薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · A19 Antidepressants / 抗うつ薬

マプロチリン

maprotiline

分類
Antidepressants / 抗うつ薬
商品名(日本)
ルジオミール
科目
PharmacologyClinical Pharmacology
トピック
A19: Monoamine reuptake inhibitors13: Affective disorders: depression and bipolar disorder
承認適応
気分障害(うつ病・双極性障害)
禁忌疾患
閉塞隅角緑内障てんかん等の痙攣性疾患心筋梗塞の回復初期尿閉(前立腺疾患など)
副作用
口腔乾燥便秘めまい傾眠痙攣

🧠 全体像:マプロチリンは、日本で使われるで、ノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害する(セロトニンの取り込みはほとんど阻害しない)。効き方は第一世代の抗うつ薬らしく、半減期が約2日と長く、・眠気・が出る。そのうえを下げ(てんかん等は禁忌)、QT延長・、、などの重い副作用があり、過量服用で痙攣と不整脈による死亡が起こりうる。現在の第一選択はSSRIなどで、マプロチリンは旧世代の選択肢という位置づけである。日本の電子添文のほかに、米国の添付文書と英国のSmPCでは該当する品目を確認できなかった(2026年11月6日時点)。

薬効群の中での位置づけ

系統 代表薬 特徴
三環系 ・ セロトニンとノルアドレナリンの ・心毒性・過量での
マプロチリン ノルアドレナリンの(選択的) 鎮静(H1遮断)、の低下、半減期が長い
の遮断など 作用は無い。鎮静が強い
SSRI・SNRI・など 現在の主流。過量での危険が少ない

抗うつ薬の薬物療法のトピックでは、マプロチリンは5-HT輸送体にほとんど結合せずノルアドレナリンに選択的で、ムスカリンへの結合は弱く(は三環系より軽い)、ヒスタミンへの結合が強い薬とされている。

機序

flowchart TD
    A["マプロチリン<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tetracyclic'>四環系</span>)"] --> B["神経終末へのノルアドレナリン<br>取り込みを選択的に阻害"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synaptic cleft'>シナプス間隙</span>のノルアドレナリンが増える"]
    C --> D["カテコールアミン神経伝達の増強"]
    D --> E["抗うつ効果"]
    A --> F["強いH1遮断・弱い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anticholinergic effects'>抗コリン作用</span>・α1遮断"]
    F --> G["眠気・口渇・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orthostatic hypotension (postural hypotension)'>起立性低血圧</span>"]

日本の電子添文は、神経終末へのカテコールアミンの取り込み阻害による神経伝達の増強が抗うつ効果に結びつくと考えられるとしている。では、ノルアドレナリンの取り込みを阻害し、セロトニンの取り込みは阻害しなかった1。基礎研究も、の構造をもち、の取り込みを高い選択性で阻害する薬と整理している2。

薬物動態

項目 内容
吸収・最高濃度 25 mgまたは75 mgを1回すると、約6〜12時間で最高に達し、その後ゆっくり減衰する1
半減期 が大きく19〜73時間。平均は25 mgで約46時間、75 mgで約45時間
代謝 主に肝臓のCYP2D6

⭐ 半減期が長く、1日1回夕食後または就寝前の投与も認められている。 一方で、副作用が出たときに消えるのが遅く、過量時の危険な期間も長くなる。CYP2D6を阻害する薬が血中濃度を上げる点にも注意する(併用注意の項)。

適応

  • うつ病・うつ状態(日本)。24歳以下では、抗うつ薬で・のリスクが増えるとの報告があるため、リスクとを考えて投与する1。

国内の一般(各種のうつ病・うつ状態554例)の副作用発現率は48.0%(266例)で、主な副作用は口渇25.6%、めまい・7.9%、便秘6.5%、眠気5.4%、疲労感・倦怠感4.2%だった。

用法・用量

通常成人は、1日30〜75 mgを2〜3回に分割してする。1日1回夕食後または就寝前の投与もできる。年齢・症状により増減する1。

  • 自殺目的の過量服用を防ぐため、自殺傾向のある患者には1回分の処方日数を最小限にする。
  • 急に減量・中止すると、・頭痛・倦怠感・・睡眠障害・などのが出ることがあるので、徐々に減らす。

禁忌・注意

日本の禁忌は次の6つである1。

禁忌 理由
閉塞隅角緑内障 でが上がり、悪化するおそれ
本剤の成分への過敏症の既往
心筋梗塞の回復初期 症状を悪化させるおそれ
てんかんなどの痙攣性疾患、またはその既往 痙攣を起こすことがある
尿閉(前立腺疾患など)(など) で悪化
(・・)の投与中、または投与中止後2週間以内 発汗・・全身痙攣・異常高熱・昏睡のおそれ。からの切り替えは2週間以上、本剤からへは2〜3日以上あける
  • 慎重投与:心不全・狭心症・不整脈などの心疾患または甲状腺機能亢進症、躁うつ病(・)、脳の器質障害やの素因、の高い、低血圧、高度の慢性便秘、、などの(高血圧発作)、重篤な腎・肝障害、に過敏な患者(交差過敏)。
  • 定期検査:が起こるので血液検査を、QT延長・・が起こるので心電図検査を、連用中は肝・腎機能検査を行うことが望ましい。
  • 高齢者:少量から始める。・・口渇・・便秘・が出やすい。
  • 妊婦・授乳:妊婦は有益性が危険性を上回る場合に限る。で新生児に呼吸困難・・痙攣などのが報告されている。母乳中へ移行する。
  • 運転:めまい・眠気が起こるため、危険を伴う機械の操作をさせない。
  • 併用注意(電子添文):系薬などのを下げる薬()、の中止(が化)、のある薬(・など)、(高血圧などの心血管作用が増強)、、・アルコール、CYP2D6を阻害する薬(・などのSSRI、、は本剤の血中濃度を上げる)、フェニトインやなどの(三環系のの作用が減弱するとの報告)。

副作用

区分(日本) 内容
循環器 血圧の降下・上昇、、心悸亢進、QT延長などの心電図異常、、頻脈、不整脈、失神
精神神経系 眠気、、、パーキンソン様症状・振戦・、、睡眠障害、不安、集中力欠如、、、せん妄、、、、記憶障害
口渇、便秘、、()、緑内障、尿閉、鼻閉
皮膚・過敏症 発疹、蕁麻疹、、発熱、紫斑、脱毛、、
血液 好酸球増多、血小板減少

重大な副作用は、、(0.1〜5%未満)、、、、(0.1%未満)、・、QT延長・(を含む)、・黄疸である1。

💡 「心毒性は三環系より少ない」とは言い切れない。 のマプロチリンでも、QT延長とを起こした症例が報告されている。の副作用が少ないとする報告と、三環系と差がないとする報告がある3。

過量投与

最初の徴候は服用の1〜2時間後に出る。中枢神経系では昏睡・痙攣・意識障害・、では低血圧・頻脈・不整脈・・ショック・心不全(非常にまれにQT延長・・心停止)、そのほか呼吸抑制・異常高熱が起こりうる。特異的な解毒剤はない。コリンエステラーゼ(など)は痙攣の危険を増すおそれがあり、過量服用の治療には不適である。重症なら少なくとも48時間は心モニターを続け、約12時間は痙攣に注意する1。

まとめ

  • ノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害する。半減期は約2日と長い。
  • 禁忌は・心筋梗塞の回復初期・てんかん等の痙攣性疾患・尿閉・の併用。を下げる薬との併用に注意する。
  • 重大な副作用に、、QT延長・、、がある。血液検査と心電図を定期的に行う。
  • 過量では痙攣と不整脈が致命的になりうる。特異的な解毒剤はなく、少なくとも48時間の心モニターが必要。
  • CYP2D6で代謝され、SSRIなどの阻害薬で血中濃度が上がる。現在の第一選択はSSRIなどで、本剤は旧世代の選択肢である。

出典

  1. 1.ルジオミール錠10mg/ルジオミール錠25mg 電子添文(サンファーマ/医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2024)2024年7月改訂(第3版)の電子添文で、効能がうつ病・うつ状態、用法が1日30〜75 mgを2〜3回分割(1日1回夕食後か就寝前も可)であること、禁忌が閉塞隅角緑内障・過敏症・心筋梗塞の回復初期・てんかん等の痙攣性疾患・尿閉・MAO阻害剤(セレギリン・ラサギリン・サフィナミド)の投与中または中止後2週間以内であること、主にCYP2D6で代謝されること、25・75 mg単回投与後の最高血漿中濃度到達が約6〜12時間・生物学的半減期が19〜73時間(平均約45〜46時間)であること、重大な副作用(てんかん発作・QT延長・無顆粒球症・麻痺性イレウスなど)、国内一般臨床試験554例の副作用発現率48.0%、過量投与時の症状と処置を確認した。閲覧 2026-11-06
  2. 2.Maprotiline: an antidepressant with an unusual pharmacological profile(Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics(Barbaccia ML ら)・1986)抄録(PMID 3003338)で、マプロチリンが四環系の構造をもち、ノルエピネフリン取り込みを高い選択性で阻害する薬であること、ラットに3週間反復投与しても、ノルエピネフリン刺激性のcAMP蓄積やβ受容体数が変わらなかったことを確認した。全文は読んでいない。閲覧 2026-11-06
  3. 3.Q-T prolongation and torsades de pointes ventricular tachycardia produced by the tetracyclic antidepressant agent maprotiline(The American Journal of Cardiology(Herrmann HC ら)・1983)抄録(PMID 6829452)で、四環系抗うつ薬マプロチリンの投与でQT延長と生命に関わるトルサード・ド・ポアンの心室頻拍が起こった1例の報告であり、心血管系の副作用が少ないとする報告と差がないとする報告があることを確認した。全文は読んでいない。閲覧 2026-11-06