薬理学

薬理学 · Core34

生物学的医薬品の特性

Core34: Characterisation of biological medicinal products

前提:正常
タンパク質の翻訳後修飾生物学的製剤治療 I
応用トピック
膵ホルモンおよび注射用抗糖尿病薬骨ミネラル恒常性に作用する薬(カルシウム・ビタミンD・副甲状腺ホルモン・カルシトニンなど)気管支抗炎症薬・鎮咳薬・去痰薬貧血治療薬免疫薬理学III(抗体・融合タンパク質)抗がん薬VI(高分子シグナル伝達阻害薬・免疫賦活抗がん薬)先端治療医薬品・ワクチン
薬剤
コラゲナーゼ・クロストリジウム・ヒストリチカム

🧠 全体像:は、生きた細胞や生物から作られる医薬品である。との最大の違いは 「同じものを作り直せない」 こと——などのが製造ごとにばらつくため、製品は単一の分子ではなく微小をもつ混合物になる。ここから3つの帰結が出る。①完全なが難しく、そのものが製品の一部である。②タンパク質なのでがあり、が効果を減弱させうる。③後続品は「同一」を示せないので、ジェネリックの枠では承認できず、という別の枠が必要になる。⚠️ 後続品をどこまで入れ替えてよいかという規律は地域ごとに違い、しかも近年動いている——「米国だけが相互互換性を指定できる」という2010年代前半の整理は、が2023年に共通見解を出したことで前提が変わった。

生物学的医薬品とは

は、天然またはの材料から作られる医薬品である。含まれうる成分は幅広い。

  • 糖
  • タンパク質
  • 核酸
  • 複数の成分が組み合わさった複合体
  • 細胞や組織などの生きた要素

用途そのものは通常の医薬品と変わらず、疾患の治療・治癒、予防、診断に用いる。

身近な例

製品 種類 主な用途
製剤() ・神経内科領域
() 陽性の乳癌
エンブレル () 関節リウマチ・
各種ワクチン 弱毒生・不活化・・核酸など インフルエンザ、帯状疱疹ほか

💡 「」は化学的な一群ではなく、作り方による区分である。 ・抗体・ワクチンは薬理学的には何の共通点も無いが、生きた系で作るために工程の揺らぎが製品に乗るという一点で同じ上の扱いを受ける。

低分子薬との違い

観点
分子量 小さい 大きい
製造 通常は 生細胞・生物を用いる
少ない 多い
容易(構造を確定できる) 困難(複数の分析技術を要する)
構造 既知 完全には定義されないことがある
均一 不均一な混合物。バリアントを含みうる
通常は低い 高いことが多い

大きさの実感をつかむには、と欧州委員会の共同ガイドが挙げる3つの分子量を並べるとよい——は約150,000、は約22,000、インスリンは約5,808である1。はこの下にさらに2桁ほど小さい。

💡 なぜ「同じものを作り直せない」のか。 タンパク質は遺伝子配列が決まれば()は決まるが、細胞内での——とくにの付き方——は・培地・培養条件・工程で変わる。その結果、同じ工程で作っても分子の集団にはわずかな違いが残る。これを微小と呼ぶ。のように「構造式が一致すれば同じ薬」とは言えないのはこのためで、工程を変えること自体が製品を変えることを意味する。

バイオシミラー——「同一」ではなく「高い類似性」

先発のの特許が切れたあとに出る後続品がである。

⚠️ はジェネリックではない。 と欧州委員会の共同ガイドは節をひとつ割いてこう述べている——はのとはみなされない。がもつ自然のばらつきと製造の複雑さが、分子の微小を正確に再現させないからである。したがっての承認には、ジェネリックより多くの試験が必要になる1。

観点 ジェネリック
製造 通常は の材料から得る
分子の再現 まったく同じ分子を得られるのが普通 高い類似性までは再現できるが同一にはならない
分子の大きさ 小さくしやすい 大きく複雑で、複数の分析技術を要する
品質の要求 医薬品品質のフルデータ 医薬品品質のフルデータ+基準薬との構造・生物活性の比較試験
開発の土台 生物学的同等性の証明 性の証明(基準薬との直接比較=comparability studies)
臨床データ 主にの生物学的同等性試験 比較・試験に加え、複雑な製品では安全性・有効性データも要求されうる
適応の取得 生物学的同等性の証明だけで基準薬の全適応を取得できる 適応ごとに有効性と安全性をする必要がある(ただし条件が満たされれば外挿しうる)

(表は・欧州委員会の共同ガイド Table 3 に基づく1)

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='originator (brand-name) drug'>先発品</span>と同じ治療を担う後続品を作りたい"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='originator (brand-name) drug'>先発品</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='active ingredient'>有効成分</span>は<br>低分子か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='natural/biological sources'>生物由来</span>か"}
  B --> C["低分子<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemical synthesis'>化学合成</span>で同一分子を作れる"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='natural/biological sources'>生物由来</span><br>同一分子は作れない"]
  C --> E["ジェネリックの枠<br>生物学的同等性を示す"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biosimilar'>バイオシミラー</span>の枠<br>基準薬との直接比較で<br>高い類似性を示す"]
  E --> G["基準薬の全適応を取得"]
  F --> H["構造・生物活性の比較"]
  H --> I["比較<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pharmacokinetic'>薬物動態</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pharmacodynamics'>薬力学</span>試験"]
  I --> J["必要なら比較<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical trial (clinical study)'>臨床試験</span>と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunogenicity'>免疫原性</span>の評価"]
  J --> K["適応ごとに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='justification (radiological protection principle)'>正当化</span><br>条件を満たせば外挿"]

💡 の開発はピラミッドが逆さまである。 新薬開発ではが判断の主役だが、では分析でのが土台で、はその上に載る確認作業にすぎない。「で差が出なかった」ことより「分子として基準薬のの内側にある」ことのほうが重い証拠になる。

⭐ 欧州は2006年に最初のを承認した。 製剤オムニトロープ()が、欧州で最初に利用可能になったである2。以後の運用経験がの枠組みの土台になっている。

免疫原性——抗薬物抗体

はタンパク質なので、患者の免疫系に異物として認識され、(anti-drug antibody, ADA)を誘導しうる。は薬物と結合して血中濃度を下げ、効果を減弱させ、まれに重篤な過敏反応を引き起こす。であれば作用部位そのものを塞ぐ。

慢性炎症性疾患で使われる生物学的製剤について、443報(394試験)を採用した系統的レビューは、のが薬剤ごとに大きく開くことを示している3。

が高かった薬剤 報告範囲
0〜83%
0〜54%
の -P13 21〜52%

が陽性の患者は、陰性の患者より臨床反応率が低かった3。

⚠️ この表の数字で薬剤どうしを直接比べてはいけない。 原著は数値を挙げた同じ文のなかで、が研究ごとに不均一なので直接比較はできないと明記している3。幅が「0〜83%」のように極端に広いこと自体が、測っているものが揃っていない証拠である。読み取ってよいのは「薬剤ごとに桁が違いうる」「同じ薬でも研究によって数字が動く」というところまでで、順位表として覚えない。

💡 を決めるのは分子だけではない。 分子側の要因(由来がヒト型か型か、凝集体の有無、の違い)に加えて、患者側(疾患、遺伝背景)、投与側(経路、頻度、の併用)が効く。(メトトレキサートなど)の併用がの出現を抑えるのは、この文脈で理解する。

切替・代替の規律は地域で違う

⚠️ ここが最も取り違えやすい論点である。 用語が3つあり、しかもどの国の話かで答えが変わる。

まず用語を分ける。・欧州委員会の共同ガイドの定義を整理すると次のようになる1。

用語 意味 誰が決めるか
同じ臨床効果が期待できる薬どうしを入れ替えられること 概念としての判断
同じ治療意図のもとで、処方医が別の薬へ替えること 処方医
処方医に相談せず、薬局の段階で同等かつ相互互換な別の薬を調剤すること 調剤側(制度が許す範囲で)

そのうえで地域を分ける。

地域 相互互換性の扱い 切替・代替の実施
米国 法律上の指定区分がある。 BPCIA(Biologics Price Competition and Innovation Act=生物学的製剤の価格競争及びイノベーション法)が、基準薬と相互互換であるとが指定する権限を与えている2 相互互換と指定された製品は、薬剤師が処方医の関与なしに先行品と置き換えられる2
EU 2023年に共通見解が出た。 と長官会合は、で承認されたは相互互換であると共同声明で明言した4 加盟国ごとの所管。 切替・代替をどう実施するかはの権限外で、各加盟国が管理する4

⚠️ 「には相互互換性という区分が無い」という説明は2011年時点の整理である。 当時の文献は、にだけ与えられEMAには無い権限が相互互換の指定であり、これはでは事項として扱われていないと述べていた2。しかし2023年4月21日付の共同声明は、でこれまで相互互換性についての勧告が出されていなかったこと自体が現場の不確実性の原因になっているとして、共通の立場を初めて明示した4。現在の正しい整理は「に相互互換性の概念が無い」ではなく「では承認された時点で相互互換とみなすが、切替・代替の運用は加盟国が決める」である。

💡 同じ共同声明は、相互互換性を支えるために追加の系統的な切替試験は不要だとも述べている4。根拠は、15年を超える審査・承認・市販後監視の蓄積と、承認されたが基準薬と同等の有効性・安全性・を示してきたことである。「切替の安全性は試験で1件ずつ証明するもの」という発想自体が、経験の蓄積によって更新された。

まとめ

  • は生きた系で作るため、のばらつきから微小をもつ混合物になる。構造が完全には定義されないことがあり、工程が製品の一部である。
  • との差は分子量・製造法・の難易・均一性・に現れる。大きさの目安は約150,000、約22,000、インスリン約5,8081。
  • ⚠️ はジェネリックではない。 同一分子を作れないため、生物学的同等性ではなく基準薬との直接比較による高い類似性で承認され、そのぶんジェネリックより多くの試験を要する1。適応も自動的には引き継がれず、適応ごとにが要る。
  • 欧州で最初に利用可能になったは2006年のオムニトロープ()2。
  • はとして現れ、効果減弱や過敏反応につながる。は薬剤ごとに大きく開くが、⚠️ 測定法が不均一なので薬剤間の直接比較はできない3。
  • ⚠️ 切替・代替の規律は地域で違う。 米国は法律上の相互互換指定をもち、指定製品は薬剤師が処方医の関与なく代替できる2。は2023年の共同声明で承認済みを相互互換と位置づけたが、切替・代替の実施は加盟国の所管である4。
  • 開発段階の全体像は → Core1:の段階(概要)、抗体・の薬理は → B30:III(抗体・)で扱う。

出典

  1. 1.Biosimilars in the EU: Information guide for healthcare professionals(欧州医薬品庁(European Medicines Agency, EMA)・欧州委員会(European Commission)の共同作成・2019)公式PDF(40頁)の全文で確認した。著作権表示は逐語「© European Medicines Agency, 2019」、収載品目一覧の基準日は逐語「as at October 2019」。節の表題が逐語「Why biosimilars are not considered generic medicines」で、本文は逐語「A biosimilar is not regarded as a generic of a biological medicine. This is mostly because the natural variability and more complex manufacturing of biological medicines do not allow an exact replication of the molecular microheterogeneity. Consequently, more studies are needed for regulatory approval of biosimilars than for generics」。Table 3 がジェネリックとバイオシミラーを対比し、開発の土台をそれぞれ逐語「demonstration of bioequivalence」と逐語「demonstration of biosimilarity using comparability studies」と書き分けること。用語集は逐語で Switching=「When the prescriber decides to exchange one medicine for another medicine with the same therapeutic intent」、Substitution=「Practice of dispensing one medicine instead of another equivalent and interchangeable medicine at pharmacy level without consulting the prescriber」。分子量の例示として単クローン抗体150,000ダルトン・成長ホルモン22,000ダルトン・インスリン5,808ダルトンを挙げること。⚠️ 本版の要約は逐語「EMA does not regulate interchangeability, switching and substitution」と述べるが、この立場は2023年の共同声明で更新されている。閲覧 2026-09-22
  2. 2.Worldwide experience with biosimilar development(mAbs・2011)PMC3092622の全文で確認した。逐語「approving Omnitrope (somatropin) as the first biosimilar product available in Europe in 2006」=欧州で最初に利用可能になったバイオシミラーが2006年のオムニトロープ(ソマトロピン)であること。逐語「The one explicit authority granted to the FDA, and not available to EMA, is that they can designate a biosimilar as interchangeable with its reference originator product」=FDAにだけ与えられEMAには無い明示的権限が、バイオシミラーを基準となる先行品と相互互換(interchangeable)と指定できることであること。逐語「Interchangeability, as defined in the BPCIA, allows a pharmacist to substitute an interchangeable biosimilar with the originator drug without the intervention of the original prescribing physician」=BPCIAの定義する相互互換性が、薬剤師が処方医の関与なしに先行品と置き換えることを許すものであること。⚠️ 本論文は2011年時点の記述で、逐語「interchangeability, which is an issue not addressed in Europe as a regulatory matter」=当時のEUに規制事項としての相互互換性が無かったことを述べる。本文全体に Member State は0件で、EU側の切替・代替の所管については何も述べていない(陽性対照 biosimilar は121件)。閲覧 2026-09-22
  3. 3.Immunogenicity of Biologics in Chronic Inflammatory Diseases: A Systematic Review(BioDrugs・2017)PMC5548814の全文で確認した。採用論文は逐語「443 publications (394 studies) were included in the review」。抗薬物抗体の発生率は逐語「infliximab (0–83%), adalimumab (0–54%), and infliximab biosimilar CT-P13 (21–52%)」が高く、逐語「secukinumab (0–1%), ustekinumab (1–11%), etanercept (0–13%), and golimumab (0–19%)」が低いこと。⚠️ 原著は同じ文に逐語「and are not directly comparable because of immunoassay heterogeneity」という但し書きを置いており、薬剤間の直接比較はできないこと。逐語「ADAb+ versus ADAb− patients had lower rates of clinical response」=抗薬物抗体陽性例で臨床反応率が低かったこと。⚠️ スクリーニング数は抄録が逐語「Of >21,000 screened publications」、Methods は32,584件同定・27,560件を一次スクリーニングと書いており同一論文内で食い違うので、本ノートは採用数のみを用いた。閲覧 2026-09-22
  4. 4.Statement on the scientific rationale supporting interchangeability of biosimilar medicines in the EU (EMA/627319/2022)(欧州医薬品庁(European Medicines Agency, EMA)・欧州医薬品庁長官会合(Heads of Medicines Agencies, HMA)・2023)公式PDF(3頁)の全文で確認した。文書番号 EMA/627319/2022、日付は逐語「21 April 2023」。見出しが逐語「Joint EMA-HMA statement on interchangeability: Biosimilars approved in the EU are interchangeable」で、本文は逐語「HMA and EMA consider that once a biosimilar is approved in the EU it is interchangeable, which means the biosimilar can be used instead of its reference product (or vice versa) or one biosimilar can be replaced with another biosimilar of the same reference product」。ただし逐語「Decisions on how to implement interchangeability either through switching (under the control of the prescriber) and/or substitution ... are not within the remit of EMA and are managed by individual member states」=実施の仕方は加盟国の所管であること。逐語「EMA has to date not issued any recommendation on interchangeability」と、この声明が初めてのEU共通見解であることを述べ、逐語「additional systematic switch studies are not required to support the interchangeability」と切替試験を不要としていること。閲覧 2026-09-22