眼科学

眼科学 · ML-67

未熟児網膜症の晩期合併症

Late complications of retinopathy of prematurity

前提:正常
眼:網膜・虹彩・毛様体
症状
外斜視

🧠 全体像:ROP は「を出たら終わり」の病気ではなく、一生つきあう病気である。急性期に網膜の血管が正常に育たなかった痕跡は、①屈折(・・)、②と(・眼振・)、③(・浅いによる)、④網膜(黄斑の形成不全・黄斑偏位、周辺の網膜・状変化・と晩期の)として、乳児期から成人期まで順に姿を現す。起こりやすさはROP の重さ・在胎週数と出生体重の小ささ・急性期の治療の種類と時期で決まる。だから眼科医の役割は急性期の治療で終わらず、を生後6か月ごろから始め、を生涯にわたって見続けることにある。

ROP の分類・スクリーニング・急性期の治療はが正本である。このノートは急性期を過ぎたあとの視機能と眼の構造の問題、そして長期の経過観察を扱う。早産の全身合併症はにまとまっている。

早産と ROP が視覚系に残すもの

早産そのものと ROP は、どちらも発達途中の視覚系に影響する。

  • 軽い ROP(stage 1〜2)は、一般にには影響しない。
  • より重い ROPでは、の子どもに比べて次の異常が多い。
領域 晩期の異常
視力 の低下(失明・、)
視野 視野の狭窄(の凝固・網膜・の跡)
視覚の質 の障害、の低下
屈折 、、
、
緑内障
界面の異常、黄斑との異常
視神経 進行する

💡 同じ「早産児の眼」でも、原因は2層に分けて考えると整理しやすい。ROP がなくても早産そのもので眼球の形(角膜の・・)との成熟が変わり、ROP があるとそこへ網膜の瘢痕・牽引・凝固の跡が加わる。の多さが ROP の重さに比例するのはこのためである。

flowchart TD
    A["早産<br>(在胎週数が短い・出生体重が小さい)"] --> B["眼球の発達の途中で出生"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal vessel'>網膜血管</span>の発育が止まる<br>→ ROP"]
    B --> D["角膜が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steep'>急峻</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>が厚い<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>が浅い"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fovea'>中心窩</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maturation failure'>成熟不全</span>"]
    C --> F["急性期の治療<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cryotherapy'>冷凍凝固</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laser photocoagulation'>レーザー光凝固</span>・抗VEGF"]
    C --> G["退縮後の瘢痕・牽引<br>遺残した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avascular'>無血管</span>網膜"]
    D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myopia'>近視</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='astigmatism'>乱視</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anisometropia'>不同視</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='angle-closure glaucoma'>閉塞隅角緑内障</span>"]
    E --> I["視力・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contrast sensitivity'>コントラスト感度</span>の低下"]
    G --> J["黄斑偏位・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal fold'>網膜ひだ</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='grating'>格子</span>状変化・裂孔・晩期の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal detachment'>網膜剥離</span>"]
    F --> H
    H --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Strabismus'>斜視</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amblyopia'>弱視</span>"]
    I --> K
    J --> K

最終的な視力:大規模試験の長期成績

急性期の治療が「凝固でを防ぐ」ことに成功しても、どれだけの視力が残るかは別の問題である。二つの古典的なの長期成績が基準になる(試験の詳しい治療基準は)。

CRYO-ROP 試験(閾値 ROP への冷凍凝固)

評価の時期 視力不良(小数視力0.1以下)の割合:眼 同:無治療眼
10歳 44.4% 62.1%
15歳 44.7% 64.3%

治療によって視力不良は減るが、閾値 ROP まで進んだ眼では、治療しても半数近くが0.1以下にとどまる。

ETROP 試験(ハイリスクの前閾値 ROP へのレーザー光凝固)

より早い段階(ハイリスクの前閾値)でを行った307眼のうち、6歳で視力を測れたのは280眼だった。

6歳時の視力 眼数(%) 判定
20/40 以上(小数視力0.5以上) 97(34.6%) 良好
20/60 以上 20/40 未満 40(14.3%) 良好
20/200 以上 20/60 未満 74(26.4%) 良好
20/200 以下(0.1以下) 69(24.7%) 不良
 うちのみ・ 25(9.0%) 不良
な状態のため測定不能 27 —

⭐ 早い段階の治療で視力不良は約4分の1まで減ったが、それでも4眼に1眼は0.1以下である。測定できない児が1割近くいることは、ROP の児が脳の障害を併せ持つことが多いことも示している。

EXPRESS 研究(超早産児の全国コホート)

スウェーデンで在胎22〜26週(27週未満)に生まれた子どもを6.5歳で評価し、の対照300人と比べた研究である1。

児 対照
0.05未満(失明) 2.1% 0.3%
0.3未満 4.8% 0.7%
0.5未満 8.8% 1.0%
0.5以上 91.2% —

同じコホートの ROP の内訳(404)は次のとおりである。

急性期の ROP 割合()
ROP なし 28%(113)
stage 1〜2 36.6%(148)
stage 3〜5 35.4%(143)
治療を要した 19.8%(80)
  • 論文では評価できた434人のうち、失明2.1%・WHO 基準の4.8%・研究基準の8.8%で、何らかの眼科的異常が37.9%(対照6.2%)にあった。とには在胎週数よりも治療を要した ROP の影響が強く、には在胎週数そのものが関係していた1。
  • 英国の児コホート EPICure(1995年に在胎25週以下で出生)でも、6歳時の神経発達と視覚の障害が調べられている。

💡 現代の新生児医療では児の9割が0.5以上の視力を得る。一方で失明・の割合は対照の7〜9倍あり、「多くはよく見えるが、一部は重い」という二極の分布になる。

屈折異常

近視

早産児のは、成り立ちで3つに分ける。

型 内容 特徴
Ⅰ ROP のない早産児の 程度が軽く、年齢とともに減る
Ⅱ した ROP の後の 治療せずに退縮した ROP ROP の重さと相関し、2.5歳ごろに最大になる
Ⅲ 治療した ROP の後の 凝固治療を受けた ROP 程度が強く、年齢とともに減らない

の程度は在胎週数と出生体重と相関する。

早産児のの光学的な特徴

構成要素 変化
角膜 角膜が大きい(が小さく、)
収差 増える
が大きい(が厚い)
浅い
同じ程度ので予想される長さより、一般に短い

⭐ ふつうのは眼軸が伸びて起こるだが、早産児のは角膜とが強く曲がっている屈折性のの要素が大きい。眼軸が長くないのにが強いのはこのためで、が浅いこと(後述のの素地)とも結びつく。の基本は視力・屈折とで扱う。

凝固治療後のの頻度

試験 の程度 頻度
ETROP・後 −0.25 D 以上 4・5・6歳で64.8〜69.9%(生後6か月で58%)
ETROP −5.0 D 以上 35.3〜39.4%
ETROP −8.0 D を超える 生後6か月で5%、4歳で20%
CRYO-ROP・ 2 D 以上 52.7%
CRYO-ROP 6 D 以上 33%
後全体 治療眼の50〜94%
  • ETROP の対象は出生体重1,251 g 未満で、評価したは生後6か月283人、4歳262人、5歳255人、6歳279人である。
  • 屈折の分布は時期で形が変わる。生後6か月では −2 D〜+2 D 付近に山があり、−8 D を超えるは1割未満である。4〜6歳になると、−8 D を超えるが2割強を占める山と、−2 D〜+2 D 付近の山の二峰性になる(4・5・6歳の分布はほぼ重なる)。
  • 屈折は ETROP では3〜6歳、CRYO-ROP では1〜10歳の間はおおむね安定している。

⚠️ は生後6か月から4歳の間に急に増える。ROP の子どものは生後6か月(0.5歳)から始めることが大切である。放置された・はの原因になる。

乱視

研究 時期 1 D 以上 2 D 以上
CRYO-ROP 6歳 60% 30%
一般集団 6歳 5〜20% —
EXPRESS 6.5歳 — 6.5%
ETROP:前閾値 ROP、1,251 g 未満、401人 生後6か月 32% —
ETROP 3歳 42% 20%
ETROP 6歳 52〜54% 25%
  • は年齢とともに増える。
  • ROP の残遺変化(黄斑偏位、)のある眼で多い。

不同視

左右の ROP の重さや治療が違うと、左右の屈折に差が出る。はとの危険因子になる()。

斜視と眼振

一般集団の生後6か月〜5歳のの頻度は2〜4%である。早産児ではこれがはるかに高い。

研究・集団 評価時期 頻度
ETROP(271人) 6歳 眼振 14.3〜16.0%
EXPRESS:在胎22〜26週、を評価できた約390人 6.5歳 17.4%(80%、20%)。対照は0%
英国の児コホート EPICure:在胎26週未満 6歳 24%
出生体重1,500 g 以下・在胎32週未満(261人):ROP なし 1歳・6歳 11.5%
同:軽い ROP・stage 1〜2 1歳・6歳 25%
同:重い ROP・stage 3〜5 1歳・6歳 56.25%

が多くなる条件

💡 早産児のは、眼(・・黄斑偏位・片眼の)と脳(・脳室周囲の)の両方から起こる。が大半を占める。ROP による黄斑の偏位(耳側への牽引)は、が正しくてものように見える偽の原因にもなるので、の評価には眼底の所見が欠かせない。との治療はと:原因と治療で扱う。

白内障

研究 評価時期 頻度
CRYO-ROP 10歳 治療眼20.5%、無治療眼30.8%
ETROP(271人) 6歳 眼の4.9〜7.2%
  • 早産で生まれた人は、加齢がより若い年齢で起こりやすい。40歳の患者が「まるで早く老けたようだ」と言うほどである。
  • 成人の早産既往者のでは、術後の・の危険が高い(Kaiser 2008)2。
項目 成人の早産既往者のの
対象 出生体重2,200 g 未満または在胎32週未満で生まれ、15歳以上でを受けた45人66眼。在胎27(24〜30)週、出生体重1,018(679〜1,698)g。56%の眼は ROP の瘢痕の変化が軽微
手術時の年齢 平均40.3歳(若くして手術に至る)
経過観察 12年
術後のまたは 66眼中15眼(23%)
術後の 18.2%(術後平均26か月、3〜114か月)
周辺の・網膜 67%の患者
術後の視力 1段階以上の改善38%、不変30%、低下32%
危険との関係 術前の ROP の瘢痕の重さは、術後の網膜合併症の起こりやすさと相関しなかった
  • 23%はとを合わせた割合である2。視力が改善した眼は約4割にとどまり、3割は術後に低下した。
  • この報告は術式の詳細を示していない(「を受けた」とだけ記載)ため、どの術式で危険が高いかは分からない。
  • に限った報告(Farr 2001、成人の ROP 既往者17人20眼)では、20眼中18眼で視力が改善したが、術中にの脆弱のためをにした眼が2眼あり、1眼が術後1か月でを起こした。・片眼しか見えないこと・緑内障・過去の眼手術が、この患者群の手術を難しくする。

💡 瘢痕が軽い眼でも術後の網膜合併症は起こる。「眼底の ROP の変化が目立たないから安全」とは言えない。

⚠️ 早産で生まれた患者ののあとは、を定期的に診察する。周辺のや網膜が3人に2人にあり、手術から数年たってからが起こりうる。そのものはの疾患とで扱う。

緑内障

研究 5.5歳 10歳 6歳
CRYO-ROP:閾値 ROP、186人の治療眼 2.9% 4.7% —
CRYO-ROP の無治療の対照眼(ROP あり) 6.1% 11% —
ETROP(718眼、1,251 g 未満、26施設) — — 2%

比較のために、原発の頻度は出生1万〜3万人に1人である。ROP の眼の緑内障は桁違いに多い。

原因は浅いと狭い隅角である。

状況 仕組み
失明した眼(stage 5 など) の後ろのがとを前へ押し出す。の発達も障害される(、)
退縮した ROP 眼軸に比べてが小さい「相対的前部」の状態で、が年齢とともに厚くなると隅角が閉じる。20代(第3の十年期)に起こりうる
  • ICROP3 も、ROP の既往のある眼は後年に緑内障を起こしうるとしている3。
  • のあとにを起こした ROP 眼の報告もある。

⚠️ ROP 既往の若年者が眼痛・頭痛・かすみ・充血を訴えたら、若くてもを疑う。が浅い眼をするときは隅角を確認しておく。の治療は緑内障 II:・閉塞隅角・、小児の緑内障手術は小児と成人の緑内障手術で扱う。

後眼部の異常

ROP の退縮後の網膜は、周辺部とのそれぞれに、血管と網膜そのものの異常を残す。ICROP3 はこれらを「長期の」として初めて体系的に記載した3。

血管の変化 網膜の変化
周辺部 が血管化しない(網膜)、二分岐しない異常な血管分岐、円周方向に互いにつながる、 色素の変化、界面の変化、網膜の菲薄化、周辺の、網膜に付着する(または付着しない)の膜、状に似た変性、、またはの
血管の、耳側アーケードの血管の直線化、耳側の主アーケードの出る角度が異常に狭い・広い 色素の変化、黄斑の変形と偏位、黄斑から周辺へ向かう網膜の伸展とひだ、界面の変化、の膜、の上を網膜が引きずられる

太字はの牽引に関わる変化で、晩期のとにつながるものである。

  • 二分岐しない血管分岐:正常なは Y 字に二つずつ枝分かれしていくが、ROP の後のでは、細い枝が幹から不規則に何本も出る。
  • 状に似た変性:に、白い線が入った帯状の菲薄化した領域を認める。
  • 黄斑の偏位(牽引乳頭):耳側の周辺にある瘢痕が網膜を引き、黄斑が耳側へずれ、耳側アーケードの血管がまっすぐに引き伸ばされる。重いと、乳頭から周辺へ網膜が折れたひだ(鎌状)になる。

ICROP3 は次の点も強調している3。

  • でも治療後でも、の血管化が完了しないまま残ることがあり、これを遺残網膜と呼ぶ。抗VEGF 治療後は後より頻度が高く、範囲も広い。
  • 網膜は菲薄化・円孔・状の変化を起こしやすく、後年のに関係しうる。
  • 退縮した stage 3 の慢性牽引によるは、を伴わずに黄斑へ進み、視野と視力を脅かすことがある。
  • も起こりうる。
  • ROP の活動性がないのに起こったは「」ではなくとして扱う。

💡 周辺の網膜は、正常に血管化した網膜との境にが強く付着し、しかも網膜が薄い。この「弱い網膜をが引っぱる」構図が、10代〜成人になってからのの土台になる。の病態と治療は、界面とは界面の疾患との疾患とで扱う。

中心窩の形成異常

は、の終わりから生後にかけて、網膜の(・・)が周りへ押しのけられて陥凹ができることで完成する。早産ではこの過程が途中で止まりやすい。

OCT で比べると次のようになる(Ecsedy 2007)。

群 眼底と OCT の所見
黄斑ひだ 黄斑を横切る網膜のひだ。OCT で網膜が厚く不整に隆起し、の陥凹がない
治療した stage 3 の ROP の陥凹がほとんどなく、平坦
した stage 1〜2 の ROP 陥凹が浅い
ROP のない早産児 陥凹が浅い
・正常出生体重 正常なの陥凹

ROP 既往眼のの研究

項目 内容
ROP 既往の44眼、評価時8.8歳、在胎25.1±2.2週、36眼(82%)、64%が0.5以上
の形態異常 91%の眼
の陥凹がない 91%(陥凹の深さ56.4 µm 未満)
の中心に残っている
の中心のの伸長 5%のみ
相関(Wu 2012) 出生体重・在胎週数が小さいほどが厚い
  • 黄斑に・・が残ったままになるのが、早産児のの特徴である。
  • ICROP3 も、が小さいことと、の平坦化・欠如を晩期の黄斑の異常として挙げ、急性期の ROP の重さと関係しうるとしている3。

💡 の陥凹がない眼でも、視力が0.5以上に届く子どもが多い(上の研究で64%)。陥凹の有無だけで視力が決まるわけではない。の低形成は OCT でしか分からないことが多いので、「眼底は正常なのに視力が伸びない」早産児では OCT で黄斑を見る。

症例から学ぶ

症例1:8歳男児——定期受診が途切れた後の黄斑浮腫

項目 内容
出生 在胎32週、出生体重1,300 g
急性期 を全周に
その後 定期的な眼科受診が途切れた。学習の問題があった
の受診時 右眼の0.4でで改善しない。視野は狭窄し、正確には測定できない
OCT 黄斑の網膜内に多数のの腔が並び、が隆起している。長く続いたの所見

教訓:全周ので周辺の視野は狭くなり、黄斑には気づかれないまま浮腫が続いていた。学習の問題が、実は視力と視野の問題だった可能性がある。治療後の子どもの経過観察が途切れないようにすることが、眼科医と小児科医の役目である。

症例2:1996年生まれの女性——若年成人の牽引性網膜剥離

項目 内容
出生 在胎31週、出生体重1,350 g
急性期 両眼に全周の、左眼に
左眼 現在はのみ。、角膜の帯状()に対して角膜のフェムト秒
右眼 2013〜2018年に、によるのためを4回。現在はに

右眼の OCT と視力の推移は次のとおりである。

時期 右眼の視力 OCT
2017年9月 2 m 網膜表面の高反射の膜と、網膜の挙上・肥厚
2017年12月 0.3 網膜内に多数のの腔
2018年3月 0.2 の腔が残る
2018年6月 3 m 網膜の肥厚との腔
2019年1月 0.2 網膜内のの腔が残る

教訓:ROP の眼では、20代になってもとが繰り返し起こり、手術を重ねても視力は0.2前後で揺れ動く。片眼を失った患者の残る1眼を長く守ることが、晩期の管理の中心になる。

症例3:1991年生まれの男性——片眼失明の ROP 患者の乳頭浮腫

項目 内容
出生 在胎30週、出生体重1,400 g、Apgar スコア7/8
両側の、III 度の()、一過性の、
乳児期 進行する水頭症に対し、生後2か月で。1997年と2006年にシャントを再建
眼 右眼は stage 5 の ROP で失明、左眼は退縮した stage 4 の ROP
20歳 頭痛と嘔吐。頭蓋内圧亢進によるの境界不鮮明と隆起()
CT 左の後角が軽度に拡大
経過 新しい → バルブのの変更 → バルブの交換と、段階的に対応し、その都度眼底で乳頭を評価した

教訓:ROP の子どもには・水頭症などの脳の合併症が多い。シャントの機能不全による頭蓋内圧亢進は、唯一見えている眼の視神経を脅かす。眼科医が乳頭を定期的に見ることが、シャント不全の早期発見にもつながる。の見方は腫脹と視機能で扱う。

長期の経過観察

急性期の治療のあとの監視:抗VEGF 治療後の晩期の再燃

抗VEGF 薬(、など)の注射は、と違ってを破壊せず、血管が周辺へ伸び続ける。その代わり、病気のが変わり、遅れてすることがある。

項目 内容
の起こりやすさ 抗VEGF 治療後は後より多く、完全なの後にはまれ3
の時期 多くは修正週数37〜60週。最長の間隔は分かっておらず、薬剤・用量・再注射によって大幅に遅れうる3
特に密に見る時期 修正週数45〜55週(の危険が最も高い時期)4
急性期の検査を終える目安 抗VEGF で退縮させた場合は修正週数65週以上まで続ける。非常に遅い再発の報告があり、終了の時期は個々に慎重に判断する4
の現れ方 新しい(「した stage 1」)から、plus 病変を伴うした stage 3 まで。急性期と同じ順に stage が進むとは限らない3
  • 二つの文書の数字は食い違っているのではなく、見ているものが違う。ICROP3(2021年)の37〜60週は「の多くが起こる期間」、などの2018年の方針声明の45〜55週は、その中で「危険が最も高く特に密に見る期間」である。どちらも、を退院したあとも危険が続くことを示している。
  • 抗VEGF 治療後に血管化が完了せず遺残網膜が残った眼では、その後もの観察を続ける必要がある。

退院後の眼科の経過観察

などの方針声明は、治療を要する ROP になったかどうかにかかわらず、ROP を経験した児は・・強い・・緑内障の危険が高く、の退院後4〜6か月以内に眼科で経過観察を行うとしている4。

flowchart TD
    A["急性期の ROP の管理<br>スクリーニング・治療"] --> B{"急性期の治療は<br>何だったか"}
    B -->|"抗VEGF 注射"| C["修正週数45〜55週は特に密に<br>65週以上まで網膜の検査を続ける"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laser photocoagulation'>レーザー光凝固</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cryotherapy'>冷凍凝固</span><br>または治療なし"| D["網膜の血管化の完了<br>または退縮を確認して急性期の検査を終える"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neonatal intensive care unit (NICU)'>新生児集中治療室</span>の退院後4〜6か月以内に<br>眼科の経過観察を始める"]
    D --> E
    E --> F["乳幼児期<br>生後6か月から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refraction test'>屈折検査</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular alignment'>眼位</span>・眼振・視力の発達"]
    F --> G["必要なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amblyopia'>弱視</span>治療・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Strabismus'>斜視</span>治療"]
    F --> H["学童期以降<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='myopia'>近視</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='astigmatism'>乱視</span>の変化、黄斑の OCT"]
    H --> I["思春期〜成人<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral retina'>周辺網膜</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>と隅角・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>"]
    I --> J["裂孔・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal detachment'>網膜剥離</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angle-closure glaucoma'>閉塞隅角緑内障</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract surgery'>白内障手術</span>後の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal detachment'>網膜剥離</span>に注意"]

年代ごとに見るもの

時期 主に見るもの 理由
乳児期(生後6か月〜) 屈折(下)、、眼振、 ・は生後6か月〜4歳に増え、の原因になる
幼児期〜学童期 視力、、屈折の変化、、OCT で黄斑 ・の治療は早いほど効く。・の異常は眼底だけでは分かりにくい
思春期〜成人 (状変化・裂孔・)、と隅角、 晩期の、相対的前部による、若年の
の後 術後数年して・剥離が起こりうる
生涯を通じて 見えている眼(とくに片眼失明例) 残る1眼の・緑内障・が生活を左右する

⭐ が多くなる条件は3つにまとまる。① ROP の stage が重い、② 在胎週数が短く出生体重が小さい、③ 急性期にいつ、どの治療を受けたか。この3つを退院時の紹介状に明記しておくと、何十年後に診る眼科医にも危険が伝わる。

まとめ

  • ROP は生涯にわたる病気で、早産そのものも視覚系の発達に影響する。stage 1〜2 の軽い ROP は一般に視力に影響しないが、重い ROP では・・との低下・・・・・緑内障・の異常・が多い。
  • 長期の視力:CRYO-ROP の眼で10歳・15歳の視力不良(0.1以下)が約45%(無治療眼62〜64%)、ETROP の眼で6歳の視力不良24.7%。EXPRESS の児では91.2%が0.5以上だが、失明2.1%(対照0.3%)。
  • は3型:(軽く、年齢とともに減る)、 ROP 後(重さと相関、2.5歳で最大)、治療後(強く、減らない)。角膜が・が厚い・が浅く、眼軸はの程度のわりに短い。ETROP では −5 D 以上が35〜39%、−8 D 超が6か月の5%から4歳の20%へ増える。は生後6か月から。
  • は ETROP の6歳で1 D 以上52〜54%、2 D 以上25%、黄斑偏位・のある眼で多い。
  • は一般集団2〜4%に対し、児17〜24%、重い ROP で56%。が大半。在胎26週未満・重い ROP・成長の遅れ・・重い・で多い。眼振は ETROP の6歳で14〜16%。
  • は CRYO-ROP の10歳で治療眼20.5%。加齢が若く起こり(手術は平均40歳)、成人の後にまたはが23%(18.2%)。ROP の瘢痕が軽くても起こるので、術後もを定期的に診る。
  • 緑内障の原因は浅いと狭い隅角。失明眼では後方の膜が・を押し出し、退縮 ROP では相対的前部により20代に閉塞隅角を起こしうる。
  • :周辺の網膜・二分岐しない血管・・裂孔・/、の血管の直線化・黄斑偏位・。の陥凹は ROP 眼の91%で欠如し、が黄斑に残る。
  • 抗VEGF 治療後はが遅れて起こり(多くは修正週数37〜60週、最長は不明)、などの2018年の方針声明は45〜55週を特に密に、65週以降まで網膜の検査を続けるとする。退院後4〜6か月以内に眼科の経過観察を始め、屈折・・黄斑・・を年代に応じて生涯見続ける。

出典

  1. 1.Ophthalmologic Outcome of Extremely Preterm Infants at 6.5 Years of Age: Extremely Preterm Infants in Sweden Study (EXPRESS)(JAMA Ophthalmology(Hellgren KM, et al.)・2016)抄録(PMID 27010699)で、在胎27週未満で出生したスウェーデン全国コホートを6.5歳で評価し(評価434人、対照300人)、失明2.1%、WHO基準の視覚障害4.8%、研究基準の視覚障害8.8%、斜視17.4%(対照0%)、屈折異常29.7%(対照5.9%)で、何らかの眼科的異常が37.9%(対照6.2%)にあったこと、視覚障害と斜視には在胎週数より治療を要したROPの影響が強く、屈折異常には治療を要したROPで補正後も在胎週数が関連したことを確認した。閲覧 2026-09-29
  2. 2.Adult retinopathy of prematurity: retinal complications from cataract surgery(American Journal of Ophthalmology(Kaiser RS, et al.)・2008)抄録(PMID 18226796)で、出生体重2200 g未満または在胎32週未満で生まれ15歳以上で白内障手術を受けた45人66眼の後ろ向き研究であること、56%の眼はROPの瘢痕の変化が軽微だったこと、手術時の平均年齢が40.3歳、術後視力は改善38%・不変30%・低下32%、術後の網膜裂孔または網膜剥離が66眼中15眼(23%)に起こったこと、術前のROPの眼底変化の重さは術後合併症の起こりやすさと相関しなかったことを確認した。閲覧 2026-09-29
  3. 3.International Classification of Retinopathy of Prematurity, Third Edition(Ophthalmology(International Classification of Retinopathy of Prematurity Committee)・2021)PMC全文(PMC10979521)で、退縮と再燃を初めて詳しく定義したこと、治療後や自然退縮後に周辺網膜の血管化が完了しない遺残無血管網膜(PAR)は抗VEGF治療後のほうが頻度が高く範囲も広いこと、再燃は抗VEGF治療後に自然退縮後より多く、完全なレーザー光凝固後にはまれであること、抗VEGF注射後の再燃までの最長期間は不明だが多くは修正週数37〜60週に起こり、薬剤・用量や再注射で大幅に遅れうること、ROPの活動性の所見がない網膜剥離は再燃ではなく後遺症と呼ぶこと、晩期の後遺症として牽引性・裂孔原性(まれに滲出性)の網膜剥離、退縮した stage 3 の慢性牽引による網膜分離、無血管網膜の菲薄化・円孔・格子状変化、中心窩無血管域の縮小と中心窩陥凹の平坦化・欠如、血管の蛇行・アーケードの直線化と黄斑の牽引・鎌状網膜ひだ、二分岐しない血管分岐・円周方向に連結する血管アーケード・毛細血管拡張、硝子体出血、後年の続発閉塞隅角緑内障を挙げていることを確認した。閲覧 2026-09-29
  4. 4.Screening Examination of Premature Infants for Retinopathy of Prematurity(American Academy of Pediatrics, American Academy of Ophthalmology, American Association for Pediatric Ophthalmology and Strabismus, American Association of Certified Orthoptists・2018)誌上版PDF(Pediatrics 2018;142:e20183061)で、抗VEGF薬でROPを退縮させた場合は治療がこの病気の自然経過を変えるため急性期の検査の終了を修正週数65週以降とすること、非常に遅い増殖性ROPの再発が報告されており監視を終える時期は個々に慎重な臨床判断を要すること、抗VEGF治療児は再燃の危険が最も高い修正週数45〜55週に特に密な経過観察を要すること、治療の要否にかかわらずROPを経験した児は斜視・弱視・強い屈折異常・白内障・緑内障の危険が高く、NICU退院後4〜6か月以内に眼科の経過観察を行うことを確認した。閲覧 2026-09-29