臨床薬理学

臨床薬理学 · 38

痛みの定義・評価・分類

Pain: definition, assessment and classification

前提:正常
痛覚の生理学

🧠 全体像:痛みは「刺激」ではなく「体験」である。だから定義は主観を中心に置き、評価は本人の訴え(自己申告)を基本とし、訴えられない患者では行動や生理的な指標で補う。分類は機序で考えるのが薬の選び方に直結する——組織の損傷でが働く(炎症性を含む)、神経そのものが壊れた、どちらの証拠もないのに痛みの処理が変わった、それらが重なる。は・感作・イオンチャネルの変化から生じ、とが特徴で、がほとんど効かない(治療はとの治療)。

痛みの定義

IASPの定義:1979年の旧定義と2020年の改訂定義

の痛みの定義は、今も1979年の文言がよく引用される。「あるいはそのような損傷の言葉で表現される」を含む文言は、2020年の定義として示されることもあるが、実際には1979年の旧定義である。定義は2020年に41年ぶりに改訂された1。

版 定義 要点
1979年(旧定義) 実際の、または潜在的なに伴う、あるいはそのような損傷の言葉で表現される、不快な感覚的・情動的体験 痛みを刺激に結びつけない。がと路に起こす活動は痛みではなく、痛みは常に心理的状態であるという付記が付いていた
2020年(現行) 実際の、または潜在的なに伴う、あるいはそれに似た、不快な感覚的・情動的体験 「損傷の言葉で表現される」を削り、に「似た」体験を含めた。付記で、意思を伝えられなくても痛みを体験している可能性は否定されないと明記し、言葉で説明できない人(乳幼児・認知症・)の痛みも射程に入れた

「感覚的」と「情動的」の両方が定義に入っている点が核心である。痛みは「どこが・どれくらい・どんな性質で」という感覚の側面と、「つらい・怖い」という情動の側面をもつ。組織の損傷と痛みの強さは一対一に対応しない。

2020年の定義には、次の6つの付記が添えられている1。

付記 臨床での意味
痛みは常に個人的な体験で、生物学的・心理的・要因に程度の差はあれ影響される 同じ手術でも痛みの強さは人によって違う
痛みとは別の現象で、の活動だけから痛みを推し量ることはできない が軽くても痛みは否定できない
人は人生経験を通じて痛みという概念を学ぶ 文化・過去の体験で表現が変わる
痛みがあるという訴えは尊重されるべきである 評価の出発点は本人の申告
痛みは通常はな役割をもつが、機能と・心理的な幸福に悪影響を及ぼしうる 慢性化した痛みは信号ではなく、それ自体が治療の対象になる
言葉での表現は痛みを表す行動の一つにすぎず、意思を伝えられないからといって、ヒトやヒト以外の動物が痛みを体験している可能性は否定されない 言葉を話せない患者では行動で評価する

「痛みは本人がそうだと言うもの」

のMargo McCaffery(1938〜2018年)は、痛みを「それを体験している人が痛みだと言うものであり、その人が存在すると言うときにはいつでも、どこにでも存在する」と定義した。痛みの治療戦略は、この態度から始まる。医療者が「その程度で痛いはずがない」と判断すると、痛みは過小評価され、鎮痛が遅れる。2020年のの付記「痛みの訴えは尊重されるべきである」は、この考え方をの定義に取り込んだものといえる。

鎮痛は人道上の義務であり、死亡率にも関わる

痛みを取ることは人道的な義務であるだけでなく、患者の死亡率を直接下げうる。強い痛みは交感神経を活性化し、代謝を亢進させて酸素消費との産生を増やす。鎮痛はこの連鎖を断つ。

flowchart TD
  A["強い痛み"] --> B["交感神経の活性化<br>カテコールアミン放出"]
  B --> C["頻脈・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated blood pressure'>血圧上昇</span>"]
  B --> D["代謝の亢進<br>酸素消費と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carbon dioxide, CO₂'>二酸化炭素</span>産生が増える"]
  C --> E["心筋の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxygen demand'>酸素需要</span>が増える"]
  D --> F["換気の負担が増える"]
  E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reserve'>予備力</span>の乏しい患者で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial ischemia'>心筋虚血</span>・呼吸不全などの合併症"]
  F --> G
  H["十分な鎮痛"] -.->|"連鎖を断つ"| B

💡 たとえば術後や後は、痛みのために深呼吸や咳ができず、痰がたまって・肺炎を起こしやすい。心筋梗塞の胸痛も交感神経を介して心筋のをさらに上げる。鎮痛は「楽にする」だけでなく、こうした悪循環を止める治療でもある。

痛みと侵害受容:動物実験では何を測るのか

IASPはを「をする神経の過程」と定義し、痛み(体験)と区別する2。動物には痛みを尋ねられないので、で測っているのは痛みではなくであり、薬の作用も「鎮痛」ではなく抗と呼ぶ。

ヒト
測る対象 痛み(な体験) (神経の過程)
測り方 本人の自己申告(尺度・) に対する防御反応:反応までの、反応が起こる閾値、足・尾を引っ込める回数、なめる行動など
薬の効果の呼び名 鎮痛 抗

2020年の付記は、意思を伝えられないことが「ヒトやヒト以外の動物」が痛みを体験している可能性を否定しないとも述べている1。動物に痛みがないと考えるのではなく、尋ねられないので体験としての痛みを直接は測れず、測れるの反応で代えている、という位置づけである。

💡 この区別は開発で重要になる。動物で強い抗作用を示した薬が、ヒトの痛み(とくに情動の側面が大きい)で期待どおりに効かないことは珍しくない(の開発)。痛みの伝導路と調節の仕組みは痛覚の生理学にまとめてある。

痛みの評価

自己申告による強さの尺度

痛みの強さの評価は、本人の自己申告が基本である。

尺度 方法 両端 使いどころ
「痛みなし・軽度・中等度・高度・激烈」から選んでもらう。あわせて痛みの性質(ずきずき・焼けるよう等)も聞く 痛みなし〜激烈な痛み 数字の理解が難しい人でも使いやすい。段階が粗い
NRS 0〜10の11段階の数字で答えてもらう 0=痛みなし、10=想像しうる最悪の痛み 口頭でも使え、ベッドサイドで最も手軽
長さ100 mmの線の上に、今の痛みの位置を印してもらい、左端からの距離をmmで読む 0=痛みなし、100=想像しうる最強の痛み 目盛りのない連続尺度なので細かな変化を拾える。紙と筆記の能力が要る
フェイススケール 表情の絵から今の気持ちに近いものを選んでもらう 笑顔〜泣き顔 数字を理解できない患者(小児・・言語の壁)

⭐ 尺度は「比べる」ために使う。 痛みにはな尺度がなく、痛みの程度とその体験は個人ごとに違い、状況にも左右される。同じ患者に同じ尺度を繰り返し使い、治療前後やで比べることに意味がある。患者どうしの点数を比べて「この人は大げさだ」と判断しない。

0〜10の数字と表情・言葉を並べた比較式の痛み尺度では、各段階に次の言葉が対応づけられている。

点数 対応する言葉
0 痛みなし
1 ごく軽い
2 不快
3 我慢できる
4 つらい
5 とてもつらい
6 強い
7 とても強い
8 ひどく恐ろしい
9 耐えがたい
10 想像も言葉もおよばない

表情は0の笑顔から段階的に笑みが消え、口角が下がり、をひそめ、9〜10では涙を流す顔になる。色も淡い黄色から濃い赤へ変わり、痛みが強くなるほど暖色が濃くなる。

より簡略な6段階の表情尺度(痛みなし・軽度・中等度・高度・非常に高度・考えうる最悪の痛み)もよく使われる。

自己申告ができない患者の評価

flowchart TD
  A["痛みを評価したい"] --> B{"自分で痛みを<br>伝えられるか"}
  B -->|"はい"| C{"数字を理解できるか"}
  C -->|"はい"| D["NRS・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual analog scale'>VAS</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='verbal scale'>言語評価尺度</span>"]
  C -->|"いいえ"| E["フェイススケール"]
  B -->|"いいえ・言葉を話せない"| F["行動による判断<br>表情・発声・食欲低下・動きの制限<br>混乱の増悪・興奮"]
  B -->|"意識がない"| G["生理的指標<br>血圧・脈拍・呼吸数"]
  F --> H["同じ方法で繰り返し評価し<br>鎮痛前後で比べる"]
  G --> H
  D --> H
  E --> H
患者 手がかり 注意点
数字を理解できない 表情の絵(フェイススケール) 痛み以外の気分(不安・悲しみ)も表情に出る
言葉を話せない(重度の認知症、、挿管中の一部) 顔の動き()、声を出す・うめく、食欲の低下、動きを避ける・かばう、混乱の増悪、興奮・落ち着きのなさ ふだんの様子を知る家族・の情報が役立つ
意識がない 血圧・脈拍・呼吸数の上昇 特異性が低い。発熱・・薬剤・人工呼吸の影響でも変わる

💡 「伝えられないことは痛みがないことを意味しない」という2020年の付記は、この場面のためにある1。認知症の高齢者のや拒食が、実は未治療の痛みであることは多い。

多次元の質問票:McGill痛み質問票

強さだけを測る尺度に対し、McGill痛みは痛みの質と強さを多面的に調べる複合的なである。「あなたの痛みはどのように感じますか(性質)」「痛みは時間とともにどう変わりますか()」「痛みはどれくらい強いですか(強さ)」の3つの問いに答えてもらう。中心となるのは、痛みを表す言葉を20群に分けた一覧である。

群 側面 痛みを表す言葉
1 感覚(時間的な性質) ちらつくような、脈打つような、震えるような、ずきずきする、打ちつけるような、がんがんする
2 感覚(空間的な広がり) 跳ねるような、閃くような、走るような
3 感覚(点状の圧) ちくちくする、錐でもむような、ドリルでえぐるような、刺すような
4 感覚(切り裂く) 鋭い、切られるような、引き裂くような
5 感覚(締めつけ・圧迫) つねられるような、押されるような、かじられるような、引きつるような、押しつぶされるような
6 感覚(牽引) 引っ張られるような、引かれるような、ねじ切られるような
7 感覚(熱) 熱い、焼けるような、煮え湯を浴びたような、焼きごてを当てられたような
8 感覚(鮮明さ) ぴりぴりする、かゆい、ひりひりする、刺されてしみるような
9 感覚(鈍さ) 鈍い、痛む、ずきずき痛む、うずく、重い
10 感覚(その他) 触れると痛い、張りつめた、こすられるような、割れるような
11 情動(緊張) 疲れる、する
12 情動(自律神経) 気分が悪くなる、息が詰まる
13 情動(恐怖) 怖い、恐ろしい、ぞっとする
14 情動(罰) 罰を受けているような、過酷な、残酷な、容赦ない、死ぬほどの
15 情動(その他) みじめな、目がくらむような
16 評価(全体の強さ) わずらわしい、やっかいな、つらい、強烈な、耐えられない
17 その他(感覚) 広がる、放散する、貫くような、突き刺すような
18 その他(感覚) 締めつけられる、た、絞られるような、引き込まれるような、裂けるような
19 その他(感覚) ひんやりする、冷たい、凍えるような
20 その他(情動・評価) しつこい、吐き気を催す、苦悶する、ひどい、拷問のような

群1〜10が感覚、11〜15が情動、16が評価、17〜20がその他という構成は、Melzackが1975年に作った原版の枠組みである。言葉は各群の中で弱いものから強いものへ並んでいる。

簡便な使い方として、次のように言葉を絞り込む手順がある。

  1. 全群から、自分の痛みの性質に最もよく当てはまる言葉を10語選ぶ。
  2. 次に、群1〜10から3語、群11〜15から2語、群16から1語、群17〜20から1語を選ぶ。
  3. こうして最も適切な7語に絞る。

原版では、当てはまる群ごとに1語ずつ選び、選んだ言葉の群内の順位を合計して痛みの評点を出し、選んだ語数と、今の痛みの強さ(6段階の言葉)もあわせて記録する。後に15語に絞った短縮版も作られた。

💡 言葉の選び方が機序の手がかりになる。 「焼けるような」「電気が走るような」「た」「ぴりぴりする」はで多く、「ずきずきする」「うずく」「触れると痛い」は炎症やによる痛みで多い。「怖い」「罰を受けているような」など情動の群の言葉が多ければ、心理的な苦痛が大きいことを示す。

McGill痛みは、次のようなさまざまな痛みの評価に使われてきた。

領域 対象となる痛み
がん・術後 がんの痛み、術後合併症
筋骨格・脊椎 、・、、虚血性の筋肉痛、の痛み、
頭頸部・顔面 頭痛、、、・歯の痛み
骨盤・会陰 、痛

神経障害性疼痛のための質問票

には専用のがある。使い道で2種類に分かれる。

種類 代表例 目的
強さ・性質の評価 尺度のNPS、症状調査票のNPSI の性質(灼熱感、発作的な痛み、触れると誘発される痛み、など)ごとの強さを数値化し、治療効果を追う
スクリーニング DN4、LANSS、PainDETECT の可能性がある患者を拾い上げ、精査につなぐ

欧州神経学会・欧州疼痛・NeuPSIGの2023年の合同指針は、スクリーニングのうち自己記入式を含むDN4とLANSSを強く、自己記入式のLANSSとPainDETECTを弱く推奨している3。ただしは精査のきっかけであり、それだけでと判定することはできない4。

痛みの分類

機序による2つの基本型

は、痛みを生む機序で次のように定義している2。

型 の定義 何が起きているか
非神経組織の実際の、または差し迫った損傷から生じ、の活性化による痛み 神経は正常で、組織の損傷を正しく伝えている
の病変または疾患による痛み 痛みを伝える神経そのものが壊れている
(2017年に追加) を活性化するの明確な証拠も、の疾患・病変の証拠もないのに、の変化から生じる痛み 痛みの処理系(感作・抑制の低下)が変わっている

の定義にある「病変または疾患」は、や神経生理検査などで確かめられる異常を想定している。単に「神経が過敏になっている」だけではと呼ばない。この点がとの境目である()。

5つの痛みの型

Temmermandら(2022年)は、痛みを5つの型に整理している。

型 仕組み 具体像 代表的な疾患
非神経組織の損傷が、化学的・電気的・機械的・熱・生物学的な刺激としてを刺激する。は皮膚・関節・筋・内臓にある による、すり減った 、組織・関節の損傷や外傷、原因の分かっている内臓痛
炎症性疼痛 と局所組織がサイトカイン・・神経ペプチド・プロスタグランジンを放出し、損傷と痛みを強める 炎症の場で、単球・好酸球・・好中球が血管から組織へ遊走し、メディエーターを出す 、慢性炎症
神経組織()の疾患や病変による。末梢でも中枢でも起こる 傷ついた末梢神経と脊髄の病変 、、、脳卒中後疼痛、、、
・機能障害性疼痛 でもでもない。原因が分からないことが多く、もの疾患・病変も証明されない 腸にな異常がないのに続く腹痛()が典型 、慢性頭痛、、、、原因不明の、1型
複数の型が複雑に重なる。機序ははっきりしない ・・などの要素が1人の患者の中で重なる がんの痛み、、慢性、の要素をもつ・

💡 型の見きわめが薬の選択を決める。 ・炎症性の痛みには・・オピオイドが効くが、には・・などを使い、はほとんど効かない。では運動療法・が柱で、薬は抗うつ薬が中心になる(非がん性・慢性・急性疼痛)。がんの痛みが「」に入るのは、腫瘍による組織の破壊と神経への浸潤・圧迫、治療による神経障害が同時に起こるからである(がん性疼痛とオピオイド)。

臨床的な分類:非病的な痛みと病的な痛み

臨床では、痛みが「正常な信号」なのか、「痛みの仕組みそのものの異常」なのかで分ける整理も使われる。

非病的な痛み(主にによる)は、次の軸で細分する。

軸 分け方 例
持続 急性 ()、、骨折、、熱傷、心筋梗塞、
慢性 、、慢性の炎症性疼痛(関節リウマチ)
部位 か内臓痛か 皮膚・筋・骨の痛みは局在がはっきりし、内臓痛は局在が曖昧でを伴いやすい
炎症 炎症性か非炎症性か 炎症性ならがよく効く
がんの痛み 心理的・病的な要素も併せもちうる 組織破壊・神経浸潤・不安や抑うつが重なる

は、持続痛がおおむね抑えられている患者に一過性に現れる強い痛みで、主にがんの痛みで問題になる。

病的な痛み(神経の損傷や神経細胞の機能異常による)は、やを伴いうる。

病態 痛みの特徴・原因
(例:) 針で連続して刺すような、のような痛み()
(例:糖尿病性、帯状疱疹後) 焼けるような痛み
失った四肢に感じる痛み
症候群 脳卒中・腫瘍・による
広い範囲に持続する焼けるような感覚
全身の広範な痛み
腹痛と
頭痛症候群 片頭痛、、(頭痛と片頭痛)

⚠️ この古典的な「病的な痛み」の一覧には、機序の異なるものが混ざっている。・・・は神経の病変によるだが、・・一次性頭痛は神経の病変が証明されない(ICD-11では慢性一次性疼痛)に当たる。のうち明らかな神経損傷のない1型も後者に入る。どちらも「としての役割を失った痛み」である点は共通する。

IASPの5軸とWoolfの機序に基づく分類

の古典的な慢性疼痛の分類体系は、痛みを次の5つの軸で記述する。

軸 内容
1 痛みのある身体の部位
2 痛みの原因となっている可能性のある機能障害の系統(神経系・など)
3 と発生パターン(持続性・発作性など)
4 強さと発症からの時間
5 病因

一方、Woolfら(1998年)は、治療を機序に合わせるために、痛みを・炎症性疼痛・の3つに分けることを提案した。

flowchart TD
  A["痛みの分類"] --> B["部位・系統・時間で記述する<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='International Association for the Study of Pain'>IASP</span>の5軸"]
  A --> C["機序で分ける<br>Woolfら1998年"]
  C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nociceptive pain'>侵害受容性疼痛</span>"]
  C --> C2["炎症性疼痛"]
  C --> C3["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuropathic pain'>神経障害性疼痛</span>"]
  C --> C4["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nociplastic pain'>侵害可塑性疼痛</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='International Association for the Study of Pain'>IASP</span>が2017年に追加"]
  A --> D["持続で分ける<br>ICD-11の慢性疼痛"]
  D --> D1["慢性一次性疼痛<br>痛みそのものが疾患"]
  D --> D2["慢性二次性疼痛<br>基礎疾患の症状としての痛み"]

現行のICD-11では、3か月を超えて持続または再発する痛みを慢性疼痛とし、や非特異的のように痛みそのものを疾患とみなす慢性一次性疼痛と、基礎疾患に続発する慢性二次性疼痛(がん関連、、二次性内臓痛、外傷後・術後、・口腔顔面痛、二次性疼痛の6群)に分ける5。各群の治療は非がん性・慢性・急性疼痛、がん関連の痛みはがん性疼痛とオピオイドで扱う。

神経障害性疼痛の病態

定義と診断の確からしさ

は「の病変または疾患による痛み」で、病変が末梢神経にあれば末梢性、脳・脊髄にあれば中枢性と呼ぶ2。どこまで確かかは、NeuPSIGの3段階で判定する4。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuropathic pain'>神経障害性疼痛</span>を疑う"] --> B{"関連する神経の病変・疾患の病歴があり<br>痛みの分布が神経解剖学的に妥当か"}
  B -->|"いいえ"| X["他の機序を考える"]
  B -->|"はい"| C["可能性あり"]
  C --> D{"診察で同じ分布に感覚徴候があるか<br>とくに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensory loss'>感覚低下</span>などの陰性徴候"}
  D -->|"はい"| E["可能性が高い"]
  E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='objective'>客観的</span>な検査で病変・疾患を確認できるか<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve conduction study (NCS)'>神経伝導検査</span>・皮膚生検など"}
  F -->|"はい"| G["確実"]

⚠️ 「確実」と判定されても、その痛みが神経病変だけで説明できるとは限らない。炎症など別の機序が同時に関わっていることがある4。

💡 のような陽性徴候だけでは根拠として弱く、痛いのに感覚が鈍いという陰性徴候の組み合わせがを強く示す。神経が壊れて感覚が落ちた場所で、壊れた神経が勝手に痛みの信号を出しているからである。

痛みを生む5つの機序

の病態は複雑で、複数の機序が重なる。

機序 何が起きるか 関係する分子 この機序を狙う薬の例
損傷神経の異所性活動 傷ついた神経が、本来と違う場所から、不適切なときに痛みの信号を出す。明らかな原因がなくても痛む 損傷部・に集まるNa⁺チャネル カルバマゼピン、
末梢性感作 損傷部位の神経が、の放出で過敏になり、わずかな圧や接触でも強い痛みが出る(・) 、IL-1β、、プロスタグランジン 炎症の制御、高濃度
脊髄・脳で痛みの信号が増幅され、より強く、痛くない刺激にも痛みを感じる NMDA受容体の増加・活性化、Ca²⁺流入、、痛覚調節路の変化、の活性化 、・
興奮系と抑制系の不均衡 痛覚伝導路のやが弱まり、興奮が勝つ ・グリシン、セロトニン・ノルアドレナリン系 、
イオンチャネルの変化(数と分布) チャネルの発現量が変わり、して神経の興奮性が上がる Na⁺チャネル、、、K⁺チャネル、 Na⁺薬、α2δ結合薬
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatosensory nervous system'>体性感覚神経系</span>の病変・疾患<br>糖尿病・帯状疱疹・外傷・脳卒中など"] --> B["損傷神経の異所性活動"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory mediator'>炎症性メディエーター</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>・IL-1β・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve growth factor'>神経成長因子</span>・プロスタグランジン"]
  A --> D["イオンチャネルの増加と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='redistribution'>再分布</span>"]
  C --> E["末梢性感作"]
  D --> B
  B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal horn'>脊髄後角</span>への持続的な入力"]
  E --> F
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central sensitization'>中枢性感作</span><br>NMDA受容体・Ca²⁺流入・グリア活性化"]
  G --> H["抑制系の低下<br>興奮と抑制の不均衡"]
  B --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spontaneous pain'>自発痛</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paresthesia'>異常感覚</span>"]
  G --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='allodynia'>アロディニア</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperalgesia'>痛覚過敏</span>"]
  H --> J
  A --> K["感覚の脱落<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypesthesia (numbness)'>感覚鈍麻</span>"]

痛みの伝導と感作の基礎は痛覚の生理学、の症候はも参照。

神経障害性疼痛の症状

痛覚過敏とアロディニア

は両者を次のように定義する2。

用語 定義 例
通常痛みを起こす刺激による痛みの増強 ピン刺激で普通より強い痛みを感じる
通常痛みを起こさない刺激による痛み 衣服が触れる、シーツがこすれる、そよ風が当たるだけで痛い

刺激の強さと感じる痛みの強さの関係を曲線で描くと、両者の違いが分かる。

xychart-beta
  title "刺激の強さと痛みの強さの関係(模式図)"
  x-axis "刺激の強さ" ["0", "1", "2", "3", "4", "5", "6", "7", "8", "9", "10"]
  y-axis "痛みの強さ" 0 --> 10
  line [0, 0, 0.2, 0.5, 1.5, 3.5, 6, 8, 9, 9.5, 9.7]
  line [0.3, 1.5, 4, 7, 8.8, 9.5, 9.7, 9.8, 9.8, 9.8, 9.8]

上の2本の曲線は形を示すための模式図で、数値は実測ではない。右側の曲線が正常、左側の曲線がである。

  • では、曲線全体が左(弱い刺激の側)へずれる。
  • :正常なら中等度の痛みを生む刺激の強さを、ではもっと弱い刺激で超えてしまう。同じ痛みに達するのに必要な刺激が小さくなる(曲線の横方向のずれ)。
  • :正常ではほとんど痛みを起こさない弱い刺激(上の例では強さ3付近)で、はっきりした痛みが生じる(その刺激の位置で縦に見た差)。

症状の広がり

では、誘発される痛みのほかに次の症状が組み合わさる。

症状 内容 陽性・陰性
刺激がなくても続く・発作的に起こる痛み(焼けるよう、のよう) 陽性
自発的または誘発される異常な感覚(ぴりぴり、ちくちく、) 陽性
・ 上記 陽性
刺激に対する感受性の低下(、触覚・の低下) 陰性
睡眠障害・ 不眠、抑うつ、不安 痛みの結果であり、痛みを悪化させる要因でもある

💡 睡眠・気分の障害は「おまけ」ではない。 不眠と抑うつはを弱めて痛みを強め、痛みがさらに眠りと気分を悪くする。・・がの第一選択に並ぶのは、鎮痛作用に加えて睡眠や気分にも作用するからでもある(との治療)。

まとめ

  • の痛みの定義は2020年に改訂され、「実際の、または潜在的なに伴う、あるいはそれに似た、不快な感覚的・情動的体験」となった。「損傷の言葉で表現される」という1979年の文言は削られ、言葉で伝えられない人の痛みも含むようになった。痛みはとは別の体験であり、本人の訴えを尊重する(McCafferyの「痛みは本人が痛いと言うもの」)。
  • 鎮痛は人道上の義務であるだけでなく、交感神経の活性化と代謝亢進の連鎖を断ち、合併症と死亡を減らしうる。
  • 動物では痛みを尋ねられないので、防御反応(・閾値・引っ込め回数・なめる行動)でを測り、薬の効果は抗と呼ぶ。
  • 強さの評価は自己申告が基本で、、NRS(0〜10)、(100 mmの線)、フェイススケールを使う。言葉を話せない患者は行動、意識のない患者は血圧・脈拍・呼吸数で補う。な尺度はなく、同じ尺度でに比べる。
  • McGill痛みは20群の言葉(感覚1〜10、情動11〜15、評価16、その他17〜20)で痛みの質と強さを多面的に評価する。には、強さと性質を評価するNPS・NPSIと、スクリーニング用のDN4・LANSSがある。
  • 機序による分類は・炎症性・・・の5型。はの病変・疾患による痛みで、NeuPSIGの「可能性あり・可能性が高い・確実」で確からしさを判定する。
  • 臨床的な「非病的な痛み/病的な痛み」の整理や、の5軸(部位・系統・時間パターン・強さと発症からの時間・病因)、Woolfの機序分類、ICD-11の慢性一次性・二次性疼痛も押さえる。
  • の機序は、異所性活動、末梢性感作(・IL-1β・・プロスタグランジン)、(NMDA受容体・Ca²⁺流入・グリア)、興奮と抑制の不均衡、イオンチャネル(Na⁺・Ca²⁺・TRP・K⁺・HCN)の変化。症状は・・・・・睡眠と気分の障害で、刺激と痛みの関係の曲線は左へずれる。

出典

  1. 1.The revised International Association for the Study of Pain definition of pain: concepts, challenges, and compromises(PAIN(International Association for the Study of Pain)・2020)PMC全文(PMC7680716)で、2020年の改訂定義「実際の、または潜在的な組織損傷に伴う、あるいはそれに似た、不快な感覚的・情動的体験」と6つの付記(痛みは生物・心理・社会的要因に影響される個人的体験であること、痛みと侵害受容は別で感覚ニューロンの活動だけから痛みを推し量れないこと、痛みの概念は人生経験を通じて学ぶこと、痛みの訴えは尊重されるべきこと、痛みは通常は適応的だが機能と幸福に悪影響を及ぼしうること、言葉での表現は痛みを表す行動の一つにすぎず、意思を伝えられないことはヒトやヒト以外の動物が痛みを体験している可能性を否定しないこと)、1979年の旧定義の文言「実際の、または潜在的な組織損傷に伴う、あるいはそのような損傷の言葉で表現される、不快な感覚的・情動的体験」と、その付記「この定義は痛みを刺激に結びつけない。侵害刺激が侵害受容器と侵害受容路に起こす活動は痛みではなく、痛みは常に心理的状態である」を確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.IASP Terminology(International Association for the Study of Pain・2017)IASPの用語集で、侵害受容(侵害刺激を符号化する神経の過程)、侵害受容性疼痛(非神経組織の実際の、または差し迫った損傷から生じ、侵害受容器の活性化による痛み)、神経障害性疼痛(体性感覚神経系の病変または疾患による痛み)と中枢性・末梢性の区別、侵害可塑性疼痛の定義、痛覚過敏(通常痛みを起こす刺激による痛みの増強)、アロディニア(通常痛みを起こさない刺激による痛み)、感覚鈍麻・異常感覚・神経痛・鎮痛・感作・中枢性感作・末梢性感作の定義を確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Joint European Academy of Neurology-European Pain Federation-Neuropathic Pain Special Interest Group of the International Association for the Study of Pain guidelines on neuropathic pain assessment(European Academy of Neurology / European Pain Federation / NeuPSIG・2023)抄録(PMID 37253688)で、スクリーニング質問票のうちDN4、自己記入式のI-DN4、LANSSを強く推奨し、自己記入式のS-LANSSとPainDETECTを弱く推奨すること、診断では皮膚生検を強く、定量的感覚検査と侵害受容誘発電位を弱く推奨することを確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Neuropathic pain: an updated grading system for research and clinical practice(PAIN(NeuPSIG, International Association for the Study of Pain)・2016)PMC全文(PMC4949003)で、神経障害性疼痛を「可能性あり(関連する神経の病変・疾患の病歴と、神経解剖学的に妥当な痛みの分布)」「可能性が高い(診察で同じ分布の感覚徴候、とくに感覚消失などの陰性徴候を認める)」「確実(客観的な検査で体性感覚神経系の病変・疾患を確認)」の3段階に分け、「確実」でも因果関係を必ずしも示さないこと、スクリーニング質問票は精査のきっかけであり単独で神経障害性疼痛を同定できないことを確認した。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Chronic pain as a symptom or a disease: the IASP Classification of Chronic Pain for the International Classification of Diseases (ICD-11)(PAIN(International Association for the Study of Pain)・2019)抄録(PMID 30586067)で、慢性疼痛を3か月を超えて持続または再発する痛みと定義し、線維筋痛症や非特異的腰痛のように痛みそのものを疾患とみなす「慢性一次性疼痛」と、基礎疾患に続発する6つの下位群(慢性がん関連疼痛、慢性神経障害性疼痛、慢性二次性内臓痛、慢性外傷後・術後疼痛、慢性二次性頭痛・口腔顔面痛、慢性二次性筋骨格系疼痛)をまとめた「慢性二次性疼痛」に分けることを確認した。閲覧 2026-09-27