病理学

病理学 · C/66

急性・慢性腎盂腎炎

Acute and chronic pyelonephritis

応用トピック
慢性尿細管間質性疾患小児尿路感染症腎実質・腎被膜の非特異的感染症
疾患
逆流性腎症鎮痛薬腎症
画像所見
腎瘢痕

🧠 全体像:の大半は「尿道から腎盂への」という経路で説明でき、その経路のどこに逆流や閉塞という素因が加わるかで、急性で終わるか(状瘢痕+変形)に進むかが決まる。

尿細管間質性腎炎— 概要

  • TIN = 間質+尿細管を侵す炎症性疾患群。
  • 細菌性+腎盂病変 → 腎盂腎炎(pyelo = 腎盂)。
  • 非細菌性(薬物、ウイルス、代謝、免疫、物理)→ 間質性腎炎。

急性腎盂腎炎

定義

  • 細菌感染による腎+腎盂の。
  • 尿路感染の病態(下部:膀胱炎、尿道炎、上部:腎盂腎炎)。
  • 米国感染症学会の2025年ガイドラインは、単純性・の区分を「感染が膀胱を越えたことを示す局所症状・全身症状(とくに発熱)があるか」で決め直し、腎盂腎炎をに含めて扱う。経験的抗菌薬はまず敗血症の有無で選ぶよう提案している(条件付き推奨)1。

発生機序 — 2つの経路

A)(最も多い)

  • グラム陰性桿菌:E. coli(第1位)、Proteus mirabilis などの Proteus、Klebsiella pneumoniae などの Klebsiella、Enterobacter、緑膿菌。
  • 段階:
    1. への接着(P線毛)。
    2. 遠位尿道の定着。
    3. 上行:尿道 → 膀胱 → 尿管 → 腎盂 → 間質。
  • 素因:
    • 糖尿病、免疫不全
    • 尿路閉塞:BPH、結石、腫瘍、妊娠
    • 女性:直腸に近い短い尿道、「ハネムーン膀胱炎」
    • — 膀胱の閉鎖不全 → 尿の逆流 → 細菌の上行。逆流した感染尿が乳頭管口から髄質実質へ入り込む「腎内逆流」がの機序として説明され、開口部が開きやすい複合乳頭(凹型乳頭)の多い上で起こりやすいとされる
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urothelium'>尿路上皮</span>への接着<br>(P線毛)"] --> B["遠位尿道の定着"]
    B --> C["尿道→膀胱"]
    C --> D["膀胱→尿管<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vesicoureteral reflux (VUR)'>膀胱尿管逆流</span>があると促進)"]
    D --> E["尿管→腎盂"]
    E --> F["腎盂→間質<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute pyelonephritis'>急性腎盂腎炎</span>)"]

B)

形態

  • 皮質表面の黄色い隆起した膿瘍。
  • 組成:+細胞debris+壊死組織。
  • 治癒 → 線維化+収縮 → 「」状の瘢痕。
  • — 特殊型。背景として糖尿病・・鎌状赤血球症・尿路閉塞がよく挙がるが、これだけではなく腎盂腎炎そのもの・結核・などもを来す2。
  • — 慢性の閉塞・結石を伴うから生じるまれな重症型で、(黄色肉芽腫)の腫瘤状増生により腫瘍と紛らわしい像を呈する。1,139例の系統的レビューでは女性が70%、結石の合併が69%(48%)で、術前に正しく診断できたのは45%にとどまり、標準治療は短期の抗菌薬と開腹根治的腎摘除(も34%)だった。両側性は4例のみである3。

臨床経過

  • 突然発症 — +全身感染徴候(悪寒、発熱、)。
  • 尿:(白血球)+細菌尿+++頻尿。は尿細管内で形成されるので、炎症が膀胱ではなく腎実質に及んでいることを示す手がかりになる。ただし腎盂腎炎に特異的ではなく、間質性腎炎や糸球体腎炎でもみられる。
  • 敗血症やへ進行しうる。
  • 適切な抗菌薬治療で通常はなく治癒する(素因の無い例では良性の経過をとる)。

⚠️ (の有無を問わず、尿路感染の症状・徴候が無いまま尿から規定量以上の細菌が培養される状態)は、とは対応が異なり、原則としてスクリーニングも治療もしない。 米国感染症学会の2019年ガイドラインは、乳幼児・小児、健康な非妊婦(閉経前・閉経後とも)、機能障害のある高齢者や長期療養施設の入所者、糖尿病、術後1か月を超えた腎移植、、、非泌尿器科のの各群で、スクリーニングも治療も行わないよう強く推奨している。への抗菌薬投与は不適切な抗菌薬使用の重要な一因で、耐性化を促すためである。例外は妊婦と、を伴う内視鏡的泌尿器処置を受ける患者(術前)で、この2群はスクリーニング・治療の対象になる(いずれも強い推奨)4。

慢性腎盂腎炎

定義

2つの型

A)慢性閉塞性腎盂腎炎

  • 閉塞(結石、BPH、腫瘍)→ 尿うっ滞 → → 炎症+ → 。

B)慢性腎盂腎炎(より多い)

  • 先天性VUR+二次的な尿路感染。
  • 尿管が正しい角度で膀胱に達しない → 逆流 → 慢性障害。
  • しばしば両側性 → 。

⚠️ 臨床で「」と呼ばれる腎不全の多くは、実際には(に伴う腎障害)またはを指しており、活動性の細菌感染が持続しているとは限らない。 低圧の無菌性逆流それ自体はを来さず、逆流グレードの高さ・・腎盂腎炎の反復・抗菌薬開始の遅れがの危険因子になる5。小児の無作為化試験(RIVUR試験、グレード1〜4の逆流をもつ2〜71か月児)では、2年の追跡終了時にを認めたのは10%(登録前からの瘢痕を含む)で、新規瘢痕は予防投与群6%・プラセボ群7%と差が無く、抗菌薬の予防投与は瘢痕を減らさなかった。一方、逆流グレード4のでは逆流のないに比べ新規瘢痕の割合のが24.2(95%CI 6.4〜91.2)に達しており、瘢痕リスクは逆流の重症度と尿路感染の反復に強く依存する6。

形態

  • 腎盂・の変形(鈍化・棍棒化)を伴う不均等な化。
  • 壊死領域 → 線維芽細胞の侵入 → → 実質の収縮。
  • 腎表面の「」状瘢痕。
  • 尿細管の「」(萎縮尿細管の好酸性円柱)。

臨床経過

  • 診断が遅れる — 緩徐発症の。
  • 早期に多尿(尿細管機能不全)→ 後に腎不全。
  • しばしば高血圧を伴う。

薬剤性尿細管間質性腎炎

発生機序

  • 薬物への過敏反応(講義資料ではI型またはIV型と整理される)。現在の総説は、主にT細胞が担う過程と位置づけている7:
  • 薬物がとして作用:時に尿細管成分に結合 → を獲得。

形態

  • +リンパ球・マクロファージ・好酸球・。
  • 時に肉芽腫+巨細胞。

臨床経過

  • 曝露の約15日後に発症。
  • :発熱+好酸球増多+皮疹。
  • :血尿、、、白血球尿、腎不全。
  • 薬物中止 → 完全回復の可能性が高い。

⚠️ 三徴やがそろうのを待つと診断できない。 発疹・発熱・好酸球増多といったアレルギー所見は実際にはまれで、は約半数にみられるがはまれである。は1〜5%でも5%超でも感度・特異度が不十分で、有用な指標ではないと評価されている7。原因薬への曝露と腎機能低下から疑い、確定には腎生検を要することが多い。

急性と慢性の腎盂腎炎

特徴 急性 慢性
炎症 化膿性(、膿瘍) +リンパ球
腎盂/ 正常 変形(鈍化、棍棒化)
なし・ 粗い「」状瘢痕
尿細管 正常・軽度障害 萎縮尿細管の
症状 急性発熱、痛、 、多尿 → 腎不全、高血圧
転帰 抗菌薬で治癒

💡 ポイント: = 化膿性、尿路感染からの大腸菌の上行、痛++、膿瘍。リスク:カテーテル、女性(短い尿道)、VUR、糖尿病、閉塞。は糖尿病、、鎌状赤血球症、尿路閉塞が代表的な背景(ほかに結核など)。 = 閉塞性または、状瘢痕+変形+尿細管の → +高血圧。薬剤性TIN = /過敏(主にT細胞性)、薬物の約15日後。発熱+好酸球増多+皮疹がだが実際にはまれ。

まとめ

  • は細菌の(大腸菌が第1位)が主経路で、・糖尿病・尿路閉塞・・女性の短い尿道が素因となる。
  • は皮質表面の黄色い膿瘍と、腎実質の炎症を示す尿中の(腎盂腎炎に特異的ではない)であり、多くは適切な抗菌薬で治癒する。米国感染症学会2025年版は腎盂腎炎をに含めて扱う。
  • は妊婦とを伴う泌尿器処置の術前を除いて、スクリーニングも治療もしない。
  • は閉塞性または(先天性VURがより多い)に分かれ、腎盂・の変形と「」状瘢痕、尿細管の「」を特徴とし、の重要な原因となる。
  • は腎盂腎炎の特殊型・合併症の一つで、糖尿病・・鎌状赤血球症・尿路閉塞が代表的な背景である(ほかに結核なども原因になる)。
  • は機序による主にT細胞性の過敏反応で、曝露約15日後に発症する。発熱・好酸球増多・皮疹の三徴は古典的だが実際にはまれで、も診断の役に立たない。薬物中止で回復しやすい。

出典

  1. 1.Clinical Practice Guidelines by Infectious Diseases Society of America: 2025 Guideline on Management and Treatment of Complicated Urinary Tract Infections–Selection of Antibiotic Therapy for Complicated Urinary Tract Infections(Infectious Diseases Society of America・2025)2025年7月17日公開のガイドラインページで、単純性・複雑性の区分を、感染が膀胱を越えたことを示す局所症状・全身症状(とくに発熱)の有無に置き直したこと、推奨Iが「腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染」を対象として経験的抗菌薬の選択をまず敗血症の有無で決めるよう提案していること(条件付き推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)を確認した。旧2011年版(単純性膀胱炎・腎盂腎炎)はIDSAの一覧で Archived になっている。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Analgesic Nephropathy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)腎乳頭壊死の鑑別診断として糖尿病性腎症、鎌状赤血球症、閉塞性尿路症、腎盂腎炎、鎮痛薬腎症、結核、アルコール性腎症などが挙がること、鎮痛薬腎症では病理学的にほぼ全例で腎乳頭壊死を認めることを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Xanthogranulomatous pyelonephritis: a systematic review of treatment and mortality in more than 1000 cases(BJU International・2023)抄録で確認した。2000〜2021年の40研究・1,139例の系統的レビューで、平均年齢49歳、女性70%、糖尿病28%、腎・尿管結石69%(サンゴ状結石48%)、尿培養陽性59%、両側性は4例のみで、術前に正しく診断されたのは45%にとどまった。標準治療は短期の抗菌薬と開腹根治的腎摘除で、腹腔鏡下腎摘除は34%、腎部分切除は2%に行われ、周術期死亡率は歴史的な報告より低かった。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Clinical Practice Guideline for the Management of Asymptomatic Bacteriuria: 2019 Update by the Infectious Diseases Society of America(Clinical Infectious Diseases / Infectious Diseases Society of America・2019)IDSAのガイドラインページ(2019年版は現在も Current 表示)で推奨の要約を確認した。無症候性細菌尿は膿尿の有無を問わず尿路感染に帰せられる症状・徴候の無いまま規定量以上の細菌が尿から培養される状態と定義される。妊婦(強い推奨、中等度の質)と、粘膜損傷を伴う内視鏡的泌尿器処置を受ける患者(術前、強い推奨、中等度の質)ではスクリーニングと治療を推奨し、乳幼児・小児、健康な閉経前・閉経後の非妊婦、機能障害のある高齢者・長期療養施設入所者、糖尿病、術後1か月を超えた腎移植、腎以外の固形臓器移植、脊髄損傷、留置カテーテル、非泌尿器科の待機手術ではスクリーニングも治療も行わないよう推奨する(いずれも強い推奨)。高リスクの好中球減少症では推奨を出していない。抄録は無症候性細菌尿への抗菌薬投与が不適切な抗菌薬使用の重要な一因で耐性化を促すと述べている。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Vesicoureteral reflux associated renal damage: congenital reflux nephropathy and acquired renal scarring(The Journal of Urology・2010)膀胱尿管逆流に伴う腎障害には先天性(congenital reflux nephropathy)と後天性(感染後の腎瘢痕)があり病態機序が異なること、後天性障害は細菌側・宿主側因子と炎症反応の相互作用によること、逆流例で急性腎盂腎炎と腎瘢痕の危険因子となるのは逆流グレードの高さ・排尿機能障害・腎盂腎炎の反復・抗菌薬開始の遅れであること、低圧の無菌性逆流は逆流性腎症の原因にならないことを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Renal Scarring in the Randomized Intervention for Children with Vesicoureteral Reflux (RIVUR) Trial(Clinical Journal of the American Society of Nephrology・2016)抄録で確認した。1回目または2回目の発熱性・有症状尿路感染後にグレード1〜4の膀胱尿管逆流と診断された2〜71か月児607例をST合剤予防投与とプラセボに割り付けて2年追跡し、登録時と追跡終了時のDMSAシンチで評価した無作為化試験である。追跡終了時に腎瘢痕を認めたのは599例中58例(10%)・1,197腎単位中63単位(5%)で、これは登録前からの瘢痕を含む数である。新規瘢痕は予防群6%・プラセボ群7%で差が無く、予防投与は瘢痕のリスクを下げなかった。瘢痕のある児は年長で、登録前に2回目の尿路感染を起こしていた(オッズ比2.85、95%CI 1.38〜5.92)、高グレード逆流(同2.79、1.56〜5.0)が多く、グレード4の腎単位では逆流のない腎単位に比べ新規瘢痕の割合のオッズ比が24.2(6.4〜91.2)だった。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Drug-Induced Acute Kidney Injury(Clinical Journal of the American Society of Nephrology・2022)全文(PMC9435983、NCBI の HTML)で確認した。薬剤性急性間質性腎炎は主にT細胞が担う過程で、薬剤が尿細管基底膜に結合してハプテン・プロハプテンとして働くなどの機序で抗原性を得ること、発疹・発熱・好酸球増多といったアレルギー所見はまれで、膿尿は約半数にみられるが白血球円柱はまれであること、生検と尿中好酸球を同時に調べた566例の単施設研究では尿中好酸球1〜5%・5%超のいずれの閾値でも感度・特異度が不十分で有用な指標ではないことを確認した。閲覧 2026-09-24