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Drug Atlas · B2 Anticoagulants / 抗凝固薬

アセノクマロール

acenocoumarol

分類
Anticoagulants / 抗凝固薬
商品名(EU)
Sinthrome
科目
PharmacologyClinical PharmacologyPulmonology and Thoracic Surgery
トピック
B2: Drugs influencing blood coagulation II: Anticoagulant drugs21: Atrial fibrillation41: Pulmonary embolism
承認適応
心房細動(英国の承認適応「血栓塞栓症の治療と予防」の一つ)静脈血栓塞栓症(肺塞栓症を含む)
禁忌疾患
感染性心内膜炎急性心膜炎消化性潰瘍(電子添文は「消化管などの潰瘍・出血」)
副作用
出血皮膚壊死
監視検査値
プロトロンビン時間(PT-INR)
解毒薬
ビタミンK
対象疾患
深部静脈血栓症肺血栓塞栓症
原因となる疾患
カルシフィラキシス

🧠 全体像:アセノクマロールは、ワルファリンと同じので、の合成を邪魔して血を固まりにくくする経口抗凝固薬である。は8〜11時間だが、作用は24時間を超えて続く1。⚠️ ただし作用のは遅く(時間が延びるまで約36〜72時間)、急いで抗凝固が要る場面ではヘパリンで始める。国内ではPMDAの添付文書検索で成分名・主な表記ゆれのいずれも該当がなく(2026年11月6日確認)、ここに書く内容は英国のに基づく。

薬効群の中での位置づけ

薬剤 作用の特徴 代謝・消失
ワルファリン VKA。国内でも使われる(PMDAに電子添文がある) CYP2C9がクリアランスで最も重要。ほぼ完全に代謝で消失2
アセノクマロール VKA。半減期8〜11時間 CYP2C9の寄与が2番目。ほぼ完全に代謝で消失21
フェンプロクモン VKA CYP2C9の寄与が最も小さく、CYP3A4も働き、未変化体が胆汁・尿に排泄される2
・・・ (DOAC) VKAとは作用機序が別。INRでのが要らない

⭐ 3つのVKAはどれも同じ酵素()を阻害し、CYP2C9の寄与の大きさが違う。このためCYP2C9の遺伝多型の影響は、フェンプロクモンで最も小さい2。

⚠️ 現在の指針ではDOACが優先される場面が多い。 2023年の米国指針は、中等度〜重度のとを除く心房細動で、DOACをワルファリンより推奨する(クラス1、A)。この2つの病態ではワルファリンが第一選択のままである3。この記載はワルファリンについてのもので、アセノクマロールを名指しした記載ではない。

機序

flowchart TD
    A["アセノクマロールを内服"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitamin K epoxide reductase'>ビタミンKエポキシド還元酵素</span>を阻害"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reduced form'>還元型</span>ビタミンKが再生されない"]
    C --> D["第II・VII・IX・X因子と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Protein C'>プロテインC</span>・Sの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='γ-carboxylation'>γ-カルボキシル化</span>が減る"]
    D --> E["カルシウムイオンと結合できず機能する凝固因子が減る"]
    E --> F["凝固が始まりにくくなる(INRが上がる)"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Protein C'>プロテインC</span>・Sも減る<br>まれに出血性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='skin necrosis'>皮膚壊死</span>(先天性のC・S欠乏に関連)"]

電子添文はこの作用機序を、凝固因子II()・VII・IX・Xと、またはその補因子のの減少として述べる1。💡 効果が現れるまで36〜72時間かかるのは、すでに作られた凝固因子が減るのを待つためと説明され、中止後も数日かけて元に戻る。急ぐ場面でヘパリンを重ねる理由はここにある。

薬物動態

項目 内容
吸収 (R(+)とS(-))。60%以上が全身に移行し、10 mg単回投与で1〜3時間にピーク
分布 98%超が(主にアルブミン)に結合。は0.16〜0.18 L/kg、0.22〜0.34 L/kg
代謝 ほぼ完全に代謝される。6位・7位の水酸化の主な触媒はCYP2C9(ではCYP1A2とCYP2C19も関与)。代謝物は人の抗凝固作用に寄与しない
活性 抗凝固作用が強いのはR(+)体で、その全血漿クリアランスはS(-)体より小さい
消失 半減期は8〜11時間。排泄は尿中約60%・糞便約29%で、未変化体のは0.2%未満
血中濃度と効果 との間に相関は認められない(患者間のばらつきが大きいため)。INRで調整する

上の数値は英国電子添文のの項による1。

CYP2C9の遺伝型と維持量

CYP2C9の遺伝的な違いは、アセノクマロールへの反応のの約14%を説明する。CYP2C92と3の頻度は、白人で12%と8%、アフリカ系では1〜4%と0.5〜2.3%、日本人では0.1%と1〜6%と記載されている。を持つ患者ではのクリアランスが下がる。

例数 の平均(mg/週) 中央値(mg/週)
CYP2C9*1 169 17.1 15.8
CYP2C9*2 90 14.4 13.5
CYP2C9*3 48 11.0 10.5

上の数値は英国電子添文の記載である1。⭐ 遺伝子型で必要量はたしかに違うが、遺伝子型に合わせて開始量を決めても成績は良くならなかった。 アセノクマロールまたはフェンプロクモンを始める548例(心房細動または)を、遺伝子型(CYP2C9・VKORC1)を使う群と臨床因子だけを使う群に割り付けた試験では、開始後12週の目標INR範囲内の時間は61.6%対60.2%(P=0.52)で差がなく、出血・血栓塞栓イベントにも差がなかった(最初の4週だけは52.8%対47.5%でP=0.02)4。

適応

英国の添付文書の適応は「血栓塞栓症の治療と予防」である。必要な抗凝固の強さは適応ごとにINRの目標が違う1。

適応 目標INR
の予防と治療(肺塞栓症を含む) 2.0〜3.0
心房細動 2.0〜3.0
(血栓塞栓症の危険が高い場合) 2.0〜3.0
2.0〜3.0
の 2.0〜3.0
でを発症し、VKA治療中 2.0〜3.5
2.0〜3.5

個々の例で4.5までの高いINRが必要になることがあるとされる。

用法・用量

項目 内容
開始量 PT/INRが正常範囲なら2〜4 mg/日(負荷なし)。負荷する場合は初日6 mg、2日目4 mg。単回の。個別に決める
開始時の測定 病院では2〜3回目の投与から毎日PT/INRを測り、治療域で安定するまで続ける。以後は結果の安定に応じて間隔を延ばす
患者ごとに違い、1〜8 mg/日が一般的。INRは少なくとも月1回
低用量が要る人 65歳以上、肝疾患、を伴う、栄養不良は、開始・維持で少なめの量になりうる
飲み忘れ 同日のうちにできるだけ早く服用。倍量にしない。作用は24時間を超えて続く
中止 通常はのの危険がなく、は不要(など一部の高リスクではする)

用法・用量は英国電子添文の記載である1。

flowchart TD
    A["VKAを始める適応が決まる"] --> B{"すぐに抗凝固が必要か"}
    B -->|"はい"| C["ヘパリンで開始し、アセノクマロールを重ねる"]
    B -->|"いいえ"| D["アセノクマロールを2〜4 mg/日で開始"]
    C --> E["病院では2〜3回目の投与から毎日INRを測る"]
    D --> E
    E --> F["INRが適応ごとの目標域に入るよう用量を調整"]
    F --> G["アセノクマロール開始から4日以上経過し、INRが連続2日目標域に入ったらヘパリンを中止"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maintenance dose'>維持量</span>(1〜8 mg/日)でINRを少なくとも月1回確認"]

電子添文はヘパリンから移行するとき、アセノクマロールの開始後少なくとも4日間は全量のヘパリンを続け、INRが少なくとも連続2日目標域に入るまで続けることを勧める。作用の発現が遅いためである。

禁忌・注意

  • ⚠️ 禁忌(英国電子添文):アセノクマロールとクマリン誘導体またはへの過敏症、妊娠、協力できない患者(監督のない認知症、、精神疾患など)。さらに、出血の危険が臨床的な利益を上回るすべての状態として、出血素因・出血性の、中枢神経または眼の手術の直前直後や組織の広い露出を伴う手術、消化管・泌尿生殖器・呼吸器の潰瘍や出血、脳血管出血、、、、重症高血圧、重症の肝障害・腎障害、肺・前立腺・子宮の手術後のが挙がる1。
  • ⚠️ 妊娠中は禁忌:クマリン誘導体は胚のと関連しうる。妊娠可能な女性は治療中に避妊する。授乳は、乳汁中の量が少なく乳児への影響は予想されないが、予防として乳児にビタミンK1を週1 mg与える。
  • ⚠️ 出血の危険因子:INRが4.0を超える強い抗凝固、65歳以上、INRの変動が大きい、消化管出血の既往、高血圧、、重い心疾患、貧血、悪性腫瘍、外傷、腎障害、併用薬。
  • ⚠️ ・の欠乏が疑われる患者は注意する。まれに出血性の(ほとんどが先天性の・S欠乏、すなわちに関連)を起こす。カルシフィラキシー(石灰化防御障害)もまれに起こり、診断されたら中止を考える。抗凝固薬関連腎症(過剰な抗凝固と血尿に伴う)も記載されている。
  • は避ける(血腫を作りうる)。皮下・の注射は問題ない。抗凝固薬カードを携帯させる。
  • 重症の肝障害・腎障害は禁忌、軽度〜中等度では慎重に使う。小児の経験は限られ、小児と高齢者では頻回のINR確認を勧める。

併用の注意

併用薬は非常に多く、INRを2回/週程度に頻回に確認する。併用の開始時と中止時が危ない。

区分 例
併用は勧められない ヘパリン(急速な抗凝固が要る場面を除く)、クリンダマイシン、(・・)、誘導体(アスピリンなど)、、COX-2阻害薬を含むNSAIDs、高用量の静注。消化管出血の危険が増す
作用が増強されうる 、ステロイド、・、・マクロライド・キノロン・テトラサイクリン・メトロニダゾール、、、、、、、甲状腺ホルモン、スタチン、SSRI、、、、、、、CYP2C9阻害薬
作用が減弱されうる リファンピシン、カルバマゼピン、、、経口避妊薬、、、HIV(予測できない変動もある)、ビタミンE、副腎皮質ステロイド、CYP2C9・CYP2C19・CYP3A4の
その他 はの遅延で吸収を損なう可能性がある。クランベリージュースは避ける(抗凝固作用が強まる理論上の危険)。アルコールは制限する。アセノクマロールはフェニトインの血中濃度を上げ、の血糖降下作用を強めうる

上の分類は英国電子添文の相互作用の項による1。

副作用

頻度 内容
一般的(1/100以上、1/10未満) 出血(消化管・脳・尿路・子宮・肝・胆嚢・眼など)。用量・年齢・基礎疾患に関連し、死亡例もある
まれ(1/10,000以上、1/1,000未満) 過敏症(蕁麻疹・発疹・皮膚炎・発熱)、食欲低下・悪心・嘔吐、脱毛
非常にまれ(1/10,000未満) 血管炎、肝障害、出血性の
頻度不明 カルシフィラキシー、出血に続く貧血、抗凝固薬関連腎症

頻度の区分は英国電子添文による1。⚠️ 同文書は、治療域のINRなのに出血が起きたときは、その出血の原因を別に調べることを求めている。

過量・出血時の対応

  • 治療量を超えて服用したときはどの量でも病院への紹介を勧める。出血は服用後1〜5日に起こりうる。
  • はビタミンK1()で、3〜5時間での阻害を打ち消しうる。軽い出血(短時間の、小さな血腫)では、一時的な減量またはで足りることが多い。中等度〜重度の出血ではビタミンK1をする。
  • ⚠️ ビタミンK1を5 mgを超えて投与すると、数日間、以後のに抵抗性になる。 抗凝固が必要なら一時的にヘパリンを使い、経口抗凝固薬を再開して治療域に入ったらヘパリンを中止する。
  • 生命を脅かす出血では、または全血、複合体()または遺伝子組換えに、ビタミンK1を加えて、効果を打ち消す。中等度〜重度の出血の後は、INRが目標域に入ったら再開する。

過量の項の記載は英国電子添文による1。

まとめ

  • アセノクマロールは、ワルファリンと同じのVKA。を阻害し、凝固因子II・VII・IX・Xと・Sのを減らす。半減期は8〜11時間で、効果の発現は36〜72時間かかる。
  • 代謝の主役はCYP2C9。ワルファリンより寄与は小さく、フェンプロクモンより大きい。では変わるが、遺伝子型ガイドの開始量は目標INR内の時間を改善しなかった(548例で61.6%対60.2%)。
  • 適応ごとに目標INRが違い、・心房細動・は2.0〜3.0、は2.0〜3.5。急ぐときはヘパリンを重ね、INRが連続2日目標域に入るまで続ける。
  • ⚠️ 妊娠は禁忌。出血素因・脳血管出血・・重症高血圧・重症の肝腎障害なども禁忌。併用薬が極めて多く、併用の開始時と中止時にINRを頻回に確認する。解毒はビタミンK1で、5 mgを超えると以後の抗凝固に抵抗性になる。
  • 現在の指針ではDOACが優先される場面が多いが、中等度〜重度のとではVKAが第一選択(ワルファリンについての記載)。日本の添付文書は確認できなかった。

出典

  1. 1.Sinthrome 1mg Tablets — Summary of Product Characteristics(MHRA(英国。販売承認取得者はNorgine Pharmaceuticals Limited。本文の改訂日は2025年7月15日)・2025)全文を取得して確認した。4.1は「血栓塞栓症の治療と予防」。4.2は開始量2〜4 mg/日(負荷なし)または初日6 mgと2日目4 mgの負荷、病院では2〜3回目の投与から毎日PT/INRを測り、維持量は1〜8 mg/日、少なくとも月1回のINR、静脈血栓塞栓症・心房細動・生体弁・抗リン脂質抗体症候群はINR 2.0〜3.0、機械弁はINR 2.0〜3.5、ヘパリンは少なくとも4日間かつINRが連続2日治療域に入るまで継続。4.3は禁忌(過敏症、妊娠、協力できない患者、出血の危険が利益を上回る状態として出血素因・消化管などの出血・脳血管出血・急性心膜炎・心嚢液貯留・感染性心内膜炎・重症高血圧・重症の肝腎障害など)。4.4は出血の危険因子(INR 4.0超・65歳以上など)、石灰化防御障害(カルシフィラキシー)、抗凝固薬関連腎症、プロテインC・S欠乏。4.5は併用の注意(ヘパリン・抗血小板薬・NSAIDsは推奨されず、CYP2C9阻害薬・アミオダロン・スタチン・SSRIなどで増強、リファンピシン・カルバマゼピン・セントジョーンズワートなどで減弱、セマグルチドが吸収を損なう可能性、クランベリージュース)。4.6は妊娠で禁忌、授乳中は乳児にビタミンK1を週1 mg。4.8は出血が最多。4.9は過量時のビタミンK1。5.1は36〜72時間でトロンボプラスチン時間が延びる。5.2は吸収60%以上、血漿蛋白結合98%超、半減期8〜11時間、CYP2C9が主な代謝酵素、尿中60%・糞便29%、CYP2C9遺伝子型別の維持量。なお本文書は英国の先発品Sinthrome 1mgの1本で、他国の文書は確認していない。閲覧 2026-11-06
  2. 2.Comparative pharmacokinetics of vitamin K antagonists: warfarin, phenprocoumon and acenocoumarol(Clinical Pharmacokinetics(Ufer M)・2005)抄録(Europe PMC、PMID 16372822)で、CYP2C9がクリアランスにとって最も重要なのはワルファリン、次にアセノクマロール、最後にフェンプロクモンであること、フェンプロクモンはCYP3A4が加わり未変化体の胆汁・尿への排泄も大きいのに対し、ワルファリンとアセノクマロールはほぼ完全に代謝で消失すること、CYP2C9多型の影響もフェンプロクモンで最も小さいことを確認した。誌面は購読制で未取得。閲覧 2026-11-06
  3. 3.2023 ACC/AHA/ACCP/HRS Guideline for the Diagnosis and Management of Atrial Fibrillation(American College of Cardiology / American Heart Association・2023)PMC全文(PMC11095842)の推奨表で、中等度から重度のリウマチ性僧帽弁狭窄症または機械弁の既往がなく抗凝固の対象となる心房細動で、DOACを死亡・脳卒中・全身性塞栓症・頭蓋内出血を減らすためにワルファリンより推奨すること(クラス1、エビデンスレベルA)、本文が「中等度から重度の僧帽弁狭窄症または機械弁ではワルファリンが第一選択」「目標INRは2〜3で、出血リスクはINRが4を超えると目立つ」と述べることを確認した。ワルファリンについての記載であり、アセノクマロールを名指しした記載ではない。閲覧 2026-11-06
  4. 4.A randomized trial of genotype-guided dosing of acenocoumarol and phenprocoumon(The New England Journal of Medicine(Verhoef TI, Ragia G, de Boer A, et al.; EU-PACT Group)・2013)抄録(Europe PMC、PMID 24251360)で、心房細動または静脈血栓塞栓症でアセノクマロールまたはフェンプロクモンを始める548例(遺伝子型ガイド群273例、対照275例)を無作為割付した2つの単盲検試験を併合し、開始後12週の目標INR範囲(2.0〜3.0)内の時間割合が61.6%対60.2%(P=0.52)で差がなく、最初の4週では52.8%対47.5%(P=0.02)で、出血・血栓塞栓イベントに差がなかったことを確認した。誌面は購読制で未取得。閲覧 2026-11-06