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Disease Atlas · 神経 · 疾患

前庭性片頭痛

Vestibular migraine

別名
MAVmigraine-associated vertigo片頭痛性めまい
臓器系
神経耳鼻咽喉科
科目
OtorhinolaryngologyNeurology
トピック
耳鼻咽喉科 21:BPPV・前庭神経炎・メニエール病の鑑別診断神経内科 G1-40:一次性頭痛症候群
上位概念
片頭痛・一次性頭痛症候群
鑑別疾患
メニエール病良性発作性頭位めまい症・前庭神経炎
関連疾患
動揺病
治療薬
スマトリプタンジメンヒドリナートプロプラノロールトピラマートアミトリプチリン
症状
めまい悪心羞明音過敏

🧠 全体像:は「片頭痛の既往があり、めまい発作の半数以上に片頭痛様の随伴症状(頭痛・/・)を伴う」ことで診断する、ではなくによる臨床診断である。回転性めまいだけを来すという位置づけで、と症状(発作の反復)が重なるが、の有無が両者を最終的に分ける。は一般人口の約1〜3%、片頭痛患者に限れば約9〜21%とされ1、めまいを訴える患者の中で見逃されやすい主要な鑑別対象である。

定義と分類

は第3版(ICHD-3)の付録に採録された、片頭痛に伴いうる発作性症候群の一つであり、Bárány Society(分類委員会)と国際頭痛学会(IHS)の合同基準で診断する2。片頭痛の亜型・随伴症状という位置づけであるため、片頭痛の既往が診断の前提になる。

病態

トリガーとなる詳細な機序は完全には解明されていないが、片頭痛の病態基盤であるの関与と、脳幹・視床を介したへの投射が重なり合うことで、片頭痛発作と連動してめまい症状が生じると考えられている。がや関連する脳幹・小脳経路の興奮性を修飾する仮説、片頭痛でみられるがの閾値を下げる仮説などが提唱されているが、いずれも確立した機序ではない。

臨床像

⭐ は「回転性めまい」に限らない。 基準で認められるは下表のとおり幅があり、患者は「ぐるぐる回る」ではなく「揺れる」「浮くような感じ」と表現することも多い。

の型 内容
内的(自分が動いている感覚)または外的(周囲が動いている感覚)
後に誘発される
動く視覚刺激(人混み、画面のスクロールなど)で誘発される
頭部の動きそのもので誘発される
誘発性の悪心を伴う 明確な回転感を伴わない場合もある

発作のは5分〜72時間と幅が広く、このの多様さが(20分〜12時間に限定)との違いの一つになる2。発作の半数以上で、片頭痛様の頭痛(片側性・・中等度以上・で増悪のうち2項目以上)、・、のいずれかを伴う2。悪心・めまい発作中の嘔吐は非特異的でには含まれない。

診断基準(Bárány Society/IHS、2012年基準を2022年改訂でも維持)

項目 (確実) (疑い)
A 中等度〜重度の発作が5分〜72時間持続、5回以上 同左
B ICHD-3による現在または過去の片頭痛(の有無を問わない)の既往 B・Cのいずれか一方のみを満たす
C 発作の50%以上で、片頭痛様の頭痛・/・のいずれか1つ以上を伴う (上記に同じ)
D 他の・ICHD診断でよりよく説明されない 他の・ICHD診断でよりよく説明されない

は2012年の原典から2022年の文献アップデートでも変更されておらず、現行基準として扱われる2。

基準Dの「他のでよりよく説明されない」は、実地診療では・との鑑別で問われることが多い。はで誘発される秒〜1分未満の発作を頭位ごとに反復する点での(5分以上持続)と異なり、は数日持続する単発のであってのような反復性の発作パターンを取らない。いずれも片頭痛様の随伴症状(頭痛・・)を伴わない点も鑑別の助けになる。

メニエール病との鑑別

⚠️ 両者は併存しうる。 患者は片頭痛のが一般人口より高く、片頭痛様症状を伴うめまい発作を経験することがある。の基準(特に聴力検査で確認されたの片側性感音難聴)を満たす場合は、片頭痛症状が随伴していてもの診断を優先する2。明確に異なる2種類の発作パターンをそれぞれの基準で満たす場合に限り、両方の診断を併記する。

鑑別点
発作 5分〜72時間と幅が広い 20分〜12時間3
難聴 基準に含まれない(一過性の軽度難聴を伴うことはある) 発作前後に聴力検査で確認されるの低〜が必須3
随伴症状 頭痛・・・ ・(患側の耳症状)
片頭痛の既往 診断の必須要件 必須ではないが合併しやすい
経過 は無症状のことが多い 進行すると難聴が固定化・進行しうる

治療

急性期

片頭痛発作に準じ、や・(など)を短期的に用いる。そのものを対象とした急性期治療の比較試験は乏しく、片頭痛治療の知見を外挿している。

予防(発作抑制)

の誘因(睡眠不足、脱水、特定の食品、ストレス)を記録・回避したうえで、発作頻度が高い例には(などのβ遮断薬、、など)を用いるのが一般的な臨床実践である。

⚠️ 予防薬の多くは片頭痛(頭痛)を対象とした試験結果の外挿であり、そのものを対象としたエビデンスは乏しい。 ドイツの多施設RCT(PROVEMIG試験)では、266例を目標に登録したが患者集積不良のため130例の時点で早期中止されており、確実・疑い患者に徐放製剤95mg/日を6か月投与してもと比較して前庭発作頻度に有意差がなく、著者らは「に対するの効果を支持も否定もするRCTエビデンスが無い」とし、頭痛研究の結果をそのままへ外挿することのを指摘している4。予防薬を選択する際は、この外挿の限界を踏まえて患者と相談する。

まとめ

  • は、片頭痛の既往と、めまい発作の50%以上に(頭痛・/・)を伴うことをとして診断する臨床診断である。
  • は・・視覚誘発性・と幅広く、は5分〜72時間とより幅が広い。
  • との鑑別の核心は聴力検査で確認されるの有無であり、の基準を満たせば片頭痛症状が併存してもを優先診断する。
  • 急性期治療・予防治療とも片頭痛治療からの外挿が中心で、を検証したPROVEMIG試験はに対するを示せず、特有のエビデンスが乏しい現状を浮き彫りにした。

出典

  1. 1.Systematic Review of Prevalence Studies and Familial Aggregation in Vestibular Migraine(Frontiers in Genetics・2020)前庭性片頭痛の有病率が一般人口では0.89〜2.70%(代表的な報告で2.7%)、片頭痛患者に限ると欧州で約21%・アジアで約9〜10%と報告により幅があること、めまい/平衡障害の専門外来では確実例だけでも7〜41%と施設間差が大きいことを確認した。閲覧 2026-08-20
  2. 2.Vestibular migraine: Diagnostic criteria (Update)(Bárány Society Committee for Classification of Vestibular Disorders / International Headache Society, Journal of Vestibular Research・2022)前庭性片頭痛の確実例の診断基準(5分〜72時間持続する中等度〜重度の前庭症状発作が5回以上、ICHD-3による現在または過去の片頭痛の既往、発作の半数以上で片頭痛様の随伴症状、他の前庭疾患・ICHD診断でよりよく説明されない)と疑い例の基準(既往または随伴症状のどちらか一方のみ満たす)、前庭症状の内訳(自発性・頭位性・視覚誘発性・頭部運動誘発性めまい、頭部運動誘発性の悪心を伴う浮動感)、2012年の原基準がこの改訂でも変更されていないこと、メニエール病の基準を満たす例(特に聴力検査で確認された片側性難聴)は片頭痛症状が併存してもメニエール病の診断を優先することを確認した。閲覧 2026-08-20
  3. 3.Diagnostic criteria for Menière's disease(Journal of Vestibular Research・2015)確実メニエール病の診断基準が20分〜12時間持続する自発性回転性めまい発作2回以上、発作前後の聴力検査で確認された低〜中周波数感音難聴1回以上、患側の変動性耳症状を要件とすることを確認した。閲覧 2026-08-20
  4. 4.Results and lessons learnt from a randomized controlled trial: prophylactic treatment of vestibular migraine with metoprolol (PROVEMIG)(Trials (journal)・2019)確実・疑い前庭性片頭痛患者を対象にメトプロロール徐放製剤95mg/日とプラセボを6か月間比較した二重盲検RCTで、前庭発作頻度に関する発生率比が0.983(95%信頼区間0.902-1.071)と有意差がなく、前庭性片頭痛に対するメトプロロールの効果を支持も否定もするエビデンスが無いこと、片頭痛(頭痛)研究の結果をそのまま前庭性片頭痛に外挿することの問題点を著者らが指摘していることを確認した。閲覧 2026-08-20