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Beers基準

Beers Criteria

臓器系
全身
科目
Pharmacology
トピック
薬理学 Core33:特殊集団・薬物相互作用:加齢
構成:症状
転倒
構成:検査値
クレアチニン

🧠 全体像(AGS Beers Criteria)は、点数を合計して重症度を出す「スコア」ではなく、高齢者で避けるべき、または慎重に使うべき薬剤・を列挙した明示的リストである。が管理し、1991年にMark Beersが施設入所高齢者向けに作った原法から出発し、2023年版で通算7回目・AGSステュワード下では4回目の改訂を数える1。リストは「診断に関係なくほぼ全ての高齢者で避けるべき薬剤」「特定の疾患・症候群がある高齢者で避けるべき薬剤」「慎重に使うべき薬剤」「避けるべき薬物間相互作用」「腎機能に応じて回避・減量すべき薬剤」という5つの切り口に整理されている。この記事で個別ノートを持つも、それぞれ別の切り口からこのリストに載っている。

目的と適用場面

内容
目的 高齢者における潜在的に不適切な薬剤(PIM)を明示し、処方選択の改善・有害事象の削減・医療の質の評価を支援する
対象 外来・急性期・施設入所を問わない65歳以上の高齢者全般
使う場面 新規処方時のスクリーニング、の見直し、退院時の減薬の検討、処方の質を評価する指標としての利用
適用外 ホスピス・終末期ケアの患者1
評価しないもの 個々の患者の予後・・薬剤費、疾患そのものの重症度、代替薬の有無を機械的に判定すること

は「65歳以上なら一律に避ける」という単純なルールではない。同じ65歳以上でも、・腎機能低下を伴う後期高齢者と、それらが少ない高齢者とでは薬剤有害事象のリスクが大きく異なり、パネル自身も特定の年齢閾値を設けず臨床的な良識に委ねるべきだとしている1

構成要素と配点

このノートでは主要な5つの切り口と、それらを横断するの参考リストを代表的な薬剤例とともに示す。「配点」ではなく「該当すれば回避・慎重使用・注意すべき」というカテゴリ分類であり、個々の薬剤の全項目を網羅するものではない。

① ほぼ全ての高齢者で避けるべき薬剤(診断非依存)

薬効群 代表薬 主な理由
ブロムフェニラミン・など 強いによるせん妄・口渇・便秘、若年者よりが低い
(全て) など 転倒・骨折・せん妄・、乱用・時の死亡リスク上昇
ベンゾジアゼピンと同等の有害事象(せん妄・転倒・骨折・自動車事故)を来しうる一方、睡眠・睡眠時間の改善は乏しい
シクロベンザプリン・メトカルバモール等 抗コリン性の、高齢者での有効性・データに乏しい
NSAIDs(経口、慢性・定期使用) など 消化性潰瘍・出血・穿孔、と腎機能悪化
(全て) など 遷延性低血糖、心の上昇
- 8週間を超える継続使用でClostridioides difficile感染・肺炎・骨折リスク上昇

② 特定の疾患・症候群がある高齢者で避けるべき薬剤

疾患・症候群 避けるべき薬剤の例 理由
せん妄(既往・高リスク) 、抗精神病薬(行動症状への第一選択としては使わない)、ベンゾジアゼピン、、オピオイド せん妄の誘発・増悪
認知症 、ベンゾジアゼピン、、非薬物的介入が無効な場合を除く抗精神病薬 の悪化。抗精神病薬は脳卒中・死亡率の上昇と関連
転倒・骨折歴 ベンゾジアゼピン、、抗精神病薬(選択的)、抗うつ薬、、オピオイド 鎮静・による転倒の再発
心不全(特に低下例) NSAIDs、(症候性・低下例)、、チアゾリジン系、重症/のドロネダロン による増悪
パーキンソン病 ドパミン受容体拮抗性)、・ピマバンセリン以外の抗精神病薬 )の悪化

③ 慎重に使うべき薬剤(Use with caution)

薬剤 理由
など他のDOACと比べ出血リスクが高い
と比べ大出血リスクが高い(特に75歳以上)
SIADH・を起こしうる抗うつ薬(SSRI・SNRI・など) 開始・増量時のナトリウム値モニタリングが必要
SGLT2阻害薬 尿路・性器感染、のリスク

④ 併用に注意すべき薬物間相互作用

組み合わせ 主なリスク
中枢神経作用薬(ベンゾジアゼピン・オピオイド・抗精神病薬・抗うつ薬・など)を3剤以上併用 転倒・骨折リスクの上昇
オピオイド+ベンゾジアゼピン 、呼吸抑制による死亡リスク上昇
を持つ薬剤同士の併用 の蓄積によるせん妄・
RAS阻害薬2剤以上、またはRAS阻害薬+

⑤ 腎機能に応じて回避・減量すべき薬剤

腎機能(・eGFR、クレアチニンから算出)に応じて回避または減量が必要な薬剤群。

薬剤 基準となる腎機能 対応
NSAIDs CrCl 30 mL/min未満 回避
CrCl 30 mL/min未満 回避
CrCl 30 mL/min未満 回避
eGFR 60 mL/min/1.73m²未満 回避(避けられない場合は最少で開始し中枢神経系毒性を監視)

の強い薬剤は横断的な参考リスト(Table 7)として別枠でまとめられている。 など)、、抗精神病薬の一部、弛緩薬、抗パーキンソン病薬などが含まれ、①〜④の複数のカテゴリと重なって登場する。個々の薬剤が単独では強いを持たなくても、複数のを併用するとが蓄積するという視点がこの参考リストの狙いである1

解釈とカットオフ

に「点数」はないが、推奨の強さエビデンスの質という2軸で各項目が評価されている。推奨は“Avoid”(回避)と“Use with caution”(慎重に使用)の2種類のみで、“Use with caution”は懸念はあるが“Avoid”というほど強くない場合(エビデンスが限られる・他の治療との比較で害が大きくない・臨床的に例外が多いなど)に用いられる1

💡 “Avoid”はではない。 AGS自身が「“Avoid”とは、通常でない状況を除いて避けるべきという意味であり、添付文書上の禁忌として定義されているわけではない」と明記している。安全な代替薬が同等の治療効果を得られない場合など、のもとでPIMがあえて選ばれる状況もありうる1

リストに載っている薬剤は「潜在的に不適切」であって「確実に不適切」ではない。 AGSはこの原則を明示的な鍵原則として挙げており、を機械的な処方禁止リストとして使うことを戒めている1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elderly patients'>高齢患者</span>の処方薬を確認"] --> B{"①〜⑤のいずれかの<br>カテゴリに該当する薬剤があるか"}
    B -->|"該当なし"| C["特に介入不要"]
    B -->|"該当あり"| D{"推奨は「Avoid」か<br>「Use with caution」か"}
    D -->|"Avoid"| E["原則は回避を検討<br>ただし<span class='jp-term jp-term-diagram' title='absolute contraindication'>絶対禁忌</span>ではない"]
    D -->|"Use with caution"| F["継続の可否を個別に判断し<br>モニタリング項目を決める"]
    E --> G{"同等の効果を持つ<br>より安全な代替薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Non-pharmacological'>非薬物療法</span>があるか"}
    G -->|"あり"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shared decision-making'>共同意思決定</span>のもとで<br>代替薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Non-pharmacological'>非薬物療法</span>へ変更"]
    G -->|"なし"| I["患者の価値観・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Goals'>治療目標</span>に<br>沿って継続もありうる"]
    F --> I
    H --> J["ホスピス・終末期ケアの患者には<br>この判定枠組み自体を適用しない"]
    I --> J

限界と使ってはいけない場面

⚠️ ホスピス・終末期ケアの患者には適用しない。 余命が限られる状況では、長期的な有害事象の回避よりも症状緩和が優先されるため、の想定する評価軸自体が当てはまらない1

⚠️ 品質評価指標として機械的に適用しない。 は「粗い」であり、専門的な使用例外を全て切り分けられるわけではない。パネル自身が、処方の適否をこのリストだけで判定するのではなく、を支える出発点として使うよう繰り返し注意喚起している1

⚠️ 米国の薬剤流通・処方実態に基づくリストである。 使用頻度の低い薬剤や米国未発売の薬剤は主要な表から除外されており、国によって薬剤の入手可能性・処方パターンが異なるため、国際的に使う場合は各国の実情に応じた調整が必要とされている1。日本では日本老年医学会が独自に「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」(2015年初版、2025年に約10年ぶりの改訂)を発行し、国内の処方実態に即した「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を定めており、日本での実務にはこちらとの併用が現実的である2

⚠️ 「悪い薬を別の薬に置き換えること」が目的ではない。 パネルは、PIMを単純に他の薬剤へ置き換えることではなく、(あるいは無治療)がより望ましい場合が多いことを強調している。薬剤費の差やDOACへの切り替えに伴う自己負担増など、代替薬への変更自体が新たな障壁を生むこともある1

⚠️ エビデンスの多くは観察研究・メタアナリシスに基づき、高齢者を対象とした質の高いは限られる。研究の多様性も乏しく、特定の人種・民族集団や虚弱高齢者に固有のリスクを十分に反映できていない可能性がある1

まとめ

  • は点数化スコアではなく、高齢者で避けるべき・慎重に使うべき薬剤を列挙した明示的リストで、AGSが管理し定期的に改訂している。
  • 5つの切り口(診断非依存の回避薬、疾患・症候群別の回避薬、慎重投与薬、薬物間相互作用、腎機能に応じた回避・減量)に整理され、の強い薬剤の横断参考リストも付属する。
  • などのは、ベンゾジアゼピン(など)と同等の“Avoid”・高いエビデンスの質で評価されている。
  • 推奨は“Avoid”(ではない)と“Use with caution”の2種類で、リストの薬剤は「潜在的に不適切」であって「確実に不適切」ではない。
  • ホスピス・終末期ケアには適用せず、品質評価指標として機械的に運用しない。米国の薬剤流通実態に基づくため、日本では日本老年医学会独自のガイドラインとの併用が実務的である。
  • 目的は処方の一律禁止ではなく、を支える出発点として、より安全な代替薬・の検討を促すことにある。

出典

  1. 1.American Geriatrics Society 2023 updated AGS Beers Criteria® for potentially inappropriate medication use in older adults(American Geriatrics Society(J Am Geriatr Soc 2023;71(7):2052-2081)・2023)AGS Beers基準の目的・対象(65歳以上、ホスピス/終末期ケアを除く)、5つのカテゴリ構成(診断非依存の回避薬・疾患/症候群別の回避薬・慎重投与薬・薬物間相互作用・腎機能に応じた回避/減量)と抗コリン作用の強い薬剤の参考表、"Avoid"の定義(絶対禁忌ではなく例外的状況を除いて避けるという意味)、PIMは「潜在的に不適切」であり「確実に不適切」ではないという解釈原則、および1991年のBeers原法から2023年版(AGSステュワード下で4回目・通算7回目の改訂)までの改訂経緯を確認した。閲覧 2026-08-10
  2. 2.高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025(日本老年医学会(メジカルビュー社刊)・2025)日本老年医学会が2015年版「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」の改訂として2025年に本ガイドラインを刊行し、独自の「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を定めていることを確認した。AGS Beers基準は米国の薬剤流通・処方実態に基づくため、日本での適用にはこの国内版との併用が実務的であるという文脈で参照した。閲覧 2026-08-10