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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

陰嚢癌

Scrotal cancer

臓器系
腫瘍生殖・産婦人科皮膚
科目
Pathology
トピック
病理学 B/15:化学・放射線による発癌病理学 C/79:陰茎・陰嚢・精巣上体の疾患
鑑別疾患
疣贅癌
関連疾患
陰茎癌乳房外Paget病皮膚有棘細胞癌
治療薬
5-フルオロウラシルイミキモドメトトレキサートブレオマイシンシスプラチン
症状
皮膚結節びらん・潰瘍掻痒リンパ節腫脹
原因となる疾患
HPV感染症(疣贅・尖圭コンジローマ・子宮頸部異形成)

🧠 全体像:は、現在のだけを見ればごくまれな腫瘍だが、医学史では別格の位置を占める——1775年にPercivall Pottがのを煤と結びつけたのが、環境中の物質と特定の癌を結びつけた最初の記載であり、という考え方そのものの出発点になった。は後に煤に含まれる()と分かり、現在では喫煙による肺癌まで同じ枠組みで説明される。臨床の側では、今日のはの煤よりも慢性刺激・免疫抑制・・療法を背景とし、組織型も扁平上皮癌が3割ほどで・・肉腫が並ぶ、部位で括られた雑多な腫瘍群である。

医学史——最初の職業癌

1775年、Percivall Pottはの少年たちに生じる陰嚢の癌を記載し、陰嚢のに煤がに留まることをその原因として指摘した1。病変は「」と呼ばれ、煙突を登る年月のあいだに皮膚の皺へ煤が溜まることが先行すると観察された。Pottは原因を煤に帰し、早期の外科的切除を勧めた2。

⭐ これが「特定のが特定の癌を起こす」と述べた最初の記載である。 疫学的な観察が予防へ直結した例でもあり、1788年の煙突掃除人法につながり、1840年・1875年の法でさらに保護が強化された。煤のが実験的に確認されたのは、それから140年後の1915年、山極・市川による塗布実験である2。

活性を持つは後にと同定された。その後、(ミュール紡績機の潤滑油)、工、タール工、工にも同様のが報告され、近年でも自動車整備士・製鋼業・アルミニウム業での症例がある。共通する発癌因子はである1。

💡 Pottの観察は、の「()」の原型でもある。はそれ自体では不活性で、によるを受けて初めてへ結合する。

現在の疫学

の改善により、は今日ではまれである。

項目 内容
(扁平上皮癌・オランダ) 1986〜2006年ので男性100万人年あたり0.34〜0.441
診断時年齢 中央値52〜57歳1
組織型(SEER 471例) 扁平上皮癌32%、21%、18%、肉腫18%3
の推移(全組織型・米国SEER) 1,000万人あたり5例(1973年)→10例(2002年)、年変化率3.18%(P<0.05)3。総説は同じ推移を100万人あたり0.49例→0.95例と記載する1

⚠️ 「=扁平上皮癌」ではない。 歴史的な報告では陰嚢悪性腫瘍の80〜100%が扁平上皮癌だったが、近年の報告では約1/3にとどまる1。SEERの471例でも扁平上皮癌は32%で、・・肉腫がそれぞれ約2割を占める3。の煤が減った一方で、他の背景による腫瘍が相対的に増えたことを反映している。

⚠️ 上の2つのを1本のレンジに繋がない。 0.34〜0.44はオランダの扁平上皮癌の値、0.95は米国SEERの全組織型の値で、母集団も対象も違う。SEERの解析は組織型別のに変化がなかったと述べるにとどまり、に特異的なは示していない1。

⚠️ そのうえで、SEERの全組織型のは過去30年で倍増しており、は「消えた歴史的な病気」ではない3。

危険因子

危険因子 補足
への 煤・・タール・・1
療法 総説が引用する研究では、高用量を受けた患者の性器ののリスクは一般人口の286倍1
感染 近年のシリーズで陽性率24.1〜42.9%(14例中6例=42.9%、29例中7例=24.1%)。スクリーニングにが推奨される1
免疫抑制 臓器移植後など1
慢性の機械的刺激・ 陰嚢のに刺激物が留まりやすい解剖学的条件1
喫煙 1

臨床像と診断

  • 典型的な初発像は紅斑性の陰嚢結節または局面で、潰瘍と掻痒を伴う。左側の陰嚢、下方かつ前方に多い1。
  • 良性の湿疹や真菌症として長く治療され、診断が遅れやすい。外用治療に反応しない陰嚢の結節・潰瘍は生検の対象である。
  • 主な鑑別はとで、いずれもで区別する1。は高分化で押しのけるように増殖し転移がまれな一方、通常型の扁平上皮癌は浸潤性で所属リンパ節へ転移しうる。
  • 進行例ではのリンパ節腫脹を触れる。
flowchart TD
    A["陰嚢の結節・局面・潰瘍が持続する"] --> B["生検で組織型を確定(p16染色を含む)"]
    B --> C{"組織型"}
    C -->|"扁平上皮癌"| D["局所進展とリンパ節を評価"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extramammary Paget disease'>乳房外Paget病</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal cell carcinoma, BCC'>基底細胞癌</span>・肉腫"| E["それぞれの標準治療へ"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='negative margin'>陰性断端</span>を得る広範切除"]
    F --> G{"リンパ節転移のリスク"}
    G -->|"高い・センチネル陽性"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inguinal lymphadenectomy'>鼠径リンパ節郭清</span>"]
    G -->|"低い"| I["経過観察"]
    D --> J{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unresectable'>切除不能</span>・遠隔転移"}
    J -->|"該当"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic chemotherapy'>全身化学療法</span>"]

病期分類

⚠️ には独自の分類との分類の両方が使われる。どちらの体系で述べているかを明示する。

Lowe分類(1983)1。

病期 範囲
A1 陰嚢に限局
A2 隣接構造に及ぶ局所進行
B な表在(鼠径)リンパ節転移
C 、またはな転移
D 遠隔転移

治療

原発巣

リンパ節

⭐ リスクに応じて層別化し、で確立したを応用する。これにより不必要なの合併症(下肢・)を避けられる。が陽性ならへ進む1。

進行・転移例

  • 総説が引用する報告では、メトトレキサート・・シスプラチンので72%が得られたが、は14%にとどまる1。
  • ・阻害薬などのは有望視されているが、を対象としたのデータはない1。

予後

  • は1年93%・3年80%・5年77%と報告される1。
  • 生存はリンパ節転移の有無と強く相関する。
  • SEERのでは、非扁平上皮型は扁平上皮癌より死亡リスクが低く(0.43〜0.63)、黒人であることが死亡リスクの上昇と関連した(2.02、95%CI 1.20-3.40)3。扁平上皮癌は白人より黒人で多かった(69%対31%、P<0.001)3。

まとめ

  • 1775年のPercivall Pottによるのの記載は、特定のと特定の癌を結びつけた最初の報告であり、の概念と法制(1788年の煙突掃除人法)の出発点になった。
  • は煤に含まれる()で、によるを要するの代表である。
  • 現在のはまれで、扁平上皮癌のはオランダで100万人年あたり0.34〜0.44。米国SEERの全組織型のは30年で倍増しているが、扁平上皮癌に特異的なは示されていない。
  • 組織型は扁平上皮癌32%、21%、18%、肉腫18%と多様で、「=扁平上皮癌」ではない。
  • 今日の危険因子はの煤よりも、慢性刺激・免疫抑制・・療法である。
  • 治療はを得る広範切除で、リンパ節はに倣ったセンチネル生検で層別化する。進行例の化学療法は72%だがは14%と限られる。

出典

  1. 1.Squamous cell carcinoma of the scrotum: A look beyond the chimneystacks(World Journal of Clinical Cases・2014)陰嚢扁平上皮癌を「最初に記載された職業病」と位置づけ、Percivall Pottが1775年に煙突掃除夫の陰嚢皺襞に煤が慢性的に留まることと陰嚢扁平上皮癌の発生を結びつけたこと、活性発癌物質が後にベンゾピレンと同定されたこと、綿紡績工・パラフィン工・タール工・クレオソート工、近年では自動車整備士・製鋼業・アルミニウム業でも報告があり多環芳香族炭化水素が主な発癌因子とされること。扁平上皮癌の年齢標準化発生率はオランダの1986〜2006年で男性100万人年あたり0.34〜0.44であり、米国SEERの全組織型の年齢調整発生率は1973年の100万人あたり0.49例から2002年の0.95例へ増加したものの陰嚢扁平上皮癌に特異的な発生率は示されておらず組織型別の発生率に変化はなかったと報告されていること。診断時年齢の中央値は52〜57歳で、歴史的には陰嚢悪性腫瘍の80〜100%を占めた扁平上皮癌が近年の報告では約1/3にとどまること。危険因子として高用量PUVA療法(総説が引用する研究では性器の浸潤性扁平上皮癌のリスクが一般人口の286倍)、免疫抑制、HPV陽性(Andrewsらの14例中6例=42.9%、Matosoらの29例中7例で高リスクHPV=24.1%、近年のシリーズの陽性率は24.1〜42.9%。スクリーニングにp16染色が推奨される)、慢性の機械的刺激、衛生不良、喫煙が挙がること。典型的な初発像は紅斑性の陰嚢結節または局面で潰瘍と掻痒を伴い、左側・下方前面に多いこと。Lowe分類(1983)はA1=陰嚢に限局、A2=隣接構造に及ぶ局所進行、B=切除可能な表在リンパ節転移、C=骨盤リンパ節転移または切除不能転移、D=遠隔転移とすること。治療は陰性断端を得る広範切除で、T2未満では3 mm以上、T2以上では5〜10 mmの断端が適切とされ、手術に適さない例ではCO2レーザー・5-フルオロウラシル・光線力学療法・イミキモド・Mohs手術が代替となること。リンパ節はリスク層別化のうえ陰茎癌の経験を応用したセンチネルリンパ節生検を行い、陽性なら鼠径リンパ節郭清を行うこと。進行例に対するメトトレキサート・ブレオマイシン・シスプラチン併用は総説が引用する報告で奏効率72%だが完全奏効は14%にとどまること。相対生存率は1年93%・3年80%・5年77%と報告されること閲覧 2026-09-02
  2. 2.Percivall Pott (1714-1788) and chimney sweepers' cancer of the scrotum(British Journal of Industrial Medicine・1957)Pottが煙突掃除夫の少年に生じる陰嚢の病変を「煤の疣」として記載し、煙突を登る年月のあいだ皮膚の皺に煤が溜まることが先行すると観察して、原因を煤に帰し早期の外科的切除を勧めたこと。この記載が1788年の煙突掃除人法につながり、1840年・1875年の法でさらに保護が強化されたこと。煤の発癌性は1915年の山極・市川によるコールタール塗布実験で実験的に確認されたこと(PMC掲載ページを介して内容を確認しており、原文PDFは取得できていない)閲覧 2026-09-02
  3. 3.Primary scrotal cancer: disease characteristics and increasing incidence(Urology・2008)SEERがん登録から1973〜2002年の原発性陰嚢癌471例を同定し、組織型は扁平上皮癌32%、乳房外Paget病21%、基底細胞癌18%、肉腫18%であったこと。扁平上皮癌は白人より黒人で多く(69% 対 31%、P<0.001)、多変量解析では非扁平上皮型が扁平上皮癌より死亡リスクが低く(ハザード比0.43〜0.63)、黒人であることが死亡リスク上昇と関連した(ハザード比2.02、95%CI 1.20-3.40)こと。年齢調整発生率は1973年の1,000万人あたり5例から2002年の10例へ増加し、年変化率は3.18%(P<0.05)であったこと閲覧 2026-09-02