病理学

病理学 · B/12

エピジェネティック変化(DNAメチル化・マイクロRNA)と発癌

Epigenetic changes (DNA methylation, MicroRNAs) and role in carcinogenesis

タグ
Mechanism / 機序High-yield / ポイント
薬剤
エナシデニブ

🧠 全体像:な変化は「配列を変えずに遺伝子発現を書き換える」という一点で・の変異と一線を画す。可逆的であるがゆえに、DNMT阻害薬・阻害薬という「読み書きを巻き戻す」治療戦略が成り立つ。

概念

= 配列を変えずに遺伝子発現が遺伝的かつ可逆的に変化すること。主な機序:メチル化、、。可逆性ゆえに薬剤の標的となる——メチル化阻害薬(・)、阻害薬、阻害薬が実際に使われている。高リスク358例の第III相では、が従来治療より中央値を延長した(24.5か月対15.0か月、0.58)1。

DNAメチル化

  • プロモーターののシトシンにが付加される(メチルトランスフェラーゼによる)→ 転写のサイレンシング2。
  • プロモーターのがをサイレンシング:
  • 全体的な → +の活性化——プロモーターの(局所的)とは逆向きの、ゲノム全体(バルク)でのメチル化低下である。癌でのを最初期に示した研究は、放射線・化学療法を受けていない患者のヒトを隣接する正常組織と比べ、5例中4例で癌側の遺伝子に顕著なを認めた(1例ではでさらに進行していた)4。その後、局所的なと全体的なという逆向きの変化が同じ腫瘍に併存しうることが知られるようになった。
  • MGMT()遺伝子のは、などのに対する感受性を予測する実地臨床のである。206例の45%でMGMTプロモーターがメチル化されていた。メチル化例では放射線療法へので生存期間中央値が21.7か月対15.3か月と延長した一方、非メチル化例では治療群間の差は小さく統計学的に有意ではなかった5。
  • IDH1/IDH2遺伝子の変異は2-ヒドロキシグルタル酸()という異常を新生的に産生し、・ヒストンの過剰メチル化との停止をもたらす。再発・治療抵抗性のIDH2を対象にした第I/II相試験では、選択的IDH2阻害薬エナシデニブのが40.3%で、はの分化・成熟を伴っていた6。

マイクロRNA(miRNA)

  • 転写後に遺伝子発現を負に制御する、小さな非コード。
  • プロセシング:pre-miRNAが核から輸出 → Dicerで切断 → 成熟miRNA → RISCに取り込まれる → 標的mRNAと形成 → 切断または翻訳抑制。
  • 癌において:
    • 腫瘍抑制性miRNAの喪失 → 標的の(例:miRNA欠失 → 白血病・リンパ腫でBCL2増加)。代表例は13q14に位置するmiR-15a/miR-16-1の欠失・発現低下で、でBCL2発現の上昇とすることが示されている7。let-7ファミリーも腫瘍抑制性miRNAの代表例で、標的RASの3’UTRに結合して発現を抑えるが、肺腫瘍組織ではlet-7の発現が低くRASタンパク量が高いというが報告されている8。
    • したoncomiR(例:miR-21)→ を抑制。の腫瘍組織・ではmiR-21が非腫瘍性脳組織と比べて著明にしており、miR-21をするとカスパーゼが活性化しアポトーシスが増える——抗アポトーシス的に働くoncomiRの代表例である9。

ヒストン修飾

  • ヒストンのがクロマチンの充填を制御。になるととなりうる。
  • アセチル化(がクロマチンを開き、が閉じる)、メチル化(リジン、SETドメインタンパク)、リン酸化。

💡 ポイント: = 遺伝的・可逆的、配列変化なし。がをサイレンシング(BRCA1、MLH1、p16)、全体的 → 不安定性。miRNA:腫瘍抑制性miRNAの喪失 → 増加、oncomiR(miR-21)→ 抑制遺伝子減少。ヒストン:/によるアセチル化。可逆性 → DNMT/阻害薬。

まとめ

  • 変化は配列を変えずに遺伝子発現を遺伝的・可逆的に変化させ、主な機序はメチル化、、の3つ。
  • プロモーターののは(RB、BRCA1、CDKN2A/p16、MLH1)をサイレンシングし、全体的なはと活性化を招く。
  • は腫瘍抑制性miRNAの喪失(の)と、oncomiR(例:miR-21)の(の抑制)の両方向で発癌に関わる。
  • (/によるアセチル化、メチル化、リン酸化)はクロマチンのを制御する。
  • 変化が可逆的であるため、DNMT阻害薬・阻害薬が治療標的になる。

出典

  1. 1.Efficacy of azacitidine compared with that of conventional care regimens in the treatment of higher-risk myelodysplastic syndromes(The Lancet Oncology・2009)高リスク骨髄異形成症候群患者358例を対象にした第III相ランダム化比較試験で、アザシチジン群の全生存期間中央値が24.5か月、conventional care群が15.0か月であり(ハザード比0.58)、DNAメチル化阻害薬アザシチジンが実地臨床で生存期間を延長したこと閲覧 2026-08-27
  2. 2.DNA methylation and cancer(Advances in Genetics・2010)哺乳類のDNAメチル化は主にCpGジヌクレオチドのシトシンに生じ、プロモーターの高メチル化が遺伝子のサイレンシング(転写抑制)に関与すること閲覧 2026-08-27
  3. 3.Methylation of the hMLH1 promoter correlates with lack of expression of hMLH1 in sporadic colon tumors and mismatch repair-defective human tumor cell lines(Cancer Research・1997)散発性大腸腫瘍66例中hMLH1を発現しない4例すべてでhMLH1プロモーター領域のシトシンメチル化が認められ、hMLH1を発現する9例および隣接正常組織ではメチル化がみられなかったこと。DNAメチル化が散発性腫瘍におけるミスマッチ修復遺伝子不活化の一般的な様式であることを示したこと閲覧 2026-08-27
  4. 4.Hypomethylation distinguishes genes of some human cancers from their normal counterparts(Nature・1983)放射線・化学療法歴のない患者由来のヒト原発腫瘍組織を隣接する正常組織と比較したところ、5例中4例(2つの組織型)で腫瘍側の顕著な低メチル化が認められ、うち1例では転移巣でさらに低メチル化が進行していたこと閲覧 2026-08-27
  5. 5.MGMT gene silencing and benefit from temozolomide in glioblastoma(The New England Journal of Medicine・2005)抄録で確認した。膠芽腫206例の45%でMGMTプロモーターがメチル化されており、治療法によらずMGMTプロモーターメチル化が独立した良好な予後因子であったこと。メチル化例ではテモゾロミド併用群の生存期間中央値が21.7か月、放射線単独群が15.3か月(P=0.007)であった一方、非メチル化例では治療群間の差は小さく統計学的に有意ではなかったこと(結論では、非メチル化例はそのような利益を得なかったとまとめている)閲覧 2026-08-27
  6. 6.Enasidenib in mutant IDH2 relapsed or refractory acute myeloid leukemia(Blood・2017)変異型IDH2蛋白が新生的に2-ヒドロキシグルタル酸を合成し、DNA・ヒストンの過剰メチル化と細胞分化の停止をもたらすこと。選択的変異型IDH2阻害薬エナシデニブの第I/II相試験で、再発・治療抵抗性急性骨髄性白血病患者の奏効率が40.3%であり、寛解は骨髄芽球の分化・成熟を伴っていたこと閲覧 2026-08-27
  7. 7.miR-15 and miR-16 induce apoptosis by targeting BCL2(Proceedings of the National Academy of Sciences・2005)慢性リンパ性白血病(CLL)の大多数の症例で13q14に位置するmiR-15a・miR-16-1が欠失または発現低下しており、その発現がBCL2発現と逆相関すること。両miRNAがBCL2を転写後レベルで負に制御し、白血病細胞株でのBCL2抑制を介してアポトーシスを誘導すること閲覧 2026-08-27
  8. 8.RAS is regulated by the let-7 microRNA family(Cell・2005)ヒトRAS遺伝子群の3'UTRにlet-7相補配列が複数存在しlet-7による発現制御を受けること。肺腫瘍組織では正常肺組織と比べてlet-7発現が低い一方でRASタンパク量は有意に高く、let-7が癌抑制性miRNAとして働きうる機序を示したこと閲覧 2026-08-27
  9. 9.MicroRNA-21 is an antiapoptotic factor in human glioblastoma cells(Cancer Research・2005)ヒト膠芽腫の腫瘍組織・初代培養・6種の細胞株でmiR-21が非腫瘍性の脳組織・培養グリア細胞と比べて著明に過剰発現していたこと。膠芽腫細胞でmiR-21をノックダウンするとカスパーゼが活性化しアポトーシスが増加したこと閲覧 2026-08-27