内科学

内科学 · L-61

多発性骨髄腫

Multiple myeloma

前提:病態
多発性骨髄腫・形質細胞疾患
薬剤
イサツキシマブエロツズマブカルフィルゾミブダラツムマブ
疾患
Waldenströmマクログロブリン血症顎骨壊死孤立性形質細胞腫多発性骨髄腫
症状
骨痛二次原発悪性腫瘍
検査値
M蛋白

🧠 全体像:は、単クローン性形質細胞が骨髄で増殖し、M蛋白と骨髄腫関連臓器障害を生じる疾患である。診断では「M蛋白があるか」だけでなく、とを確認する。

病態と臨床像

形質細胞は免疫グロブリン(主にIgG、IgA)またはを単クローン性に産生する。軽鎖は尿中に(Bence Jones protein)として出現しうる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clonal plasma cells'>クローン性形質細胞</span>の増殖"] --> B["M蛋白・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free light chain (FLC)'>遊離軽鎖</span>の産生"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow infiltration'>骨髄浸潤</span>"]
    A --> D["RANKLなどによる破骨細胞活性化"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cast nephropathy'>円柱腎症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amyloid deposition'>アミロイド沈着</span>"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='normocytic anemia'>正球性貧血</span>・血球減少"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='osteolytic lesion'>溶骨性病変</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone pain'>骨痛</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathologic fracture'>病的骨折</span>・高Ca血症"]

典型的臓器障害は CRAB で整理する。

項目 基準・症候
C: 血清Caがより1 mg/dL超、または >11 mg/dL。口渇、便秘、意識障害
R:腎障害 Cr >2 mg/dLまたはCrCl <40 mL/min。など
A:貧血 Hbが基準下限より2 g/dL超低値、または <10 g/dL
B: ・・単純X線で1個以上の。頭蓋骨のなど

診断

血算、Ca、Cr、アルブミン、、を測定し、・、、を行う。・生検でを確認し、で的リスクを評価する。は、またはで評価する——は従来のより検出感度が高く、は単純X線と同程度なので、骨X線を第一選択にしない1。

⭐ IMWG 2014年基準で「SLiM 」が導入され、臓器障害が無くても治療対象になった。 それ以前は (臓器障害)が出るまで待つのが原則だったが、放置すればほぼ確実に臓器障害へ進むと考えられた3項目(SLiM)が診断事象に加えられ、臓器障害の発生前に治療を始められるようになった2。

活動性MMは、骨髄 ≥10%または生検で形質細胞腫に加え、または次のSLiMのいずれかを満たす場合に診断する2。

SLiM 閾値
S:骨髄 ≥60%
Li: 増加側/非増加側の比 ≥100、かつ増加側FLC ≥100 mg/L
M:局所病変 5 mm以上の病変が2個以上

⚠️ SLiM基準を満たす患者の進展リスクは、基準が作られた当時より低く見積もられている。 11研究3,482例のでは、2014年以降に発表された研究のSLiM陽性例は、それ以前の研究と比べて進展までの期間が約3倍長く、2年進展リスクは約半分だった。60%以上では2年進展リスクが 86.2%→45.5%、100以上では 73.0%→31.6% である3。画像診断の進歩で早期に拾えるようになったことなどが背景にあり、「SLiM陽性=2年以内にほぼ全員が発症する」という当初の前提は現在のコホートには当てはまらない。基準そのものは有効だが、個々の患者の切迫度は数字どおりではない。

は R-ISS(2015年:ISS=アルブミン+、にと高リスクを加えた3段階)が基本で、2022年に R2-ISS が提案された。R2-ISSは R-ISS に 1q21の増幅/獲得を独立因子として加えた加算式のスコアで、10,843例で開発・検証され、予後が一様でなかったISS II相当の集団を細分化して4段階にする4。

前駆・関連病態

病態 M蛋白・骨髄 MDE
() 非IgM型では血清M蛋白 <3 g/dL、 <10% なし
(smoldering MM) M蛋白 ≥3 g/dLまたは10〜59% なし
(Waldenström macroglobulinemia) 性リンパ腫がIgMを産生 など。MMとは別疾患

治療

は活動性MMである。染色体リスク、腎機能、、適応を統合する。

  • 移植適応例:を含む4剤併用が標準になった。 欧州血液学会・欧州骨髄腫ネットワークの2025年ガイドラインは、移植適応の新規診断例に D-VRd(+++) を推奨する5。根拠は709例の第3相PERSEUS試験で、D-VRd はVRdと比べ 48か月 84.3%対67.7%(0.42)、以上 87.9%対70.1%、陰性 75.2%対47.5% と優れた6。導入後にし、大量とASCT、続いてリスク適応の維持療法を行う。
  • 移植非適応例:に応じて、、免疫調節薬、を組み合わせ、用量を調整する。この群でも D-VRd または D-Rd というベースのが標準で、単純にステロイド単剤や旧来の2剤にとどめない5。
  • :既治療、難治性、的リスクを踏まえ、別クラスの併用療法、、などを選ぶ。

💡 (MRD)は「深さ」を測る指標で、血清学的な区分とは別物である。 まで正常化した(sCR)は血清学の区分にすぎず、同じsCRでも骨髄で測るMRD量は一様でない7。PERSEUS試験でもMRD陰性率が主要なとして使われており6、レジメンの比較や治療期間の判断材料として位置づけが強まっている。ただし現時点でMRD結果だけで治療を中止・変更する運用は確立していない。

高Ca血症・腎障害には補液と原因治療を行い、を避ける。にはまたは、歯科評価、鎮痛、放射線・整形外科的介入を検討する。感染予防、ワクチン、、輸血も治療内容に応じて行う。は補液後も容量過剰がある場合に限り、機械的に使用しない。

まとめ

  • MMは単クローン性形質細胞、M蛋白、/SLiMで捉える。
  • M蛋白だけでは・MMと区別できない。
  • 治療は移植適応、、腎機能、的リスクに合わせ、臓器障害への支持療法を並行する。導入はを含む4剤(D-VRd)が現行の標準である。
  • SLiM は臓器障害前の治療を可能にしたが、SLiM陽性例の進展リスクは近年のコホートで当初報告の約半分である。

出典

  1. 1.Recommendations for acquisition, interpretation and reporting of whole body low dose CT in patients with multiple myeloma and other plasma cell disorders: a report of the IMWG Bone Working Group(International Myeloma Working Group Bone Working Group / Blood Cancer Journal・2018)全身低線量CTは従来の骨X線スケルタルサーベイより骨病変の検出感度が高く、被曝量は単純X線と同程度に抑えられるため、骨病変評価の第一選択として推奨される閲覧 2026-08-25
  2. 2.International Myeloma Working Group updated criteria for the diagnosis of multiple myeloma(International Myeloma Working Group / The Lancet Oncology・2014)症候性多発性骨髄腫の診断にはCRAB(高Ca血症・腎障害・貧血・骨病変)またはSLiM(骨髄クローン性形質細胞60%以上・血清遊離軽鎖比100以上・MRI局所病変5 mm以上が2個以上)バイオマーカーのいずれかを要する。これにより、臓器障害が無くてもバイオマーカーで定義される早期骨髄腫を治療対象にできるようになった閲覧 2026-08-25
  3. 3.SLiM CRAB criteria revisited: temporal trends in prognosis of patients with smoldering multiple myeloma who meet the definition of 'biomarker-defined early multiple myeloma'-a systematic review with meta-analysis(EClinicalMedicine・2023)11研究3,482例のメタ解析で、SLiM基準を満たすくすぶり型骨髄腫の進展までの期間は2014年以降の研究で従来の約3倍長く、2年進展リスクは約半分だった。骨髄形質細胞60%以上では2年進展リスク45.45%(従来86.21%)・進展までの期間中央値30.31か月(従来9.20か月)、血清遊離軽鎖比100以上では2年進展リスク31.61%(従来73.00%)・中央値48.06か月(従来15.33か月)閲覧 2026-08-25
  4. 4.Second Revision of the International Staging System (R2-ISS) for Overall Survival in Multiple Myeloma: A European Myeloma Network (EMN) Report Within the HARMONY Project(European Myeloma Network / HARMONY Project / Journal of Clinical Oncology・2022)10,843例の新規診断骨髄腫のデータから、R-ISS(2015年:ISSにLDHと高リスク細胞遺伝学を加えた3段階)に1q21増幅/獲得を加えた加算式のR2-ISSを開発・検証し、予後が一様でなかったISS IIを細分化する4段階の改訂版として提案した閲覧 2026-08-25
  5. 5.EHA-EMN Evidence-Based Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up of patients with multiple myeloma(European Hematology Association / European Myeloma Network・2025)移植適応の新規診断多発性骨髄腫では抗CD38抗体+ボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン(D-VRd)の4剤併用が、移植非適応例ではD-VRdまたはD-Rdを含む抗CD38抗体ベースの多剤併用が現行の標準治療として推奨される閲覧 2026-08-25
  6. 6.Daratumumab, Bortezomib, Lenalidomide, and Dexamethasone for Multiple Myeloma(New England Journal of Medicine・2024)移植適格の新規診断多発性骨髄腫709例の第3相PERSEUS試験で、D-VRd群はVRd群と比べ48か月無増悪生存率が84.3%対67.7%(ハザード比0.42、95%CI 0.30〜0.59、P<0.001)、完全奏効以上が87.9%対70.1%、微小残存病変陰性が75.2%対47.5%と、いずれも優れていた(追跡期間中央値47.5か月)閲覧 2026-08-25
  7. 7.Quantification of measurable residual disease in patients with multiple myeloma based on the IMWG response criteria(Scientific Reports・2021)IMWG基準では遊離軽鎖比が正常化した完全奏効を厳格な完全奏効(sCR)として完全奏効(CR)より深い奏効に区分するが、sCRは血清学的な区分であって骨髄フローサイトメトリーで測る微小残存病変陰性とは別の指標であり、同じsCRでも微小残存病変量は一様でない閲覧 2026-08-25