病理学

病理学 · C/44

胆汁うっ滞性肝疾患(PBC・PSC)

Cholestatic liver syndromes (PBC, PSC)

疾患
原発性胆汁性胆管炎・原発性硬化性胆管炎
検査値
肝生検

🧠 全体像:PBCとPSCはいずれも免疫が関わる胆汁うっ滞性肝疾患(PBCは自己免疫性、PSCはと考えられるが自己抗体は決め手にならない)だが、侵される胆管の範囲(PBC=小〜中の、PSC=外の胆管)・血清学(PBC=AMA陽性、PSC=診断的な自己抗体なし)・合併疾患(Sjögren/強皮症 vs )で区別できる。

胆汁うっ滞

  • 胆汁のうっ滞 — 胆汁が肝から十二指腸へ流れない。
  • 特徴:上昇、掻痒(→ 後に黄疸)、・の胆汁。

原発性胆汁性胆管炎

  • ⭐ かつては「」と呼ばれたが、2015年に「」へ改称された(略号PBCは維持)。診断時にすでに肝硬変へ至っている患者はもともと多数派ではなく、治療を受けた患者の3人に2人は一般人口と変わらない予後をもち、肝硬変に至るのは少数にとどまるというの理解が改称の根拠となった1。旧称の「」は誤記ではなく、教科書や過去問では今も同じ疾患を指す。
  • 慢性・進行性・自己免疫性の胆汁うっ滞性肝疾患で、無治療では末期のに至る2。
  • 中年女性、ピーク40〜50歳。

形態

  • 小〜中のの破壊+ → 胆汁うっ滞 → 肝硬変・肝不全。

発生機序と臨床経過

  • ⚠️ 高力価の(AMA) — 患者の90%超で陽性となり、胆汁うっ滞のある人で陽性なら疾患特異性が高い。標的はのE2サブユニット(PDC-E2)である。AMA陰性の5〜10%では、sp100・gp210に対応する核型のが診断の手がかりになる2。
  • ⚠️ AMA陽性だけではPBCと診断しない。 が正常なAMA陽性者のうち5年以内にPBCを発症するのは6人に1人にとどまり、AMAは胆汁うっ滞の検査異常と組み合わせて初めて診断に足る2。
  • の書き方は学会で少し違う。
指針 診断の組み立て
2017 成人の胆汁うっ滞での可能性が低ければ、上昇+AMA(力価1:40超)で診断できる。AMA陰性でも、胆汁うっ滞とPBC特異的ながあれば診断しうる2
AASLD 2018 次の3項目のうち2つ:①上昇による胆汁うっ滞、②AMA(陰性ならsp100・gp210などのPBC特異的自己抗体)、③破壊性胆管炎との破壊という組織所見3
  • 💡 典型例ではをしない。は、PBC特異的抗体が陰性のとき、やの合併が疑われるとき、他の(多くは全身性の)併存症があるときを除き、診断のためのを行わないよう推奨している2。肝機能が正常なAMA陽性者は、年1回の生化学検査で経過を見る2。
  • 発症:掻痒 → 後に黄疸(胆汁うっ滞≠黄疸だが、黄疸を引き起こす)。
  • 約20年かけて:肝 → 門脈圧亢進、、脳症。
  • 検査:上昇+コレステロール上昇、は後期。
  • ⭐ は(UDCA)——投与後の生化学的反応(・ビリルビンの改善)が予後を規定し、反応不十分例ではを検討する。 2017の時点では、の認可薬はオベチで、はだった2。
  • ⚠️ の顔ぶれはその後大きく変わった。 オベチは、欧州では2024年8月30日に販売承認が取り消され4、米国でも市販後試験が臨床的有用性を検証できず、早期病期の投与例でと死亡が過剰だったとするの通知を受けて企業が取り消しを申請し、2025年11月24日付で承認が取り消された5。代わって、作動薬のエラフィブラノール(2024年9月)6とセラデルパル(2025年2月)7が欧州でを得ている。承認状況は国によって異なるので、処方の際は各国の最新の添付文書で確かめる。
  • の関連:()、強皮症。

続発性胆汁性胆管炎・肝硬変

  • 慢性胆道閉塞の結果 — 通常は胆石や良性腫瘍。
  • 先進国では発症すべきでない(胆汁うっ滞+黄疸は認識可能で外科的に解除できる)。

原発性硬化性胆管炎(PSC)

  • と考えられる(・の慢性炎症・との強い関連から)。ただし信頼できる自己抗体は見つかっておらず、免疫抑制療法にも明らかには反応しない8。
  • 男性に多く(男女比2:1)、多くは30〜40歳代に診断される(診断時の平均年齢32〜41歳)8。授業資料は「約20歳」としていたが、英国の指針が示す診断時の平均年齢はこれより高い。小児期の発症はまれである8。
  • およびの進行性線維化+破壊。
  • 胆管周囲の(「玉ねぎの皮」)硬化。ただし小さな検体では見られないことが多い8 → の変化。
  • 、特にとの強い関連——北欧系のPSC患者では62〜83%がを合併するが、他の地域では21%程度と低い8。
  • ⚠️ PSCに診断的な自己抗体はない。 核周囲型(p-)は33〜88%で陽性になるが非特異的で、や予後とも関連しない8。診断は胆管像で行い、現在は磁気共鳴胆管膵管造影()が第一の画像検査である8。
  • 症状:進行性の、掻痒、黄疸。
  • 後期:体重減少、腹水、、脳症、のリスク——生涯リスクは最大20%(6〜13%、年間0.6〜1.5%)とされる8。を合併するPSCでは、PSCを伴わないと比べ大腸癌のが4.79(指針が引く)、の研究では10倍とされる8。
  • 予後不良:診断から死亡またはまでの平均期間は10〜22年と報告される(施設のデータで過大評価の可能性がある)8。末期は。
  • ⚠️ PSCには病気の進行を止める薬物療法が確立していない。 英国の指針は、新たに診断されたPSCにUDCAをに使わないよう強く推奨し(エビデンスの質は「良好」)、高用量(28〜30 mg/kg/日)では害の可能性を指摘している。管理の中心は合併症の監視で、大腸炎を合併する例は大腸炎の診断時から毎年の(強い推奨)、・癌に備えて年1回の胆嚢超音波が提案されている8。

PBCとPSCの一覧

特徴 PBC PSC
性別・年齢 女性、40〜50歳 男性(男女比2:1)、診断時平均32〜41歳
侵される胆管 小〜中ののみ +()
組織像 肉芽腫、リンパ球性破壊 「玉ねぎの皮」の
血清学 AMA(、90%超) 診断的な自己抗体なし(p- 33〜88%、非特異的)
関連疾患 Sjögren、強皮症 (IBD)
癌リスク HCC(肝硬変後)
薬物治療 UDCAが第一選択、反応不十分なら(作動薬など) 進行を止める薬は確立していない(UDCAをに使わない)
末期治療 移植 移植

💡 ポイント: PBC = 中年女性、AMA陽性(上昇と組み合わせて診断)、小〜中の+肉芽腫、Sjögren/強皮症を伴う、UDCAが第一選択(オベチは欧米で承認取り消し、は作動薬へ)。PSC = 男性(30〜40歳代の診断が多い)、診断的な自己抗体なし(p-は非特異的)、およびの玉ねぎの皮状線維化、と強く関連、・大腸癌リスク増加、有効な薬物療法なし。両者:掻痒が黄疸に先行、上昇、末期 → 移植。

まとめ

  • 胆汁うっ滞は胆汁が十二指腸へ流れない状態で、上昇と掻痒を特徴とし、掻痒が黄疸に先行する。
  • PBCは中年女性に好発し、AMA陽性、小〜中の破壊と、・強皮症を合併しうる。診断は上昇+AMA()または3項目中2つ(AASLD)。治療はUDCAが第一選択で、はオベチの承認取り消し(欧州2024年・米国2025年)を経て作動薬へ移っている。
  • PSCは男性に多く(多くは30〜40歳代で診断)、診断的な自己抗体はなく(p-は非特異的)、・の線維化(玉ねぎの皮)、と強く関連し・大腸癌リスクが高い。進行を止める薬物療法はなく、合併症の監視(大腸炎合併例の毎年のなど)とが軸になる。
  • 続発性胆汁性胆管炎は胆石などによる慢性胆道閉塞が原因で、先進国では外科的に解除可能なため本来発症すべきでない。
  • 両疾患とも末期治療は。

出典

  1. 1.Changing Nomenclature for PBC: From 'Cirrhosis' to 'Cholangitis'(The American Journal of Gastroenterology・2015)2014年5月のEASL Monothematic Conference(ミラノ)で英独の患者団体代表が「不正確さの是正」と「cirrhosisという語の烙印の除去」を求めたことを契機に、primary biliary cirrhosisをprimary biliary cholangitisへ改称する合意が形成され2015年に主要な消化器・肝臓病誌へ同時に掲載されたこと、略号PBCは維持されたこと、改称の根拠は多くの患者が診断時に肝硬変ではないこと、ウルソデオキシコール酸治療により診断された患者の3人に2人は一般人口と変わらない予後をもち肝硬変に至るのは少数にとどまるという現在の自然史にあることを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.EASL Clinical Practice Guidelines: The diagnosis and management of patients with primary biliary cholangitis(Journal of Hepatology(European Association for the Study of the Liver)・2017)本文(バーミンガム大学リポジトリの著者最終稿)で、PBCは無治療では末期の胆汁性肝硬変に至る(when untreated will culminate)慢性炎症性・自己免疫性の胆汁うっ滞性肝疾患であること、抗ミトコンドリア抗体(AMA)はピルビン酸脱水素酵素複合体のE2サブユニット(PDC-E2)を標的とし患者の90%超で陽性であること、成人の胆汁うっ滞で全身疾患の可能性が低ければALP上昇と力価1:40超のAMAでPBCと診断できること(III, 1)、AMA陰性例(5〜10%)ではsp100・gp210に対応する核型の抗核抗体が診断に役立つこと、PBC特異的抗体が陰性・自己免疫性肝炎や脂肪性肝炎の合併が疑われる・他の(多くは全身性の)併存症がある場合を除き診断のための肝生検は行わないよう推奨すること(III, 1)、AMA陽性だけでは診断に足らずALP正常のAMA陽性者で5年以内にPBCを発症するのは6人に1人にとどまること、肝機能正常のAMA陽性者は年1回の再評価とすること(III, 1)、2017年時点の認可薬はウルソデオキシコール酸(第一選択)とオベチコール酸(反応不十分例の二次治療)で、フィブラート系は適応外使用だったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Primary Biliary Cholangitis: 2018 Practice Guidance from the American Association for the Study of Liver Diseases(Hepatology(American Association for the Study of Liver Diseases)・2019)本文(Wiley掲載版のWayback保存版)の「Guidance Statements(Diagnosis)」で、PBCの診断は3項目のうち2つ(ALP上昇による胆汁うっ滞の生化学的証拠、AMAまたはAMA陰性ならsp100・gp210などPBC特異的自己抗体の存在、非化膿性破壊性胆管炎と小葉間胆管の破壊という組織所見)を満たせば確定できるとしていることを確認した。ALPの倍数の閾値はこの項目に置かれていない閲覧 2026-09-24
  4. 4.Ocaliva (obeticholic acid): EPAR(European Medicines Agency・2025)EMAの製品ページで、Ocaliva(オベチコール酸)の欧州連合における販売承認が2024年8月30日の欧州委員会実施決定で取り消されたこと(Revoked)、EMAは2024年6月28日に条件付き承認の取り消しを勧告していたことを確認した閲覧 2026-09-24
  5. 5.Intercept Pharmaceuticals, Inc., et al.; Withdrawal of Approval of New Drug Application for OCALIVA (Obeticholic Acid) Tablets, 5 Milligrams and 10 Milligrams, and Three Abbreviated New Drug Applications for Obeticholic Acid Tablets, 5 Milligrams and 10 Milligrams(Federal Register(U.S. Food and Drug Administration)・2025)官報本文で、FDAが2016年5月27日にPBC(UDCA不応例への併用、UDCA不耐例への単剤)に迅速承認したOcaliva(オベチコール酸)について、2025年8月27日に「市販後試験が臨床的有用性を検証せず、ベースラインで早期病期だったオベチコール酸投与例で肝移植と死亡が過剰だった」と企業へ通知し、企業の申請に基づき2025年11月24日付で新薬承認(および後発品3件)を取り消したことを確認した閲覧 2026-09-24
  6. 6.Iqirvo (elafibranor): EPAR(European Medicines Agency・2024)EMAの製品ページで、Iqirvo(エラフィブラノール)がPBCの成人に用いられ、2024年9月19日に欧州連合全域で有効な条件付き販売承認を得たことを確認した閲覧 2026-09-24
  7. 7.Lyvdelzi (previously Seladelpar Gilead) (seladelpar): EPAR(European Medicines Agency・2025)EMAの製品ページで、セラデルパル(Seladelpar Gilead、2025年4月14日にLyvdelziへ改名)が2025年2月20日に欧州連合全域で有効な条件付き販売承認を得たことを確認した閲覧 2026-09-24
  8. 8.British Society of Gastroenterology and UK-PSC guidelines for the diagnosis and management of primary sclerosing cholangitis(Gut(British Society of Gastroenterology / UK-PSC)・2019)PMC全文で、PSCの組織学的特徴は同心円状の「玉ねぎ皮様」胆管周囲線維化だが小さな生検検体では見られないことが多いこと、北欧系のPSC患者では62〜83%に炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎型またはクローン大腸炎型)を合併し他地域では21%程度と低いこと、胆管癌の生涯リスクは最大20%(有病率6〜13%、年間発生率0.6〜1.5%)であること、潰瘍性大腸炎を合併するPSCでは合併しない潰瘍性大腸炎と比べ大腸癌の相対リスクが4.79(95%CI 3.58〜6.41、指針が引くメタ解析)、集団ベース研究では10倍とされることを確認した。あわせて、PSCは免疫介在性と考えられるが信頼できる自己抗体は同定されておらず免疫抑制に明らかな反応がないこと、PSCに診断的な自己抗体はなく核周囲型抗好中球細胞質抗体(p-ANCA)は33〜88%で陽性だが非特異的で活動性・予後と関連しないこと、多くは30〜40歳代に診断され診断時平均年齢は32〜41歳、小児期はまれ、男女比2:1であること、診断から死亡または肝移植までの平均期間は10〜22年(三次施設のデータで過大評価の可能性)であること、新規診断PSCにUDCAを日常的に用いないこと(強い推奨、エビデンスの質:GOOD)、高用量UDCA 28〜30 mg/kg/日では害の可能性があること、大腸炎を合併するPSCでは大腸炎の診断時から毎年の大腸内視鏡サーベイランスを行うこと(強い推奨)、胆嚢の年1回の超音波検査を提案すること、PSCの診断ではMRCPが第一の画像検査になったこと(感度80〜100%、特異度89〜100%)を確認した。閲覧 2026-08-27