画像診断学

画像診断学 · 20

婦人科と胎児のMRI

Gynecological and fetal MRI

前提:正常
骨盤・会陰:骨盤内臓呼吸器系:喉頭・気管・気管支・肺体腔:横隔膜の形成

🧠 全体像:婦人科と胎児のMRIは、どちらも「超音波が第一選択で、MRIはその次に使うの検査」という位置づけで統一して理解できる。超音波で性質が決まらない腫瘤、に広がりの評価が要る癌、手術や塞栓術の前の地図づくり、そして超音波で見えにくい胎児——この4つの場面でMRIが呼ばれる。婦人科ではで解剖と広がり、拡散強調で細胞の密な病変、造影で血流を見て、卵巣はO-RADS MRI、はFIGO 2023、はFIGO 2018の枠組みで答えを返す。胎児では被ばくがなく造影剤も使わない超高速が主役になる。MRIの原理はMRIの基礎、超音波はの原理とで扱い、このノートは症例に沿った使い分けと読み方に集中する。

1. 女性骨盤のMRI解剖

のでは、前から順に → 膀胱 → 腟・子宮 → 直腸 → が並ぶ。では膀胱の後方に子宮があり、その両脇に卵巣が見える。

構造 での見え方
膀胱(尿) 均一な高信号
子宮内膜 高信号
接合帯(の) 低信号の帯
の
卵巣 卵胞が小さな高信号の粒として並ぶ
直腸 壁は低信号、内腔はガスで無信号

💡 子宮のが「高・低・中」の3層に見えることが、婦人科MRIのの基本になる。は内膜から筋層へ向かう深さ、は接合帯の厚さ、は筋層の中の境界明瞭な低信号——と、病気ごとにこの層構造のどこが崩れるかを見る。

2. 卵巣腫瘍:症例1

症例:60歳女性。3か月前から腹部膨満・・下腹部の漠然とした不快感が強まっている。診察では軽い腹部膨満と骨盤内の腫瘤を触れる。で、分と豊富な血流をもつ大きなのと腹水を認め、血清CA-125が上昇している。性状の評価と局所ののため骨盤MRIへ紹介された。

2.1 卵巣癌の特徴

  • 組織型は上皮性腫瘍が約70%で最多。ほかに、などがある
  • 症状は非特異的(・・漠然とした腹部症状)で、進行してから見つかりやすい

2.2 付属器腫瘤の検査の流れ

flowchart TD
  A["卵巣腫瘤の疑い"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor markers'>腫瘍マーカー</span>(CA-125・CA19-9・HE4)と超音波"]
  B --> C["超音波で良性<br>かつ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor markers'>腫瘍マーカー</span>上昇なし"]
  B --> D["超音波で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indeterminate'>判定不能</span>"]
  B --> E["超音波で悪性<br>または腹水あり"]
  C --> F["経過観察"]
  D --> G["骨盤MRI"]
  G --> H["良性"]
  G --> I["悪性"]
  I --> J["胸部・腹部・骨盤の造影CT"]
  E --> J
  J --> K{"手術に耐えられるか"}
  K -->|"はい"| L{"完全切除が可能か"}
  L -->|"はい"| M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary debulking surgery, PDS'>一次腫瘍減量手術</span>"]
  L -->|"いいえ"| N["超音波またはCT<span class='jp-term jp-term-diagram' title='image-guided biopsy'>ガイド下生検</span>"]
  K -->|"いいえ"| N
  N --> O["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoadjuvant chemotherapy'>術前化学療法</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='interval debulking surgery'>中間腫瘍減量手術</span>"]

MRIの役目は、超音波で良性とも悪性とも言い切れない腫瘤を振り分けることにある。悪性が明らかなら、MRIを飛ばして全身の広がりを見る造影CTへ進む。

2.3 O-RADS MRIによるリスク分類

O-RADSはの評価と悪性の可能性の見積もりを標準化する分類である。O-RADS MRIは形態・拡散強調・造影パターンを組み合わせ、超音波でな腫瘤を0〜5に分ける。1

スコア リスク 悪性の割合 代表的な所見
0 評価不十分 — 撮像が不十分で判定できない
1 正常卵巣 — 卵巣に病変なし。閉経前の3 cm以下の卵胞・・黄体(出血の有無を問わない)
2 ほぼ確実に良性 0.5%未満 壁の造影がない(内容は問わない)、平滑な壁の単純性・内膜症性の、脂肪を含み造影される分のない病変、でもDWIでも均一な低信号の分、単純な液体を含む拡張卵管、卵巣傍嚢胞
3 低リスク 約5% 蛋白・出血・粘液を含む、脂肪を含まない(平滑な隔壁が造影される)、DCEでのを示す分、拡張卵管(単純でない液体を含み壁・ひだが薄いもの、または単純な液体を含み壁・ひだが厚く平滑なもの)
4 約50% DCEで型の曲線を示す分(DCEが撮れなければ、造影30〜40秒で筋層と同程度以下の造影)、造影される分が大量にある脂肪含有病変
5 高リスク 約90% DCEでの曲線を示す分(DCEが撮れなければ、造影30〜40秒で筋層より強い造影)、腹膜・腸間膜・の結節や(腹水の有無を問わない)

多施設の前向き検証(1,130例)では、悪性(を含む)の割合はスコア2で0.3%、スコア3で5.6%、スコア4で49.2%、スコア5で89.5%であった。2

⭐ 「でもDWIでも暗い分」は良性の。 線維腫やのような線維性の腫瘍がこの見え方をとるため、分があってもスコア2になる。逆に、分がT2で暗くなく、造影で筋層より早く強く染まるほど悪性を考える。

💡 スコアは「分がどう染まるか」で大きく分かれる。 DCEでは、腫瘤の分と子宮の外側筋層のを比べる。1

曲線の型 形 対応するスコア
筋層より緩やかに上がり続け、はっきりした肩ももない 3
型 筋層と同程度以下の傾きで、肩とがある 4
筋層よりに、肩とがある 5

2.4 この症例の結論と治療

  • に富む大きなで、分はで高信号を示し、造影パターンと合わせてO-RADS MRI 5(高リスク)と判定された
  • 病理は
  • 治療:で肉眼的なをなくす(R0)→ 術後に+の化学療法

関連:卵巣癌、の病期・治療・病理

3. 子宮体癌:症例2

症例:39歳女性。1年前から月経が不規則な出血を繰り返す。は異常なし。で子宮は正常大・で、子宮内膜の厚さは18 mm、卵巣は正常。内膜の組織採取(子宮内膜)でグレード2のと診断され、局所ののため骨盤MRIが行われた。

3.1 子宮体癌の特徴

  • 先進国で最も多い婦人科の悪性腫瘍
  • が最も多い初発症状であるため、早い病期で見つかりやすい
  • 治療は手術が中心

3.2 FIGO 2023の病期分類

FIGO 2023は、組織型・分子分類・解剖学的な広がりを組み合わせる。病期はもはや解剖だけでは決まらない。3

病期 の組織型(グレード1・2の) 侵襲性の組織型(グレード3の、、、様癌、胃、、、混合型など)
I期 IA1:ポリープ内または内膜内に限局
IA2:筋層浸潤が2分の1未満で、はないか限局的
IA3:子宮と卵巣に限局するの(下の4条件をすべて満たすもの)
IB:筋層浸潤が2分の1以上で、はないか限局的
IC:ポリープ内または内膜内に限局
II期 IIA:への浸潤
IIB:広範な(5本以上の脈管に及ぶ)
IIC:筋層浸潤があるもの(深さを問わない)

IA3は、卵巣へ広がったIIIA1期と区別するため、①筋層浸潤が2分の1未満、②広範ながない、③ほかに転移がない、④卵巣の腫瘍が片側で卵巣内にとどまり・破綻がない、の4条件をすべて満たす場合に限る。

III・IV期は組織型を問わない。

病期 定義
IIIA1・IIIA2 卵巣・卵管への進展(IA3を除く)、子宮・漿膜への進展
IIIB1・IIIB2 腟・への進展、骨盤腹膜への転移
IIIC1・IIIC2 、腎血管の高さまでの転移(それぞれと肉眼的転移に分ける)
IVA 膀胱粘膜・腸粘膜への浸潤
IVB 骨盤を越える
IVC 遠隔転移(腎血管より上のリンパ節、肺、肝、脳、骨など)

分子分類(・・特異的分子異常なし・)が分かっている場合は病期に付記する。I・II期のうち、でに限局するか頸部へ進展するもの(・組織型を問わない)は予後良好としてIAm_POLE、でに限局し筋層浸潤があるもの(頸部浸潤の有無・・組織型を問わない)は予後不良としてIICm_p53abnとする。3

3.3 MRIが答えること

⚠️ 最終的なは手術・病理・分子分類で決まり、「MRI病期」ではない。 は手術で病期を決め、病理で組織型・グレード・を調べる。3 MRIの役目は術前の局所評価で、手術範囲やリンパ節の扱いを決める材料になる。

MRIで評価する項目:

  • 筋層浸潤の深さ(2分の1未満か以上か)——最も重要
  • への浸潤
  • 子宮外への進展
  • リンパ節(腫大・異常な形態)

筋層浸潤の深さは、で内膜側の筋層の境界から腫瘍の最深部までの距離を、筋層全体の厚さと比べて判断する。では腫瘍が高信号となり、造影では正常筋層より弱く染まるため、境界を見分ける助けになる。

3.4 この症例の結論と治療

  • グレード2ので、腫瘍が筋層の2分の1以上に達する → MRI上のFIGO IB
  • 治療:の術、両側、

関連:、の病期・治療・病理

4. 子宮頸癌:症例3

症例:58歳女性。閉経後の出血、血性の、骨盤部の不快感を訴える。で頸部に大きくもろい腫瘤があり、生検で扁平上皮癌と診断された。

検査 所見
頸部全体を置き換える60×73 mmの腫瘍、両側の浸潤、前方へ進展し浸潤の疑い、頸部の閉塞による20 mmの、豊富な血流
腹部超音波 左のグレード3の水腎症

→ 局所ののため骨盤MRIへ。

4.1 子宮頸癌の特徴

  • 典型的な症状は異常な性器出血
  • 組織型は扁平上皮癌が大半
  • HPVのと強く関連し、HPVワクチンと定期的な頸がん検診でほぼ予防できる癌である
  • 局所のではMRIが第一選択。腫瘍径、・腟への浸潤、、膀胱・直腸、水腎症、リンパ節を評価する
  • FIGO 2018から、画像と病理の所見を病期に取り入れるようになった4

4.2 FIGO 2018の病期分類

表の定義はFIGO 2018による。4

病期 定義 MRIでの目のつけどころ
IA 癌で浸潤の深さ5 mm未満 MRIでは見えない
IB1・IB2・IB3 浸潤の深さ5 mm以上で頸部に限局。腫瘍径2 cm未満・2〜4 cm未満・4 cm以上 腫瘍の最大径
IIA1・IIA2 腟の上3分の2まで、浸潤なし。腫瘍径4 cm未満・4 cm以上 腟壁の低信号の途切れ
IIB 浸潤 を囲む低信号の輪の、傍組織への突出
IIIA 腟の下3分の1に浸潤、には達しない 腟の下部
IIIB に達する、または水腎症・ 尿管の拡張、との間の脂肪の消失
IIIC1・IIIC2 ・転移(画像で判定したら r、病理で確認したら p を付ける) リンパ節の腫大・形態
IVA 膀胱・直腸の粘膜への浸潤(生検で確認) 膀胱・直腸の壁の低信号の
IVB 遠隔転移 —

⚠️ 膀胱粘膜の浮腫(胞状浮腫)だけではIVA期にしない。 IVA期は生検で確かめた粘膜浸潤が必要である。4

4.3 この症例の結論と治療

  • 広範な頸部腫瘍が両側のに浸潤し、左の水尿管と水腎症(グレード3)を起こしている
  • 膀胱への浸潤
  • 左に病的なリンパ節
  • 最も進んだ所見で病期が決まるため、FIGO IVA期
  • 治療:
flowchart TD
  A["両側の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parametrium'>子宮傍組織</span>浸潤"] --> B["IIB期に相当"]
  C["左の水腎症"] --> D["IIIB期に相当"]
  E["左<span class='jp-term jp-term-diagram' title='obturator lymph node'>閉鎖リンパ節</span>の転移"] --> F["IIIC1期に相当"]
  G["膀胱への浸潤"] --> H["IVA期に相当"]
  B --> I["最も進んだ所見で決める"]
  D --> I
  F --> I
  H --> I
  I --> J["FIGO IVA期 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='concurrent chemoradiotherapy, CRT'>同時化学放射線療法</span>"]

関連:、の病期・治療・病理

5. 子宮内膜症と子宮腺筋症:症例4

症例:35歳女性。数年来、進行する、、がある。での圧痛と子宮の可動性低下を認める。

5.1 子宮内膜症の特徴

項目 内容
病態 子宮内膜に似た組織が子宮外にある。説が最有力だが、は多因子
疫学 生殖年齢女性の約10%とされる。一般女性での推定は2〜10%、不妊女性では最大50%と幅がある5
症状 、、、、、不妊。症状の強さと病変の広がりは一致しないことがある
3つの病型 表在性腹膜病変、性嚢胞、
治療 症状・広がり・・薬物療法への反応に応じて個別化。主にホルモン抑制による薬物療法、手術、またはその組み合わせ

5.2 MRIの位置づけ

が疑われるときの第一選択の画像検査はで、MRIは二次検査である。の術前評価では、超音波でが出ないときにMRIを行う。6 画像検査(超音波またはMRI)は診断に用いるべきだが、所見がなくても、特に表在性の腹膜病変は否定できない。5

MRIを行うのは次のような場合:

  • で診断がつかない
  • で所見がないのに症状がある
  • 手術やの対象となる患者で、術前に広がりをしたい
  • 手術後も症状が続く

ほとんどの部位で、MRIの診断精度はと同程度である。

撮像の準備と方法:絶食し、膀胱は中等度に充満させ、で腸の動きを抑える。を・横断・の3方向で撮り、付属器の病変にはをなしとありで撮る。腟・直腸へのゲル充填は施設の選択による。6

病型 MRIの典型像
性嚢胞 古い血液を含むためでも高信号のまま残る(脂肪を含むとの区別)。では濃縮した血液のため信号が低下する
線維化を反映してで低信号の不整な結節・板状の肥厚。子宮後面と直腸の間()、、直腸、膀胱などに生じ、臓器どうしを引きつける

は直腸・膀胱・骨盤の神経のいずれにも及びうる。

5.3 子宮腺筋症

項目 内容
定義 子宮内膜組織がの中にある状態
MRIの役割 のための検査
診断精度 MRIで感度77%・特異度89%(は感度72%・特異度81%)7
準備と撮像法 と同じ
形態 びまん性に広がる典型型と、・嚢胞型などの非典型型がある
治療 薬物療法、または手術(、子宮を温存する術式)

典型型では、で接合帯がびまん性に厚くなり、その中に点状の高信号(異所性の内膜や小さな出血)が散らばる。子宮は全体に腫大するが、筋腫と違って境界ははっきりしない。

関連:、と

6. 子宮筋腫:症例5

症例:42歳女性。・・強まる骨盤の圧迫感を訴える。がある。で子宮は腫大し形が不整。で多発筋腫を認め、優位なの腫瘤もあるが、病変と子宮内腔との関係が評価しにくい。→ 詳しい位置のと治療計画のため骨盤MRIへ。

6.1 子宮筋腫の特徴

  • から生じる良性ので、子宮で最も多い良性腫瘍
  • 生殖年齢に非常に多く、ホルモン依存性で、閉経後はふつう縮小する
  • 症状:、・圧迫感、不妊や妊娠中の合併症。無症状のことも多い
  • 治療:経過観察または薬物療法 → 子宮を温存する処置(、)→ 。症状・・病変の量で選ぶ

6.2 位置が治療を決める:FIGO分類

筋腫の位置は、内膜と漿膜との関係でタイプ0〜8に分ける。8

タイプ 位置
0 で子宮内腔にある
1 、にある部分が50%未満
2 、にある部分が50%以上
3 内膜に接するが、全体が
4 (内膜にも漿膜にも接しない)
5 、にある部分が50%以上
6 、にある部分が50%未満
7 の
8 その他(頸部、など)
2-5 混合型:にもにも突出し、どちらも50%未満

💡 タイプの数字が小さいほど内腔寄りになる。 内腔に突出する筋腫ほど子宮腔を変形させ、や不妊に関わりやすい。超音波で「内腔との関係が分からない」ときにMRIが呼ばれるのは、この分類を決めて治療法を選ぶためである。

6.3 MRIで見ること

MRIは個数・大きさ・位置・性状を正確に示し、特に治療計画に向く。

  • 典型的な筋腫は、で境界明瞭な低信号の腫瘤
  • 造影で血流を確かめる(の効果予測、変性の有無)
  • ・ADCで、典型的な筋腫と違う見え方をする病変を拾い上げる

関連:、子宮の良性疾患

7. 胎児MRIの基本

7.1 位置づけ

  • 超音波を補う検査であり、置き換えるものではない。一次スクリーニングには使わず、超音波の所見が異常・あいまい・不十分なときに、確認や追加の情報を得るために行う9
  • を使わず、軟部組織のに優れる
  • 造影剤を使わなければ、妊娠のどの時期でも胎児へのは知られていない。妊娠18週より前は超音波以上の情報が得られないことが多く、妊娠中期の後半か後期に行うのがよい9
  • 最大の障害は。数秒で撮り終える超高速の撮像法が欠かせない

7.2 主な撮像法

撮像法 役割
高速エコー(装置によりHASTE・SSFSEと呼ばれる) 主役となる撮像法。胎児の解剖と、液体と組織のに優れる
脂肪、出血、肝臓、胎便(胎便は高信号)
・ADC 脳の成熟、虚血、一部の病変について追加の情報
に敏感な撮像 出血(血液成分)の検出

⚠️ はルーチンに使わない。 は胎盤を通過し、胎児への安全性が確立していないため、妊娠中は原則として避ける。どうしても必要なときに限り、利益が未知のリスクを上回る場合に低リスク製剤を最小量で用いる。10

7.3 適応と、超音波の後にMRIを行う理由

よくある適応

  • 中枢神経系の異常——群を抜いて最も多い適応
  • 顔面・頸部の異常
  • 胸部の異常
  • 腹部・骨盤の異常
  • 複雑な、超音波が技術的に難しいときの評価

超音波の後にMRIを行う理由

  • 視野が広く、軟部組織のに優れる
  • 母体の肥満、、の影響を受けにくい
  • 特に胎児の脳の詳しい評価に向く

💡 超音波は骨や母体ので音が遮られ、羊水が少ないと胎児の輪郭が見えにくくなる。MRIはこうした条件に左右されにくいため、「超音波で見えない」ときの答えになる。

7.4 ハンガリーの法制度と検査のタイミング

ハンガリーの胎児生命保護法では、胎児に遺伝性・催奇形性の障害がある可能性が50%に達する場合、は妊娠20週まで、診断の手続きが長引いた場合は24週まで可能である。胎児に出生後の生存と両立しない異常がある場合は、妊娠週数を問わない。11の結果が方針に関わる場合、この期限を意識して検査の時期を決める。

8. 胎児MRIの読み方:症例6(先天性肺気道奇形)

症例:27歳の妊婦。妊婦健診の超音波で異常を指摘されへ紹介された。

超音波所見 主な
右肺が著明に腫大し 片側の肺無形成・低形成
左肺が同定しにくい ・
心臓の著明な左方偏位(心軸約80°)、大きなはない
胸部から腹部にかけての大きな腫瘤
軽度の
の動静脈短絡の疑い

→ 性状の評価と合併異常の検索のためへ。

は、全体 → 脳 → 胸部 → 腹部・骨盤の順に見ていく。

flowchart TD
  A["全体像:胎児・胎盤・母体骨盤"] --> B["胎児の脳:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='T2-weighted image'>T2強調像</span>"]
  B --> C["胎児の脳:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='T1-weighted imaging'>T1強調</span>・拡散強調・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic susceptibility'>磁化率</span>強調"]
  C --> D["胎児の胸部:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='T2-weighted imaging'>T2強調</span>(HASTE)"]
  D --> E["肺容積の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='measuring'>計測</span>"]
  E --> F["胎児の腹部・骨盤"]

8.1 全体像:胎児・胎盤・母体骨盤

評価項目 この症例
と内臓の配置 頭位、正常な内臓配置
胎盤の位置と形態 付着、を示す所見なし
臍帯(血管の数と付着部) 3血管、中央付着
(100 mm)
子宮頸部 頸管長約20 mm、は閉鎖
母体骨盤の異常 —

8 cm以上がの目安である。12 大きな胸部腫瘤が食道を圧迫すると胎児が羊水を飲み込みにくくなり、の原因になる。

8.2 胎児の脳(T2強調像)

評価項目 この症例
:・・、頭の形 92 mm、102 mm、314 mm。頭長幅指数90 → 軽い
の房部の幅は両側7 mm → 正常
:、 あり、は完全
皮質の発達:・の形成 31週6日相当で週数に合う
弁蓋化・ —
:小脳・・ 正常
脳幹と 正常
の 軽いびまん性の拡大
  • 頭長幅指数は「÷×100」で、この症例では92÷102×100≒90となる。値が大きいほど頭が前後に短く丸い
  • の房部の幅は、妊娠期間を通じて10 mm未満が正常である。それ以上はとして精査する13
  • ・の形成は妊娠週数とともに進むため、週数に見合っているかを確かめる

8.3 胎児の脳(追加の撮像法)

撮像法 使う理由 この症例
出血、脂肪、成熟に伴って信号が変わる構造 実質の信号異常なし
+ADC 本当の、特に虚血性の損傷の検出 なし
に敏感な撮像 血液成分の検出 なし

局所の脳病変も認めない。

8.4 胎児の胸部(T2強調 HASTE)

評価項目 この症例
胸郭の形と容積 —
横隔膜の 保たれている → は否定
肺の大きさと信号 左肺はされ、正常な右肺はわずかしか残らない
肺の局所病変 右側の大きな病変(62×56×83 mm)
嚢胞性か、・か 主に・
と心臓の位置 高度の左方偏位
肺血管との関係 右肺動脈の枝が病変の中を走る。大動脈からの体循環系のは同定されない
胸水・ なし

を所見で一つずつ絞り込む。

鑑別 決め手となる所見 この症例
横隔膜の途切れ、の腸管・肝臓 横隔膜は連続 → 否定
大動脈から直接の 同定されない → 考えにくい
片側の肺無形成・低形成 患側の胸郭が小さく、縦隔が患側へ寄る 右胸郭は腫瘤で膨らみ、縦隔はへ押される → 否定
肺動脈から血流を受ける、嚢胞性〜の肺内腫瘤 合致

8.5 肺容積の計測

目的:残っている正常肺の量を数値で示し、を評価し、予後の判断と経過観察に使う。在胎週数に応じた肺容積の正常値は、肺病変があるときの予後の予測に使われる。9

項目 この症例
正常な右肺 8.59 mL
左肺 9.76 mL
正常肺の合計 18.35 mL
31週前後の期待値の平均 66.2 mL
下限の参照値 25.2 mL
判定 正常肺の総容積が高度に減少(期待値の約28%で、下限も下回る)

8.6 先天性肺気道奇形とは

  • の発生異常による
  • ふつう片側・1葉に限られる
  • 出生前の見え方はから・まで幅がある。は超音波では一つひとつの嚢胞として見えず、均一なの塊に見える
  • 大きな病変は、、、を起こしうる
  • 主な画像検査は超音波で、は解剖を明らかにし、残存肺の容積を定量して超音波を補う
flowchart TD
  A["大きな<span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital pulmonary airway malformation (CPAM)'>先天性肺気道奇形</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mediastinal shift'>縦隔偏位</span>"]
  A --> C["食道の圧迫"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unaffected side (contralateral)'>健側</span>・患側の正常肺の圧迫"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary hypoplasia'>肺低形成</span>"]
  B --> F["心臓・大静脈の圧迫"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired venous return'>静脈還流障害</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrops fetalis (fetal hydrops)'>胎児水腫</span>(腹水・胸水・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subcutaneous edema'>皮下浮腫</span>)"]
  C --> H["羊水の嚥下障害 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyhydramnios'>羊水過多</span>"]

関連:、

8.7 胎児の腹部・骨盤

評価項目 内容
内臓の配置と腹部臓器 肝臓、胆嚢、脾臓、胃
尿路 腎臓、膀胱
腸管 太さ、分布、胎便の信号(で高信号)
腹壁と横隔膜 欠損の有無
遊離液・腹水 量
異常な血管構造 短絡など

この症例:腹部の解剖と胎便の分布は正常。少量の腹水があり、経過観察で減少した。

9. 試験で問われるポイント

問い 答え
O-RADSの主な目的は 付属器病変の評価と悪性リスクの層別化の標準化(の決定や治療効果の予測ではない)
成人ので最も多い分類は 上皮性腫瘍
新たに診断されたで骨盤MRIの最も重要な役割は 局所の広がりと筋層浸潤の深さの評価(組織グレードや分子型はMRIでは決まらない)
のでMRIがルーチンに評価しないものは の形態(筋層浸潤・・リンパ節は評価する)
ので第一選択の画像検査は MRI
のMRIで評価すべき項目は ・腟・膀胱と直腸への浸潤のすべて
が疑われるときの第一選択の画像検査は
が及びうる構造は 直腸・膀胱・骨盤の神経のすべて
最も多い婦人科の良性腫瘍は
症候性のに使えるは
でをルーチンに使うか 使わない(妊娠中は原則として避ける)
で最も多い適応は 中枢神経系の異常の疑い

まとめ

  • 婦人科・胎児のいずれでも超音波が第一選択、MRIはの二次検査である。子宮はで内膜(高)・接合帯(低)・筋層(中)の3層に見え、病気ごとにこの層構造のどこが崩れるかを見る。
  • :超音波でな腫瘤をO-RADS MRI 0〜5で層別化する(悪性の割合はスコア2で1%未満、3で約5%、4で約50%、5で約90%)。T2・DWIとも暗い分は良性寄り、筋層より強く早く染まる分と腹膜病変は悪性寄り。
  • :FIGO 2023は組織型・分子分類・解剖を統合する。MRIは筋層浸潤の深さ(2分の1未満か以上か)、、、リンパ節を術前に示すが、最終病期は手術・病理・分子分類で決まる。
  • :FIGO 2018は画像と病理を病期に取り入れ、MRIがの第一選択。浸潤はIIB、水腎症はIIIB、リンパ節転移はIIIC、膀胱・直腸の粘膜浸潤はIVAで、最も進んだ所見で病期を決める。
  • :第一選択はで、MRIは所見が合わないときや術前に使う。はT1で高信号、はT2で低信号の。はMRIで感度77%・特異度89%。
  • :最も多い良性腫瘍。FIGOタイプ0〜8で内膜・漿膜との関係を示し、MRIは個数・大きさ・位置・性状を示して・・の計画に使う。
  • :超音波を補う検査で、妊娠中期以降に超高速(HASTE・SSFSE)を中心に撮り、は使わない。最も多い適応は中枢神経系。全体 → 脳 → 胸部 → 腹部の順に読む。
  • の症例:横隔膜が保たれ(を否定)、大動脈からのがなく(分画症を否定)、肺動脈の枝が走る・の肺腫瘤。肺容積で正常肺が期待値の約28%と高度に減少し、の評価と予後判断に用いる。

出典

  1. 1.O-RADS MRI Risk Stratification System: Guide for Assessing Adnexal Lesions from the ACR O-RADS Committee(Radiology・2022)PMC(PMC8962917)の全文で確認した。スコア1(閉経前の3 cm以下の卵胞・出血性嚢胞・黄体は病変とみなさない)、スコア2(悪性の陽性的中率0.5%未満。壁の造影がない単房性嚢胞、T2強調像と高b値DWIの両方で均一な低信号の充実部分など)、スコア3(約5%。蛋白・出血・粘液を含む壁の造影される単房性嚢胞、脂肪を含まない多房性嚢胞、低リスク型の時間信号曲線、単純でない液体または厚い壁・ひだの拡張卵管)、スコア4(約50%。中間リスク型曲線、DCEが無ければ造影30〜40秒で外側筋層と同程度以下)、スコア5(約90%。高リスク型曲線または腹膜・大網の播種、DCEが無ければ外側筋層より強い造影)の定義と、低リスク型(筋層より緩やかに上昇し肩もプラトーもない)・中間リスク型(筋層と同程度以下の傾きで立ち上がり肩とプラトーがある)・高リスク型(筋層より急峻に立ち上がり肩とプラトーがある)の時間信号曲線の定義閲覧 2026-09-30
  2. 2.Ovarian-Adnexal Reporting Data System Magnetic Resonance Imaging (O-RADS MRI) Score for Risk Stratification of Sonographically Indeterminate Adnexal Masses(JAMA Network Open・2020)Europe PMCの全文(PMC6991280)の本文と表で確認した。超音波で判定不能な付属器腫瘤の多施設前向き研究で評価可能な1,130例に経験のある読影者がスコアを付け、悪性(境界悪性を含む)の割合がスコア2で0.3%(2/571)、スコア3で5.6%(12/213)、スコア4で49.2%(60/122)、スコア5で89.5%(119/133)、AUCが0.961であったこと閲覧 2026-09-30
  3. 3.FIGO staging of endometrial cancer: 2023(International Journal of Gynecology & Obstetrics・2023)発行元の全文ページ(Wayback Machineの2024年保存版、2026-09-30取得)の抄録・Table 1・Table 2と脚注で確認した。IA1〜IC・IIA〜IIC・IIIA1〜IVCの定義、IA2とIBが脈管侵襲なし〜限局的に限られること、IA3の4条件、広範な脈管侵襲を5本以上の脈管と定義すること、侵襲性の組織型の範囲、子宮体癌は手術で病期を決め病理で調べること、分子分類が分かればI・II期のPOLE変異型をIAm、筋層浸潤のあるp53異常型をIICmとすること閲覧 2026-09-30
  4. 4.Revised FIGO staging for carcinoma of the cervix uteri(International Journal of Gynecology & Obstetrics・2019)発行元の全文ページ(Wayback Machineの2025-06-11保存版、2026-09-30取得)のBox 1で確認した。IA(深さ5 mm未満、IA1は3 mm未満、IA2は3 mm以上5 mm未満)、IB1〜IB3(2 cm未満・2〜4 cm未満・4 cm以上)、IIA1・IIA2、IIB、IIIA、IIIB(骨盤壁または水腎症・無機能腎)、IIIC1・IIIC2(rとpの表記)、IVA(生検で確認した膀胱・直腸粘膜浸潤。胞状浮腫だけではIV期にしない)、IVBの定義と、全病期で画像と病理を腫瘍径・広がりの評価に使えること閲覧 2026-09-30
  5. 5.ESHRE guideline: endometriosis(Human Reproduction Open・2022)Europe PMCの全文(PMC8951218)で確認した。子宮内膜症の診断に画像検査(超音波またはMRI)を用いることを強く推奨し、画像で所見がなくても特に表在性腹膜病変は否定できないこと、有病率の推定は一般女性で2〜10%、不妊女性で最大50%であること閲覧 2026-09-30
  6. 6.European society of urogenital radiology (ESUR) guidelines: MR imaging of pelvic endometriosis(European Radiology・2017)Europe PMCの全文(PMC5486785)の推奨文で確認した。超音波で結論が出ない深部子宮内膜症の術前評価でMRIを二次検査として推奨すること(推奨度A)、絶食(B)・中等度の膀胱充満(C)・鎮痙薬(C)、T2強調の2D撮像を矢状断・横断・斜位の3方向(B)、付属器病変にT1強調を脂肪抑制なし・ありで(B)撮ること、腟・直腸のゲル充填はオプションであること閲覧 2026-09-30
  7. 7.Ultrasound scan and magnetic resonance imaging for the diagnosis of adenomyosis: systematic review comparing test accuracy(Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica・2010)抄録(Crossref経由)で確認した。組織診断を基準とした23研究(2,312例)のメタ解析で、子宮腺筋症の診断精度がMRIで感度77%・特異度89%、経腟超音波で感度72%・特異度81%であったこと閲覧 2026-09-30
  8. 8.The feasibility of high-resolution organ-axial T2-weighted MRI when combined with federation of gynecology and obstetrics (FIGO) classification of uterine fibroid patients(Abdominal Radiology・2025)Europe PMCの全文(PMC12267375)のFig. 3の説明で確認した。FIGOの子宮筋腫分類タイプ0(有茎性で内腔)〜8(頸部・寄生性などその他)と、2-5の混合型(粘膜下も漿膜下も50%未満)の定義。FIGO原典(Munro 2018)の本文は購読制で読めなかったため、分類を再掲したこの論文を出典とした閲覧 2026-09-30
  9. 9.ISUOG Practice Guidelines (updated): performance of fetal magnetic resonance imaging(Ultrasound in Obstetrics & Gynecology・2023)Europe PMCの全文(PMC10107509)で確認した。胎児MRIの目的は熟練者の超音波を補うことで一次スクリーニングには使わないこと、造影剤を使わなければ妊娠のどの時期でも既知の胎児への有害作用はないこと、18週より前は超音波以上の情報が得られないことが多く妊娠中期の後半か後期に行うのがよいこと、T1強調像で亜急性出血・石灰化・甲状腺・胎便が高信号になること、在胎週数に応じた肺容積の正常値が肺病変の予後予測に使われること閲覧 2026-09-30
  10. 10.ACR Manual on Contrast Media(American College of Radiology・2026)2026-09-25に発行元PDFの全文で確認した内容(同じ出典を持つ05-basics-of-mriの記録)。妊娠中はガドリニウム造影剤のルーチン投与を避け、利益が未知のリスクを上回るときに限り低NSFリスク製剤を最小量で用いること閲覧 2026-09-25
  11. 11.1992. évi LXXIX. törvény a magzati élet védelméről(Hungarian Parliament・1992)法令本文(net.jogtar.huの現行条文、2026-09-30取得)の6条で確認した。胎児の遺伝性・催奇形性の障害の可能性が50%に達する場合は妊娠20週まで(診断手続きが長引いた場合は24週まで)、出生後の生存と両立しない胎児の異常がある場合は妊娠週数を問わず中絶できること閲覧 2026-09-30
  12. 12.SMFM Consult Series #46: Evaluation and management of polyhydramnios(American Journal of Obstetrics and Gynecology・2018)抄録とConsensusの全文抜粋で確認した。単胎の羊水過多を最大羊水深度8 cm以上または羊水指数24 cm以上と定義すること(GRADE 2C)閲覧 2026-09-30
  13. 13.ISUOG Practice Guidelines (updated): sonographic examination of the fetal central nervous system. Part 1: performance of screening examination and indications for targeted neurosonography(Ultrasound in Obstetrics & Gynecology・2020)Consensusの全文抜粋(Technical advice)で確認した。側脳室の房部の幅は内側から内側で測り、妊娠期間を通じて10 mm未満であるべきこと(推奨度C)閲覧 2026-09-30