Internal Medicine

Internal Medicine · E-11

糖尿病患者と合併症の管理

Managing diabetic patients and their complications

前提:病態
糖尿病の細小血管合併症糖尿病の大血管合併症代謝性酸塩基平衡障害:代謝性アシドーシスとアルカローシス
前提:正常
グルカゴン分泌とその調節。低血糖から保護する内分泌機構
薬剤
フィネレノン
疾患
2型糖尿病黄斑浮腫硝子体出血糖尿病性自律神経障害糖尿病網膜症
症状
前房出血

🧠 全体像糖尿病管理は、低血糖・DKA・HHSという「今すぐ戻す異常」と、網膜・腎・神経・動脈硬化という「早期発見して進行を止める異常」を分ける。急性期はブドウ糖だけでなく、体液、K、ケトン体、浸透圧の変化速度を管理する。

合併症の地図

時間軸 区分 主な病態
急性 低血糖 神経糖欠乏、痙攣、昏睡
急性 、混合型
慢性 、糖尿病関連腎臓病、糖尿病神経障害
慢性 大血管 冠動脈疾患、脳卒中/TIA、

低血糖

レベル 血糖 意味
1 <3.9 mmol/L(<70 mg/dL)かつ≥3.0 mmol/L 域。速やかに補正する
2 <3.0 mmol/L(<54 mg/dL) 臨床的に重大な低血糖
3 数値を問わず、認知・身体機能が低下し他者の介助を要する 重症低血糖

は、低血糖時症状、低い、その補正による症状消失である。糖尿病患者ではインスリン、、食事欠食、運動、アルコール、腎機能低下、体重減少、急性疾患が主な原因となる。非糖尿病者では肝・腎・心不全、敗血症、副腎不全、下垂体不全、などを考える。

症状群 主な症状
自律神経症状 発汗、振戦、、空腹、不安、口周囲の
頭痛、脱力、眠気、眩暈、異常行動、混乱、痙攣、昏睡
flowchart TD
    A["低血糖を確認"] --> B["安全に嚥下できるか"]
    B -->|"できる"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fast-acting'>速効性</span>糖質15~20 g"]
    C --> D["15分後に再測定"]
    D -->|"<3.9 mmol/L"| C
    D -->|"回復"| E["再発原因を修正し<br>必要なら持続性糖質を追加"]
    B -->|"できない/重症"| F["グルカゴン投与または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous glucose'>静注ブドウ糖</span>"]
    F --> G["救急評価・反復測定・原因治療"]

意識障害時のグルカゴンとは糖尿病型で使い分けない。インスリン使用者や重症低血糖リスクが高い患者にはグルカゴンを処方し、周囲の人にも使用法を教育する。可能なら不要製剤を優先する。1 腎・肝不全やでは再発が長引くため観察する。

高血糖クリーゼ

感染、インスリン中断・ポンプ不良、心筋梗塞、脳卒中、手術、グルココルチコイド、アルコール・薬物などが誘因となる。SGLT2阻害薬、妊娠、絶食ではブドウ糖が高くない(euglycemic DKA)が起こり得る。

DKAとHHSの診断

項目 DKA HHS
ブドウ糖 ≥11.1 mmol/L(≥200 mg/dL)または既知の糖尿病 ≥33.3 mmol/L(≥600 mg/dL)
ケトン体 ≥3.0 mmol/Lまたは ≥2+ <3.0 mmol/L
酸塩基 pH <7.3またはHCO3− <18 mmol/L pH ≥7.3かつHCO3− ≥15 mmol/L
浸透圧 可変 有効血清浸透圧>300 mOsm/kgまたは総浸透圧>320 mOsm/kg。実地では総浸透圧≥320 mOsm/kgの著明なを重視する2
典型像 数時間~数日、嘔吐、腹痛、 数日~数週、著明な脱水、意識変容、局在神経症状、痙攣

DKAは高血糖・・代謝性アシドーシスの3要素、HHSは高度高血糖・・脱水と重い/アシドーシスの欠如で診断する。3分の1以上に重なりがあり、HHSでも軽いケトン体上昇はあり得る。は主にを測るため、血中を優先する。3

治療の原則

flowchart TD
    A["ABC・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV access'>静脈路</span>・モニタリング<br>誘因検索と採血"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isotonic crystalloid'>等張晶質液</span>で循環を回復<br>心腎機能に合わせ速度調整"]
    B --> C["血清Kを確認"]
    C -->|"K <3.5 mmol/L"| D["Kを先に補充<br>インスリンを待つ"]
    C -->|"K 3.5~5.0 mmol/L"| E["補液へKを加え<br>インスリン開始"]
    C -->|"K >5.0 mmol/L"| F["補充せず頻回再検<br>インスリン開始"]
    D --> E
    E --> G["血糖低下後はブドウ糖を追加<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketosis'>ケトーシス</span>/浸透圧が解消するまでインスリン継続"]
    F --> G
    G --> H["ケトン体・pH・HCO3−・K・浸透圧<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological findings'>神経所見</span>を反復評価"]
  • 0.9%食塩液またはで補液し、心不全・腎不全・高齢では少量ずつ再評価する。
  • DKAでは短時間作用型インスリン持続静注が基本である。軽症・単純DKAでは監視下の皮下プロトコルを選べる場合がある。
  • HHSではまず補液で循環と浸透圧を是正し、著明ながなければ補液のみで浸透圧低下が止まる時点で固定速度静注インスリンを開始する。混合型ならDKAとして直ちにインスリンを扱う。2
  • 全身Kは枯渇していても初期血清Kは正常~高値になり得る。低Kのままインスリンを始めると不整脈を招く。
  • ブドウ糖が約13.9 mmol/L(250 mg/dL)まで低下したらブドウ糖液を加え、が解消するまでインスリンを止めない。
  • ⚠️ はDKAで一律に投与しない。pH <7.0など極めて重い酸血症でのみ検討する。
  • 誘因の感染、虚血、薬剤中断を同時に治療し、退院前にを重ね、と再発予防を確認する。

糖尿病網膜症

慢性高血糖による毛細破綻、虚血、VEGF増加が進行の幹である。まで無症候のことが多い。

病型 所見 主な治療
、点状出血、、静脈異常 血糖・血圧・脂質管理、重症度に応じ眼科
、線維血管増殖、 抗VEGF、必要なら手術
黄斑部網膜肥厚・浮腫 視力に関わる例は抗VEGFが中心、選択例でレーザー・副腎皮質ステロイド

T2Dは診断時、T1Dは発症後5年以内に初回のを行い、その後は所見と血糖状態に応じ原則年1回とする。がなく血糖・血圧が良好な低リスクT2Dでは、選択例で3~5年まで延長できる。4 妊娠計画時・妊娠早期は速やかに評価する。

糖尿病関連腎臓病

障害からが進む。診断・追跡はUACRとeGFRの2軸で行う。

UACR 分類
<30 mg/g 正常~軽度増加(A1)
30~299 mg/g 中等度増加(A2)
≥300 mg/g 高度増加(A3)
  • T2Dは診断時から、T1Dは罹病5年以上から、少なくとも年1回UACRとeGFRを測定する。
  • は運動、感染、発熱、月経、著明な高血糖・高血圧で一過性に上がる。3~6か月内の複数検体で持続性を確認する。
  • 血糖・血圧を全病期で管理する。高血圧かつUACR ≥30 mg/gではACE阻害薬またはARBを最大量まで用い、両者は併用しない。
  • T2D+CKDではeGFR ≥20 mL/min/1.73 m²を目安にSGLT2阻害薬を腎・目的で用いる。GLP-1受容体作動薬、が残る例のも適応・K・eGFRに応じて検討する。
  • を欠く急速なeGFR低下、、急な蛋白尿増加では他の腎疾患を考える。

糖尿病神経障害と足病変

は、から左右対称に痛み、灼熱感、が始まり、進行すると温痛覚、振動覚、、腱反射を失う。では、安静時頻脈、無痛性などが起こる。

足潰瘍は神経障害、変形・荷重、PAD、感染が重なって生じる。

主体
温かい、動脈拍動を触知、・変形、足底圧部の無痛性潰瘍
虚血性 冷たい、蒼白/色調変化、動脈拍動低下、・辺縁の潰瘍。神経障害がなければ痛いことが多い

診察では皮膚、爪、変形、10 g、振動覚、拍動を確認し、PAD疑いではなどを行う。治療の中心は、適切な、創傷管理、血糖・禁煙、感染時のみの抗菌薬、PADのである。感染していない潰瘍へ予防的抗菌薬を投与しない。壊死、深部感染、虚血では緊急に多職種の足病チームへつなぐ。

大血管合併症の予防

高血糖、、高血圧、喫煙、腎疾患、が動脈硬化を加速する。

  • 生活支援、禁煙、血圧・脂質管理を基盤とし、年齢・ASCVDリスクに応じた強度のスタチンを用いる。
  • T2DでASCVD、心不全、CKDがある場合はHbA1cと使用の有無にかかわらず、予後改善が示されたSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬を選ぶ。
  • アスピリンは既存ASCVDのに用いる。は出血リスクとの比較で選択し、糖尿病だけを理由に一律投与しない。
  • など静注阻害薬は特定の急性冠動脈インターベンションで用いる薬であり、糖尿病の慢性予防薬ではない。

まとめ

  • 低血糖は<3.9 mmol/Lを域、<3.0 mmol/Lを重大低血糖として扱い、重症時は糖尿病型を問わずグルカゴン/を用いる。
  • DKAは+アシドーシス、HHSは高度高血糖+が核で、Kを確認してからインスリンを開始する。
  • DKAでをルーチン投与せず、HHSでは浸透圧をゆっくり補正する。
  • 慢性合併症は眼底、UACR+eGFR、足・神経、ASCVDリスクを定期スクリーニングし、臓器保護薬を病態別に選ぶ。

出典

  1. 1.Hyperglycaemic crises in adults with diabetes: a consensus report(ADA / EASD / JBDS / AACE / DTS・2024)成人DKA・HHSの診断、治療、予防に関する合同コンセンサスを提示した。閲覧 2026-08-09
  2. 2.Management of Hyperosmolar Hyperglycaemic State (HHS) in Adults: An updated guideline from the Joint British Diabetes Societies (JBDS) for Inpatient Care Group(Joint British Diabetes Societies for Inpatient Care Group・2023)HHSでは総浸透圧320 mOsm/kg以上を重視し、著明なケトン血症がなければ補液のみで浸透圧が低下しなくなってからインスリンを開始する。閲覧 2026-08-09
  3. 3.A systematic review of diabetic retinopathy screening intervals(Acta Ophthalmologica・2024)網膜症のない低リスク2型糖尿病では、選択例で検査間隔を3~5年へ延長できる可能性を示した。閲覧 2026-08-09
  4. 4.Management of Individuals With Diabetes at High Risk for Hypoglycemia: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2023)重症低血糖への備えとして、再溶解不要のグルカゴン製剤と構造化教育を推奨した。閲覧 2026-08-09