呼吸器学

呼吸器学 · 40

サルコイドーシス

Sarcoidosis

前提:病態
肺の肉芽腫性疾患
前提:正常
過敏反応(I〜IV型)
疾患
Vogt-小柳-原田病サルコイドーシス
画像所見
遅延造影両側肺門リンパ節腫脹

ポッドキャスト

🧠 全体像:はを形成する原因不明ので、約90%に胸部病変を認める。診断は臨床像・画像・必要時組織を合わせ、結核、真菌、曝露、悪性疾患などを除外して行う。

1. 病理と疫学

  • 肉芽腫中心部はマクロファージ、、からなり、周囲をリンパ球、単球、線維芽細胞が囲む。
  • 肺では肉芽腫、、進行例の線維化を来し、となりうる。
  • 若年〜中年成人に多い。と環境・感染性刺激の相互作用が想定されるが、原因は確定していない。
  • は類似肉芽腫を起こす別疾患であり、曝露歴を聴取してを除外する。

2. 臨床像

臓器・系統 所見
肺・縦隔 無症状、、呼吸困難、胸痛、
全身・リンパ 倦怠感、体重減少、リンパ節腫脹
眼・皮膚・関節 ぶどう膜炎、、関節炎、皮下結節
心臓 房室ブロック、不整脈、心不全、
肝脾 肝脾腫
代謝 マクロファージの産生による高Ca血症・

、、急性の炎という古典的3徴の組合せはを示唆する。ただし3徴がそろわなければ否定される、という読み方はしない。 2020ガイドラインはをにおよび/またはを伴うものと定義しており1、を欠き炎だけを呈する型(男性に多い)も同じ疾患に含める2。発熱は伴うことが多いが、いずれの定義でも構成要素ではない。

3. 胸部画像

胸部X線は初期検査で、無症状者のとして見つかることも多い。

胸部X線所見
0 胸部X線異常なし
I のみ
II BHL+肺実質陰影
III BHLなしで肺実質陰影
IV

これは画像分類であり、臨床重症度や時間的進行を直接表す病期ではない。はX線が不明瞭な場合や実質・の詳細評価に用いる。

4. 診断

flowchart TD
  A["適合する臨床像・画像"] --> B["感染・曝露・悪性疾患を除外"]
  B --> C["組織確認が必要か判断"]
  C --> D["EBUS/TBLBなどで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='noncaseating granuloma'>非乾酪性肉芽腫</span>"]
  D --> E["臓器障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic indications'>治療適応</span>を評価"]
  • 血清上昇・高Ca血症は補助所見で、感度・特異度が不十分なため単独診断に使わない。
  • 組織では、時にを認めるが、これらもではない。
  • 生検部位は最もリスクが低く診断率の高い病変から選ぶ。皮膚病変や表在リンパ節(腋窩など)に異常があれば、そこからの採取を先に検討する1。
  • ・lupus pernio・Heerfordt症候群のように臨床的疑いが高い患者では、リンパ節採取を行わないことが提案されている(条件付き推奨、エビデンスの質は非常に低い)。ただし採取しない患者には綿密な臨床経過観察を要するという但し書きが付く。無症候性のだけの症例については、採取の是非について推奨は出されていない1。
  • 組織採取が必要と判断された縦隔・病変では、初回手技としてではなくEBUSリンパ節採取が提案されている(条件付き推奨、エビデンスの質は非常に低い)。EBUSが使えない場合は従来のTBNAが妥当な代替とされる1。

診断時の臓器スクリーニング

  • 症状がなくても、眼科診察、血算、、、血清Ca、心電図を基礎評価として行う。このうち強い推奨は血清Caだけで、残りはいずれも条件付き推奨である(については賛否いずれの推奨も出ていない)。血清Caが強い推奨になったのは、系統的レビューで高Ca血症の検出率が6%(95% CI 4〜8%)と低いにもかかわらず、未治療の患者の42%(95% CI 33〜52%)で腎不全が生じたからで、不可逆的な結果が出る前に介入できる価値が負担の小さい検査であることと釣り合うと判断された。ベースラインに加えて年1回の再検が求められている1。
  • 心症状・徴候がなければ、心エコーやを全例に一律施行しない(条件付き推奨)。ただし同ガイドラインはどちらも低リスクの検査であることを認め、症例ごとに検討してよいという但し書きを付けている1。
  • 心臓病変が疑われる場合は、を心エコー・より優先し、が利用できない環境では心エコーではなく専用を用いる(いずれも条件付き推奨、エビデンスの質は非常に低い)1。
  • が疑われる場合は、まず心エコーで評価し、心エコーが示唆的であればで確定または除外する。心エコーが示唆的でない場合のの要否は症例ごとに決める(best practice statement)1。

5. 治療

  • 無症状で自然軽快が期待でき、がない患者は経過観察できる。
  • 2021治療ガイドラインは、副腎皮質ステロイドを症候性の初期治療の第一選択に据えたうえで、8つの臨床疑問のうち7つに対して12の推奨を出した(の1問は根拠不足で推奨を出せなかった)。12のうち強い推奨は次の3つだけである3。
    • 未治療の肺病変のうち、主要な病変があり将来の死亡・永続的障害のリスクが高いと考えられる患者に副腎皮質ステロイドを開始する(との改善・維持を目的に。エビデンスの質は低い)。
    • 心病変——房室ブロック・不整脈・心筋症といった機能的な心異常がある患者に、他のの併用の有無を問わず副腎皮質ステロイドを用いる(エビデンスの質は非常に低い)。
    • 臨床的に問題となる神経病変に副腎皮質ステロイドを用いる(エビデンスの質は非常に低い)。
  • 肺病変がステロイドで持続する、または副作用が許容できない場合はメトトレキサートの追加が条件付きで推奨される(エビデンスの質は非常に低い)。ステロイドや他のでも持続する場合はの追加が条件付きで推奨される(エビデンスの質は低い)。・・は推奨の対象ではない。同ガイドラインは追加データの節でが肺でメトトレキサートと同等に有効と述べ、図1にもこれらを並べているが、図1の白枠はタスクフォース構成員の現在の実践の記述であって診療の推奨ではないと自ら明記している3。
  • ⚠️ については、 2021は推奨を出していない。 が少なくない頻度で起こることを認めつつ、眼の治療を扱った研究が乏しいため取り上げられなかったと明記している。高Ca血症の治療についても推奨は無い(同ガイドラインでは評価項目の一つとして挙がるだけである)。視機能を脅かすや高Ca血症をステロイドで治療すること自体は一般的だが、このガイドラインを根拠にはできない3。高Ca血症については、 2020ガイドラインが、委員会の臨床経験と系統的レビューによれば免疫抑制治療を受けた患者の90%超で改善ないし消失する一方、高Ca血症による腎不全がいったん成立すると免疫抑制を行っても慢性腎障害が残りやすいと述べている(ただし同レビューは高Ca血症の治療そのものを対象にしておらず、より良い根拠が別にありうるとも断っている)1。
  • 治療は画像だけでなく症状、肺機能、臓器障害リスクに基づく。

まとめ

  • は多臓器性の性疾患で、胸部病変が最も多い。
  • 診断には適合する臨床像、必要時の組織、他原因の除外が必要で、単独では診断できない。
  • 全例を治療せず、生命・臓器機能・を脅かす病変にステロイドを中心とした治療を行う。
  • 2021の強い推奨は肺・心・神経の3つだけで、と高Ca血症の治療にはこのガイドラインの推奨が無い。推奨の有無と、臨床で治療するかどうかは別の話である。

出典

  1. 1.Diagnosis and Detection of Sarcoidosis: An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline(American Thoracic Society・2020)全文(PMC7159433)を再閲覧。基礎スクリーニングのうち強い推奨は血清Caのみで、眼科診察・血清クレアチニン・アルカリホスファターゼ・血算・心電図はいずれも条件付き推奨、血清トランスアミナーゼは賛否とも推奨なしであること、血清Caが強い推奨となった根拠が高Ca血症の検出率6%(95% CI 4〜8%)に対し未治療患者の42%(95% CI 33〜52%)で腎不全が生じたことで、ベースラインに加え年1回の再検を求めていること、心症状・徴候の無い患者に心エコーとHolter心電図を一律には行わない条件付き推奨に「どちらも低リスクの検査なので症例ごとに検討してよい」という但し書きが付くこと、心病変が疑われる場合は心臓MRIを心エコー・PETより優先し、心臓MRIが使えない環境では心エコーではなく専用PETを用いること、肺高血圧症が疑われる場合はまず心エコー、示唆的なら右心カテーテル検査で確定・除外し、示唆的でない場合の要否は症例ごと(best practice statement)であることを確認した。また表1の脚注でLöfgren症候群が「両側肺門リンパ節腫脹に結節性紅斑および/または関節周囲炎を伴うもの」と定義されていること、Löfgren症候群・lupus pernio・Heerfordt症候群のように臨床的疑いが高い患者ではリンパ節採取を行わないことを提案する(条件付き推奨、エビデンスの質は非常に低い)が、採取しない患者には綿密な臨床経過観察を要するという但し書きが付くこと、無症候性の両側肺門リンパ節腫脹単独例については採取の是非について推奨を出していないこと、組織採取が必要と判断された縦隔・肺門リンパ節病変では初回手技として縦隔鏡ではなくEBUSガイド下リンパ節採取を提案する(条件付き推奨、エビデンスの質は非常に低い)ことと、EBUSが利用できない場合は従来のTBNAが妥当な代替であることを確認した。眼・腎・肝・Ca・血算・心電図の基礎スクリーニングと心臓画像の選択も同ガイドラインによる閲覧 2026-09-21
  2. 2.Sex-Specific Manifestations of Löfgren's Syndrome(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine・2007)Europe PMCの抄録を閲覧(全文は未取得)。急性発症・両側肺門リンパ節腫脹の150例のうち結節性紅斑を欠く63例は全例が明瞭な左右対称の足関節炎を呈し、結節性紅斑を伴う87例と臨床像・経過がほぼ同一だったこと、結節性紅斑は女性に、結節性紅斑を伴わない足関節周囲炎・足関節炎は男性に多いと結論していることを確認した閲覧 2026-09-05
  3. 3.ERS clinical practice guidelines on treatment of sarcoidosis(European Respiratory Society・2021)全文PDF(31頁)を閲覧。8つの臨床疑問のうち7つに12の推奨を出し、小径線維ニューロパチーの1問は根拠不足で推奨を出していないこと、12のうち強い推奨は3つだけ(未治療で主要な病変があり死亡・永続的障害のリスクが高い肺病変への副腎皮質ステロイド開始、房室ブロック・不整脈・心筋症といった機能的心異常への副腎皮質ステロイド、臨床的に問題となる神経サルコイドーシスへの副腎皮質ステロイド)であること、肺病変でステロイド後も持続または副作用が許容できない場合のメトトレキサート追加と、ステロイドや他の免疫抑制薬後も持続する場合のインフリキシマブ追加がいずれも条件付き推奨であること、アザチオプリンが肺サルコイドーシスでメトトレキサートと同等に有効という記載が推奨ではなく追加データの節にあること、そして眼病変については研究が乏しいため取り上げられず推奨が無いと明記していること(全文で ocular は7回、いずれも推奨ではない)、高Ca血症は評価項目の表に現れるだけで治療推奨が無いことを確認した閲覧 2026-09-21