査の前に、可能であれば出口機能の評価(高等)を行う。 臨床的にDDが疑わしい場合は特に、出口の問題を先に確認・治療してからSTCの診断へ進む1。

治療

補充や標準的な下剤は多くの患者にまず試みられるが、STCに特化した有効性の裏付けは乏しい1。

flowchart TD
  A["STCの確定診断"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dietary fiber'>食物繊維</span>・標準的下剤<br>(多くは先行して試みられるが効果は限定的)"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-HT4 receptor'>5-HT4受容体</span>作動薬<br>プルカロプリドが第一選択"]
  C --> D{"反応するか"}
  D -->|"不十分"| E["分泌促進薬(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='linaclotide'>リナクロチド</span>等)<br>STCに特化したエビデンスは限定的"]
  E --> F{"内科治療に抵抗する重症例"}
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='total colectomy'>大腸全摘</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ileorectal anastomosis'>回腸直腸吻合</span><br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ileostomy'>回腸瘻</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical creation (e.g., stoma formation)'>造設</span>"]
  • ⭐ プルカロプリド(作動薬)が最もエビデンスの強い第一選択のである。 7試験2,639例の2011年では 6で臨床反応を示し、検査を組み込んだ2002年のRCTでは、投与群の22%がベースラインの遅延通過から正常通過へ転換した(プラセボ群はわずか5%)1。心電図異常や心血管有害事象との関連が指摘された他の5-HT4作動薬(・テガセロド)と異なり、この点で問題が見られていない1。
  • などの分泌促進薬(ルビプロストン・プレカナチドを含む)は重症の慢性特発性便秘には有効とされるが、STCに特化したエビデンスは限定的である1。
  • ⚠️ 内科治療に抵抗する重症例では手術が選択肢になるが、患者選択が極めて重要である。 標準術式は+またはで、は残存結腸の機能不全により効果不十分となりやすく推奨されない。2017年の系統的レビューでは平均満足度86%が得られた一方、24%(死亡率0.4%・13%・15%)とできない有害事象がある1。
  • ⚠️ DDとSTCが併存する場合は、手術を検討する前にまずDDを・で治療する。 それでも手術を要する場合は、よりが優先される1。

まとめ

  • STCはの慢性便秘3表現型(DD・STC・NTC)の一つで、結腸の神経筋協調そのものが障害される病態。頻度は最も低い(一般人口の2〜4%)が難治化しやすい。
  • 病態生理はcajalの減少・の減少などで説明され、原因不明の重症型はcolonic inertiaと呼ばれる。
  • Parkinson病・・などの、甲状腺機能低下症などの代謝性疾患、オピオイド・などの薬剤が二次性の原因になりうる。
  • 診断はDD・NTC・二次性便秘を除外したうえで(マーカー法・・ワイヤレスモチリティカプセル)で確定する。出口機能の評価を先行させることが望ましい。
  • 治療は・標準下剤に続きプルカロプリド(第一選択、 6)を軸とし、内科治療抵抗例ではを検討する(満足度86%だが24%)。DDとの併存例はDDの治療を優先する。

出典

  1. 1.Idiopathic Slow Transit Constipation: Pathophysiology, Diagnosis, and Management(Medicina (Kaunas)・2024)全文を閲覧。米国消化器病学会(AGA)が慢性便秘を排便協調運動障害(DD)・通過遅延型便秘(STC)・正常通過型便秘(NTC)の3表現型に分類すること、STCが慢性特発性便秘患者の15〜30%を占め一般人口での推定有病率が2〜4%と3表現型中最も少ないが難治化しやすいこと、病態生理として結腸内圧検査での収縮低下・通過時間検査での排出遅延・組織学的なcajal介在細胞の減少・筋層間神経叢の興奮性神経伝達物質減少が観察されること、原因不明の重症型は「colonic inertia」(食後の運動亢進や刺激性下剤への反応の欠如を特徴とする)と呼ばれること、二次性の原因としてParkinson病・多発性硬化症・脳卒中・脊髄損傷・糖尿病性腸管神経障害などの神経疾患、全身性強皮症・アミロイドーシスなどの筋疾患、甲状腺機能低下症・高カルシウム血症・尿毒症・糖尿病などの代謝性疾患、オピオイド・抗コリン薬・ドパミン作動薬・カルシウム拮抗薬・5-HT3拮抗薬などの薬剤があること、診断はDD・NTCなど他の表現型と二次性便秘を除外したうえで大腸通過時間検査(20個のX線不透過マーカーを内服し5日後の腹部単純X線で5個以上残存すれば遅延と判定するマーカー法、コロンシンチグラフィ、ワイヤレスモチリティカプセルのいずれか)で確定すること、食物繊維補充・標準的下剤は多くの患者に先行して試みられるが有効性の裏付けは限定的であること、5-HT4受容体作動薬プルカロプリドが最もエビデンスの強い第一選択のプロキネティクスでプラセボ対照試験の2011年メタ解析でNNT 6、2002年のRCTでは投与群の22%がベースラインの遅延通過から正常通過へ転換した(プラセボ群は5%)こと、分泌促進薬(ルビプロストン・リナクロチド・プレカナチド)はSTCに特化したエビデンスは乏しいが重症の慢性特発性便秘には有効とされること、内科治療に抵抗する重症例では大腸全摘+回腸直腸吻合または回腸瘻造設が選択され2017年の系統的レビューで平均満足度86%だが合併症率24%(死亡率0.4%・再手術率13%・小腸閉塞15%)であること、DDとSTCが併存する場合はまず排便協調運動障害を治療してから手術を検討すべきことを確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Dyssynergic Defecation: A Comprehensive Review on Diagnosis and Management(The Turkish Journal of Gastroenterology・2023)慢性特発性便秘の統合有病率が14%(95%CI 12〜17%)でRome IV基準に限ると半減すると記していること(他文献の引用)、女性・65歳以降の高齢が便秘の危険因子とされることを確認した。閲覧 2026-09-07