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Drug Atlas · B18 Antidiabetics / 糖尿病薬

グルカゴン

glucagon

分類
Hormones and hormone analogs / ホルモン・ホルモン類似薬
商品名(日本)
グルカゴンGノボバクスミー
商品名(EU)
GlucaGenBaqsimi
科目
Pharmacology
トピック
B18: Pancreatic hormones and parenterally applied antidiabetic drugs
禁忌疾患
褐色細胞腫
副作用
悪心嘔吐頭痛めまい
監視検査値
血糖
影響検査値
血糖
対象疾患
1型糖尿病2型糖尿病アナフィラキシー先天性高インスリン血症

🧠 全体像:グルカゴンはのホルモンで、肝臓のグリコーゲンを分解してブドウ糖を血中へ放出させる。血糖を下げるインスリンの正反対の働きをするため、薬としては抗ではなく、重症低血糖で口から糖を摂れない患者を救う「救急の注射・点鼻」として使う。効き方は肝臓の蓄えに頼るので、グリコーゲンが枯れている状態(、副腎不全、)には効きにくい。回復して嚥下できるようになったら糖質を摂らせて再発を防ぐ。が無くても家族が筋注・点鼻できる点が、ブドウ糖静注との最大の違いである。

薬効群の中での位置づけ

状況 第一の手段 グルカゴンの立場
意識があり嚥下できる低血糖 経口のブドウ糖などの糖質 使わない
意識障害・痙攣・(重症低血糖) 医療者がを確保できるなら が無い・非医療者が対応する場面での救済1
が枯れている(長い絶食、副腎不全、アルコール性など) ブドウ糖 効きにくいので第一選択にしない23

⭐ を使う患者と家族に、グルカゴンを準備して使い方を教えておくことが重症低血糖の備えになる。現行の製剤は溶解の手間が投与の遅れにつながるため、保護者・介助者には使い方の教育と定期的な見直しが要る1。低血糖そのものの評価と治療の全体は低血糖を参照する。

flowchart TD
    A["低血糖"] --> B{"意識があり<br>嚥下できるか"}
    B -->|"はい"| C["経口のブドウ糖などの糖質"]
    B -->|"いいえ(意識障害・痙攣・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inability to swallow'>嚥下不能</span>)"| D{"医療者がいて<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV access'>静脈路</span>を確保できるか"}
    D -->|"はい"| E["ブドウ糖の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV dosing'>静脈内投与</span>"]
    D -->|"いいえ・家族や周囲が対応"| F["グルカゴンを筋注・皮下注・点鼻<br>(救急要請を並行)"]
    F --> G{"回復して嚥下できるか"}
    G -->|"はい"| H["経口の糖質で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic glycogen'>肝グリコーゲン</span>を補う"]
    G -->|"いいえ・改善しない"| E

この流れは本ノートの整理で、追加投与や静注への切り替えの規則は製剤の添付文書による(後述)。

機序

グルカゴンは29個のアミノ酸からなるペプチドで、肝臓のを活性化してグリコーゲンの分解を促し、肝からブドウ糖を放出させて血糖を上げる。グリコーゲンの蓄えが作用の前提である。肝臓以外の作用として、胃・十二指腸・小腸・大腸の平滑筋を弛緩させる2。糖新生も促す点は、の(B18)で扱う。

💡 血糖を上げる経路が「」に限られることが、効かない場面を決める。長い絶食、副腎機能低下、慢性の低血糖、一部の、肝硬変では肝の蓄えが乏しいので期待できず、ではがみられない24。これらではブドウ糖で治療する。

薬物動態

項目 注射剤 点鼻剤
血糖の反応 10分以内に上昇し約30分で最大。作用は静注・筋注で60〜90分続く2 3 mgのTmaxは中央値30分(範囲10〜40分)。注射剤1 mgの中央値10分より遅い4
半減期 健常成人で筋注約16.3分・皮下約19.9分・静注約3.1分3。米国の添付文書は筋注で見かけの半減期45分とし、吸収の持続を反映するとする2 27分(範囲8〜85分)4
代謝 肝・腎・血漿で分解される2 —
その他 が短く、回復後に再び低血糖になりうる(経口糖質が必要な理由)23 感冒による鼻閉・があってもの上昇には影響しなかった(外国人データ)4

適応

製剤・国 承認された使い道
注射剤(米国) 糖尿病の小児・成人の重症低血糖の治療。成人の放射線検査で消化管の動きを一時的に抑える診断補助2
注射剤(日本) 消化管のX線及び内視鏡検査の、低血糖時の救急処置、検査、検査、胃ののの5項目3
点鼻剤(日本) 低血糖時の救急処置のみ4

検査の使い方はを参照する。ではないが、β遮断薬を服用中でアドレナリンが効きにくいアナフィラキシーや、不応などのでの血糖維持に、が使う場面がある(それぞれの疾患ノートを参照)。

用法・用量

製剤 用量・経路 補足
注射剤(米国) 体重25 kg以上または体重不明の6歳以上は1 mg、25 kg未満または体重不明の6歳未満は0.5 mgを、上腕・大腿・臀部の皮下か、またはに投与 15分たって反応がなければ、新しいキットでもう1回追加できる。は医療監督下のみ2
注射剤(日本、低血糖時の救急処置) 1 mgを注射用水1 mLに溶解し、またはに注射 この適応に小児・体重別の用量の記載はない。低血糖は通常10分以内に改善し、改善しなければ直ちにブドウ糖のなどを行う3
点鼻剤(日本) 1回3 mgをに投与 追加投与は行わない。改善しなければブドウ糖のなどを直ちに行う。小児は4歳以上17歳未満の1型糖尿病患者で試験され、4歳未満は試験されていない4

⚠️ 日本の注射剤は、低血糖時の救急処置の用法が筋注か静注で、皮下注は書かれていない。 米国の注射剤は皮下注も認める。国と製剤で・用量・追加投与の規則が違うので、手元の製剤の添付文書を確認する。

国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)の2022年ガイドラインは、国によって入手できる製剤が違うことを前提に次を挙げる。用量は体重で決めるが、体重の区切りの根拠は不明確とされる1。

製剤 経路 用量 年齢
粉末(溶解して使う) 皮下・筋注 25 kg超は1 mg、25 kg未満は0.5 mg 全年齢
粉末 3 mg 4歳超
ダシグルカゴン(プレフィルドペン) 皮下 0.6 mg 6歳以上
Gvoke(液状の) 皮下 45 kg超は1 mg、45 kg未満は0.5 mg 2歳超

投与後、意識が戻って嚥下できるようになったら、経口の糖質を摂らせてを補い、低血糖の再発を防ぐ2。

禁忌・注意

禁忌は国で違う

項目 日本(上記の添付文書)
禁忌。カテコールアミンの遊離で血圧が大きく上がる 禁忌(と、その疑いのある患者を含む)
禁忌。初めののあと過剰なインスリン放出が起き、低血糖になりうる 禁忌欄には無い
診断補助での使用が禁忌。低血糖になりうる 禁忌欄には無い
成分への過敏症 禁忌 禁忌

出典は234。

⚠️ が疑われる患者に使って血圧が急に上がったら、 米国の添付文書は未診断のを疑い、5〜10 mgの静注が血圧を短時間下げるのに有効だったとする2。

注意すべき状況

状況 内容
が少ない 、副腎機能低下、慢性・頻発する低血糖、一部の、肝硬変、では効果が乏しい。ブドウ糖で治療する24
回復後の二次的な低血糖 作用が短く、回復後に再び低血糖になりうる。経口糖質を摂らせ、運転や危険を伴う作業に注意させる3
後に(皮疹)の報告がある。中止で消失した2
診断補助での使用 糖尿病患者では高血糖になりうる。心疾患では心拍数・血圧が上がり心筋のが増えるため、心電図などで監視する2
妊娠・授乳 米国の添付文書は、長年の使用で重大なや流産のリスクは確認されず、グルカゴンは胎盤を通過しないとする2。日本の点鼻剤は有益性が危険性を上回るときにのみ投与とする4

相互作用

併用薬 内容
などβ遮断薬 米国と日本の点鼻剤の添付文書は、脈拍・血圧の一過性の上昇を挙げる。日本の注射剤の添付文書は、低血糖のリバウンドが起きやすくなり、低血糖のがマスクされるおそれがあるとする243
血糖を上げる作用を失う、または低血糖を起こすことがある2
ワルファリン 抗凝固作用が増強することがある(機序は不明)34
インスリン 作用が拮抗する。診断補助で使うときは血糖を監視する2
診断補助では併用を勧めない。の抑制が重なる2

副作用

製剤 内容
注射剤(米国、市販後) 注射部位の反応、悪心、嘔吐、頭痛、めまい、脱力、蒼白、下痢、傾眠、血圧低下。全身のアレルギー反応(を含む)、高血圧と頻脈2
注射剤(日本) 重大な副作用はショック・と低血糖症状。その他に悪心・嘔吐、じん麻疹、血圧低下、血糖値上昇、3
点鼻剤(日本) 成人71例では16.9%で、鼻痛8.5%、悪心5.6%、5.6%、嘔吐2.8%、2.8%。小児36例では50.0%で、嘔吐30.6%、頭痛22.2%、悪心16.7%、鼻部不快感8.3%4

💡 悪心・嘔吐は意識が戻るときに出やすく、で増える。 投与後は意識が戻るまで近くで観察を続け、血糖も測る1。

まとめ

  • グルカゴンはのホルモンで、の分解でブドウ糖を放出させ、重症低血糖の救急に筋注・皮下注・点鼻で使う。が無くても家族が投与できる。
  • が前提なので、・副腎不全・・肝硬変などでは効きにくく、ブドウ糖で治療する。回復後は経口の糖質で再発を防ぐ。
  • 日本の注射剤は筋注か静注(皮下注は用法に無い)、点鼻剤は3 mgを1回で追加投与しない。米国の注射剤は皮下注も認め、15分で反応がなければ追加できる。
  • は日米とも禁忌。は米国のみ禁忌に挙がる。成分への過敏症も禁忌。
  • 悪心・嘔吐は意識の回復時に出やすい。β遮断薬・・ワルファリンとの併用に注意する。

出典

  1. 1.ISPAD Clinical Practice Consensus Guidelines 2022: Assessment and management of hypoglycemia in children and adolescents with diabetes(Pediatric Diabetes(Abraham MB, Karges B, Dovc K, et al.)・2022)PMC10107518の全文(Europe PMCのfullTextXML)で確認した。意識がない・嚥下できない小児の重症低血糖はグルカゴンで安全に改善でき、静脈内・経鼻・筋肉内・皮下に投与できること。グルカゴンの形態(Table 4)は、粉末の注射剤が皮下・筋注で25 kg超1 mg・25 kg未満0.5 mg(全年齢)、鼻腔内粉末が3 mg(4歳超)、ダシグルカゴンが0.6 mg皮下(6歳以上)、Gvokeが皮下で45 kg超1 mg・45 kg未満0.5 mg(2歳超)。用量は体重で決めるが根拠は不明確とされる。グルカゴンは意識の回復時に悪心・嘔吐を起こしやすく、反復投与で副作用の頻度が増える。肝グリコーゲンが十分あることが前提で、長い絶食に伴う低血糖ではブドウ糖の非経口投与が第一選択。溶解の手間が投与の遅れにつながるため、保護者・介助者には使い方の教育と定期的な見直しが要る。病院では小児に10%ブドウ糖2 mL/kgの静注が選べる。閲覧 2026-10-28
  2. 2.GlucaGen (glucagon) for injection — Prescribing Information(Novo Nordisk(米国添付文書、FDA)・2021)2021年7月改訂の版(FDAの表示に「最新版とは限らない」とある)。適応は糖尿病の小児・成人の重症低血糖の治療と、成人の放射線検査での消化管運動の一時的抑制(診断補助)。重症低血糖の用量は体重25 kg以上または体重不明の6歳以上で1 mg、25 kg未満または体重不明の6歳未満で0.5 mgを皮下・筋肉内・静脈内に投与し、15分たって反応がなければ新しいキットでもう1回追加できる(静脈内は医療監督下のみ)。回復して嚥下できたら経口糖質で肝グリコーゲンを補い再発を防ぐ。禁忌は褐色細胞腫、インスリノーマ、成分への過敏症、診断補助目的でのグルカゴノーマ。肝グリコーゲンが十分にあるときだけ有効で、飢餓・副腎不全・慢性の低血糖では効かないことがあり、その場合はブドウ糖で治療する。血糖は10分以内に上昇し約30分で最大、作用は静注・筋注で60〜90分続く。1 mg筋注で中央値Tmax 12.5分、見かけの半減期45分(吸収の持続を反映)、肝・腎・血漿で分解される。相互作用はβ遮断薬(脈拍・血圧の一過性上昇)、インドメタシン(血糖を上げられない、または低血糖を起こすことがある)、ワルファリン(抗凝固作用の増強)、インスリン(拮抗)、抗コリン薬(診断補助での併用は非推奨)。妊婦での数十年にわたる使用の症例報告・観察研究から重大な先天異常や流産のリスクは確認されておらず、膵グルカゴンは妊娠初期のヒトの胎盤を通過しないとされる。閲覧 2026-10-28
  3. 3.グルカゴンGノボ注射用1mg(添付溶解液あり)添付文書(ノボ ノルディスク ファーマ(PMDA医療用医薬品情報)・2023)2023年11月改訂(第2版)。効能又は効果は消化管のX線及び内視鏡検査の前処置、低血糖時の救急処置、成長ホルモン分泌機能検査、肝型糖原病検査、胃の内視鏡的治療の前処置の5項目。低血糖時の救急処置の用法及び用量は「グルカゴン(遺伝子組換え)として1mgを1mLの注射用水に溶解し、筋肉内又は静脈内に注射する」で、小児・体重別の記載はない(体重別の0.03 mg/kg・最大1 mgは成長ホルモン分泌機能検査と小児の肝型糖原病検査)。禁忌は褐色細胞腫又はパラガングリオーマの患者及びその疑いのある患者と成分への過敏症で、インスリノーマは含まれない。血糖上昇作用は肝グリコーゲンの分解によるため飢餓状態・副腎機能低下症・一部の糖原病では効果がほとんど期待できず、アルコール性低血糖では効果がみられない。低血糖の患者は通常10分以内に改善し、改善しないときは直ちにブドウ糖の静脈内投与などを行う。併用注意はβ遮断剤(低血糖のリバウンド、交感神経症状のマスク)・インスリン・ワルファリン。重大な副作用はショック・アナフィラキシーショックと低血糖症状。健常成人1 mgの半減期は筋注約16.3分・皮下約19.9分・静注約3.1分、tmaxは筋注約9.2分・皮下約8.0分。閲覧 2026-10-28
  4. 4.バクスミー点鼻粉末剤3mg添付文書(日本イーライリリー(PMDA医療用医薬品情報)・2024)2024年12月改訂(第4版)。効能又は効果は低血糖時の救急処置のみ。用法及び用量は「通常、グルカゴンとして1回3mgを鼻腔内に投与する」で、追加投与は行わず、改善しないときはブドウ糖の静脈内投与などを直ちに行う。禁忌は褐色細胞腫又はパラガングリオーマと成分への過敏症。飢餓状態・副腎機能低下症・頻発する低血糖・一部の糖原病・肝硬変などでは効果がほとんど期待できず、アルコール性低血糖では血糖上昇効果がみられない。副作用は成人71例で16.9%(鼻痛8.5%、悪心5.6%、血圧上昇5.6%、嘔吐2.8%、耳痛2.8%)、小児36例で50.0%(嘔吐30.6%、頭痛22.2%、悪心16.7%、鼻部不快感8.3%)。小児は4歳以上17歳未満の1型糖尿病患者で試験され、4歳未満の試験は実施されていない。3 mgのTmaxは中央値30分(範囲10〜40分、注射剤1 mgは中央値10分)、半減期は幾何平均27分。感冒に伴う鼻閉・鼻汁があっても血漿グルコースの上昇に影響しなかった(外国人データ)。閲覧 2026-10-28