臨床薬理学

臨床薬理学 · 37

消化性潰瘍とピロリ菌感染症の薬物療法

Peptic ulcer and Helicobacter pylori

前提:病態
胃酸分泌に作用する薬・胃粘膜保護薬カンピロバクター属とヘリコバクター・ピロリ

🧠 全体像:消化性潰瘍の治療は「潰瘍を治す(で酸を止める)」と「原因を断つ(菌を除菌する、・アスピリンをやめる)」の2本柱で、原因を断たなければ再発する。菌の除菌は、の広がりで標準が効かなくなり、現在は14日間が中心になった。治療のあとは必ず除菌を確かめ、は内視鏡で治癒と悪性の除外を確認し、再発の危険が高い人だけ維持を続ける。

消化性潰瘍の治療の骨組み

治療は「初期治療 → その後の管理 → 再発予防」の3段階で考える。

flowchart TD
  A["消化性潰瘍の診断"] --> B["初期治療"]
  B --> B1["原因を治す<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Helicobacter pylori'>ピロリ</span>菌除菌・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>中止・まれな原因の検索"]
  B --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acid suppression therapy'>酸分泌抑制療法</span>"]
  B --> B3["一般的な指導<br>禁煙・飲酒を控える"]
  B1 --> C["その後の管理"]
  B2 --> C
  C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Helicobacter pylori'>ピロリ</span>菌の除菌を確認する"]
  C --> C2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric ulcer'>胃潰瘍</span>なら4〜6週後に内視鏡を再検"]
  C1 --> D["再発予防"]
  C2 --> D
  D --> D1["できれば<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>を避ける"]
  D --> D2["高リスク者だけ維持<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>"]

原因を治す

原因 対応
Helicobacter pylori 感染 除菌する(後述)
・アスピリン 中止する。続けざるを得なければを併用する
まれな原因 、(産生腫瘍による酸の過剰分泌。血清で疑う)、感染などを探す

💡 潰瘍は「(酸・)」と「(粘液・・血流・プロスタグランジン)」の均衡が崩れて生じる。菌は慢性炎症で粘膜を傷め、は阻害でプロスタグランジンを減らして防御を弱める。は攻撃側を抑えて治癒を助けるが、防御を崩した原因が残れば再び潰瘍ができる。

酸分泌抑制療法と一般的な指導

状況 の初期治療期間の目安
菌陰性・関連の潰瘍 潰瘍が1 cm未満なら4〜6週、1 cm以上なら6〜8週。アスピリン・は避ける
菌陰性・陰性の 4週
菌陰性・陰性の 8週
菌陽性の潰瘍 適切な抗菌薬の組み合わせとともにを14日間

💡 の治療期間がより長いのは、のほうが大きく治りにくいことが多く、さらに胃癌の潰瘍が紛れ込むおそれがあるからである。

合併症のある潰瘍:出血とForrest分類

出血・胃出口の閉塞・穿通は合併症のある潰瘍で、まず治療を急ぐ。出血性潰瘍の内視鏡所見はForrest分類で表し、再出血の危険との要否を判断する。

分類 区分 内視鏡所見 ( 2021年版)
Ia の出血 行う1
Ib の出血(にじみ出る) 行う1
最近の出血の徴候 IIa 出血していない 行う1
最近の出血の徴候 IIb 付着した の下の所見で判断が分かれる
最近の出血の徴候 IIc の平坦な色素沈着(ヘマチン) 不要(再出血の危険が低い)
活動性出血の無い病変 III きれいな 不要(再出血の危険が低い)

⭐ 数字が小さいほど(Ia に近いほど)再出血の危険が高い。Ia・Ib・IIa が内視鏡止血の対象で、IIc・III は再出血の危険が低い。

現行の 2021年版は、の管理を次のように整理している1。

場面 推奨・提案
救急外来 Glasgow-Blatchford score 0〜1などの超低リスク例は外来管理にしうる
入院後 の閾値は7 g/dL。内視鏡前にを静注し、受診後24時間以内に内視鏡
後の薬物療法 高用量を持続またはで3日間、その後、内視鏡から2週間は経口を1日2回
再出血 内視鏡を再検し、が失敗すれば

💡 止血後に高用量を使うのは、が胃内のpHに敏感だからである。酸性下ではがを溶かし、も妨げられる。胃内pHを中性近くに保つと、止血した場所のが安定し再出血が減る。

合併症のある潰瘍では、による、潰瘍の原因の評価、アスピリン・の中止、菌がいれば除菌して除菌を確認すること、必要に応じた内視鏡の再検を並行して進める。

その後の管理と再発予防

除菌の確認と内視鏡の再検

💡 は胃内の菌の数を減らし、やを偽陰性にする。抗菌薬・も菌を一時的に抑えるだけで除菌されていないことがあるので、を守らないと「除菌成功」と誤判定する。

維持PPIを続ける条件

原因を除いた潰瘍は再発しにくいので、維持は再発・再出血の危険が高い人に限る。できるだけを避けることが再発予防の基本である。

維持の適応 菌陽性の潰瘍 関連の潰瘍
再検の内視鏡で潰瘍が残っている ○ ○
2 cmを超える巨大潰瘍で、50歳超または多くの併存症がある ○ ○
頻回に再発する消化性潰瘍の既往(年2回を超える再発の記録) ○ ○
長期のアスピリン・服用が必要 ○ ○
菌の除菌の失敗(を含む) ○ —

いずれにも当てはまらなければ、症状が再発しない限り追加の介入は要らない。菌陰性・陰性の潰瘍は原因を断てないので、長期のを続ける。

⚠️ 長期のアスピリン・が避けられない人では、先に菌を検査して除菌することが勧められ、高リスク者ではの併用も必要になる2。菌感染とアスピリン・は互いに潰瘍と合併症のリスクを高め合う2。の選び方としては、のような選択的阻害薬や、ので防御を補う方法もある。

消化性潰瘍の治療アルゴリズム

flowchart TD
  A{"合併症のある潰瘍か<br>出血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric outlet obstruction'>胃出口閉塞</span>・穿通"} -->|"はい"| B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>で酸分泌抑制<br>原因を評価<br>アスピリン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>中止<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Helicobacter pylori'>ピロリ</span>菌がいれば除菌し確認<br>必要なら内視鏡再検"]
  A -->|"いいえ"| C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Helicobacter pylori'>ピロリ</span>菌による潰瘍か"}
  C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>+抗菌薬の組み合わせを14日間<br>除菌を確認<br>必要なら内視鏡再検"]
  D --> E{"長期の酸分泌抑制の適応があるか<br>潰瘍の残存・巨大潰瘍・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='frequent relapse'>頻回再発</span><br>長期アスピリン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>・除菌失敗"}
  E -->|"はい"| F["維持<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>"]
  E -->|"いいえ"| G["症状が再発しない限り<br>追加の介入は不要"]
  C -->|"いいえ"| H{"アスピリン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>による潰瘍か"}
  H -->|"はい"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='omeprazole'>オメプラゾール</span>20〜40 mg/日<br>1 cm未満は4〜6週、1 cm以上は6〜8週<br>アスピリン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>を避ける<br>必要なら内視鏡"]
  I --> J{"長期の酸分泌抑制の適応があるか<br>潰瘍の残存・巨大潰瘍・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='frequent relapse'>頻回再発</span><br>長期アスピリン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>"}
  J -->|"はい"| K["維持<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>"]
  J -->|"いいえ"| L["症状が再発しない限り<br>追加の介入は不要"]
  H -->|"いいえ"| M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='omeprazole'>オメプラゾール</span>20〜40 mg/日<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='duodenal ulcer'>十二指腸潰瘍</span>4週・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric ulcer'>胃潰瘍</span>8週<br>他の原因を検索<br>治療後に生検つきの内視鏡再検<br>長期<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>を継続"]

ピロリ菌の検査と除菌

誰を検査するか

  • 経済評価に基づき、集団の菌が20%未満なら、の初期治療として検査せずにを経験的に使う戦略を勧める指針もある。
  • が10%まで下がると、スクリーニングで偽陽性の割合がかなり大きくなり、不要な治療につながるので、スクリーニングは適切でないことがある。
  • マーストリヒトVI/フィレンツェ合意(2022年)は、未検査のに非侵襲的検査で調べて除菌する戦略を適切とし、の低い地域では初期評価に内視鏡を必須としない2。

💡 検査の特異度が一定でも、が下がるとが下がる。例えば特異度95%の検査なら、10%の集団では1,000人のうち感染していない900人から45人が偽陽性になり、真の感染者100人(感度をほぼ100%として)と比べて、陽性者の3人に1人が偽陽性になる。除菌の抗菌薬は副作用と耐性菌を生むので、偽陽性への治療は害が大きい。

での除菌の位置づけは、では菌をルーチンに調べないことはを参照。

抗菌薬耐性

最近の総説は、世界で菌のが増え、除菌率が下がり続けていることを確かめている。の抗菌薬評価のガイダンスに従うと、ある抗菌薬への感受性で菌種は3つに分けられる。

区分 耐性率 菌の位置
通常は感受性 0〜10% —
感受性が一定しない 10〜50% 北欧を除くほとんどの地域(北欧は例外とされる)
通常は耐性 50%超 —

2024年版が引用する米国の耐性データは次のとおりである。集計が異なる2つのデータで数値が違う。

抗菌薬 耐性率(2,669株の集計) 米国全体の耐性率(別の集計)
31.5% 22.2%
37.6% —
メトロニダゾール 42.1% 69.2%
テトラサイクリン 0.9% —
アモキシシリン 2.6% 1.2%
0.2% —
メトロニダゾール・の二重耐性 11.7% —

後者の集計の地域別の内訳は次のとおりで、どの地域でもが15%を超え、メトロニダゾール耐性は過半数に及ぶ。

地域 アモキシシリン メトロニダゾール
(ワシントン・カリフォルニア・ネバダ・ユタ・コロラドなど) 18.2% 4.0% 54.5%
北部(中から北) 15.2% 3.0% 69.7%
南(テキサス・アリゾナ・オクラホマなど) 21.7% 1.7% 73.3%
南(フロリダ・ジョージア・カロライナなど) 24.9% 1.1% 67.7%

💡 耐性の少ない薬が「柱」になる。 アモキシシリン・テトラサイクリン・の耐性はごくわずかで、・は高い。メトロニダゾールはの耐性率が高いが、として10〜14日間使うと、メトロニダゾール耐性の多い地域でも85%以上の除菌率が得られる2。の耐性は23S の点変異で起こり、耐性株にはほぼ効かない。

標準三剤療法が効かなくなった理由

標準(++アモキシシリン、または++メトロニダゾール/)の効果が下がった理由として、次のものが挙げられる。

理由 解説
1日に多くのを飲み、副作用(下痢・)も多いので、途中でやめると除菌に失敗し耐性も生む
胃酸が多い アモキシシリンやは酸で不安定になり、菌は中性に近いpHで増殖しているときに抗菌薬が効きやすい。高用量の1日2回での効果が上がる2
菌量が多い 菌が多いほど、をもつ菌が最初から含まれている確率が上がる
菌株の違い 菌株によって除菌されやすさが異なる
の増加(最も重要な原因) 世界のほとんどの国で増えている

💡 は酸による活性化を必要とせず、より強く安定して胃内pHを上げるので、この「胃酸」の弱点を補う。マーストリヒトVI/フィレンツェ合意は、と抗菌薬の組み合わせがのに優るか劣らず、耐性菌感染では優るとする2。

現在でも、は高い除菌率を保っている。

耐性率による一次治療の選び方

が高い(15%超)地域では、従来は次のように整理されてきた。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clarithromycin resistance'>クラリスロマイシン耐性</span>が高い地域<br>(15%超)"] --> B["メトロニダゾール耐性が低い"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clarithromycin'>クラリスロマイシン</span>・メトロニダゾールの<br>二重耐性が低い(15%未満)"]
  A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clarithromycin'>クラリスロマイシン</span>・メトロニダゾールの<br>二重耐性が高い(15%超)"]
  B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>+アモキシシリン+メトロニダゾールの<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='triplet therapy (three-drug combination)'>三剤療法</span>"]
  C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bismuth quadruple therapy'>ビスマス四剤療法</span><br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bismuth'>ビスマス</span>非含有の併用四剤療法"]
  D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bismuth quadruple therapy'>ビスマス四剤療法</span>"]

現行のマーストリヒトVI/フィレンツェ合意(2022年)と比べると、次のようになる2。

状況 従来の整理 現行(マーストリヒトVI)
が高い(15%超)か不明で、ができない 耐性の組み合わせで3通りに分ける 一次治療は。使えなければ非含有の併用四剤療法(・アモキシシリン・・を同時に)を考慮しうる
二重耐性が高い(15%超) 同じ。併用四剤療法はこの地域では成功率68〜79%にとどまる
メトロニダゾール耐性が低い +アモキシシリン+メトロニダゾールの 独立した推奨項目は無い。この組み合わせは日本などメトロニダゾール耐性の低い国で使われ、が中等度〜高度の地域での除菌率は75%、メトロニダゾール耐性株では59%(では89%)だった
が低い地域 — 、または局所で有効性が示されていれば含有
治療期間 — ・併用四剤療法・とも14日間(は同等に有効な10日製剤があれば10日)
ペニシリンアレルギー — 一次治療は

マーストリヒトVI/フィレンツェ合意は、や培養でができるなら、を含む治療の前に行うことも推奨している2。

ACG 2024年版:初めて治療する患者のレジメン

2024年版は、未治療で感受性が不明な場合の推奨レジメンを14日間とし、ペニシリンアレルギーが無ければか二剤療法の14日間を経験的な代替とする3。その推奨レジメンの表は次のとおりである。

レジメン 薬(1回量) 投与回数 承認 推奨
最適化 標準量の 1日2回 なし 強い(エビデンスの質は中等度)
次クエン酸塩120〜300 mg、または300 mg 1日4回
テトラサイクリン500 mg 1日4回
メトロニダゾール500 mg 1日3回または4回
(合剤) 1カプセルに10 mg・アモキシシリン250 mg・12.5 mg 1回4カプセルを1日3回 あり 条件付き(エビデンスの質は低)
二剤療法 20 mg 1日2回 あり 条件付き(エビデンスの質は中等度)
アモキシシリン1,000 mg 1日3回
20 mg、500 mg、アモキシシリン1,000 mg いずれも1日2回 あり 条件付き(エビデンスの質は中等度)

💡 の合剤は、1回4カプセル・1日3回で、1日量は120 mg・アモキシシリン3,000 mg・150 mgになる。を大量に、アモキシシリンを頻回に入れて「胃酸」と「の殺菌」の両方を最適化した設計である。

⭐ この表には++アモキシシリンの標準が載っていない。を含むのはだけで、酸分泌抑制をで強めている。

ACG 2024年版:除菌に失敗した患者のサルベージレジメン

既治療で感染が続く患者では、最適化を受けたことがなく感受性が不明なら最適化14日間を優先し、すでに受けていれば14日間を代替とする。やを含むレジメンは、感受性が確認された場合にのみ使う3。

レジメン 薬(1回量) 投与回数 が必要か 推奨
最適化 標準量の、次クエン酸塩120〜300 mgまたは300 mg、テトラサイクリン500 mg、メトロニダゾール500 mg は1日2回、とテトラサイクリンは1日4回、メトロニダゾールは1日3回または4回 不要 条件付き(エビデンスの質は非常に低)
標準量〜倍量の、アモキシシリン1,000 mg、50〜300 mg は1日2回、アモキシシリンは1日2回または3回、は1日1回か2回(合剤なら50 mgを1日3回) 不要 条件付き(エビデンスの質は低)
標準量の、500 mg、アモキシシリン1,000 mgまたはメトロニダゾール500 mg は1日2回、は1日1回、3剤目は1日2回 必要 条件付き(エビデンスの質は低)
20 mg、500 mg、アモキシシリン1,000 mg 1日2回 必要 推奨なし(根拠が不足)
高用量二剤療法 20 mgまたは倍量、アモキシシリン1,000 mg は1日2回または3回、アモキシシリンは1日3回 不要 推奨なし(根拠が不足)

💡 前回使った抗菌薬を繰り返さないのがの原則である。とは一度失敗すると二次耐性が生じやすく、耐性があるとほとんど効かないので、感受性を確かめてからでないと使えない。逆にアモキシシリン・テトラサイクリン・は耐性が生じにくく、繰り返し使える。

日本での除菌

日本のは欧米と組み立てが違う。日本ヘリコバクター学会の2024年版ガイドライン(英語版2026年)は次のように整理している4。

論点 日本の推奨
期間 7日間
一次除菌 +アモキシシリン+の3剤を、感受性にかかわらず強く推奨
二次除菌 または+アモキシシリン+メトロニダゾールの3剤
可能なら除菌前に行うよう勧める
耐性の特徴 は35.5%(30〜40%)と高いが、メトロニダゾール耐性は5%未満と例外的に低い
フラゾリドン・の四剤療法に使う薬は日本では承認されていない

💡 欧米とのずれの理由。 欧米ではメトロニダゾール耐性が高いので、耐性をある程度乗り越えられるの14日間が中心になる。日本ではメトロニダゾール耐性が低いので、メトロニダゾールを使うがよく効き、二次除菌の標準になっている4。マーストリヒトVI/フィレンツェ合意も、・アモキシシリン・メトロニダゾールの組み合わせは日本のようにメトロニダゾール耐性が比較的低い国で使われるとする2。一次除菌にを使うと、を使う場合より除菌率が高く(87.6%対70.8%)、その差は菌で特に大きい(75%対38%)4。強力な酸分泌抑制がアモキシシリンの効果を支えるためと考えられる。

除菌薬ごとの注意点

薬 主な注意点
アモキシシリン ペニシリンアレルギー。耐性はまれ。なので回数を増やすほど有効
を強く阻害し、スタチン・一部の・抗凝固薬などとの相互作用が多い。QT延長。
メトロニダゾール・ 飲酒でを起こしうるので治療中は。、長期・高用量で末梢神経障害
テトラサイクリン 歯の着色・骨への沈着のため妊婦・小児に使わない。カルシウム・・鉄などの金属イオンでを作り吸収が落ちる
便や舌が黒くなる(無害)。はを含む
まれに骨髄抑制2。体液の橙赤色着色。を誘導する。結核の治療薬でもあるので、耐性を広げないよう使い方に注意する
、QT延長、。耐性が多い
強い酸分泌抑制。長期使用では

まとめ

  • 消化性潰瘍の治療は、原因(菌・・まれな原因)を治し、で酸を抑え、禁煙・を指導する。その後、除菌を確認し、は4〜6週後に内視鏡を再検する。
  • 出血性潰瘍はForrest分類で評価し、Ia・Ib・IIa を内視鏡で止血する。止血後は高用量を3日間、その後2週間は経口を1日2回。
  • 維持は、潰瘍の残存、2 cm超の巨大潰瘍(50歳超か併存症多数)、頻回の再発、長期の・アスピリン、除菌失敗の人に限る。菌陰性・陰性の潰瘍は長期。
  • 菌の検査はに左右され、が低いと偽陽性が増える。はを2週間止め、治療後4〜6週で行う。
  • 標準の失敗の最大の原因は。米国では・・メトロニダゾールの耐性が高く、アモキシシリン・テトラサイクリン・の耐性はごく低い。
  • 現行では、未治療で感受性不明なら14日間が第一。 2024年版はと二剤療法を代替とし、・は感受性が確認された場合だけ使う。マーストリヒトVIは15%超か不明の地域でを一次治療とする。

出典

  1. 1.ACG Clinical Guideline: Upper Gastrointestinal and Ulcer Bleeding(American College of Gastroenterology・2021)抄録(Europe PMC、PMID 33929377)で、救急外来でGlasgow-Blatchford score 0〜1などの超低リスク例を外来管理にしうること、入院例の赤血球輸血閾値7 g/dL、内視鏡前のエリスロマイシン静注と受診後24時間以内の内視鏡を提案すること、活動性の噴出性・湧出性出血の潰瘍と非出血性露出血管に内視鏡治療を推奨すること、内視鏡的止血後は高用量PPIを持続または間欠投与で3日間、その後内視鏡から2週間は経口PPIを1日2回とすること、再出血には内視鏡の再検、内視鏡治療が失敗すれば経カテーテル塞栓術を提案することを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Management of Helicobacter pylori infection: the Maastricht VI/Florence consensus report(Gut(European Helicobacter and Microbiota Study Group)・2022)誌上版全文(Gut 2022;71:1724–1762)で次を確認した。臨床像のStatement 3で未検査のディスペプシアに検査・除菌戦略が適切(A1)、Statement 4で有病率の低い地域では初期評価に内視鏡は不要(A1)、Statement 8でアスピリン・NSAIDsがピロリ菌感染者の消化性潰瘍と合併症のリスクを高め(A1)、Statement 9で長期アスピリン服用中の高リスク者と長期NSAIDsを始める未使用者は検査・除菌が望ましく、高リスク者はPPIの追加が必要なことがある(A1)。診断のStatement 10で除菌後4〜6週の判定までは抗菌薬・ビスマスを使わず、PPIは検査の14日前に中止する(A1)。治療のStatement 2で感受性検査ができない場合、クラリスロマイシン耐性が高い(15%超)か不明の地域の一次治療はビスマス四剤療法で、使えなければビスマス非含有の併用四剤療法を考慮しうる(B1)、Statement 3でビスマス四剤療法は14日間(同等に有効な10日製剤があれば10日)、Statement 4・5で非ビスマス四剤療法はPPI・アモキシシリン・クラリスロマイシン・ニトロイミダゾールを同時に使う併用療法を優先し14日間、Statement 6・7でクラリスロマイシン耐性の低い地域では局所で有効性が示されていればビスマス四剤療法かクラリスロマイシン含有三剤療法(14日間)を一次治療にしうる、Statement 8で高用量PPI 1日2回が三剤療法の効果を高める、Statement 9でP-CABと抗菌薬の併用がPPI三剤療法に優るか劣らず耐性菌感染では優る、Statement 11〜13で失敗後の二次治療(ビスマス四剤療法、フルオロキノロン含有療法、高用量PPI・アモキシシリン二剤療法、リファブチン)、Statement 17でペニシリンアレルギーの一次治療はビスマス四剤療法とすること。診断のStatement 9で、分子生物学的手法か培養で可能ならクラリスロマイシンを含む治療の前に感受性検査を行うことを推奨すること(A1)。本文で、二重耐性が15%を超える地域では併用四剤療法の成功率が68〜79%にとどまり、前回の欧州コンセンサスでは二重耐性の高い地域の一次治療をビスマス四剤療法としていたこと、ビスマス四剤療法は10〜14日でメトロニダゾール耐性の多い地域でも85%以上の除菌率を示すこと、PPI・アモキシシリン・メトロニダゾール療法は日本などメトロニダゾール耐性の比較的低い国で使われ、クラリスロマイシン耐性が中等度〜高度の地域での大規模メタ解析で除菌率75%、メトロニダゾール耐性株で59%・感受性株で89%だったこと、リファブチンでまれに骨髄抑制があることを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection(American College of Gastroenterology・2024)抄録のみ閲覧(Europe PMC、PMID 39626064。誌上版本文は取得できず)。未治療で抗菌薬感受性が不明な例では14日間のビスマス四剤療法が推奨レジメンで、ペニシリンアレルギーの無い患者ではリファブチン三剤療法またはP-CAB二剤療法の14日間が経験的な代替となること。既治療の持続感染では、最適化ビスマス四剤療法を受けたことがなく感受性不明なら最適化ビスマス四剤療法14日間が優先され、最適化ビスマス四剤療法の既治療例ではリファブチン三剤療法14日間が代替となること。クラリスロマイシンまたはレボフロキサシンを含むサルベージレジメンは感受性が確認された場合にのみ用いること。治療後の除菌判定を全例で行うことを論点として扱っていること。各レジメンの用量表・耐性率の図・脚注は抄録に無い。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Guidelines for the management of Helicobacter pylori infection in Japan: 2024 revised edition(Journal of Gastroenterology(Japanese Society for Helicobacter Research)・2026)PMC13283202の全文で、日本ヘリコバクター学会の2024年版(日本語版2024年、英語版2026年)が、日本では除菌療法を7日間とすることを推奨し、一次除菌にはクラリスロマイシン感受性にかかわらずボノプラザン・アモキシシリン・クラリスロマイシンの3剤を強く推奨し、二次除菌にはPPIまたはボノプラザンとアモキシシリン・メトロニダゾールの3剤を推奨すること(CQ2-2、強い推奨・エビデンスレベルA)、全感染者に除菌を行い可能なら除菌前に薬剤感受性検査を行うよう勧めること、日本のクラリスロマイシン耐性率が35.5%(30〜40%)と高い一方でメトロニダゾール耐性が5%未満と例外的に低く、メトロニダゾール含有療法が二次除菌の標準になっていること、ボノプラザンを使う一次除菌がPPIより除菌率が高く(ITT 87.6%対70.8%)クラリスロマイシン耐性株で差が特に大きい(75%対38%)こと、フラゾリドン・ビスマスの四剤療法に使う薬が日本では承認されていないことを確認した。閲覧 2026-09-27