病理学

病理学 · C/31

唾液腺疾患

Salivary gland diseases

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High-yield / ポイント
応用トピック
唾液腺の炎症性疾患と唾液腺症唾液腺の良性・悪性腫瘍
微生物
Viridans group streptococci

🧠 全体像:は「炎症か腫瘍か」で大きく分かれ、腫瘍では悪性の可能性が腺の大きさに反比例するという原則(耳下腺は多くが良性、は多くが悪性)が鑑別の軸になる。

3つの大唾液腺:耳下腺、、(+多数の)

A)唾液腺炎

外傷性 — 粘液瘤(最も多い炎症性病変)

  • 外傷 → 唾液腺導管を閉塞・破裂 → 周囲組織への唾液の漏出
  • 組織像:唾液で満たされ、炎症性に裏打ちされた嚢胞様腔
  • 通常は下口唇の腫脹として現れる
  • 治療:嚢胞+唾液腺小葉の切除

ウイルス性 — 流行性耳下腺炎(最も多いウイルス型)

細菌性

自己免疫性 — Sjögren症候群

💡 は分類基準で最も重い項目の一つである。 2016年はではなく分類基準で、などシェーグレン症候群を疑わせる徴候・症状のある人に当てはめ、下表の合計4点以上で一次性シェーグレン症候群に分類する(最終検証コホートで感度96%・特異度95%)1。

項目 点数
でリンパ球性(1 foci/4 mm²以上) 3
陽性 3
5以上(または4以上) 1
5 mm/5分以下 1
無刺激唾液流量 0.1 mL/分以下 1

生検かのどちらか一方(3点)だけでは4点に届かず、乾燥の所見を1つ以上足すか、両方が陽性であることが要る。

リンパ腫リスクの大きさは、比べる腫瘍の範囲と集団で変わる。 よく引かれる「約40倍」は1978年の古典的報告に由来し、米国NIHで追跡した乾燥症候群の女性136例から7例のが生じ、一般女性の期待値の43.8倍だった(耳下腺腫大・脾腫・リンパ節腫脹の既往がある例で高リスク)2。2002年分類基準を満たす一次性シェーグレン症候群1,300例(平均追跡91か月)では127例(9.8%)が悪性腫瘍を発症し、最多はB細胞リンパ腫(MALTリンパ腫27例・非MALT型19例を含み、悪性腫瘍の約3分の1)だった。は全体で11.02、内訳は・免疫36.17、19.41、その他の6.04と腫瘍型により幅があり、全体は1.13にとどまった3。シェーグレン症候群に生じるリンパ腫の典型は、唾液腺(とくに耳下腺)を原発とする低悪性度のMALTリンパ腫()である。

B)唾液腺腫瘍

💡 「小さい腺ほど悪性」の実測値。 ブラジルの1施設196例の口腔内腫瘍の検討では、悪性128例・良性68例で悪性が65.3%を占めた4。耳下腺の多くが良性であるのと対照的である。

良性腫瘍

1. (混合腫瘍) — 最も多い良性腫瘍

  • 通常は耳下腺、緩徐増殖、、境界明瞭
  • の無痛性腫脹を来す
  • されるがしばしば被膜を貫く(被膜外へ舌状に突出する) → 核出だけでは取り残して再発するため、十分な範囲の耳下腺切除が必要(手術中に顔面神経が障害されうる)
  • 導管(上皮)細胞とからなる
  • ⚠️ 再発と悪性化(由来癌)は別の問題として覚える。 再発は被膜外への進展を取り残すことで起こる。悪性化については、四次紹介施設で1年を超えて未治療だった耳下腺260例(持続3.2年、範囲1〜30年)のコホートで、術前ので良性とされた156例のうち5例(3.2%、は1.3%)が切除後に由来癌と判明した。関連したのは初診時の腫瘍径と年齢で、腫瘍が存在した期間そのものは関連しなかった()5。一方、デンマーク全国の耳下腺5,497例では少なくとも1回の再発が2.86%にみられ、再発したからのは3.3%だった6。2つの3%台は分母(未治療例か再発例か)が違う別の量なので、並べて「同程度」とは読まない。大きい腫瘍・高齢・再発例では悪性化を警戒するが、放置年数そのものを独立した危険因子とはしない。

2. Warthin腫瘍(旧称:リンパ腫性・腺リンパ腫。名前に「リンパ腫」が入るがではない良性腫瘍)

  • ほぼ耳下腺に限って発生し、男性に多い
  • 喫煙との関連が強い。 治療例185例では患者の89%が喫煙者(66%が重喫煙者)で、17%が両側性(61%・39%、対側発生まで中央値7年)に生じ、両側性のリスクは摂取量と相関した7
  • 肉眼:を含む小さくされた
  • 顕微鏡:リンパ様間質に埋め込まれた上皮に裏打ちされた

悪性腫瘍

1. — 成人で最も多い唾液腺悪性腫瘍

  • 主に耳下腺
  • +細胞+中間細胞の混合からなる
  • 緩徐増殖(最大8cm)、被膜なし、しばしば浸潤性
  • MAML2遺伝子(CRTC1-MAML2融合)を高頻度にもち、腫瘍でとくに陽性率が高い8

2. — 2番目に多い唾液腺悪性腫瘍とされる

  • 口蓋のに発生
  • 神経周囲腔への浸潤傾向が強い → 疼痛
  • 腫瘍細胞がを形成し、過剰な基底膜物質で満たされる
  • 遅発性転移を伴う緩徐増殖の悪性腫瘍

💡 の。 28例の検討では、CRTC1-MAML2融合遺伝子が/で18例(64%)に検出され、腫瘍15例は全例が陽性だった一方、腫瘍13例では3例のみが陽性だった。融合陽性腫瘍は異常が少なく(1.5対9.5個/腫瘍)、著者は「・融合陽性(予後良好)」「・融合陽性(予後不良)」「・融合陰性(予後不良)」の3群への細分を提案している8。融合陽性がそのまま予後良好を意味するわけではない。

は「5年生存率は良いが、長期は悪い」型の予後をとる。 米国SEERの頭頸部3,026例では、5年生存率90.3%に対し10年79.9%・15年69.2%と、追跡年数が延びるほどが目立って低下した9。による局所進展と、遅発性の遠隔転移(多くは肺)が背景にある。

💡 ポイント: 悪性リスクは腺の大きさに反比例。 = 最多の良性、被膜を貫く、耳下腺、顔面神経が危険。Warthin = ほぼ耳下腺、男性、喫煙、リンパ様間質(リンパ腫ではない)。 = 最多の悪性、耳下腺。 = 、、。 = 、成人で。Sjögren = +、抗SSA/SSB抗体、分類基準は生検・が各3点で合計4点以上、MALTリンパ腫のリスク。

まとめ

  • 悪性の可能性は唾液腺の大きさに反比例し、の多くは良性、・の腫瘍は多くが悪性。
  • は外傷による導管閉塞・破裂で最も多い、はによる耳下腺腫大。
  • は・唾液腺の自己免疫性破壊で+を来し、2016年はとを各3点とする合計4点以上で分類する。リンパ腫(とくにMALTリンパ腫)のリスクが高い。
  • は最多の良性腫瘍で被膜を貫きやすく、切除時にのリスクがある。再発は取り残しで起こり、悪性化(由来癌)は腫瘍径・年齢と関連するが放置年数そのものとは関連しなかった。
  • Warthin腫瘍はほぼ耳下腺に発生し男性・喫煙者に多い良性腫瘍で、旧称に「リンパ腫」を含むがリンパ腫ではない。
  • は最多の悪性腫瘍、はによる疼痛と遅発性転移が特徴。

出典

  1. 1.2016 American College of Rheumatology/European League Against Rheumatism classification criteria for primary Sjögren's syndrome: A consensus and data-driven methodology involving three international patient cohorts(Annals of the Rheumatic Diseases(International Sjögren's Syndrome Criteria Working Group)・2017)抄録で、2016年ACR/EULAR分類基準が乾燥症状などシェーグレン症候群を疑わせる徴候・症状のある人を対象とし、抗SSA/Ro抗体陽性と巣状リンパ球性唾液腺炎(フォーカススコア1 foci/4 mm²以上)を各3点、眼表面染色スコア5以上(またはvan Bijsterveldスコア4以上)・Schirmer試験5 mm/5分以下・無刺激唾液流量0.1 mL/分以下を各1点とし、合計4点以上で一次性シェーグレン症候群に分類すること、最終検証コホートでの感度96%・特異度95%だったこと、臨床試験への組入れ基準として適するとしていることを確認した。診断基準ではなく分類基準である。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Increased risk of lymphoma in sicca syndrome(Annals of Internal Medicine・1978)抄録で、米国NIHで追跡した乾燥症候群の女性136例のうち7例が初回入院の6か月〜13年後に非ホジキンリンパ腫を発症し、同年齢層の一般女性の期待値の43.8倍(P<0.01)だったこと、耳下腺腫大・脾腫・リンパ節腫脹の既往がある例でリスクが高かったこと、リンパ腫以外の癌は期待値と同程度だったことを確認した。なおBrito-Zerón 2017の考察はこの研究の値をSIR 44.4と引用している。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Characterization and risk estimate of cancer in patients with primary Sjögren syndrome(Journal of Hematology & Oncology・2017)全文(PMC5392920)で、2002年分類基準を満たす一次性シェーグレン症候群の連続1,300例の追跡(平均91か月)で127例(9.8%)が計133の悪性腫瘍を発症し、最多はB細胞リンパ腫(MALTリンパ腫27例・非MALT型B細胞リンパ腫19例を含む)で悪性腫瘍の約3分の1を占めたこと、標準化罹患比(SIR)は固形癌全体1.13・血液悪性腫瘍全体11.02で、腫瘍型別では多発性骨髄腫・免疫増殖性疾患36.17・ホジキンリンパ腫19.41・その他の非ホジキンリンパ腫6.04・甲状腺癌5.17・口唇口腔癌4.81・胃癌2.53だったことを確認した。序論はシェーグレン症候群に生じるリンパ腫が主に低悪性度の辺縁帯型で大唾液腺(とくに耳下腺)を原発とすると述べるが、これは先行研究の引用であり本研究の結果ではない。閲覧 2026-08-27
  4. 4.A clinicopathologic study of 196 intraoral minor salivary gland tumours(Journal of Oral Pathology & Medicine・1999)ブラジルの1施設で1954〜1993年に診断された口腔内小唾液腺腫瘍196例の後方視的検討で、悪性128例・良性68例(悪性が65.3%)であり、良性で最多は多形腺腫、悪性で最多は粘表皮癌だったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Risk of Carcinoma in Pleomorphic Adenomas of the Parotid(JAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery・2023)抄録で、1990〜2015年に四次紹介施設で扱った腫瘍歴1年超の未治療耳下腺多形腺腫260例(腫瘍持続期間中央値3.2年、範囲1-30年)のコホートで、術前穿刺吸引細胞診で良性と診断された156例のうち5例(3.2%、95%CI 1.4-7.3)が切除後に多形腺腫由来癌と診断され(高悪性度は1.3%)、単変量解析で多形腺腫由来癌と関連したのは初診時腫瘍径(OR 1.66)と年齢(1歳あたりOR 1.04)であり、腫瘍持続期間は関連しなかった(OR 1.00)ことを確認した。永続的な顔面神経麻痺は1例も無かった。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Pleomorphic adenoma of the parotid gland 1985-2010: A Danish nationwide study of incidence, recurrence rate, and malignant transformation(Head & Neck・2016)デンマーク全国病理データベースの耳下腺多形腺腫5,497例で、罹患率は年間10万人あたり4.29、再発は2.86%にとどまり、再発多形腺腫における多形腺腫由来癌への悪性転化率は3.3%だったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.High risk for bilateral Warthin tumor in heavy smokers--review of 185 cases(Acta Oto-Laryngologica・2006)抄録で、Warthin腫瘍治療例185例の検討で、両側性Warthin腫瘍は17%(同期性61%・異時性39%、対側発生までの中央値7年)にみられたこと、患者の89%が喫煙者・66%が重喫煙者であったこと、両側性のリスクがニコチン摂取量と有意に相関し(p=0.003)、著者が喫煙を多発性Warthin腫瘍の有意な危険因子と結論したことを確認した。性比は抄録に記載が無い。閲覧 2026-08-27
  8. 8.Genomic profiles and CRTC1-MAML2 fusion distinguish different subtypes of mucoepidermoid carcinoma(Modern Pathology・2013)粘表皮癌28例の検討で、CRTC1-MAML2融合遺伝子はRT-PCRまたはFISHで18例(64%)に検出され、抄録で、低異型度15例は全例が融合陽性だった一方、高異型度13例では3例のみが陽性だったこと、融合陽性腫瘍は融合陰性腫瘍よりコピー数異常が有意に少なかった(1.5対9.5個/腫瘍)ことを確認した。著者はこれをもとに、①低異型度・融合陽性でゲノム異常が少なく予後良好な群、②高異型度・融合陽性でゲノム異常が多く予後不良な群、③高異型度・融合陰性でゲノム異常が多く予後不良な異質な群、の3群への細分を提案している(予後そのものを本研究で追跡した結果ではない)。閲覧 2026-08-27
  9. 9.Adenoid cystic carcinoma of the head and neck: Incidence and survival trends based on 1973-2007 Surveillance, Epidemiology, and End Results data(Cancer・2012)米国SEERデータベースの頭頸部腺様嚢胞癌3,026例の解析で、全体の5年・10年・15年生存率はそれぞれ90.3%・79.9%・69.2%であり、女性・限局病期・若年で生存が有意に良好だったことを確認した。5年生存率は良好だが、長期の追跡ほど生存率が目立って低下する。閲覧 2026-08-27