Surgery

Surgery · B/05

食道裂孔ヘルニアと胃食道逆流症(GERD)

Hiatal hernia – GERD

前提:病態
食道の病理
前提:正常
消化管における調節:腸管神経系と消化管ホルモン
疾患
胃食道逆流症
症状
吃逆
スコア
Los Angeles分類

🧠 は「裂孔が緩んで胃が胸腔にする」解剖学的異常、GERDは逆流バリア破綻を中核に一過性LES弛緩、障害、知覚過敏などが関与する多因子病態。 両者は別物だが、はGERDを合併しやすい。1 Type II-IVの無症候例では手術を検討しうるが、一律ではなく患者背景から個別に判断する。2

0. 食道の解剖と生理

この節は原資料で「B/05〜B/09(食道)共通の導入」として置かれていた解剖・生理の。以降の食道疾患トピック(B/06B/07B/08)でも共通して参照する前提知識としてここにまとめる。

  • 食道は咽頭〜胃をつなぐ長さ約25cmの管腔臓器、椎体レベルではC6〜T11/T12に相当。
  • 蠕動により食物を咽頭から胃へし、粘液分泌で内腔を潤滑する。

解剖学的狭窄部位

  1. ——による
  2. の前方交叉部
  3. 横隔膜

括約筋

括約筋 位置
UES(上部食道括約筋、upper esophageal sphincter) 収縮筋のレベル
LES(、lower esophageal sphincter) 横隔膜のレベル

層構造

内容
粘膜
血管・神経・腺
筋層 横紋筋+平滑筋(上部は横紋筋優位、下部は平滑筋優位)
外膜 疎性線維性結合組織

血流

部位 静脈還流
上1/3 下甲状腺静脈 →
中1/3 → SVC
下1/3 胃静脈 → 門脈 → 下大静脈

⚠️ 食道下1/3はと大循環系の ではこの吻合を介してが形成される——肝硬変患者の消化管出血の主要な原因。

神経支配

  • 迷走神経: 、腺分泌、神経叢(Auerbach・Meissner)を支配
  • 性の交感神経支配、痛覚

リンパドレナージ

・筋層の、上部/下部周囲リンパ節。

1. 臨床症状の切り口 — 嚥下障害の診かた

  • 嚥下ができない、または通過が障害される状態
  • 嚥下時の疼痛

🧠 「固形物のみか液体も含むか」「進行性か間欠性か」「痛みを伴うか」の3つの軸で鑑別を絞り込む。 この症状ベースの分類は食道疾患全体(B/05〜B/09)の共通の地図になる。

症状パターン 代表的原因
①固形物のみ・進行性 =GERDによるもの17〜28%、その他まれな原因:食道炎・慢性虚血など)、(3〜8%)
②固形物のみ・間欠性 (15%)、の異常による
③液体・固形物とも 、その他の運動障害(の過緊張性/痙攣性運動障害、)、強皮症
HSVCandidaMycobacterium)、による、pill esophagitis)、その他(Crohn病

💡 パターン①(進行性・固形物のみ)は「狭窄性」、パターン③(液体も含む)は「運動障害性」を強く示唆する。 液体までになるのはではなく機能的(神経筋性)な通過障害だからで、や強皮症のような蠕動・LES機能そのものの異常を疑う手がかりになる。

3. 食道裂孔ヘルニア

定義: 胃の近位部(、cardia)が横隔膜のを通ってへ脱出した状態。

3.1 病因

flowchart TD
  A["素因<br>加齢・喫煙・肥満・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝的素因</span>(稀)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esophageal hiatus'>食道裂孔</span>の弛緩"]
  P["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intra-abdominal pressure'>腹腔内圧</span>の持続的上昇<br>妊娠・腹水・慢性咳嗽・慢性便秘"] --> B
  B --> C["相対的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic'>胸腔内</span>陰圧 + 緩んだ裂孔"]
  C --> D["腹腔内容物の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic'>胸腔内</span>への脱出"]
  D --> E["逆流バリアの喪失 + 遠位食道の排出障害"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='GERD'>胃食道逆流症</span>"]
  • 加齢 →
  • 喫煙 → 線維が失われる
  • 肥満 → 脚周囲への脂肪沈着 → 裂孔が開大

3.2 分類

Type 別名 頻度 機序
Type I(型、sliding) 95% へ滑り込む。部は横隔膜下に残る(“hourglass stomach”)
Type II(、paraesophageal / rolling) non-sliding 少数 GEJは正常位置のまま、部のみが横隔膜を越えて脱出
Type III(混合型、mixed) 少数 Type I + IIの混合(GEJも部も脱出)
Type IV 胃のほぼ全体(時に大腸や脾臓も)がに脱出
  • Type I の症状: (heartburn)、仰臥位で増悪、酸性の逆流。GERDに直結しやすい
  • Type II-IV の症状: 、胸部圧迫感、、呼吸困難

⚠️ Type II-IVは嵌頓して閉塞やを起こしうる。無症状でもを検討しうるが、年齢、脆弱性、症状、ヘルニアの大きさを踏まえて個別に判断する。2

3.3 臨床像

  • 多くは無症状
  • 慢性逆流 → 慢性炎症 → 粘膜変性 → 線維化・ → 狭窄・嚥下障害。これは B/07で詳述)→腺癌 へのとなりうる

3.4 診断

検査 内容
造影剤を嚥下しながら胸部X線を撮影。狭窄・・拡張などの解剖学的異常を同定
内視鏡 食道扁平上皮と胃円柱上皮の移行部=Z-line()を確認する。Z-lineの偏位は参考所見だが、型分類は造影検査なども含めて総合的に判断する3
横隔膜裂孔のレベルを正確に同定し、のサイズを評価
CT 複雑なType II-IVヘルニアの緊急術前評価に推奨
胸部X線

⭐ Z-lineの位置はの評価に有用だが、型分類を単独で確定する所見ではなく、造影検査などと組み合わせて判断する。3

3.5 治療

病型・症状 方針
無症状の 経過観察のみ
症状のある GERDに準じた内科的治療
無症状のType II-IV 経過観察、予防的手術を検討
症状のあるType II-IV または緊急手術(、制御不能出血、閉塞、絞扼、穿孔、がある場合)

保存的治療:

  • の是正(減量、食事内容の変更、禁煙)
  • 薬物療法(〔proton pump inhibitor, PPI〕、亢進薬)

手術:

  • (開腹/腹腔鏡)
    • (Nissen、Toupet、Dor、Hill): 部を下部食道に巻き付け、GEJの挙上を防ぐ。Nissen法=食道を360度に巻く
    • : 胃を正常位置に戻し腹壁前面に縫合固定
    • 裂孔・の剥離、食道の、裂孔欠損の閉鎖
  • : 肥満患者、食道短縮が疑われる/確定している場合、非常に大きい・複雑なヘルニア(Type IVなど)、の既往が失敗した場合に選択

合併症: /大量)→、穿孔、、完全胃閉塞

4. GERD

  • : 胃内容物の食道への逆流
  • GERD: 逆流が症状(、逆流感、嚥下障害)および/または食道傷害・合併症を引き起こす状態

4.1 病因

因子 内容
機能異常 LES低緊張に加え、一過性LES弛緩が主要機序となる
胃内圧上昇 肥満、咳嗽、妊娠、、歌手・アスリート
逆流内容とクリアランス 酸などの逆流内容の性状、低下、が関与する
または部が横隔膜を越えて挙上(上記1章参照)

💡 GERDではH. pylori感染を第一に疑うのではなく、抗逆流バリア障害、一過性LES弛緩、障害、の有無を重視する。1

4.2 臨床像

  • (dyspepsia=): 背部・頸部左側に放散しうる
  • 夜間、大食後、仰臥位で増悪
  • 潰瘍や狭窄を合併すると嚥下障害が出現

4.3 診断

  • 内視鏡(発赤、びらん、潰瘍、
  • 24時間(食道への異常逆流を同定)
  • 食道

4.4 治療

内科的治療:

  • 逆流減少 → 禁煙、減量、
  • 抑制 → PPI(omeprazole)、
  • 胃・食道の排出促進

:

  • : 部を腹腔内食道に巻き付けて縫合しカフを形成 → 遠位食道とGEJを狭小化し逆流を防止

GERDの手術は、な逆流所見があり、内科治療で症状が十分に制御できない場合や、大きな、高度などで検討する。そのものを進展予防目的の手術適応とはせず、PPI治療とを行う。14

4.5 合併症

)、

⚠️ は腺癌の。詳細な病理と(B/08)への進展は別項で扱う。

まとめ

  • は「裂孔の弛緩+腹圧上昇」で生じる解剖学的異常。Type IはGERDを合併しやすく、Type II-IVは嵌頓・のリスクを踏まえて手術適応を個別に判断する。2
  • Z-lineの偏位は内視鏡評価の参考所見であり、型分類は造影検査などと総合して判断する。3
  • GERDは抗逆流バリア障害、一過性LES弛緩、障害、胃内圧上昇などが関与する複合病態。1
  • 診断はどちらも・内視鏡・が共通の3本柱、GERDには24時間が加わる。
  • 治療の柱はPPI(omeprazole)などの内科的治療、無効例や合併症例には(Nissen=360度)。
  • 慢性GERDの終着点は→腺癌の経路であり、長期フォローが重要。

出典

  1. 1.ACG Clinical Guideline for the Diagnosis and Management of Gastroesophageal Reflux Disease(American College of Gastroenterology・2022)GERDは多因子病態であり、抗逆流手術は客観的逆流所見を持つ適切な患者で検討することを確認した。閲覧 2026-08-09
  2. 2.EAES Multidisciplinary Rapid Guideline: systematic review, meta-analysis, GRADE assessment and evidence-informed recommendations on the surgical management of paraesophageal hernias(European Association for Endoscopic Surgery・2023)無症候または軽症の傍食道ヘルニアの待機手術は一律ではなく、年齢、脆弱性、症状、病変の大きさを踏まえて個別化することを確認した。閲覧 2026-08-09
  3. 3.Diagnosis and Management of Barrett's Esophagus: An Updated ACG Guideline(American College of Gastroenterology・2022)バレット食道ではPPI治療と病理所見に応じた内視鏡サーベイランスを行い、進展予防だけを目的に抗逆流手術を選ばないことを確認した。閲覧 2026-08-09
  4. 4.Systematic review of the perioperative classification, diagnosis, description and repair of hiatus hernias in randomized controlled trials(Diseases of the Esophagus・2024)食道裂孔ヘルニアの診断・分類法には研究間のばらつきがあり、単一の内視鏡所見だけでなく複数の検査を総合して評価することを確認した。閲覧 2026-08-09