臨床薬理学

臨床薬理学 · 42

頭痛と片頭痛の薬物療法

Headache and migraine

前提:病態
痛風治療薬・頭痛治療薬

🧠 全体像:頭痛はまず一次性(頭痛そのものが病気)か二次性(別の病気の症状)かを分ける。二次性なら原因を治す。一次性頭痛の代表である片頭痛の薬は、発作を止める薬と発作を減らす薬(予防薬)の2本立てで考える。発作には軽ければ、中等度以上ならトリプタン(効かなければ別のトリプタン、それでもだめならか)、悪心には、救急では静注の・や皮下注のを使う。は月10〜15日未満に抑えないと薬剤の使用過多による頭痛を招く。予防はβ遮断薬・抗うつ薬・・に加え、CGRPを標的とする抗体とが第一選択肢の一つになった。

頭痛の分類:一次性と二次性

区分 意味 主な病型・原因
一次性頭痛 頭痛そのものが病気
片頭痛:のない片頭痛、のある片頭痛(典型的、脳幹性、網膜片頭痛、)、慢性片頭痛
頭痛が別の病気の症状 感染性(例:)

腫瘍性

の使い過ぎ()

慢性片頭痛は、3か月を超えて月15日以上の頭痛があり、そのうち8日以上が典型的な片頭痛である状態をいう1。予防薬の承認や効果判定の基準が反復性片頭痛と違うので、区別がに直結する。

💡 分類がそのままになる。 ではで症状を隠すより原因の診断が先で、突然の激しい頭痛()ならを除外する。⚠️ トリプタンが効いたことは片頭痛の診断の根拠にならない。トリプタンは片頭痛に効かないことがあり、逆にのようなに効くことがある2。

⚠️ の使い過ぎそのものがの原因になる。 片頭痛の急性期治療薬は、トリプタンとでは月10日以上、単一成分のでは月15日以上使うと薬剤の使用過多による頭痛の閾値に達する2。「頭痛薬の飲み過ぎによる頭痛」は、薬の量が過量なのではなく使う日数が多すぎることが問題である。使用過多をやめてを行うと、約70〜80%が改善する1。

のと・の詳細はと片頭痛・で扱う。

片頭痛の薬の3つの群

として片頭痛・・と並べてが扱われることがあるが、は上の分類では(の使い過ぎ)に入る。このうち片頭痛の薬は、次の3群に分けて整理できる。

群 薬 補足
予防薬 β遮断薬
抗うつ薬


CGRPまたはCGRP受容体に対する抗体
:
5-HT2拮抗薬
5-HT2拮抗薬は現在の選択肢から外れている
片頭痛特異的な発作治療薬 トリプタン:中等度〜重度の片頭痛で現在の第一選択。の副作用
ジタン:作動薬で血管を収縮させない。
:CGRP受容体拮抗薬
(、ジヒドロ)
は現在の第一選択から外れている
非特異的な抗片頭痛薬

副腎皮質ステロイド
片頭痛以外の痛みや症状にも使う薬

新しい薬の使いどころは次のとおりである。

💡 表で取り消し線を引いた2群が外れた理由。 は有効だが、前向き研究での証拠が乏しく、トリプタンより副作用が多く効果も劣るため、第一選択としては使わなくなった2。ドイツの2025年の患者向けガイドラインでは、例外的な場合にだけ使い、トリプタンと併用してはならないとしている。長い作用持続の恩恵を受けている人は続けてよい1。5-HT2拮抗薬の代表のは、などの線維化の副作用のため現在はほとんど使われない。

「欧州では使えない」は過去の話

とには「現在、欧州では入手できない」という注記が付いてきたが、その後の承認で状況は変わった。

薬 従来の整理 現行の承認状況
欧州では入手できない 2022年8月にで承認。成人の片頭痛発作の頭痛期の急性期治療に使う3。ドイツでは2023年から入手できる1
欧州では入手できない 2022年に承認され、で初めて急性期治療と反復性片頭痛の予防(月4回以上の発作がある成人)の両方に承認された薬となった。ドイツでは2025年夏から入手できる1

⚠️ 承認と、各国で実際に処方・保険償還できるかは別の問題である。

片頭痛の発作治療

発作の重さで選ぶ

flowchart TD
  A["片頭痛発作<br>悪心・嘔吐があれば全段階で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiemetics'>制吐薬</span>を併用"] --> B{"発作の重さ"}
  B -->|"軽度〜中等度"| C["NSAIDs"]
  B -->|"中等度〜重度"| D["トリプタン<br>またはトリプタン+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>"]
  D --> E{"悪心・嘔吐が強い?"}
  E -->|"はい"| F["点鼻・皮下注のトリプタン"]
  E -->|"いいえ"| G["経口トリプタン"]
  F --> H{"効かない・禁忌"}
  G --> H
  H -->|"別のトリプタンを試す"| I["他のトリプタン"]
  I -->|"トリプタンが無効または禁忌"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lasmiditan'>ラスミジタン</span><br>またはCGRP受容体拮抗薬"]

の治療の選択肢を並べると次のようになる。

選択肢 位置づけ
・・、トリプタン 発作治療の基本
トリプタン+ 単剤で不十分なとき
トリプタンが無効または禁忌のとき
、ウブロ トリプタンが無効または禁忌のとき
ジヒドロ()、 段階的な発作治療とは別枠の選択肢。系は第一選択から外れ、は長引く発作(片頭痛重積、後述)に使う
すべての段階で悪心・嘔吐に併用

💡 とは、抗炎症作用がほとんど無いので薬理学的には厳密なではないが、片頭痛ではと同じの枠で使われる。

経口の鎮痛薬と制吐薬

片頭痛発作の急性期治療薬は、使用を月10日または15日未満に制限することが前提である2。

群 薬と用量
経口 1000 mg、または900 mg+10 mg
200 mg/400 mg/600 mg
1000 mg
カリウム50 mg/100 mg
:250 mgまたは265 mg+200 mgまたは265 mg+50 mgまたは65 mgを2錠
が禁忌のとき 1000 mg経口、または1000 mg経口
悪心・嘔吐 10 mg経口(必要なら)、または10 mg経口

これらの薬と用量は、ドイツ片頭痛頭痛学会・ドイツ神経学会の2018年版ガイドライン(英語版2019年)の急性期治療のまとめによる2。このガイドラインは、ジタン・・CGRP経路の抗体が欧州で承認される前の版である。

  • ・の効果は、とで最もよく示されている。早く飲むほど効く2。
  • は悪心・嘔吐に有効で、には軽い鎮痛作用もある。ただしやトリプタンに一律に併用するのではなく、強い悪心・嘔吐に的を絞って使う2。との1日最大量はそれぞれ30 mgである1。
  • ⚠️ は18歳未満・てんかん・妊娠などで禁忌とされ、早期を起こす。子どもではの危険が高いので、が必要ならを使う。はを延長させる2。
  • ⚠️ オピオイドは片頭痛発作に使わない2。他の薬より効果が劣り、副作用が多く、頭痛のと薬剤の使用過多を招く。

トリプタン

トリプタンは、・が効かないか不十分な中等度〜重度の発作の第一選択である2。効き始めの速さと持続で3群に分けて使い分ける。

群 薬と用量 特徴
効き始めが速い 6 mg皮下注
20 mg/40 mg/80 mg経口
リザトリプタン5 mg/10 mg経口
ゾルミトリプタン5 mg点鼻
皮下注は最も有効(効果発現は約10分)。経口ではとリザトリプタンが最も有効
中程度に速く、持続がやや長い 50 mg/100 mg経口
ゾルミトリプタン2.5 mg/5 mg経口
アルモトリプタン12.5 mg経口
アルモトリプタンとは副作用が最も少ない
効き始めは遅いが持続が長い ナラトリプタン2.5 mg経口
フロバトリプタン2.5 mg経口
半減期が最も長く、が少ない傾向。ただし初回の効果は弱い

表の特徴の列はドイツのガイドラインの記述による2。

  • 単剤で不十分ならトリプタンに1000 mgなどのを併用する。併用は単剤より有効だが、は大きくなく副作用は増える2。
  • 頭痛がしたら(初回が効いた後2〜24時間で中等度以上に再び悪化)、2時間以上あけてトリプタンを再投与するか、最初からトリプタンと、のような長時間作用型のを併用する。経口トリプタンの後のは15〜40%に起こる2。
  • 初回が効かなければ、同じ発作への2回目も通常は効かない(初回を吐いた場合を除く)。その場合はで代える2。
  • 悪心・嘔吐が強いときは、消化管を通らない点鼻や皮下注のトリプタンを選ぶ。

⚠️ トリプタンの禁忌(ドイツのガイドラインの表から抜粋):コントロール不良の高血圧、冠動脈疾患・狭心症・心筋梗塞、Raynaud病、、・脳卒中、妊娠・授乳、重い肝・腎障害、複数の血管危険因子、との併用、阻害薬中止後2週間以内。リザトリプタンは併用時に5 mgへ減量する2。米国の添付文書の禁忌との違い(性・脳底型片頭痛など)は・を参照。

トリプタンが使えないとき:ジタンとゲパント

薬 機序 使いどころ 用法・注意
作動薬。血管を収縮させない トリプタンにの禁忌がある人、トリプタンが効かない人。血管疾患は禁忌にならない1 開始量100 mg。50 mgか100 mgで消えた片頭痛が24時間以内にしたら2時間以上あけて同量を追加でき、24時間で200 mgまで。最も多い副作用はめまいで、傾眠・疲労・も起こる3。⚠️ 服用後8時間は運転や危険な機械の操作をしない。一部の抗うつ薬との併用でを起こしうる。重い・妊娠・授乳では使わない1
CGRP受容体拮抗薬() やトリプタンが効かない人、副作用で使えない人。予防にも使える 経口75 mg。予防では1日おきに服用する。主な副作用は悪心・尿路感染・めまい1
ウブロ CGRP受容体拮抗薬() トリプタンが効かない人、副作用で使えない人 急性期治療薬

💡 がめまいや傾眠を起こしやすいのは、中枢に入って作用するからである。 はの神経に多く、にはほとんど無い。だから血管を締めずに痛みの伝達を抑えられるが、脳にも入るので中枢神経系の副作用が前に出る。

作用部位:トリプタンと抗CGRP薬はどこに効くか

片頭痛の痛みは、硬膜の血管の周りに分布する三叉神経の感覚神経終末(CGRPを含む神経)が活性化し、CGRPを放出して血管を拡張させ、痛みを中枢へ伝えることで生じる。片頭痛の特異的な治療薬は、この経路のどこかを止める。

flowchart TD
  A["血管周囲のCGRP含有神経<br>(三叉神経の感覚神経終末)"] --> B["CGRPの放出"]
  B --> C["血管のCGRP受容体<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcitonin receptor'>カルシトニン受容体</span>様受容体(Gs共役)<br>+受容体活性修飾蛋白1+受容体構成蛋白"]
  C --> D["血管拡張<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurogenic inflammation'>神経原性炎症</span>"]
  D --> E["三叉神経を介した痛みの伝達<br>=片頭痛の痛み"]
  T1["トリプタン・ジタン<br>神経終末の5-HT1D・5-HT1Fを刺激"] -.->|"CGRPの放出を抑える"| B
  T2["トリプタン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ergot alkaloid'>麦角アルカロイド</span><br>血管の5-HT1Bを刺激"] -.->|"拡張した血管を収縮させる"| D
  M1["CGRPに対する抗体<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='galcanezumab'>ガルカネズマブ</span>・フレマネズマブ・エプチネズマブ"] -.->|"放出されたCGRPを捕まえる"| B
  M2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gepant'>ゲパント</span>(低分子の受容体拮抗薬)<br>CGRP受容体に対する抗体(エレヌマブ)"] -.->|"受容体を遮断する"| C

受容体の配置

片頭痛の治療に関わる共役受容体は、次のように配置されている。

部位 共役する 受容体
接合部前(感覚神経) Gi/o 5-HT1B、5-HT1F、α2、D2様受容体
接合部後(血管) Gq α1
接合部後(血管)。特にと頸動脈の Gi/o 5-HT1A、5-HT1B、5-HT1D、α2
  • CGRP受容体は、7回の様受容体(Gs共役)に、受容体活性修飾蛋白1と受容体構成蛋白が組み合わさった複合体である。Gsを介してを増やし、血管を拡張させる。
  • トリプタン(5-HT1B/1D受容体作動薬)の作用は3つある。
    1. 5-HT1B刺激で硬膜の動脈を収縮させる
    2. 神経終末の受容体を介してCGRPの放出を止める
    3. 三叉神経の痛みの伝達を抑える
  • は全身の血管を収縮させる。5-HT1B/1Dに加えて5-HT2、ドパミン、α1・α2にも作用する。この非選択性が、トリプタンより副作用と禁忌が多い理由である。
  • ジタンは5-HT1Fだけを刺激し、神経側の作用(CGRP放出の抑制)だけを残して血管収縮を持たない。

💡 なぜトリプタンにの禁忌があるのか。 5-HT1B受容体は硬膜の血管だけでなく冠動脈にもある。冠動脈疾患のある人では、トリプタンがわずかな冠動脈収縮を起こすだけで虚血を招きうる。ジタンとが「血管を締めない選択肢」として位置づけられるのはこのためである。

救急外来での片頭痛発作の治療

経口の急性期治療が効かずに救急外来を受診した発作では、非経口の薬を使う。

薬 用量・経路 補足
10 mg静注 に加えて、10〜40 mgの静注で独立した鎮痛効果がある2
リシン塩 1000 mg静注 救急での第一選択(併用の有無を問わない)2
6 mg皮下注 静注の代わりに、禁忌が無ければ使える。静注よりやや有効だが副作用が多い。数日間経口トリプタンを使っていた患者では効果が期待できない2
flowchart TD
  A["救急外来の片頭痛発作"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metoclopramide'>メトクロプラミド</span>10 mg静注<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiemesis'>制吐</span>+鎮痛)"]
  B --> C{"トリプタンの禁忌や<br>直前の連用はないか"}
  C -->|"禁忌あり・数日連用"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetylsalicylic acid'>アセチルサリチル酸</span>リシン塩<br>1000 mg静注"]
  C -->|"問題なし"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetylsalicylic acid'>アセチルサリチル酸</span>リシン塩1000 mg静注<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sumatriptan'>スマトリプタン</span>6 mg皮下注"]
  D --> F{"72時間を超えて続く<br>片頭痛重積か"}
  E --> F
  F -->|"はい"| G["副腎皮質ステロイドを1回<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>4〜8 mg<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prednisone'>プレドニゾン</span>50〜100 mg"]
  F -->|"いいえ"| H["帰宅後の急性期治療と<br>予防の必要性を見直す"]
  • 1000 mg静注はより有効だが、血圧低下とアレルギー反応を起こしうる2。
  • 1000 mg静注はに勝らなかった2。
  • バルプロ酸の静注は有効とする証拠があるが、片頭痛発作への使用は承認されていない2。
  • 片頭痛重積(発作が72時間を超えて続く状態)には、の合意として50〜100 mgまたは4〜8 mgを1回投与する。頭痛の強さとを減らす2。
  • ⚠️ オピオイドは救急でも勧められない。効果が劣り、副作用が多く、頭痛のが非常に多い2。

ドイツの2025年の患者向け版でも、救急の第一選択はの(併用可)で、代わりにトリプタンの皮下注、の、片頭痛重積には副腎皮質ステロイドを使い、のとオピオイドは勧めないという骨格は変わっていない。ただし同版は、のが供給不足で入手できない状況にあると注記している1。

片頭痛の予防

予防を始める目安

予防薬の適応は、発作の頻度、生活の質の低下、薬剤の使用過多の危険で判断する。証拠に基づくものではない補助的な目安として、次が挙げられている2。

  • 生活の質を損なう発作が月3回以上
  • 発作がしばしば72時間を超える
  • 急性期治療(トリプタンを含む)が効かない、または副作用で使えない
  • 発作と・の服用が月10日に増えてきた
  • などの重い、長く続くを伴う
  • 他の原因を除外した片頭痛性の後

予防薬の選び方

系統 代表薬 位置づけ・注意
β遮断薬 、 無作為化試験で有効性が示された。も有効だが検討が少ない2。喘息では使わない
抗うつ薬 有効性が示された2。の合併、不眠、うつがある人で選びやすい
、バルプロ酸 どちらも有効性が示された。は慢性片頭痛にも有効2。妊娠に関わる扱いは下の表のとおり変わった
で予防効果が示されたのはだけで、やは無効。効果はと同程度だが、抑うつと体重増加が多い2
の薬 、カンデサルタン 有効だが検討が少ない2。高血圧の合併で選びやすい
A型 慢性片頭痛に有効2
CGRP経路の抗体 エレヌマブ、、フレマネズマブ、エプチネズマブ 反復性・慢性片頭痛の予防に強く推奨される4
、アト CGRP標的の経口予防薬5。は75 mgを1日おき(反復性片頭痛)、アトは60 mgを1日1回(反復性・慢性片頭痛)1
  • 予防薬は少量から漸増し、に達して2か月後に効果を判定する。発作頻度が50%以上減れば有効とし、で頻度と急性期治療薬の使用を記録する2。
  • 💡 従来の予防薬は、どれも高血圧・うつ病・てんかんなど他の病気のために作られた薬を転用したもので、効果と副作用の問題から服薬が続きにくい5。併存症(高血圧ならβ遮断薬、うつなら)に合わせて選ぶのが基本になる。

抗てんかん薬と予防の続け方:2018年版と2025年版

論点 従来(ドイツ2018年版) 現行(ドイツ2025年の患者向け版)
バルプロ酸 有効な予防薬。妊娠可能な女性には使わない2 胎児への危険のため、片頭痛の予防にはもはや使わない1
反復性・慢性片頭痛に有効2 2023年の2研究で、妊娠中の母体使用による児の・の増加が示された。妊娠中は使わず、妊娠可能な女性では確実な避妊のもとでだけ使い、開始前に妊娠検査を行い、中止後4週間は避妊を続ける。経口避妊薬の効果が落ちうるのでを併用する1
有効の判定 発作頻度50%以上の減少2 反復性片頭痛で50%以上、慢性片頭痛で30%以上の減少1
続ける期間 記載なし 多くは9か月以上(は6か月)続け、遅くとも24か月で必要性を見直す1

⚠️ バルプロ酸の妊娠中の危険の詳細は妊娠中のとてんかんの薬物療法を参照。は慢性片頭痛にも薬剤の使用過多による頭痛にも効くが1、集中力低下や言葉の出にくさといった認知の副作用もあり、妊娠可能な女性では選びにくくなった。

CGRP標的薬の位置づけ:従来と現行

論点 従来(EHFの旧版) 現行
CGRP経路の抗体の位置 2種類以上の予防薬が無効・不耐・服薬困難な場合の第三選択 が必要な片頭痛の第一選択肢の一つに含めることを提案(EHF 2022年版)4
全体 他の予防薬の失敗が前提 抗体と(・アト)を、他の予防薬の失敗を前提とせず従来のと並ぶ第一選択として考慮(米国頭痛学会2024年)5

EHF 2022年版の使い方の要点は次のとおりである4。

論点 内容
用法 エプチネズマブ100 mgまたは300 mgを3か月ごとに静注、エレヌマブ70 mgまたは140 mgを毎月、フレマネズマブ225 mgを毎月または675 mgを3か月ごと、は240 mgの負荷の後120 mgを毎月(いずれも皮下注)
との比較 の点でよりエレヌマブを推奨
効果判定 少なくとも3か月連続で投与してから評価する
12〜18か月連続投与した後にを考慮し、悪化すれば再開する
薬剤の使用過多 薬剤の使用過多を伴う片頭痛にも提供する
切り替え 1剤が不十分なら別の抗体への切り替えは選択肢になりうる(証拠は不十分)
注意 妊娠・授乳中は避ける。血管疾患・血管危険因子・Raynaud現象では個別に慎重に判断する。重い便秘の既往ではエレヌマブに注意する

ドイツ2025年の患者向け版は、抗体は他の予防薬が効かなかった人にも効きうること、効果は多くは4〜12週で判定でき、慢性片頭痛では6か月まで様子を見てよいこと、月4日以上の片頭痛がある成人に承認されていること、公的保険での処方には前治療などの条件が付くことを挙げている1。

💡 CGRPを止める薬に血管の注意が付く理由。 CGRPは強力な血管拡張物質で、虚血のときに血流を守る方向に働くと考えられている。これを長期に止めることの血管への影響がまだ十分に分かっていないため、血管疾患のある人では慎重になる。

まとめ

  • 頭痛は一次性(、片頭痛、)と二次性(感染・中毒・腫瘍・外傷・の使い過ぎ)に分ける。片頭痛はのない・ある(典型的・脳幹性・網膜・性)と慢性片頭痛に分ける。
  • 急性期治療薬は月10日(トリプタン・)または15日(単一成分の)未満に抑える。超えるとを招く。
  • 片頭痛の薬は、予防薬(β遮断薬、抗うつ薬、、、CGRP経路の抗体、)、特異的な発作治療薬(トリプタン、ジタン、。は第一選択から外れた)、非特異的な薬(、、副腎皮質ステロイド)に分ける。
  • 発作治療:軽度〜中等度は、中等度〜重度はトリプタン±、悪心・嘔吐が強ければ点鼻・皮下注トリプタン、無効なら別のトリプタン、トリプタンが無効・禁忌ならか。悪心・嘔吐があればどの段階でもを使う。オピオイドは使わない。
  • トリプタンは5-HT1B/1D作動薬で、硬膜の血管収縮・CGRP放出の抑制・三叉神経の痛みの伝達の抑制の3つで効く。5-HT1Bが冠動脈にもあるための禁忌が多い。(5-HT1F)と(CGRP受容体拮抗)は血管を締めない。
  • 救急では10 mg静注、リシン塩1000 mg静注または6 mg皮下注。片頭痛重積には副腎皮質ステロイドの単回投与。
  • 予防は少量から漸増し、発作頻度の50%以上(慢性片頭痛では30%以上)の減少で有効と判定する。バルプロ酸は従来は「妊娠可能な女性には使わない」だったが、ドイツの2025年版では片頭痛の予防にもう使わない。は妊娠可能な女性では確実な避妊が条件になった。CGRP経路の抗体とは、従来の第三選択から第一選択肢の一つへ位置づけが変わった。
  • とは、かつて「欧州では入手できない」とされたが、2022年にで承認されている。

出典

  1. 1.Leitlinie Therapie der Migräne für Patientinnen und Patienten(AWMF(Deutsche Gesellschaft für Neurologie・Deutsche Migräne- und Kopfschmerzgesellschaft)・2025)AWMF登録番号030/057の患者向け版(第1版、2025年9月)の全文PDFで次を確認した。慢性片頭痛を3か月を超えて月15日以上の頭痛があり、うち8日以上が典型的な片頭痛である状態とすること、薬剤の使用過多による頭痛の危険の境界を薬により月10日または15日以上の服用とし、使用過多をやめて予防治療を行うと約70〜80%が改善すること。ラスミジタンとリメゲパントは血管収縮作用を持たないよう開発され、ドイツで2022年に承認され、ラスミジタンは2023年から、リメゲパントは2025年夏から入手でき、トリプタンが使えないか効かない人に使い、血管疾患は禁忌にならないこと。ラスミジタンは服用後8時間は運転や危険な機械の操作をしてはならず、一部の抗うつ薬との併用でセロトニン症候群を起こしうること、重い肝機能障害・妊娠・授乳が禁忌であること。リメゲパント(経口75 mg)の主な副作用が悪心・尿路感染・めまいで、EUで急性期治療と月4回以上発作のある成人の反復性片頭痛の予防の両方に承認された最初の薬であり、予防では1日おきに服用すること。エルゴタミンは有効だが副作用が多く例外的な場合にだけ使い、トリプタンと併用してはならず、長い作用持続の恩恵を受けている人は続けてよいこと。制吐薬の表でメトクロプラミドとドンペリドンの1日最大量を30 mgとし、メトクロプラミドの禁忌に18歳未満・運動障害・てんかん・妊娠・下垂体腫瘍を挙げること。救急での第一選択はアセチルサリチル酸の点滴(メトクロプラミド併用可)だが供給不足で現在は入手できず、代わりにトリプタンの皮下注を使い、パラセタモール点滴とオピオイドは勧めないこと、72時間を超える重い発作を片頭痛重積とし副腎皮質ステロイドで治療すること、メタミゾールの点滴も使えること。予防の判断基準(生活の質を損なう月3回以上の発作、72時間を超える発作、急性期治療が効かない・副作用が強い、発作と服薬の増加、麻痺などの前兆、片頭痛性脳卒中の後)、有効の基準を反復性片頭痛で50%以上・慢性片頭痛で30%以上の頻度減少とし、頭痛日誌をつけ、多くは9か月以上(フルナリジンは6か月)続け、遅くとも24か月で必要性を見直すこと。トピラマートは反復性・慢性片頭痛と薬剤の使用過多による頭痛に有効で、副作用に集中力や言葉の想起の障害、抑うつがあり、2023年の2研究で妊娠中の母体使用による児のADHD・自閉スペクトラム症の増加が示されたため妊娠中は使わず、妊娠可能な女性では確実な避妊のもとでだけ使い、開始前に妊娠検査を行い、中止後4週間は避妊を続け、経口避妊薬の効果が落ちうるのでバリア法を併用すること。バルプロ酸は胎児への危険のため片頭痛予防にはもはや使わないこと。CGRPまたはその受容体に対する4種類の抗体は反復性・慢性片頭痛に有効で、他の予防薬が無効でも効きうること、効果は多くは4〜12週で判定でき慢性片頭痛では6か月まで観察しうること、薬剤の使用過多による頭痛にも有効なこと、無効なら別の抗体への切り替えを考慮できること、月4日以上の片頭痛がある成人に承認され、公的保険での処方には前治療などの条件があること。アトゲパントが反復性・慢性片頭痛(月4日以上)の予防に承認され、標準量60 mgを1日1回服用し、まれな副作用が悪心・便秘・疲労・食欲低下であること。慢性片頭痛の予防で十分な証拠がある従来薬はボツリヌス毒素とトピラマートだけであること。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Treatment of migraine attacks and prevention of migraine: Guidelines by the German Migraine and Headache Society and the German Society of Neurology(Clinical & Translational Neuroscience(German Migraine and Headache Society・German Society of Neurology)・2019)国際頭痛学会が公開する全文PDFで次を確認した。Figure 1(片頭痛発作の急性期治療薬)の内容——急性期治療薬の使用を月10日または15日未満に制限すること、悪心・嘔吐にメトクロプラミド10 mg経口(必要なら坐剤)またはドンペリドン10 mg経口、経口鎮痛薬としてアセチルサリチル酸1000 mg(900 mg+メトクロプラミド10 mg)、イブプロフェン200/400/600 mg、メタミゾール1000 mg、ジクロフェナクカリウム50/100 mg、アセチルサリチル酸・パラセタモール・カフェインの配合剤2錠、NSAIDsが禁忌ならパラセタモール1000 mgまたはメタミゾール1000 mg経口、中等度〜重度の発作や鎮痛薬が効かない場合のトリプタン(速効:スマトリプタン6 mg皮下注・エレトリプタン20/40/80 mg・リザトリプタン5/10 mg・ゾルミトリプタン点鼻5 mg、中程度の速さで持続がやや長い:スマトリプタン50/100 mg・ゾルミトリプタン2.5/5 mg・アルモトリプタン12.5 mg、遅効で持続が長い:ナラトリプタン2.5 mg・フロバトリプタン2.5 mg)、単剤で不十分ならトリプタン+NSAIDs(ナプロキセン1000 mg)、頭痛の再燃には2時間以上あけたトリプタンの再投与か最初からトリプタン+長時間作用型NSAIDの併用、救急ではメトクロプラミド10 mg静注とアセチルサリチル酸リシン塩1000 mg静注またはスマトリプタン6 mg皮下注。本文で、トリプタンは鎮痛薬・NSAIDsが効かない中等度〜重度の発作の第一選択であること、トリプタンへの反応は片頭痛の診断に使えず、くも膜下出血などの二次性頭痛にも効きうること、スマトリプタン皮下注の効果発現が約10分であること、鎮痛薬ではアセチルサリチル酸とイブプロフェンの効果が最もよく示されていること、制吐薬は鎮痛薬やトリプタンに一律に併用せず強い悪心・嘔吐に的を絞って使うこと、子どもで制吐薬が必要ならメトクロプラミドでなくドンペリドンを使うこと、スマトリプタン皮下注が最も有効で、経口ではエレトリプタンとリザトリプタンが最も有効、アルモトリプタンとエレトリプタンの副作用が最も少なく、ナラトリプタンとフロバトリプタンの半減期が最も長いこと、ナプロキセンとの併用は単剤より有効だが上乗せは大きくなく副作用が増えること、エルゴタミンは有効だが証拠が乏しく副作用が多いため第一選択にしないこと、制吐薬が悪心・嘔吐に有効でメトクロプラミドには軽い鎮痛作用もあること、早く飲むほど効くこと、再燃は初回有効後2〜24時間の悪化で経口トリプタン後15〜40%に起こり、初回が無効なら2回目も通常無効であること。表1のトリプタンの禁忌(コントロール不良の高血圧、冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、Raynaud病、末梢動脈疾患、一過性脳虚血発作・脳卒中、妊娠、授乳、重い肝・腎障害、複数の血管危険因子、エルゴタミンとの併用、MAO阻害薬中止後2週以内)と、プロプラノロール併用時のリザトリプタン5 mgへの減量。表2でメトクロプラミドの禁忌に18歳未満・てんかん・妊娠など、ドンペリドンにQTc延長を挙げること。薬剤の使用過多による頭痛の閾値がトリプタン・配合鎮痛薬で月10日、単一成分の鎮痛薬で月15日であること、オピオイドを片頭痛発作に使わないこと。救急では1000 mgのアセチルサリチル酸静注(メトクロプラミド併用の有無を問わない)が第一選択、メトクロプラミド10〜40 mg静注に独立した鎮痛効果があること、禁忌が無ければスマトリプタン6 mg皮下注も使えるが数日間経口トリプタンを使っていた患者では効果が期待できないこと、メタミゾール1000 mg静注は有効だが血圧低下とアレルギー反応を起こしうること、パラセタモール1000 mg静注はプラセボに勝らなかったこと、バルプロ酸静注は有効だが未承認であること、片頭痛重積には専門家の合意でプレドニゾン50〜100 mgまたはデキサメタゾン4〜8 mgを1回投与すること。予防の適応を発作頻度・生活の質の低下・使用過多の危険で判断し、証拠に基づかない補助基準として(生活の質を損なう月3回以上の発作、72時間を超える発作、急性期治療が効かない・耐えられない、月10日の服薬、片麻痺など重いまたは長い前兆、片頭痛性脳梗塞の後)、予防薬としてメトプロロール・プロプラノロール・フルナリジン・トピラマート・バルプロ酸・アミトリプチリンの有効性、カルシウム拮抗薬で有効なのはフルナリジンだけでニフェジピン・ニモジピンは無効、フルナリジンの効果はメトプロロールと同程度だが抑うつ・体重増加が多いこと、妊娠可能な女性にバルプロ酸を使わないこと、ビソプロロール・リシノプリル・カンデサルタンも有効だが検討が少ないこと、慢性片頭痛にトピラマートとボツリヌス毒素A型が有効なこと、少量から漸増し最大耐用量に達して2か月後に評価し、発作頻度の50%以上の減少を有効とし、頭痛日誌をつけること。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Rayvow: EPAR - Medicine overview(European Medicines Agency・2022)EMA公式ページで、ラスミジタン(Rayvow)が2022年8月17日にEUで販売承認され、成人の前兆のある・ない片頭痛発作の頭痛期の急性期治療に適応をもつこと、開始量100 mgで、50 mgまたは100 mgで消えた片頭痛が24時間以内に再燃したら2時間以上あけて同量を追加でき、24時間に200 mgを超えないこと、初回が無効なら同じ発作への2回目は効きにくいこと、5-HT1F受容体作動薬であること、最も多い副作用がめまいで、傾眠・疲労・錯感覚・悪心・回転性めまい・感覚鈍麻・筋力低下が続くことを確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.European Headache Federation guideline on the use of monoclonal antibodies targeting the calcitonin gene related peptide pathway for migraine prevention - 2022 update(The Journal of Headache and Pain(European Headache Federation)・2022)PMC9188162の全文で次を確認した。反復性・慢性片頭痛の予防にエプチネズマブ・エレヌマブ・フレマネズマブ・ガルカネズマブを強く推奨し(エプチネズマブ100/300 mgを3か月ごと、エレヌマブ70/140 mgを毎月、フレマネズマブ225 mgを毎月または675 mgを3か月ごと、ガルカネズマブ240 mgの負荷後120 mgを毎月)、忍容性の点でトピラマートよりエレヌマブを推奨すること。専門家の合意として、予防治療が必要な片頭痛でCGRP経路を標的とするモノクローナル抗体を第一選択肢の一つに含めることを提案し(以前のEHFガイドラインは2種類以上の予防薬が無効な場合の第三選択としていた)、効果を少なくとも3か月連続の投与の後に評価し、12〜18か月の連続投与の後に休薬を考慮し悪化すれば再開し、薬剤の使用過多を伴う片頭痛にも提供し、抗体の切り替えは選択肢になりうるとし、妊娠・授乳中は避け、血管疾患・血管危険因子・Raynaud現象では個別に慎重に判断し、重い便秘の既往ではエレヌマブに注意すること。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Calcitonin gene-related peptide-targeting therapies are a first-line option for the prevention of migraine: An American Headache Society position statement update(American Headache Society・2024)抄録(PMID 38466028)で、CGRP標的の予防薬(抗体のエレヌマブ・フレマネズマブ・ガルカネズマブ・エプチネズマブと、ゲパントのリメゲパント・アトゲパント)の有効性・忍容性・安全性の証拠が他の予防法を大きく上回り、従来の第一選択薬と同等以上で重い有害事象はまれであること、他の予防薬の失敗を前提とせず従来の第一選択薬と並ぶ第一選択として考慮すべきであること、従来の第一選択の予防薬はすべて他の適応のために開発され、効果と忍容性の問題で服薬継続が悪いことを確認した。閲覧 2026-09-27