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Drug Atlas · B30 Biologics & immunomodulators / 生物学的製剤

ゼノクツズマブ

zenocutuzumab

分類
Targeted cancer therapy / 分子標的薬Biologics & immunomodulators / 生物学的製剤
科目
PharmacologyPulmonology and Thoracic Surgery
トピック
B30: Immunopharmacology III (Antibodies and fusion proteins)32: Chemo-, immune- and targeted therapy of lung cancer
承認適応
非小細胞肺癌膵癌胆道癌(胆管癌・胆嚢癌)
副作用
下痢倦怠感悪心呼吸困難皮疹インフュージョンリアクション
監視検査値
左室駆出率トランスアミナーゼ
影響検査値
トランスアミナーゼ

🧠 全体像:は、NRG1(ニューレグリン1)の進行を標的とするHER2/HER3である。NRG1融合遺伝子は(特に)、KRAS野生型、などに稀に生じ、型NRG1リガンドがHER3に結合してHER2-HER3を誘導することで、PI3K-AKT-を持続的に駆動する。は「・アンド・ブロック」機構により、HER2に係留しつつHER3へのNRG1結合と化を遮断し、さらにADCCを誘導してを発揮する12。

薬効群の中での位置づけ

肺癌や肝胆におけるは、変異・増幅・融合遺伝子の生物学的性質に応じた治療設計へと細分化されている。

標的異常 異常の性質 主な癌種 代表的治療薬 作用機序
キナーゼ 、 チロシンキナーゼ阻害(低分子TKI)
ALK/ROS1/RET融合 融合キナーゼ 、 キナーゼ領域の阻害
融合キナーゼ 多彩な(臓器横断的) ラロトレクチニブ、エヌトレクチニブ TRKキナーゼ阻害
NRG1融合 リガンド発現による受容体活性化 、、 1 HER2/HER3(・遮断+ADCC)12

⭐ 「融合遺伝子がキナーゼではなくリガンドをコードする」という点がNRG1融合の生物学的特異性である。 ALKやROS1などの古典的融合遺伝子はキナーゼ領域自体が自律的に活性化するのに対し、NRG1融合(CD74-NRG1、SLC3A2-NRG1、ATP1B1-NRG1など)はEGF様ドメインを持つリガンドを腫瘍細胞表面に提示してHER3を刺激する。HER3単独ではキナーゼ活性が極めて弱く、発癌シグナルの伝達にはHER2とのが不可欠であるため、HER2とHER3を同時に標的化するが有効な治療戦略となる2。

機序

flowchart TD
    A["NRG1遺伝子融合の発生<br>(CD74-NRG1、SLC3A2-NRG1、ATP1B1-NRG1等)"] --> B["EGF様ドメインを含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chimeric'>キメラ</span>NRG1リガンドの発現"]
    B --> C["NRG1が細胞表面のHER3受容体に結合"]
    C --> D["HER3がHER2と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heterodimer'>ヘテロ二量体</span>を形成"]
    D --> E["HER2キナーゼがHER3細胞内領域をリン酸化"]
    E --> F["下流のPI3K-AKT-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mTOR pathway'>mTOR経路</span>が持続的に活性化"]
    F --> G["腫瘍細胞の増殖・生存促進"]
    H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zenocutuzumab'>ゼノクツズマブ</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous drip infusion'>点滴静注</span>"] --> I["一方のアームがHER2細胞外領域に結合(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='docking'>ドッキング</span>)"]
    I --> J["腫瘍細胞表面での局所<span class='jp-term jp-term-diagram' title='binding affinity'>結合親和性</span>が上昇"]
    J --> K["もう一方のアームがHER3細胞外領域に結合(ブロック)"]
    K --> L["NRG1のHER3結合およびHER2-HER3二量体形成を遮断"]
    L --> M["PI3K-AKT-mTORシグナル遮断→細胞増殖停止・アポトーシス"]
    I -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fc region'>Fc領域</span>を介した免疫エフェクター作用"| O["ADCC増強により腫瘍細胞を傷害"]

💡 「・アンド・ブロック」とADCC増強の。 (開発コードMCLA-128)は、片方のアームで細胞表面のHER2に結合して抗体を高効率に係留()し、もう片方のアームでHER3へのNRG1結合とHER2-HER3を立体的に遮断(ブロック)する。さらにがADCCを増強するよう改変されており、シグナル遮断とによる細胞傷害の双方で腫瘍縮小を導く12。

薬物動態

項目 特徴
(希釈後、4時間かけて投与)1
分布 は約6 L(18%)1
代謝・消失 により小ペプチドへと分解される。クリアランスは22 mL/h1
半減期・定常状態 定常状態におけるは8日(±1.3日)であり、2週ごとのにより中央値8週間で定常状態に到達する(蓄積比1.6倍)1

適応

対象病態 位置づけ
中または後に増悪したNRG1融合陽性の・転移性 第II相eNRGy試験に基づき2024年12月に米国FDA(eNRGy試験全体93例で責任判定29%、FDA解析対象の既治療64例で33%・中央値7.4か月。日本では未承認)134
中または後に増悪したNRG1融合陽性の・転移性 ・転移性に対し米国FDA(eNRGy試験36例で責任判定42%、FDA解析対象の既治療30例で40%)134
中または後に増悪したNRG1融合陽性の・転移性() eNRGy試験のコホート(19例で36.8%)に基づき、2026年5月に米国FDA承認が追加された1

💡 NRG1融合の検出にはRNAベースのが有用。 NRG1遺伝子はイントロン領域が大きいためDNAパネル単独では融合を見逃すことがあり、eNRGy試験のFDA有効性解析集団でも84〜90%の症例がRNAベースのにより同定されている1。

用法・用量

米国添付文書における推奨用量は、成人に対しとして1回750 mgを2週間ごとに、希釈後4時間かけてする(または許容できない毒性が発現するまで継続し、減量設定はない)1。 を軽減するため、毎回の前に(1,000 mg)およびのを必ず行い、初回投与前には副腎皮質ステロイド(10 mg)も併用する(2回目以降のステロイドは任意)。初回中および終了後少なくとも1時間は院内で経過を観察する1。

禁忌・注意

  • 禁忌:米国添付文書では禁忌の設定はない(日本では未承認)1
  • ⚠️ (米国):妊娠中の曝露により胚・胎児障害を起こしうるため、妊娠可能な女性にはリスクを説明し、投与中および最終投与後一定期間の有効な避妊を指導する1
  • ⚠️ ・過敏症・アナフィラキシー:eNRGy試験で約13〜14%に発現し、91%が初回投与時に生じている(発症中央値63分)。救急蘇生設備の整った環境でを徹底し、Grade 3以下ではを中断して症状軽快後に再開、Grade 4または生命を脅かす反応では直ちに永続中止する13
  • ⚠️ ・:eNRGy試験で1.1%に認められている。呼吸困難・咳嗽・発熱の出現時は直ちにして精査し、Grade 2以上の・が確定した場合は永続中止する1
  • ⚠️ :に共通する心毒性リスクがあるため、投与開始前に必ずLVEFを評価し投与中も定期的にモニタリングする。症候性が生じた場合は永続中止する1

副作用

頻度 主な症状・異常所見
高頻度(20%以上) 下痢(全原因で肺癌25%・36%、治療関連18%)、疼痛(23〜28%)、異常(ヘモグロビン減少、ALT・AST上昇、ALP・GGT上昇、、、)13
中等度(10〜20%台) 倦怠感・疲労(17〜21%)、悪心(10〜23%)・嘔吐、(12〜15%)、呼吸困難(肺癌18%)、咳嗽、皮疹、腹痛、便秘、、浮腫13
重篤・重要 アナフィラキシー・重度、・(1.1%)、低下・心不全1

まとめ

  • は、NRG1の進行、、およびを標的とするHER2/HER3二重特異性IgG1モノクローナル抗体である。
  • 「・アンド・ブロック」機構とADCC増強により、NRG1リガンドによるHER3活性化とHER2-HER3二量体形成を遮断し、eNRGy試験においてによる中止が極めて少ない良好なと臓器横断的なを示した。
  • 用法は1回750 mgの2週ごと4時間(減量設定なし、定常状態半減期は約8日)であり、毎回のと初回投与後の経過観察を徹底する。
  • ()、、Grade 2以上で永続中止となる、ならびに投与前・投与中のLVEF評価に注意して管理する。

出典

  1. 1.BIZENGRI (zenocutuzumab-zbco) injection, for intravenous use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration(Partner Therapeutics、2026年5月改訂版)・2026)米国添付文書(2026年5月改訂)を確認した。枠組み警告として胚・胎児毒性が規定され、禁忌の設定はない。適応は全身療法中または後に増悪したNRG1遺伝子融合陽性の進行・切除不能または転移性の非小細胞肺癌(迅速承認、既治療64例でBICR判定奏効率33%・奏効期間中央値7.4か月)、膵管腺癌(迅速承認、既治療30例でBICR判定奏効率40%)、および2026年5月追加の胆管癌(19例でBICR判定奏効率36.8%)である。推奨用量は1回750 mgを2週間ごとに希釈後4時間かけて点滴静注(減量設定なし)であり、インフュージョンリアクション軽減のため毎回投与前にアセトアミノフェン(1,000 mg)とH1抗ヒスタミン薬を前投薬し、初回投与前には副腎皮質ステロイド(デキサメタゾン10 mg)も併用(2回目以降は任意)し初回点滴終了後少なくとも1時間観察する。投与開始前および投与中の定期的なLVEF評価が求められ、Grade 4のインフュージョンリアクション、Grade 2以上の間質性肺疾患・肺臓炎、症候性うっ血性心不全では永続中止とする。定常状態の消失半減期は8日(±1.3日)、分布容積は6 L、定常状態到達中央値は8週間である。閲覧 2026-11-02
  2. 2.Zenocutuzumab, a HER2xHER3 Bispecific Antibody, Is Effective Therapy for Tumors Driven by NRG1 Gene Rearrangements(Cancer Discovery・2022)ADCC増強型の抗HER2×HER3二重特異性抗体ゼノクツズマブ(MCLA-128)がNRG1融合陽性細胞株および患者由来異種移植モデルでHER3・AKTリン酸化を阻害してアポトーシスを誘導し、化学療法抵抗性のATP1B1-NRG1陽性膵癌2例およびCD74-NRG1陽性非小細胞肺癌1例で迅速かつ持続的な奏効をもたらしたことを抄録で確認した。閲覧 2026-11-02
  3. 3.Efficacy of Zenocutuzumab in NRG1 Fusion-Positive Cancer(The New England Journal of Medicine・2025)進行NRG1融合陽性固形癌12癌種204例にゼノクツズマブ750 mg 2週ごと静注を投与した第II相eNRGy試験の抄録を確認した。測定可能病変を有する主要有効性解析集団158例における治験責任医師判定の客観的奏効率は30%(95% CI 23〜37%、奏効期間中央値11.1か月、無増悪生存期間中央値6.8か月)であり、癌種別では非小細胞肺癌で29%(27/93例、95% CI 20〜39%)、膵癌で42%(15/36例、95% CI 25〜59%)に奏効を認めた。有害事象は主にGrade 1〜2で、主な治療関連有害事象は下痢(18%)、疲労(12%)、悪心(11%)であり、インフュージョンリアクション(複合項目)は14%にみられ、治療関連有害事象による投与中止は1例のみであった。閲覧 2026-11-02
  4. 4.Zenocutuzumab: First Approval(Drugs・2025)ゼノクツズマブ(zenocutuzumab-zbco、BIZENGRI)が2024年12月4日に米国で全身療法後に増悪したNRG1遺伝子融合陽性の進行・切除不能または転移性膵管腺癌および非小細胞肺癌に対して初回承認を受けたことを抄録で確認した。閲覧 2026-11-02