薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B1 Hemostatics / 止血薬 · 必修

トラネキサミン酸

tranexaminic acid

分類
Hemostatics / 止血薬
商品名(日本)
トランサミン
商品名(EU)
Cyklokapron
科目
Pharmacology
トピック
B1: Drugs influencing blood coagulation I: Antiplatelet agents. Fibrinolytic drugs. Drugs inhibiting bleeding
副作用
痙攣視力低下
対象疾患
異常子宮出血(機能性子宮出血)遺伝性血管性浮腫遺伝性出血性毛細血管拡張症血友病A・B後天性C1インヒビター欠乏症子宮筋腫子宮内膜症・子宮腺筋症播種性血管内凝固分娩後出血

🧠 全体像の代表格で、をブロックし、フィブリンへ結合できなくすることで間接的に生成を抑える。「線溶を止める」という一つの機序が、外傷の大量出血に効く理由と、高用量で痙攣を起こす理由まで一貫して説明できる——線溶を止めるということは、望ましくない場所にできた血栓も溶けにくくなるということであり、血栓症のリスクと常に表裏一体である。への位置づけは特に注意が必要で、「禁忌だから使わない」のではなく「有効性が確立していないため使わない」という理由の違いを取り違えないこと。

薬効群の中での位置づけ

薬剤 標的 ・半減期 主な適応
をブロック が強く半減期も長め。の第一選択 外傷・手術・など適応が広い
活性化そのものを阻害 はやや弱く、頻回投与を要する による出血の

両剤とも最終的に生成を減らす点は同じだが、が違う。 がフィブリンに「くっつく場所」を塞ぎ、が「に変化する反応」自体を妨げる。臨床的な・使用頻度の差はこのの違いに由来し、が事実上の第一選択になっている。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tranexaminic acid'>トラネキサミン酸</span>を投与"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasminogen'>プラスミノーゲン</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lysine-binding site'>リジン結合部位</span>を可逆的にブロック"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasminogen'>プラスミノーゲン</span>がフィブリン表面に結合できなくなる"]
    C --> D["フィブリン表面での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasmin'>プラスミン</span>生成が起こらない"]
    D --> E["形成された血栓・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrin mesh'>フィブリン網</span>が分解されにくくなる"]
    E --> F["出血が抑制される"]
    A -.->|"血液脳関門を通過し高用量で蓄積"| G["中枢の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycine receptor'>グリシン受容体</span>を阻害"]
    G --> H["皮質の興奮性が高まり痙攣を誘発しうる"]

💡 高用量・腎機能低下での蓄積時に痙攣が起こる機序は、抗線溶作用そのものとは別の経路である。 は血液脳関門を通過し、中枢の抑制性を阻害することで皮質の興奮性を高める。心臓手術での高用量投与や腎機能低下例、誤ってに投与された事例(致死的な医療過誤として知られる)で痙攣リスクが特に高まる。

薬物動態

項目 値・特徴
経路 PO/IV
排泄 が主体。重度腎障害では(減量)が必須
分布 血液脳関門を通過する

適応

領域 使いどころ
外傷・救急 の重大出血またはそのリスクがあれば、受傷3時間以内にできるだけ早期に1 gを10分で静注し、続けて1 gを8時間で投与する(CRASH-2/3試験に基づく)。3時間を超えたルーチン投与は行わない
産科 で、診断後できるだけ早く分娩から3時間以内に1 gを10分かけて静注する(WOMAN試験)。30分後も出血が続く、または24時間以内に再出血した場合は1 gを再投与できる
婦人科 に伴うの非ホルモン治療。血栓症リスクを個別に評価したうえで用いる
血液 血友病などでの口腔・出血の上部尿路出血ではによる尿路閉塞のリスクがあるため避ける
その他 手術時出血、

用法・用量

適応により大きく異なる。外傷・PPHでは1 gを10分で静注し、必要に応じ追加投与または8時間かけてのを行う。などな適応ではPOでする。重度腎障害では減量が必要。 実際の用量・投与法は適応・腎機能で変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌(英国SmPC 4.3):過敏症、急性の静脈・に続く状態(ただしの活性化が主体で重篤な出血を伴う場合を除く)、痙攣の既往(高用量静注での痙攣報告による)、や脳内への直接適用(脳浮腫・痙攣・死亡のリスク)1
  • ⚠️ への位置づけは国・資料で分かれるため取り違えに注意する。 米国添付文書はそのものを禁忌に挙げる(症例報告に基づく脳浮腫・への懸念)が、英国のSmPC・日本の電子添文(2023年1月改訂)はを禁忌の項に含めていない12このノートの「禁忌疾患」欄がを挙げていないのはこのためである上の区分はEUのSmPCを第一順位に採る方針で、EU・日本のいずれも禁忌としていない)。2023年AHA/ASAガイドラインも、超早期・短期投与を検証したULTRA試験で再出血率・機能予後のいずれも改善しなかったことを根拠に、aSAHへののルーチン使用を推奨しないとしているが、これは安全性上のではなく「有効性が確立していない」ことによる「Class 3: No benefit」の判断である3。過去に投与された症例で脳浮腫・が報告されている以上、実地では投与を避けるのが無難だが、機序として断定できるほどの安全性データが確立しているわけではない
  • 上部尿路からの血尿では、線溶を止めることでが尿路を閉塞するリスクがあるため避ける
  • 腎機能に応じたが必要(重度腎障害で減量、蓄積による痙攣リスク上昇)
  • 「線溶を止める」薬であるため、血栓症の既往・傾向がある患者では個別にリスクを評価する
  • 上記の「活動性血栓塞栓症」は脳血栓・心筋梗塞・など肉眼的な血栓症を指し、のようなはこれとは別に扱われる。ここは日本とEUで区分が異なる。 日本の添付文書上、DICを含むは禁忌ではなく慎重投与に位置づけられ、を安定化させ病態を悪化させるおそれがあるため、投与する場合はヘパリン等の抗凝固薬と併用する2。一方、英国SmPCは「に続く状態」を禁忌(4.3)に置き、の活性化が主体で重篤な出血を伴う場合だけを例外としている1に対し)投与中は、の使用は推奨されない4

副作用

頻度 内容
高頻度 消化器症状(悪心など)
注意 血栓塞栓症、などの
重篤・まれ 痙攣(高用量・腎機能低下・誤った

まとめ

  • の代表格。をブロックし、フィブリン表面での生成を間接的に阻害する。
  • 外傷(CRASH-2/3、受傷3時間以内)、(WOMAN試験、分娩3時間以内)ともに「早期投与」が効果の鍵で、を過ぎたルーチン投与は行わない。
  • (AUB・)の非ホルモン治療としても頻用される。
  • 活動性血栓塞栓症・痙攣の既往・等への直接投与は禁忌。への使用は資料により位置づけが分かれ(米国は禁忌、英国・日本の添付文書は禁忌に含めない)、現行ガイドラインは有効性が確立していないことを理由にルーチン使用を推奨しない。上部尿路出血ではによる閉塞リスクのため避ける。
  • 高用量・腎機能低下での蓄積は中枢阻害を介した痙攣リスクを高める。
  • とは同じでも(結合部位の遮断 vs 活性化阻害)が異なる。

出典

  1. 1.トランサミン錠250mg/トランサミン錠500mg/トランサミンカプセル250mg/トランサミン散50% 添付文書(2023年1月改訂)(第一三共株式会社 / 医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2023)日本の添付文書上、禁忌はトロンビン投与中の患者と本剤への過敏症のみで、消費性凝固障害(DICを含む)は禁忌ではなく「特定の背景を有する患者に関する注意」としてヘパリン等との併用を求める慎重投与に位置づけられていることを確認した閲覧 2026-08-02
  2. 2.Clinical practice guidelines for management of disseminated intravascular coagulation in Japan 2024. Part 2: hematologic malignancy(日本血栓止血学会(JSTH)・2025)急性前骨髄球性白血病(APL)に対しATRA投与中のトラネキサム酸が推奨されないことを確認した閲覧 2026-08-02
  3. 3.Cyklokapron 100 mg/mL solution for injection/infusion — Summary of Product Characteristics(Pfizer(英国, electronic Medicines Compendium))禁忌(section 4.3)は過敏症、活動性の静脈・動脈血栓症、消費性凝固障害に伴う線溶亢進(高度活動性出血を伴う一次線溶亢進を除く)、痙攣の既往、髄腔内・硬膜外・脳室内投与および脳内適用であり、くも膜下出血そのものは禁忌の項に明記されていないことを確認した。痙攣の既往が禁忌とされる理由は高用量静注時の痙攣報告(section 4.4)であることも確認した閲覧 2026-08-04
  4. 4.2023 Guideline for the Management of Patients With Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage: A Guideline From the American Heart Association/American Stroke Association(American Heart Association / American Stroke Association (Stroke誌)・2023)最大規模の超早期・短期抗線溶薬RCTであるULTRA試験(トラネキサム酸をaSAH発症後中央値185分で開始し動脈瘤閉鎖まで最長24時間継続)で再出血率の有意な低下も機能予後の改善も示されず、この結果を根拠に現行ガイドラインはaSAHへの抗線溶薬のルーチン使用を推奨していない(Class 3: No benefit、有効性が確立していないことが理由であり、安全性上の禁忌としてではない)ことを確認した閲覧 2026-08-04