呼吸器学

呼吸器学 · 16

呼吸器疾患の全身薬物療法

Systemic pharmacotherapy

前提:病態
選択的β2刺激薬・気管支拡張薬経口・非経口グルココルチコイド
薬剤
テオフィリンプレドニゾロン

ポッドキャスト

🧠 全体像:呼吸器疾患の薬物療法では、、副腎皮質ステロイド、抗菌薬を、病態とに応じて使い分ける。とくに増悪では、短時間作用性を起点に、全身性ステロイドと適応のある抗菌薬を短期間追加する。

投与経路を区別する

、、、は主にであり、で用いるとは分けて理解する。

分類 主な薬剤 主な役割 代表的有害事象
、、、 気道炎症を抑える。喘息では治療の中心、では増悪歴・数などに応じと併用 口腔咽頭カンジダ症、嗄声、;吸入後ので軽減
、など 喘息・で炎症を速やかに抑え、肺機能・酸素化・間を改善 高血糖、感染、精神症状、消化器症状など;短期使用を原則とする

重要:喘息では長時間作用性β₂刺激薬()をICSなしで単独使用しない。でもICS単剤ではなく、適応を評価してへ追加する。

気管支拡張薬

β₂刺激薬

のβ₂受容体を刺激し、Gsタンパク質――経路を介して平滑筋を弛緩させる。

略号 代表薬 主な位置づけ
短時間作用性 、、 ・増悪時の気管支拡張。⚠️ ただしは、を含む有害事象の多さと喘息死亡増加との関連から、現行が喘息で推奨していない薬剤である1
長時間作用性 、 。喘息ではICSと併用

⚠️ β₂刺激は気道だけに効くわけではない。 安静時を生じ、素因のある患者では心リズム異常を誘発しうる。高用量では手指振戦が強く出て、とくに高齢者で問題になる(を問わない)。はとの併用で起こりやすいが、こうした代謝面の作用はで減弱する。・のいずれでもPaO₂がわずかに低下することがあるが、臨床的意義は定まっていない。2

ムスカリン受容体拮抗薬

迷走神経から放出されるアセチルコリンによる刺激をに遮断し、Gq経路を介するを抑える。

略号 代表薬 主な位置づけ
短時間作用性 増悪でへ追加可能
長時間作用性 の中心;一部の喘息で追加

吸入は消化管からの吸収が乏しく、でみられるような全身性副作用は起こりにくい。最も多い副作用は口渇で、では・の訴えがある。⚠️ 溶液をで投与すると、薬液が直接眼に触れてを誘発しうる。2 マスクの密着と眼の保護を確認する。

抗菌薬

で用いられる代表的な薬剤群には、マクロライド系(アジスロマイシン、)、ケトライド系()、()などがある。ただし、薬剤選択は単なる薬効分類ではなく、感染部位、重症度、既往培養、地域耐性、腎肝機能、薬物相互作用に基づく。

⚠️ 授業資料との差:講義が挙げるケトライド系のは、現在は選択肢として扱えない。では2019年6月7日に欧州委員会が販売承認を取り消しており(取得者が商業上の理由で販売終了を決めたことによる申請で、製品自体は2018年7月1日以降で販売されていなかった)3、米国でもKETEK(NDA 021144)の2製品はいずれも販売中止と表示され、をとする申請は他に無い4。日本での状況はこのノートでは確認していない。ケトライドという分類自体は薬理の学習対象として残るが、「で使う薬」として覚えない。

増悪で抗菌薬を用いるのは、次のいずれかを満たす場合である。

  • 呼吸困難増加、喀痰量増加、喀痰膿性化の3徴候のうち、喀痰膿性化を含む2項目以上がある。5
  • 過去の増悪時に陽性歴がある。
  • 侵襲的または非侵襲的人工呼吸を要する。

💡 3徴候という数え方は資料によって違う。 上の「喀痰膿性化+呼吸困難増加および/または喀痰量増加」はACPの書き方である5。 2026自身が挙げる症候は発熱を加えた4項目(呼吸困難増加・発熱・喀痰量増加・喀痰膿性化)で、やはり喀痰膿性化がそのうちの1つであることを条件に2項目以上とする。どちらも「が要る」という骨格は同じなので、項目数の違いで混乱しないこと。2

適応があれば回復を早め、早期再増悪、、入院期間を減らしうる。薬剤は既往培養、地域の耐性状況、重症度、腎肝機能、相互作用から選ぶ。治療期間は一般に5〜7日だが、外来治療では5日以内を推奨し、病原体と臨床反応で調整する。2

COPD急性増悪の薬物療法

増悪は、呼吸困難、咳・喀痰などが数日以内に悪化し、追加治療を要する状態である。感染、汚染物質、肺塞栓症、心不全、気胸などを鑑別する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic obstructive pulmonary disease'>COPD</span>増悪を認識"] --> B["重症度・酸素化・換気・鑑別を評価"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='short-acting β2-agonist'>SABA</span> ± <span class='jp-term jp-term-diagram' title='short-acting muscarinic antagonist'>SAMA</span>を反復吸入"]
  C --> D["中等症・重症なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prednisone'>プレドニゾン</span>換算40 mg/日を5日"]
  D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='purulent sputum'>膿性痰</span>を含む症候・培養歴・人工呼吸の適応?"}
  E -->|"あり"| F["抗菌薬を一般に5〜7日、外来は5日以内"]
  E -->|"なし"| G["抗菌薬は原則不要"]
  F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long-acting bronchodilator (LABA/LAMA)'>長時間作用性気管支拡張薬</span>を退院前に再開・最適化"]
  G --> H
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhalation technique'>吸入手技</span>・禁煙・ワクチン・再発予防を確認"]
  • 中等症・重症増悪の全身性ステロイドは、換算40 mg/日を5日間用いる。経口は静注と同等に有効であり、可能なら静注を優先する根拠はない。2
  • 静注(、)は有害事象が多く、には推奨しない。2 ⚠️ 毒性はで、治療域が狭く効果は中毒量近くでようやく出る。を非選択的に阻害するため作用が広く、致死的になりうる心房性・心室性不整脈と、てんかんの既往とに起こるが問題になる。治療濃度内でも頭痛、不眠、悪心、が出る。(アジスロマイシンは除く)、(は除く)、、(は除く)、、との相互作用が大きい。2
  • 退院前に/を中心とするを開始または再開し、増悪歴とからICS追加を判断する。
  • 旧ABCD分類は現行ではA・B・E群へ再編されている。E群の初期治療は/併用を基本とし、300細胞/µL以上では//ICSのを検討する。を併存する場合はICSを必ず組み込む。2

まとめ

  • ICSと全身性ステロイドは、薬剤・・適応・有害事象を分けて覚える。
  • β₂刺激薬はを弛緩させ、ムスカリン拮抗薬は迷走神経性を遮断する。いずれも副作用は気道の外に出る——β₂刺激薬は頻脈・振戦・、は口渇と、マスク噴霧でのである。
  • は喘息では推奨されない。ケトライド系はで承認が取り消され米国でも販売中止で、現在の選択肢ではない。
  • 増悪は ± 、短期全身性ステロイド、適応を絞った抗菌薬で治療し、長期維持療法へ速やかにつなぐ。静注は使わない。

出典

  1. 1.Global Strategy for Asthma Management and Prevention(Global Initiative for Asthma (GINA)・2026)推奨しない気管支拡張薬の節で、フェノテロールを低カリウム血症を含む有害事象の多さと喘息死亡増加との関連から推奨しないと明記していることを全文で確認した。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: 2026 Report(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD)・2026)COPD増悪時の全身性ステロイドの用量・期間・投与経路、抗菌薬の適応と期間、静注メチルキサンチン非推奨、および安定期の初期吸入治療を確認した。あわせて抗菌薬の適応として挙がる症候が呼吸困難増加・発熱・喀痰量増加・喀痰膿性化の4項目であること、β₂刺激薬・抗ムスカリン薬・メチルキサンチンの有害事象の各節(頻脈と振戦と低カリウム血症、口渇とフェイスマスク使用時の急性緑内障、不整脈と全般強直間代発作と薬物相互作用)を確認した。閲覧 2026-09-21
  3. 3.Ketek (telithromycin) — withdrawn European public assessment report(European Medicines Agency・2019)2019年6月7日に欧州委員会がKetek(テリスロマイシン)のEU販売承認を取り消したこと、取消しが製造販売承認取得者の申請(商業上の理由)によるものであること、製品が2018年7月1日以降EUで販売されていなかったことを確認した。閲覧 2026-09-21
  4. 4.Drugs@FDA — NDA 021144 (KETEK, telithromycin)(U.S. Food and Drug Administration・2026)参照時点でKETEK(テリスロマイシン)の2製品がいずれも販売中止(Discontinued)と表示され、テリスロマイシンを有効成分とする申請がこのNDA1件しか存在しないことを確認した。この一覧ページ自体に発行日が無いため、yearには参照した年を入れている。閲覧 2026-09-21
  5. 5.Appropriate Use of Short-Course Antibiotics in Common Infections: Best Practice Advice From the American College of Physicians(2021)COPD増悪で喀痰膿性化に呼吸困難増加または喀痰量増加を伴う場合の抗菌薬適応と短期治療閲覧 2026-08-09