病理学

病理学 · B/18

腫瘍の疫学

Epidemiology of neoplasms

タグ
Score / スコアHigh-yield / ポイント
疾患
Li-Fraumeni症候群カドミウム中毒色素性乾皮症

🧠 全体像:癌の疫学は「どこで・誰に・なぜ多いか」を追うことで発癌の手がかりを与える——肺癌が男女合計で世界の癌死因第1位なのは喫煙という単一の環境因子で大きく説明でき、胃癌が日本で、が東アジア・東南アジア・北アフリカで多いのは地理・感染・の違いを映している、という視点で数字を読む。

概念

は腫瘍の分布とを扱い、癌の原因についての重要な手がかりを与える。癌は世界の主要な死因の一つ(感染症・心血管疾患と並ぶ)。

性別による分布

男性(罹患 → 死亡) 女性(罹患 → 死亡)
1位 前立腺(罹患)/肺(死亡) 乳房(罹患)/肺(死亡)
2位 肺/前立腺 肺/乳房
3位 結腸/結腸 結腸/結腸
  • 肺 = 癌死の第1位(喫煙関連。米国では男女とも第1位だが、世界全体の女性では乳癌に次ぐ第2位——下の⚠️を参照)。前立腺・乳房 — 罹患は多いがは良好(検診、標的療法)。胃・大腸の死亡は減少中(食品保存、食事の変化)。

⚠️ この順位表はの集計に基づく代表的な教科書的順位である。順位は国・年・データベースで変わるため、数字を見るときは必ずどの集計かを確認する。 2024年のGLOBOCAN推計(世界全体)では、罹患・死亡のいずれも肺癌が男女合計で世界最多であり、男性では罹患・死亡とも第1位、女性では罹患・死亡とも乳癌に次ぐ第2位である。国別にみると、男性の罹患1位は186か国中123か国で前立腺癌、31か国で肺癌であり、女性の死亡1位は米国・中国などでは肺癌だが、世界全体では乳癌が最多になる1。一方、ハンガリー国内のGLOBOCAN 2024推計では、男性の罹患順位は前立腺→肺→大腸、死亡順位は肺→大腸→前立腺、女性の罹患順位は乳房→大腸→肺、死亡順位は肺→乳房→大腸である。3の顔ぶれは上の表と同じだが、女性の罹患2位・3位(大腸と肺)と男性の死亡2位・3位(大腸と前立腺)は表と順序が入れ替わる。ハンガリーを含む東欧は男性の年齢調整死亡率が世界的に高い地域の一つである2。

決定因子

⭐⭐ 罹患の増加と年齢調整死亡率の低下は両立する。 高齢化により粗罹患数は増え続けるが、検診の普及・治療の改善・喫煙率の低下により年齢調整死亡率は多くの癌種で下がる。米国では1991年以降、喫煙減少・一部の早期発見・肢の改善により400万人超の癌死が回避されたと推計される一方、10のうち6つ(乳房・膵・子宮体部は年0.6〜1%、前立腺・肝〈女性〉・腎・関連口腔咽頭癌・黒色腫は年2〜3%)でが上昇している4。 若年成人の大腸癌(55歳未満)のは年1〜2%で上昇しており、1990年代後半には50歳未満の癌死因で男女とも第4位だった大腸癌が、現在は男性で第1位・女性で第2位に上昇した4。この増加は高所得国で特に顕著で、原因は未解明だが西洋型食事・肥満・運動不足・出生前〜青年期の曝露などが仮説として検討されている5。

検診・予防の原則

  • 検査は感度・特異度で規定される。は疾患のに依存する。
  • ⚠️ 検診導入後に5年生存率が改善しても、死亡率の低下を伴わなければ真の予後改善とは限らない。 早期発見は診断から死亡までの観察期間(リードタイム)を延ばすだけで実際の死亡時期を変えないことがあり(リードタイム)、生涯症状を出さなかったはずの癌まで見つけての分母を膨らませることもある(過剰診断)。米国のデータでは1950〜1995年に20種の固形腫瘍すべてで5年生存率が上昇した一方、死亡率は8でむしろ上昇し、5年生存率の変化と死亡率の変化との相関はほとんど無く、むしろの変化と正に相関していた(診断のパターンの変化を反映)6。
  • 一次予防(リスク低減、ワクチン)、二次(早期・の検診)、(再発の低減)。

💡 ポイント: 肺 = 癌死の第1位(男女合計・男性。女性は米国では肺、世界全体では乳房が第1位)、罹患は前立腺(男)/乳房(女)が最多。地理は環境を反映(胃癌↑日本・東アジア、↑東アジア・北アフリカ)。リスク:喫煙、アルコール、肥満、感染、年齢、遺伝。はに依存、予防 = 一次・二次・。

まとめ

  • 癌死の第1位は肺癌(男女合計・男性で第1位、主に喫煙関連。女性では米国では第1位だが世界全体では乳癌に次ぐ第2位)。罹患は男性で前立腺、女性で乳房が最多、米国の集計ではいずれも3位は大腸。
  • 地理・環境因子が癌の分布を左右する(胃癌は日本を含む東アジアで高頻度、〈〉は東アジア・東南アジア・北アフリカなどで高頻度)。
  • 主な環境は喫煙、アルコール、放射線、、肥満・運動不足、(、、など)。
  • 罹患は加齢とともに増加しの蓄積を反映するが、小児期は白血病・・肉腫が中心。
  • 検査のは疾患のに依存し、予防は一次(リスク低減・ワクチン)・二次(早期発見の検診)・(再発低減)に分けられる。
  • の上昇と年齢調整死亡率の低下は両立しうる現象で、早期発症大腸癌のように例外的に罹患そのものが増えている癌種もある。順位・数値を見るときは国・年・データベース(GLOBOCAN・SEER・ECISなど)を必ず確認する。
  • 5年生存率の改善は必ずしも死亡率の低下を意味しない(リードタイム・過剰診断)。

出典

  1. 1.Global cancer statistics 2024: GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 34 cancers in 186 countries(American Cancer Society / International Agency for Research on Cancer (IARC)・2026)2024年のGLOBOCAN推計で世界の新規癌が2,060万例(非黒色腫皮膚癌を除くと1,950万例)、死亡が980万例(除くと970万例)に達し、生涯で5人に1人が癌を発症し男性の9人に1人・女性の13人に1人が癌で死亡すると推計されたこと。肺癌が罹患(約260万例、12.8%)でも死亡(約190万例、19.1%)でも世界最多で、罹患は乳房(11.8%)・大腸(9.9%)・前立腺(7.5%)・胃(4.7%)、死亡は大腸(9.4%)・肝(7.5%)・乳房(7.1%)・胃(6.6%)が続くこと。罹患率は地域間で4〜5倍、死亡率は2倍の差があり、男性の年齢調整死亡率は東欧で158/10万と特に高いことを確認した。全文(PMC13343830)で、肺癌は男性で罹患・死亡とも第1位・女性で第2位であること、男性の罹患1位は123か国で前立腺・31か国で肺、女性の罹患1位は164か国で乳房であること、女性で肺癌が死亡1位の国は中国・米国を含む26か国であること、胃癌罹患率は東アジアが最も高くモンゴルが最高で地理差は主にヘリコバクター・ピロリ感染の有病率を反映すること、男性の肝癌罹患率は東アジア・北アフリカ・東南アジア・メラネシアで高く南中央アジア・西アジア・アフリカの一部地域・南米で低いことを確認した。閲覧 2026-09-23
  2. 2.Hungary Fact Sheet, Cancer Today (GLOBOCAN 2024 estimates)(International Agency for Research on Cancer (IARC) / WHO Global Cancer Observatory・2024)ハンガリーの2024年推計で新規癌66,090例・死亡31,415例。男性の罹患順位は前立腺(19.3%)→肺(16.3%)→大腸(16.2%)、死亡順位は肺→大腸→前立腺であったこと。女性の罹患順位は乳房(23.1%)→大腸(12.9%)→肺(12.4%)、死亡順位は肺→乳房→大腸であったこと。男性の年齢調整死亡率172.6/10万・女性107.7/10万で、男性の値はGLOBOCAN 2024推計が示す東欧地域の男性癌死亡率の高さと符合することを確認した(2026-09-23にPDFを再取得し順位と数値を再確認)。閲覧 2026-09-23
  3. 3.Cadmium and cadmium compounds. In: Arsenic, Metals, Fibres, and Dusts (IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Volume 100C)(International Agency for Research on Cancer (IARC)・2012)Wayback の保存版(2025-04-14取得)の「5. Evaluation」で、カドミウムおよびその化合物はヒトに対する発癌性の十分な証拠がありグループ1で、肺癌を起こすと評価される一方、腎癌・前立腺癌については「positive associations have been observed」にとどまること、前立腺癌の疫学研究は関連を示唆するが結果が一致しないと記されていることを確認した。閲覧 2026-09-23
  4. 4.Cancer statistics, 2024(American Cancer Society・2024)米国で2024年に新規癌200万1,140例・死亡61万1,720例が見込まれ、1991年以降の喫煙減少・一部癌腫の早期発見・治療改善により400万人超の癌死が回避されたと推計される一方、上位10癌腫のうち6つで罹患率が上昇していること(2015〜2019年に乳房・膵・子宮体部が年0.6〜1%、前立腺・肝〈女性〉・腎・HPV関連口腔咽頭癌・黒色腫が年2〜3%、30〜44歳の子宮頸癌と55歳未満の大腸癌が年1〜2%)。大腸癌は1990年代後半には50歳未満の癌死因の第4位だったが、現在は男性で第1位、女性で第2位になったことを確認した。閲覧 2026-09-23
  5. 5.Rising incidence of early-onset colorectal cancer - a call to action(Nature Reviews Clinical Oncology・2021)50歳未満で発症する早期発症大腸癌の罹患が世界的に、とくに高所得国で増加していること、原因は未解明だが西洋型食事・肥満・運動不足・出生前〜青年期の抗生物質曝露などが仮説として検討されていること、早期発症大腸癌は後期発症例と臨床・病理・分子的特徴が異なることを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Are increasing 5-year survival rates evidence of success against cancer?(JAMA・2000)米国SEERデータで1950〜1995年に20種の固形腫瘍すべてで5年生存率が上昇した一方、死亡率は12癌腫で低下し8癌腫で上昇しており、5年生存率の変化と癌死亡率の変化との相関はほぼ無かった(Pearson r=0.00)こと。5年生存率の変化はむしろ罹患率の変化と正の相関を示し(Pearson r=+0.49)、これは診断パターンの変化を反映していると結論したことを確認した。抄録の Context は、5年生存率の上昇が早期病期の発見の増加、すなわち症状を出さなかったはずの癌の発見を含む診断の変化も反映しうると述べている。閲覧 2026-09-23