臨床薬理学

臨床薬理学 · 23

閉経期ホルモン療法

Menopausal hormone therapy

前提:病態
エストロゲンおよび抗エストロゲン薬プロゲスチン・抗プロゲスチン薬・避妊薬

🧠 全体像:は「つらいを、早い時期に、必要な期間だけ、エストロゲンで和らげる」治療である。子宮がある人には子宮内膜を守るために必ずを加え、子宮が無い人はエストロゲン単独でよい。閉経後10年以内または60歳未満で始めるほど利益が危険を上回り、心疾患・認知症の予防を目的には使わない。腟の症状だけなら低用量の局所エストロゲンで足りる。

なぜ閉経で症状が出るのか

閉経で卵巣からのエストロゲンが急に減ると、エストロゲンに依存していた組織が一斉に変化する。はこの「欠乏」を補う治療であり、は欠乏の下流を個別に抑える治療である。

flowchart TD
  A["閉経:卵巣のエストロゲン分泌の低下"] --> B["視床下部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thermoregulatory center'>体温調節中枢</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='kisspeptin'>キスペプチン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurokinin B (NKB)'>ニューロキニンB</span>神経の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperactivity'>過活動</span>)"]
  A --> C["腟・外陰・尿路の上皮の萎縮"]
  A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone resorption'>骨吸収</span>の亢進"]
  A --> E["気分・睡眠・関節への影響"]
  B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hot flush'>ほてり</span>・発汗(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasomotor symptoms'>血管運動症状</span>)<br>夜間の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nocturnal awakening'>中途覚醒</span>"]
  C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vaginal dryness'>腟乾燥</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dyspareunia'>性交痛</span>・頻尿<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genitourinary syndrome of menopause (GSM)'>閉経関連泌尿生殖器症候群</span>)"]
  D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='osteopenia'>骨量減少</span>・骨折"]
  F --> I["全身のエストロゲン補充で改善"]
  G --> J["局所の低用量エストロゲンで改善"]
  H --> I
  B --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fezolinetant'>フェゾリネタント</span>がニューロキニン3受容体を遮断"]

💡 睡眠障害や抑うつの一部は、夜間ので眠りが分断されることから二次的に生じる。を抑えると睡眠と気分がともに改善しうるのはこのためである。

定義:2つの型と、その理由

とは、子宮摘出後の女性には拮抗されないエストロゲン単独療法、子宮のある女性にはエストロゲン+併用療法を行うものである。子宮のある女性では、エストロゲンによるを防ぐためにが必要になる。

flowchart TD
  A["閉経期の症状で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hormone therapy, HT'>ホルモン療法</span>を考える"] --> B{"症状は腟・外陰だけか?"}
  B -->|"はい"| C["低用量の局所(腟)エストロゲン<br>全身吸収がわずか・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='progesterone'>黄体ホルモン</span>併用は不要"]
  B -->|"いいえ:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hot flush'>ほてり</span>など全身症状"| D{"禁忌はないか?<br>閉経後10年以内または60歳未満か?"}
  D -->|"禁忌あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-hormonal treatment'>非ホルモン治療</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='selective serotonin reuptake inhibitor'>SSRI</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor'>SNRI</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gabapentin'>ガバペンチン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fezolinetant'>フェゾリネタント</span>など)"]
  D -->|"禁忌なし・条件を満たす"| F{"子宮はあるか?"}
  F -->|"子宮摘出後"| G["エストロゲン単独療法"]
  F -->|"子宮あり"| H["エストロゲン+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='progesterone'>黄体ホルモン</span>併用療法<br>(子宮内膜の保護)"]
  G --> I["最小<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effective dose'>有効量</span>・定期的に継続の是非を再評価"]
  H --> I

💡 なぜ子宮があるとが要るのか。 エストロゲンは子宮内膜を増殖させ、はそれをに変えて増殖を止める。無しでエストロゲンだけに長く曝されると、から子宮内膜がんへ進むリスクが上がる。十分なを併用すれば、子宮内膜腫瘍のリスクは使っていない女性より高くならない1。

の要点 内容
主な薬 、、微粒子化プロゲステロン(黄体の分泌するプロゲステロンと同じ構造)、
量 の力価とエストロゲン量で決まる。経口の微粒子化プロゲステロンは例えば1日200 mgを月12〜14日と、十分量を使う1
例外 結合型エストロゲンとのバゼドキシフェンの配合剤は、無しで子宮内膜を守る1
注意 併用療法の開始から6か月を過ぎたは精査する1

乳がんリスク:黄体ホルモンを足すことの意味

と乳がんの関係は、世界の前向き研究の個別データを統合した(2019年)で最も詳しく示されている2。

項目 エストロゲン+ エストロゲン単独
現在使用・使用1〜4年の 1.60 1.17
現在使用・使用5〜14年の 2.08(連日併用2.30、間欠併用1.93) 1.33
50歳から5年使ったときの50〜69歳の乳がんの増加 連日併用で50人に1人、間欠併用で70人に1人 200人に1人
10年使用 上記のおよそ2倍 上記のおよそ2倍
  • は乳がんリスクの上昇と関連しなかった2。
  • リスクは使用期間とともに増え、中止後も一部が10年以上残る。使用1年未満ならほとんど残らない2。
  • 60歳以降の開始や肥満ではリスクの上昇が弱まり、肥満女性のエストロゲン単独ではほとんど増えない2。
  • それでも、痩せた女性と肥満女性で、を加えたことによるの増加(エストロゲン単独と併用の差)は同程度だった2。

💡 最後の一文が言っていること。 肥満女性では脂肪組織のアロマターゼがもともとエストロゲンを作っているので、外からエストロゲンを足してもが小さい。ところがを足した分のは体格によらず同じだけ生じる。つまり併用療法の乳がんリスクの主な担い手はの部分であり、「子宮が無いならを使わない」「使うなら必要十分な量と期間に」という原則の根拠になる。

乳がん以外の利益と危険

区分 内容
まれな危険(1万人あたり年10人未満) 併用療法・単独療法ともと胆嚢疾患。併用療法ではさらに脳卒中と乳がん。が不十分なら・子宮内膜がん1
60歳未満でのの減少 、骨折、糖尿病(併用・単独とも)、乳がん(エストロゲン単独)1
60歳超の集団の成績 併用療法で冠動脈イベント(1年後から)、(1年後から)、脳卒中(3年後から)、乳がん(5年後から)、胆嚢疾患(5年後から)がわずかに増え、単独療法で(1〜2年後から)、脳卒中(7年後から)、胆嚢疾患(7年後から)が増えた。50〜59歳の比較的健康な女性の試験で有意に増えたのは併用療法のだけだった1
よくある副作用 悪心、腹部膨満、体重増加、、気分の変動(による)、、頭痛、乳房の張り1

💡 との食い違い。 では、子宮摘出後の女性に結合型エストロゲン単独を使うと乳がんがより少なく、併用()では多く、この差は約20年の追跡でも続いた。一方、観察研究を統合した2019年のでは単独療法でも使用期間に応じてリスクが上がった1。どちらの研究でも「を加えるとリスクが上がる」という点は一致しており、これが臨床判断の軸になる。

全身療法の適応

症状 補足
() 最も明確な適応。はに最も有効な治療である1
気分の不安定・抑うつ 必要ならと併用。のうつではエストロゲンが抗うつ薬と同程度に症状を改善するが、閉経後のうつ病には有効でなく、再発性のの主な治療は抗うつ薬やである1
睡眠障害 夜間のによるを減らすことで改善する
関節の痛み を受けた群で関節痛・こわばりが少なかった1

⭐ 開始時期の条件:閉経後10年以内、または60歳未満。 この範囲で禁忌がなければ、つらいの治療と予防の利益が危険を上回る。10年を超えてから、または60歳を超えてから始めると、冠動脈疾患・脳卒中・・認知症のが大きく、比は悪くなる1。

flowchart TD
  A["閉経"] --> B["閉経後10年以内・60歳未満で開始"]
  A --> C["閉経後10年超・60歳超で開始"]
  B --> D["血管が比較的健康<br>エストロゲンの有害な血栓・心血管作用が表に出にくい"]
  C --> E["すでに動脈硬化が進んでいる<br>血栓・プラーク不安定化の影響が出やすい"]
  D --> F["症状緩和と骨量維持の利益>危険"]
  E --> G["冠動脈疾患・脳卒中・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous thromboembolism, VTE'>静脈血栓塞栓症</span>・認知症の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='absolute risk'>絶対リスク</span>が大きく、利益<危険になりやすい"]

早い閉経は別枠で考える

米国で承認されたの適応は、中等度〜重度の、の予防、・・による、中等度〜重度の外陰腟症状の4つである1。や若年でのでは、失われたエストロゲンを少なくとも平均的な閉経年齢まで補うこと自体が治療であり、骨の保護などの利益が示されている1。「60歳未満・閉経後10年以内」の原則が作られた自然閉経の女性とは、同じ物差しで考えない。

予防を目的にしない:従来と現行

慢性疾患の予防(冠動脈疾患、骨粗鬆症、、認知症の予防)は、もはやの適応ではない、というのが従来の整理である。現行の立場は、骨についてだけ少し細かく分けている。

目的 従来の整理 現行(The Menopause Society 2022年版)
冠動脈疾患の予防 適応ではない 高齢女性での長期使用は冠動脈疾患リスクの低下を目的としては適切でない1
・認知症 適応ではない どの年齢でもや認知症の予防・治療には推奨しない(I)1
骨粗鬆症 予防の適応ではない と骨折を防ぐ効果はある。米国での承認は骨粗鬆症の予防であって治療ではなく、すでにある骨粗鬆症の治療には非エストロゲン薬を優先する1。のある女性では、骨の保護が付随する利益になる

💡 予防目的が外されたのは、RCTのが平均63歳という「閉経から時間のたった」集団で行われ1、冠動脈疾患・脳卒中・乳がん・血栓の増加を示したためである。同じ薬でも、始める年齢によって血管への作用が違う(上の図)ことが、その後の解析で分かってきた。

局所療法の適応

項目 内容
適応 ()の症状だけがある場合
年齢 60歳を超えていても使える
薬 多くは。粘膜からの吸収(全身への移行)が少ないため
低用量のでは併用不要。ただし1年を超えるRCTは無い1

現行でも、低用量のは全身吸収がごくわずかで、泌尿生殖器症状だけならばより優先される(I)1。⚠️ 乳がん患者では腫瘍医と相談して処方する(III)1。閉経後の性器出血は、中でも必ず精査する1。

禁忌

禁忌 理由 現行の禁忌一覧との対応
乳がんの既往 エストロゲン感受性の腫瘍を増殖させうる エストロゲン感受性がんの既往(乳がんを含む)
冠動脈疾患 心血管イベントの増加 冠動脈疾患・心筋梗塞の既往
の既往 が肝臓で凝固因子を増やす の既往、血栓塞栓症の既往・遺伝的高リスク
活動性の肝疾患 エストロゲンは肝臓で代謝される 肝疾患
原因不明の性器出血 子宮内膜がんを見逃す 原因不明の性器出血
高リスクの子宮内膜がん エストロゲン感受性がんの既往
脳卒中・ 脳卒中の増加 脳卒中の既往

右の列の一覧は、経口・経皮のに共通する禁忌としてThe Menopause Society 2022年版が挙げるものである1。

薬の選び方と投与経路

論点 内容
エストロゲン エストラジオール(経口・貼付・ゲル・スプレー・腟リング)、結合型エストロゲンなど
経路と血栓 経皮エストロゲンは肝臓のを避ける。経皮と経口でへの効果に差は示されていない。観察研究では経皮での増加が示されておらず経口より少ない可能性があるが、比較RCTは無い1
用量 にかなう最も適切な、多くは最小の
の種類 微粒子化プロゲステロンは他のより血栓を起こしにくい可能性がある1
期間 年齢で一律に中止する規則はなく、をに中止する必要もない。症状が続く人ではで続け、定期的に再評価する1
他の選択肢 (エストロゲン・・アンドロゲン作用を併せ持つ)

💡 は門脈から肝臓へ高濃度で入り、凝固因子や結合グロブリンを増やす。経皮ではこれが起こりにくいので、を気にする人では経皮が選ばれやすい。中の人がを始めるとの必要量が増えるのも同じ理屈である(甲状腺機能亢進症と低下症の薬物療法)。

ホルモン療法が使えないとき:非ホルモン治療

禁忌(のがん、心血管疾患など)がある人や、を望まない人には、根拠のあるを選ぶ1。The Menopause Society 2023年版はについて次のように整理している3。

評価 治療
推奨(I) 、臨床、・の・など、、
推奨(I〜II)
推奨(II〜III) 減量、
推奨しない 調節呼吸、・、大豆製品、、鍼、、など

⚠️ 乳がんでを飲んでいる人に強い阻害薬(など)を使うと、のが減る。この場面では阻害の弱い薬を選ぶ。

始めた後の監視

監視項目 理由
症状の改善と継続の必要性 最小を目標に、剤形・用量・経路を定期的に見直す1
併用療法の開始6か月以降の出血や閉経後の出血は、子宮内膜の病変を除外する
乳房 乳がん検診を年齢相応に続ける。乳房の張りは用量・薬剤の見直しのきっかけになる
血栓・心血管の症状 下肢の腫脹・胸痛・神経症状が出たら直ちに中止して受診する
併用薬 開始後は、補充中ならを確認する

規制の動き

米国は2025年11月にこの見直しを始め、29社に表示の変更案を求めた。その最初の承認として2026年2月、4区分(全身性の併用療法、全身性のエストロゲン単独療法、エストロゲンを使う子宮のある女性への全身性の単独療法、製剤)にわたる6製品の枠囲みから、心血管疾患・乳がん・認知症の可能性についてのリスク記載を削除した。はその根拠として、閉経から10年以内(おおむね60歳前)に始めた女性でと骨折が減ることを挙げている4。

⚠️ これは表示の変更であり、上の禁忌や乳がんリスクの数字が消えたわけではない。個々の患者では、開始時期・子宮の有無・乳がんと血栓のリスクを踏まえて選ぶという原則は変わらない。

まとめ

  • は、子宮摘出後はエストロゲン単独、子宮があればエストロゲン+(・がんの予防)。
  • 乳がんリスクは使用期間とともに増え、併用療法でエストロゲン単独より大きい(5年使用で連日併用50人に1人、単独200人に1人の増加)。では増えない。追加による増加は体格によらず同程度。
  • の適応は、、気分の不安定・抑うつ(併用も)、睡眠障害、関節痛。閉経後10年以内または60歳未満で始める。
  • 冠動脈疾患・・認知症の予防には使わない。骨粗鬆症は「予防」の効果はあるが、既存の骨粗鬆症の治療には非エストロゲン薬を優先する。
  • はの症状だけのときで、60歳超でも可。吸収の少ないなど低用量を使い、は不要。
  • 禁忌:乳がんの既往、冠動脈疾患、の既往、、原因不明の性器出血、高リスクの子宮内膜がん、脳卒中・。
  • 使えない人には、・、、などの。

出典

  1. 1.The 2022 hormone therapy position statement of The North American Menopause Society(The North American Menopause Society(現 The Menopause Society)・2022)学会配布の全文PDFで次を確認した。ホルモン療法は血管運動症状と閉経関連泌尿生殖器症候群に最も有効な治療で、骨量減少と骨折を防ぐこと。60歳未満または閉経後10年以内で禁忌がなければ、つらい血管運動症状の治療と骨量減少予防の利益・危険の比は良好で、閉経後10年超または60歳超で始めると冠動脈疾患・脳卒中・静脈血栓塞栓症・認知症の絶対リスクが大きく比は悪くなること。経口・経皮ホルモン療法の禁忌が、原因不明の性器出血、肝疾患、エストロゲン感受性がんの既往(乳がんを含む)、冠動脈疾患・脳卒中・心筋梗塞・静脈血栓塞栓症の既往、または血栓塞栓症の既往・遺伝的高リスクであること。子宮のある女性が全身エストロゲンを使うときは十分な黄体ホルモンを併用し(結合型エストロゲン+バゼドキシフェンを除く)、適切な黄体ホルモン併用で子宮内膜腫瘍のリスクは非使用者を上回らず、経口微粒子化プロゲステロンは例えば1日200 mgを月12〜14日と十分量を使うこと。経皮エストロゲンと経口で血管運動症状への効果に差が無く、経皮エストロゲンでは観察研究で静脈血栓塞栓症の増加が示されていないが比較RCTは無く、微粒子化プロゲステロンは他の黄体ホルモンより血栓を起こしにくい可能性があること。全身ホルモン療法を中止する一般的な規則は無く、年齢に基づく一律の中止規則は臨床的に適切でなく、定型的に中止する必要はないこと。WHIで乳がんの寄与リスクを示した女性の平均年齢が63歳であったこと。併用療法・単独療法の絶対リスクの増加はまれ(1万人あたり年10人未満)で静脈血栓塞栓症と胆嚢疾患を含み、併用療法では脳卒中と乳がんも増えること、60歳未満では全死亡・骨折・糖尿病(併用・単独)と乳がん(単独)の絶対リスクが減ること(Level I)。60歳超が多い集団のメタ解析で併用療法が冠動脈イベント(1年後)・静脈血栓塞栓症(1年後)・脳卒中(3年後)・乳がん(5年後)・胆嚢疾患(5年後)を、単独療法が静脈血栓塞栓症(1〜2年後)・脳卒中(7年後)・胆嚢疾患(7年後)をわずかに増やし、50〜59歳の試験で有意に増えたのは併用療法の静脈血栓塞栓症だけだったこと。よくある有害事象が悪心・腹部膨満・体重増加・体液貯留・気分の変動(黄体ホルモン関連)・不正出血・頭痛・乳房の張りであること。WHIで結合型エストロゲン単独では乳がんがプラセボより少なく併用では多く、約20年の追跡でも続いた一方、観察研究では単独療法でも期間依存性に増えたこと。FDA承認の適応が中等度〜重度の血管運動症状、閉経後骨粗鬆症の予防、性腺機能低下症・両側卵巣摘出・早発卵巣不全によるエストロゲン欠乏、中等度〜重度の外陰腟症状の4つで、早発卵巣不全・両側卵巣摘出では骨量減少予防などの利益が示され、少なくとも平均閉経年齢までの補充が勧められること。剤形・用量・経路は個別に決めて定期的に見直すこと。FDAの適応は骨粗鬆症の予防であって治療ではなく、既存の骨粗鬆症には非エストロゲン薬が優先されること。高齢女性での長期使用は冠動脈疾患や認知症のリスク低下を目的としては適切でなく、ホルモン療法はどの年齢でも認知機能低下や認知症の予防・治療には推奨されないこと(Level I)。周閉経期のうつではエストロゲンが抗うつ薬と同程度に抑うつ症状を改善するが閉経後のうつ病には有効でなく、再発性の大うつ病には抗うつ薬や精神療法が主な治療であること。WHIなどでホルモン療法群は関節痛・こわばりが少なかったこと(Level I)。低用量の腟エストロゲンは全身吸収がごくわずかで、泌尿生殖器症状だけならば全身療法より優先され(Level I)、乳がん患者では腫瘍医と相談して処方し(Level III)、黄体ホルモン併用は不要だが1年を超えるRCTは無い(Level II)こと。黄体ホルモンが不十分な場合の危険として子宮内膜増殖症・子宮内膜がんを挙げること、併用療法(および結合型エストロゲン+バゼドキシフェン)の開始から6か月を過ぎて起こる予定外の出血は精査すること、閉経後女性の性器出血は十分な評価を要すること(Level I)。閲覧 2026-09-26
  2. 2.Type and timing of menopausal hormone therapy and breast cancer risk: individual participant meta-analysis of the worldwide epidemiological evidence(The Lancet(Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer)・2019)PMC6891893の全文で次を確認した。閉経後に乳がんを発症した108,647人の前向き研究の個別データ解析で、腟エストロゲンを除くすべての閉経期ホルモン療法が乳がんリスク上昇と関連し、使用期間とともに増え、エストロゲン単独よりエストロゲン+黄体ホルモンで大きかったこと。現在使用者の相対リスクは使用1〜4年でエストロゲン+黄体ホルモン1.60、エストロゲン単独1.17、5〜14年で2.08と1.33、5〜14年のエストロゲン+黄体ホルモンでは連日投与2.30が間欠投与1.93より高いこと。60歳以降の開始や肥満でリスクが弱まり(肥満女性のエストロゲン単独ではほとんど増えない)、痩せた女性と肥満女性で黄体ホルモン追加による絶対リスク増加は同程度であること(逐語「Lean and obese women were, however, similar in the absolute increase in risk produced by addition of a progestagen」)。中止後も10年以上リスクの一部が残ること。平均体重の女性が50歳から5年使うと、50〜69歳の乳がんが連日黄体ホルモン併用で50人に1人、間欠併用で70人に1人、エストロゲン単独で200人に1人増え、10年使用ではおよそ2倍になること。閲覧 2026-09-26
  3. 3.The 2023 nonhormone therapy position statement of The North American Menopause Society(The North American Menopause Society(現 The Menopause Society)・2023)PubMedの抄録(PMID 37252752)で、血管運動症状の非ホルモン治療として認知行動療法・臨床催眠・SSRI/SNRI・ガバペンチン・フェゾリネタント(Level I)、オキシブチニン(Level I〜II)、減量・星状神経節ブロック(Level II〜III)を推奨し、調節呼吸・サプリメント・大豆製品・カンナビノイド・鍼・クロニジン・プレガバリンなどを推奨しないこと、ホルモン療法が血管運動症状に最も有効で最終月経から10年以内の女性で考慮すべきであり、禁忌(エストロゲン依存性のがん、心血管疾患など)や希望でホルモン療法の良い候補でない女性に非ホルモン治療の知識が重要とする結論を確認した。閲覧 2026-09-26
  4. 4.FDA Approves Labeling Changes to Menopausal Hormone Therapy Products(U.S. Food and Drug Administration・2026)2026年2月12日の発表で、6製品(全身性の併用療法、全身性のエストロゲン単独療法、全身性の黄体ホルモン単独療法、腟エストロゲン製剤の4区分)の枠囲み警告から心血管疾患・乳がん・認知症の可能性のリスク記載を削除したこと、閉経から10年以内(おおむね60歳前)に始めた女性では全死亡と骨折が減るとFDAが述べていること、見直しを2025年11月に始め29社が表示変更案を提出し、今回がその最初の6製品であることを、FDA公式ページ(2026-09-26取得)の本文で逐語確認した。閲覧 2026-09-26