病理学

病理学 · C/35

胃腫瘍

Gastric tumors

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応用トピック
胃癌の疫学・病因・組織・病期・症状・診断胃腫瘍(症状・診断・治療)胃悪性疾患の症候・診断・治療
薬剤
リプレチニブレゴラフェニブ
疾患
Carney三徴Krukenberg腫瘍胃癌消化管間質腫瘍粘膜下腫瘍
症状
早期満腹感
スコア
Lauren分類

🧠 全体像:胃の腫瘍は良性ポリープ(多くは非腫瘍性で、真の腫瘍として悪性化能が高いのは。ただし1cmを超えるなども異形成・癌を含みうる)と悪性腫瘍に分かれ、悪性の中心は腺癌である。腺癌はさらに_H. pylori_を背景に化生→異形成を経て進行する(予後良好)と、変異による主体の(予後不良)という発生機序の異なる2つの道筋に分かれる。

A)良性腫瘍 — 胃ポリープ

  • ポリープ:周囲粘膜より上に突出する結節・腫瘤
  • は少ない(結腸ポリープの方が多い)

3つの型: 講義の割合(80〜85%・10%・腺腫5%)は古典的な値で、現在は集団との普及で大きく変わる。英国消化器病学会()2019年ガイドラインは、を最も多い型(の13〜77%)、を18〜70%としてまとめている1。

型 性質 背景 悪性化
非腫瘍性。過形成した腺窩上皮+炎症性の浮腫性間質 (H. pylori胃炎・)、潰瘍・の近く。除菌で退縮しうる 異形成1.9〜19%・0.6〜2.1%で、1cm超との胃で多い。1cm超・・有症状なら切除を提案
非腫瘍性 長期の使用と関連し中止で退縮しうる。H. pylori感染や胃炎とは関連しない。で多発 通常は癌リスクを上げない(を除く)が、1cm超では異形成・の癌が各1.9%
真の腫瘍(異形成そのもの) 背景に萎縮・ 悪性化の可能性が高い。最大30%にの腺癌、2cm超の50%に腺癌巣。内視鏡的に切除する

腺腫は通常単発(82%)で前庭部・胃角に多い1。講義の「>1 cm」は典型像の目安で、は多くが2cm未満と書く。以外のは生検で組織型を確かめる(強い推奨)1。

⚠️ 講義資料はを「でみられる」と書くが、 2019は背景のH. pylori感染や胃炎とは関連しないとしている1。胃炎を背景にもつのはのほうである。

B)悪性腫瘍

C)腺癌

  • 世界で罹患・死亡とも第5位(2024年推計で新規約98万例・死亡約64万人)。講義の「癌関連死の第2位」は現在の推計とは合わない。・死亡率は過去1世紀にわたり世界的に大きく下がってきた2
  • は東アジアで最も高く(国別ではモンゴルが男女とも最高)、東欧・南米が続く。地理的な差は主に慢性H. pylori感染のの差を反映し、非胃癌の約90%がH. pyloriに起因する。日本(1983年)と韓国(1999年)は全国的な組織型胃癌検診を導入しており、韓国では導入15年後の死亡率41%低下と関連し、早期胃癌の割合が39%(2001年)から73%(2016年)へ上がった2
  • 好発部位:前庭の
  • 癌は胃癌全体と同じ減少傾向をたどっていない——米国コネチカット州のでは、胃癌全体のが10万人あたり23.5(1955〜59年)から9.4(2003〜07年)へ下がる間に、癌は4.0から2.4へ下がった後3.4へした。数式モデルで分けると、H. pylori関連の癌が3.7→1.0へ減り、逆流関連の癌が0.3→2.4へ増えた合成と推計され、後者はとほぼ同じ推移を示した3

肉眼パターン

  • 進行胃癌の肉眼形態はBorrmann分類(I型:境界明瞭な隆起型/II型:辺縁が鋭く隆起した潰瘍型/III型:境界不明瞭で周囲壁へ浸潤する潰瘍型/IV型:を伴わないびまん)で記載されることが多く、III型・IV型ほど進行病期・低分化の頻度が高い4
  • 粘膜の平坦化+びらんを伴う肥厚
  • (胃壁のびまん性肥厚、Borrmann IV型に相当しとも呼ばれる)
  • 大きな潰瘍またはポリープ状の隆起腫瘤
  • :非腫瘍性の、結合組織(線維芽細胞、リンパ球、)が腫瘍周囲に増殖

分類 — 3つのパラメータ

1. 浸潤の深さ:

  • 早期胃癌:粘膜+に限局(リンパ節転移によらず)、 = 、予後良好
  • 進行胃癌:より下、筋層まで進展、予後不良

2. 肉眼的:

  1. 膨張型:内腔への突出
  2. :わずかに隆起・陥凹
  3. 陥凹型:深くした病変

3. 組織学的所見(Laurén分類):

Laurén分類は・の2型に大別する古典的な組織学的分類で、分類(現行は消化器腫瘍第5版、2019年)のという枠組みはLaurénのとおおむね重なる。第5版は低結合性癌の中にと低結合性癌NOSを含めて論じており、は低結合性癌と並ぶ別カテゴリーではなくその一型である5。どこからと呼ぶかについて、国際胃癌学会欧州支部のDelphi合意は「低結合性細胞の90%超が形態」を、10〜90%を成分を伴う低結合性癌、10%未満を低結合性癌NOSとする線引きを提案している(当時の 2010年版に基づく提案)6。

:

  • を来した胃
  • 主要リスク:H. pylori 関連 → 胃炎 → 化生 → 異形成 → 癌
  • その他の危険因子:燻製食の食事、果物・野菜の不足、アルコール、喫煙
  • より予後良好

:

  • 散在する個々の腫瘍細胞のびまん性浸潤 → → 「」細胞の形態
  • (CDH1)遺伝子変異
  • 高度悪性 → 予後不良
  • 萎縮→→異形成という前駆段階を経ないことが多いが、「H. pyloriと」と断定はできない——日本人1,526例を平均7.8年追跡した前向き研究では、発生した胃癌36例は全例H. pylori感染者で、内訳は23例に対し13例だった7
  • ⚠️ (HDGC):常染色体優性の症候群で、胃癌に加え乳腺の小葉癌がする。大半はCDH1の生殖細胞系列のにより、少数の家系はCTNNA1のをもつ。国際胃癌連鎖コンソーシアムの2020年改訂では、病的CDH1バリアント保因者のリスク管理として予防的が引き続き推奨される選択肢で、手術を先送りしたい人やリスクが明確でない人には専門施設でのを提示しうる8

転移性進展

  • 直接漿膜へ、十二指腸・膵・後腹膜への浸潤
  • 次いで:( = 左リンパ節)、肝、腹膜()、卵巣 → (両側卵巣の転移)

臨床

  • 早期は通常無症状、高リスク患者では内視鏡で発見
  • :、嚥下障害、体重減少
  • +切除(外科手術、条件を満たす早期癌は)で治癒可能

D)GIST(消化管間質腫瘍)

  • 胃(60%)・小腸(約30%)に生じる、消化管のどこにでも9
  • (消化管の)に由来するで、とは別系統(かつては形態の類似からと混同されていた)。良性・悪性の二分ではなく再発リスクの連続体として評価する

発生機序

  • c-KIT変異 → c-KITはKIT をコード(細胞生存、増殖、分化)
  • 変異 → 受容体の(リガンド非依存)→ 制御不能な増殖

臨床

  • 通常無症状、有症状時:腹痛、悪心・嘔吐、便・中の血液、閉塞、腹部腫瘤
  • 悪性度の評価:(1)核分裂数+(2)腫瘍サイズ(+(3)発生部位)
    • 高核分裂数+大サイズ → 高い攻撃性
    • 低核分裂数+小サイズ → 低い攻撃性
    • 同じ径・核分裂数なら胃のは腸のより予後が良い。胃では10 cm以下かつが50高倍視野あたり5個以下なら転移リスクは低いが、腸では5 cmを超えれば核分裂数によらず少なくとも中等度のリスクとなる9

治療

  • (グリベック):、KIT活性を遮断(第一選択)
  • の二次変異による耐性 → (二次)→ ()→ (四次)と逐次に使う。は、少なくとも・・で増悪またはとなった進行を対象としたで、中央値をの1.0か月から6.3か月へ延ばした10。各薬の承認範囲は国で異なる。この逐次治療は米国・の承認に沿った並びで、日本ではは2026年3月に承認申請されたところで、既治療のにはHSP90阻害薬ピミテスピブ(2022年承認)が用いられている
  • ⚠️ PDGFRA D842V変異のはを含む既存の()に高度に抵抗性で、この分子型にはを用いる(のD842V変異例56例で88%)11。承認範囲は国で違い、米国はPDGFRAエクソン18変異(D842Vを含む)、はD842V変異に限ったで、日本では未承認である。でも治療前にを調べる理由がここにある
  • 講義資料はに倣ってを挙げるが、はの標準治療には含まれない(BCR-ABL陽性白血病に用いる)

💡 ポイント: = 世界の罹患・死亡とも第5位(2024年)、東アジア(モンゴル・日本・韓国)で高罹患、非の約90%がH. pylori起因。 = H. pylori → 化生 → 異形成、予後良好。 = 、変異、予後不良。 = 、Krukenberg = 両側。GIST = c-KIT変異、治療( D842Vは)。 = 真の腫瘍で悪性化リスクが最も高い(1cm超のも要注意)。 = 関連、胃炎とは。

まとめ

  • の大部分は・で非腫瘍性。真の腫瘍として悪性化リスクが高いのはだが、1cmを超えるも異形成・癌を含みうる。は使用と関連し胃炎とは関連しない。
  • 胃悪性腫瘍の90〜95%は腺癌で、胃癌は世界で罹患・死亡とも第5位、は東アジア(最高はモンゴル)で最も高い。
  • 腺癌は_H. pylori_→化生→異形成→癌の経路をたどり予後良好、は・変異を伴い予後不良。
  • 胃癌は漿膜・リンパ節・肝・腹膜へ広がり、はと呼ばれる。
  • はc-KIT変異によるので生じ、核分裂数と腫瘍サイズで悪性度を評価する。
  • の第一選択治療はで、後は・・へと逐次治療する。 D842V変異例はに抵抗性でを用いる。
  • 腺癌の組織分類はLaurén分類(・)と第5版(低結合性癌の中にを含む)を併用する。

出典

  1. 1.British Society of Gastroenterology guidelines on the diagnosis and management of patients at risk of gastric adenocarcinoma(Gut(British Society of Gastroenterology)・2019)全文(PMC6709778)の胃ポリープの節で、胃底腺ポリープは最も多い型(13〜77%)で長期PPI使用と関連しPPI中止で自然退縮しうること、背景のH. pylori感染や胃炎とは関連しないこと、家族性大腸腺腫症の場合を除き通常は癌リスクの上昇を伴わないが、1cmを超えるものでは1.9%に異形成・1.9%に巣状の癌がみられたこと、過形成性ポリープは胃ポリープの18〜70%を占め、異形成(1.9〜19%)と悪性転化(0.6〜2.1%)を示しうること、とくに1cm超と胃切除後の胃で多いこと、1cm超・有茎性・症状のある過形成性ポリープは切除を提案すること、腺腫性ポリープは通常単発(82%)・2cm未満で前庭部と胃角に多く、背景に萎縮・腸上皮化生を伴い、最大30%に同時性の腺癌がみられ、2cmを超えるものの50%に腺癌巣を含むこと、胃底腺ポリープ以外の胃ポリープは生検すべきとしていること(強い推奨)を確認した。ガイドラインが先行研究をまとめた記述である。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Global cancer statistics 2024: GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 34 cancers in 186 countries(American Cancer Society / International Agency for Research on Cancer (IARC)・2026)全文(PMC13343830)で、2024年に胃癌は世界で推計98万例が新規に診断され64.2万人が死亡し、罹患・死亡とも世界第5位であること、罹患率は東アジアが最も高く(男女ともモンゴルが最高)、東欧・南米がこれに続き、地理的な差は主に慢性H. pylori感染の有病率の差を反映し、非噴門部胃癌の約90%がH. pyloriに起因するとしていること、罹患率・死亡率は過去1世紀にわたり世界的に大きく低下してきたこと、日本と韓国がそれぞれ1983年・1999年に全国的な組織型胃癌検診を導入し、韓国では導入15年後の死亡率41%低下と関連し早期胃癌の割合が2001年の39%から2016年の73%へ上昇したことを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 4.Prognostic impact of Borrmann classification on advanced gastric cancer: a retrospective cohort from a single institution in western China(World Journal of Surgical Oncology・2020)全文(PMC7427284)で、中国西部の単一施設の進行胃癌2,092例の後ろ向きコホートで、肉眼形態をBorrmann I型(周囲粘膜との境界が明瞭な隆起型)、II型(辺縁が鋭く隆起した潰瘍型)、III型(境界不明瞭で周囲壁へ浸潤する潰瘍型)、IV型(潰瘍形成を伴わないびまん浸潤型)に分類し、III型・IV型ほど腫瘍径が大きく低分化・進行病期・全周性進展の頻度が高く、全生存率が有意に異なったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 5.The 2019 WHO classification of tumours of the digestive system(Histopathology・2020)全文(PMC7003895)で、WHO消化器腫瘍分類第5版(2019年)の変更点の要約として、胃腺癌の分類の節で印環細胞癌と低結合性癌NOSを含む低結合性癌の不均一性が論じられていること、散発性胃癌の多くはH. pylori感染による炎症を背景に萎縮・化生を経て生じると考えられていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 6.Consensus on the pathological definition and classification of poorly cohesive gastric carcinoma(Gastric Cancer (International Gastric Cancer Association / Japanese Gastric Cancer Association)・2019)抄録で、国際胃癌学会欧州支部の多職種専門家によるDelphi合意が、Laurénびまん型とWHOの低結合性癌(poorly cohesive carcinoma、印環細胞癌を含む)を並べて扱い、胃癌を当時最新のWHO分類(2010年版)で分類する必要があるとしたうえで、低結合性細胞の90%超が印環細胞形態を示す低結合性癌だけを印環細胞癌とし、それ以外を印環細胞成分を伴う低結合性癌(10%超90%未満)と低結合性癌NOS(10%未満)に細分することを「提案」したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 7.Helicobacter pylori infection and the development of gastric cancer(New England Journal of Medicine・2001)抄録で、十二指腸潰瘍・胃潰瘍・胃過形成(ポリープ)・非潰瘍性ディスペプシアで登録した日本人1,526例(H. pylori感染1,246例・非感染280例)を平均7.8年追跡した前向き研究で、胃癌は感染者36例(2.9%)にのみ発生し非感染者では0例だったこと、内訳は腸型23例・びまん型13例で、びまん型胃癌もH. pylori感染者から発生すること、感染者のうち高度萎縮・体部優位胃炎・腸上皮化生がある例で胃癌リスクが高く、十二指腸潰瘍の例からは発生しなかったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 8.Hereditary diffuse gastric cancer: updated clinical practice guidelines(The Lancet Oncology / International Gastric Cancer Linkage Consortium・2020)抄録で、遺伝性びまん性胃癌は常染色体優性の症候群で、びまん型胃癌と乳腺小葉癌の高頻度を特徴とし、大半はがん抑制遺伝子CDH1の不活化生殖細胞系列変異により、少数の家系ではCTNNA1の病的バリアントがみられることを確認した。国際胃癌連鎖コンソーシアムの2020年改訂では、病的CDH1バリアント保因者のリスク管理として予防的胃全摘が引き続き推奨される選択肢である一方、手術を先送りしたい人やリスクが明確でない人には専門施設での内視鏡サーベイランスを安全に提示しうるとし、遺伝学的検査の基準(主に年齢制限)を緩めたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  8. 9.Gastrointestinal stromal tumors: pathology and prognosis at different sites(Seminars in Diagnostic Pathology・2006)抄録で、GISTの発生部位は胃60%、空腸・回腸30%、十二指腸4-5%、直腸4%、結腸・虫垂1-2%、食道1%未満で、Cajal細胞またはその前駆細胞由来とされること、胃のGISTは同じ径・核分裂数の腸のGISTより予後が良く、胃で10cm以下かつ核分裂5/50HPF以下なら転移リスクは低いが、腸では5cmを超えれば核分裂数によらず少なくとも中等度のリスクとなることを確認した。閲覧 2026-08-27
  9. 10.Ripretinib in patients with advanced gastrointestinal stromal tumours (INVICTUS): a double-blind, randomised, placebo-controlled, phase 3 trial(The Lancet Oncology・2020)抄録で、少なくともイマチニブ・スニチニブ・レゴラフェニブで増悪したか不耐容の進行GIST患者129例を2対1でリプレチニブ150 mg/日とプラセボに割り付けた第III相二重盲検試験で、無増悪生存期間の中央値が6.3か月対1.0か月(ハザード比0.15)だったことを確認した。閲覧 2026-09-24
  10. 11.Avapritinib in advanced PDGFRA D842V-mutant gastrointestinal stromal tumour (NAVIGATOR): a multicentre, open-label, phase 1 trial(The Lancet Oncology・2020)抄録で、PDGFRA D842V変異GISTはチロシンキナーゼ阻害薬に高度に抵抗性であること、第I相試験のD842V変異例56例でアバプリチニブの全奏効率が88%(完全奏効9%・部分奏効79%)だったことを確認した。閲覧 2026-09-24