Biochemistry

Biochemistry · 8/1

ヘムの生合成と分解;鉄の恒常性

Biosynthesis and degradation of heme; iron homeostasis — L II

応用トピック
血清総ビリルビン・直接ビリルビンの測定肝疾患の皮膚症状プリン・鉄・銅代謝および希少代謝疾患急性肝不全患者の管理鉄欠乏性貧血慢性疾患に伴う貧血ポルフィリン症ヘモクロマトーシスとウィルソン病妊娠と血液疾患新生児黄疸新生児黄疸貧血の徴候・症状と評価
疾患
鉛中毒

🧠 ヘム代謝は「作る(ALA合成酵素から始まる合成)」「使う()」「壊す(でビリルビンへ)」の3段で読み、鉄はその全過程で「貯める・運ぶ・守る(から)」システムとセットで理解する。 鉄はに貯蔵され、が全身の鉄バランスを、IRP-TfR/系が細胞内鉄を調節する。(ALA合成酵素)の組織別調節と、赤血球のビリルビン産生・機序が臨床の要。

鉄の恒常性

鉄依存性の酸化ストレス:Fenton反応とフェロトーシス

遊離の2価鉄(Fe²⁺)はと反応し、極めて反応性の高いヒドロキシラジカルを生む()。

Fe2++H2O2Fe3++OH+OH\text{Fe}^{2+} + \text{H}_2\text{O}_2 \rightarrow \text{Fe}^{3+} + \text{OH}^- + \text{OH}^{\bullet}

⚠️ 鉄は貯蔵・運搬中は必ず「保護された」形でなければならない。 を発生させ、を介した細胞死(, ferroptosis)を引き起こしうる。だから鉄は常にタンパク質(など)に結合した状態で扱われる。

鉄の貯蔵:フェリチン

は24サブユニット(subunit、FtH+FtL)からなる貯蔵タンパクで、鉄を無毒化された形で大量に格納する。

サブユニット 機能
FtH(H鎖) :2Fe²⁺ + O₂ + 2H⁺ → 2Fe³⁺ + H₂O₂
FtL(L鎖) 鉄の移送・としての貯蔵(1粒子あたり最大約4500 Fe³⁺を格納可能)

全身の鉄レベルの調節:ヘプシジン

肝で産生されるが、全身の鉄バランスの中心的調節ホルモン。

調節因子 への効果
血漿鉄上昇
炎症
の亢進 ↓(エリスロフェロン, erythroferroneを介して抑制)

⚠️ の機序。 炎症はを上昇させ、鉄の・貯蔵細胞からの放出を抑える。これがでみられる鉄欠乏様貧血(実際は鉄の隔離)の機序になる。

細胞内鉄レベルの調節

2つの連結した制御システムが、細胞内鉄濃度を保つ。

仕組み
TfR()連結系 鉄↑ → IRP(鉄制御タンパク)が変化 → TfR1・TfR1-HFE・TfR2-HFE複合体を介し産生を調節 → 鉄吸収を制御
連結系 ↑ → 分解↑ → からの鉄排出↓、同時にIRPがDMT1(鉄取り込み輸送体)を調節 → 鉄吸収↓

これら2系は協調して全身と細胞内の鉄レベルを同時に調節する(IRP1・IRP2の両方をするとへの応答が消失することが、この協調のを裏付ける)。

ヘムの生合成

はミトコンドリアと細胞質を往復する経路で、ALA合成酵素(グリシン+→δ-=ビタミンB6依存)。

ALA合成酵素には組織特異的な2つのがある。 ALAS1(housekeeping型)は全身の細胞に発現し、ヘムそのものによるを受ける(ヘム不足で誘導)。ALAS2(erythroid型)は赤芽球に特異的で、鉄のによって調節される(IRP/IRE系を介する)。この使い分けにより、全身のヘム需要と特有の需要が独立に制御される。

ポルフィリン症

経路の各段階の酵素欠損により、特徴的な中間体(、porphyrin precursor)が蓄積する

⚠️ 晩発性皮膚は比較的頻度が高い(約1:500)。 の障害でなどが蓄積し、光線曝露部位の状を呈する。

⚠️ (Pb)中毒はを複数箇所で阻害する。 など複数の酵素を阻害し、貧血・神経症状を来す(環境曝露としてのの生化学的基盤)。

光線力学療法への応用

したδ-に変換され蓄積することを利用し、630 nm光を照射して(skin cancer、表在性)を選択的に破壊するに応用される。

赤血球の死とヘムの分解

赤血球の寿命は約120日。老化した赤血球は主にで処理され、ヘムが分解される。

flowchart TD
  A["ヘム"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heme oxygenase'>ヘムオキシゲナーゼ</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='methenyl bridge'>メテニル架橋</span>を酸化、CO放出"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biliverdin'>ビリベルジン</span>"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biliverdin reductase'>ビリベルジン還元酵素</span>"]
  D --> E["ビリルビン(bilirubin, Z,Z配置)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intramolecular hydrogen bond'>分子内水素結合</span>で疎水性表面"]
  E --> F["血中:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='albumin binding'>アルブミン結合</span>(間接/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Unconjugated bilirubin'>非抱合型ビリルビン</span>)"]
  F --> G["肝:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='UDP-glucuronosyltransferase, UGT'>UDP-グルクロン酸転移酵素</span>で抱合<br>(直接/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjugated bilirubin'>抱合型ビリルビン</span>)"]
  G --> H["胆汁中へ能動輸送、腸へ排泄"]
  • 反応の毒性から保護し、(CO)を副産物として放出する。
  • ビリルビンはZ,Z配置でを形成し、分子表面全体が疎水性になる(→水に溶けず、アルブミンに結合して運ばれる)。

腸管でのさらなる代謝

腸内細菌により、からが加水分解で外され、に還元され、さらに還元されてが生じる。

  • 一部は再吸収され血中に戻り、酸化されてとなり腎から排泄される。
  • 再吸収されなかった分は腸内でに還元され糞便中に排泄される(便の色の由来)。

ビリルビンの臨床的意義

病態 変化するビリルビン分画 尿・便中
肝障害(肝炎肝硬変・真菌毒素など) 直接・両方上昇
溶血性貧血 間接()ビリルビン上昇 正常〜増加
胆石など) 直接(抱合型)ビリルビン上昇 尿・便中に欠如

正常血清ビリルビンは<26 µmol/L、>85 µmol/Lで黄疸が肉眼的に確認できる。 組織ビリルビンは通常<50 nmol/L。

新生児黄疸と光線療法

の寿命は約70日(成人赤血球より短い)で、HbF(fetal hemoglobin)→HbA(adult hemoglobin)への入れ替わりに伴いが増加する。加えては肝の活性が未成熟なため、が処理しきれず蓄積しやすい。

⚠️ の脳への毒性。 疎水性のは血液脳関門を通過でき、重度のでは中枢神経系に沈着し(神経症状を伴う重篤な黄疸)を起こす。

治療:460–490 nmの青色光により、ビリルビンのZ,Z配置がよりZ,E配置(および環化産物ルミルビン, lumirubin)へ変換される()。これらは水溶性が高く、抱合を経ずに排泄されうるため、のリスクを回避できる。

まとめ

  • を生みを招くため、常に状態で扱われる。
  • (FtH=フェロキシダーゼ、FtL=貯蔵)が鉄を無毒化して貯蔵。が全身の鉄バランスを、IRP-TfR/系が細胞内鉄を調節する。
  • の律速はALA合成酵素(B6依存)。ALAS1(housekeeping、ヘムでフィードバック)とALAS2(赤芽球特異的、鉄依存)の使い分けが重要。は経路の障害例。
  • 赤血球でビリルビンが生成、肝で後に排泄。
  • 溶血性貧血=↑、=↑(欠如)。
  • 未成熟+の短寿命による。青色光がビリルビンをZ,E型/ルミルビンに変え水溶性を高め、を防ぐ。