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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

乾癬性関節炎

Psoriatic arthritis

別名
PsA
臓器系
運動器免疫・膠原病
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 R-05:血清反応陰性脊椎関節炎内科学 S-48:血清反応陰性脊椎関節炎
鑑別疾患
関節リウマチ強直性脊椎炎反応性関節炎変形性関節症
関連疾患
若年性特発性関節炎
治療薬
ナプロキセンセレコキシブメトトレキサートスルファサラジンアプレミラストアダリムマブインフリキシマブセクキヌマブイキセキズマブウステキヌマブグセルクマブリサンキズマブトファシチニブアバタセプトレフルノミド
検査値
HLA-B27
画像所見
仙腸関節炎
元疾患
尋常性乾癬
適応薬
イキセキズマブウパダシチニブグセルクマブセクキヌマブリサンキズマブ

🧠 全体像は、乾癬という皮膚病変とHLA-B27関連のという関節病変が結びついた疾患である。RAのように滑膜だけを侵すのではなく、を主座として腱・付着部から滑膜・骨へ炎症が広がる「」の病態が土台にあり、・爪病変という5つの臨床ドメインを単一の患者が同時に、しかも非対称に持ち得る点が最大の特徴である。皮疹の重症度と関節炎の重症度は乖離することが多く、「皮膚は軽いのに関節は破壊的」という組み合わせも珍しくない。診断はCASPAR分類基準で支持し、治療は罹患ドメインと乾癬・・ぶどう膜炎などの併存症に応じて生物学的製剤・低分子標的薬を選ぶ。

概要・疫学

は、乾癬患者のおよそ20〜30%に発症する炎症性関節炎で、とともにというを構成する。「seronegative」という呼び方は(RF)陰性傾向を示すにすぎず、自己抗体が陰性であることが確定診断を意味するわけではない。

多くの症例では皮膚の乾癬が関節炎に先行するが、⭐ 約10〜15%の患者では関節炎が皮疹より先に出現するため、「皮疹がないからは否定的」と早合点してはならない。家族歴、頭皮・などの見落としやすい部位の乾癬、爪病変の有無を必ず確認する。発症年齢のピークは30〜50歳台で性差は乏しいが、体軸優位型は男性に多い傾向がある。

病態・免疫遺伝学

PsAを含むに共通する病態の中心は、RAのとは異なり、すなわち腱・が骨に付着する部位の炎症である。付着部は滑膜組織と機械的・血管的につながっており(synovio-entheseal complex)、この部位への機械的ストレスと自然免疫の活性化が引き金となって、関節全体・全体()・脊椎()へと炎症が波及する。

としてはHLA-C*06:02が乾癬そのものと強く関連し、HLA-B27はが優位な病型でより高頻度にみられるが、ほど陽性率は高くない。IL-23がTh17細胞を活性化し、Th17細胞・・付着部の常在細胞から放出されるIL-17とTNF-αが炎症の中心を担うという「IL-23/IL-17/TNF軸」は乾癬の皮膚病変と共通しており、この軸を標的とする生物学的製剤が皮膚・関節の両方に有効である事実が機序の裏づけとなっている。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝素因</span>(HLA-C*06:02、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axial involvement'>体軸病変</span>ではHLA-B27)+機械的ストレス・感染などの環境因子"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enthesis'>付着部</span>での自然免疫活性化"]
    B --> C["IL-23によるTh17細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='innate lymphoid cell (ILC)'>自然リンパ球</span>の活性化"]
    C --> D["IL-17・TNF-αを中心とする<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>産生"]
    D --> E["付着部から滑膜・骨・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='digits (fingers and toes)'>指趾</span>軟部組織への炎症波及"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral arthritis'>末梢関節炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axial involvement'>体軸病変</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dactylitis'>指趾炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enthesitis'>付着部炎</span>・爪病変"]
    F --> G["皮膚乾癬と並行しない独立した経過をとりやすい"]
病態要素 学習上の意味
RAのと異なり本病態の出発点。腱・の骨付着部が主座
synovio-entheseal complex 付着部と滑膜が機能的に連続しているため、炎症が関節全体へ波及しやすい
HLA-C*06:02 乾癬そのものとの関連が強い遺伝子座
HLA-B27 優位の病型でより高頻度。単独では診断も除外もできない
IL-23/Th17/IL-17・TNF軸 皮膚と関節に共通する中心経路で、生物学的製剤の標的根拠となる

臨床病型・分類

末梢関節炎のパターン

PsAのは単一の型に収まらず、同一患者内でも混在し得る。Moll & Wrightの分類が古典的だが、現在は非対称性と対称性(RA様)の2群が大半を占めるという理解が実践的である。

病型 特徴
非対称性 最も頻度が高い。4関節以下、下肢優位で左右非対称
対称性(RA様) 手・足の小関節を対称性に侵し、RAとの鑑別を要する
優位型 PsAに特徴的。同側の爪病変を伴いやすい
まれだが破壊性が強く、により指が短縮する「」を来す
・脊椎炎が主体で、と画像上類似する

指趾炎・付着部炎・爪病変

  • :指または趾全体がびまん性に腫脹する「」の腫れで、関節炎とが同時に生じることで起こる。PsAに特徴的な所見である。
  • 付着部、付着部、膝蓋腱付着部などに圧痛・腫脹を来す。を伴わなくても評価すべき所見である。
  • 爪病変:、爪下、油滴様変化など。💡 爪病変はDIP関節近傍の腱付着部の炎症と解剖学的に連続しており、DIP優位型関節炎との関連が特に強い。ただし爪病変は必須所見ではなく、欠いても診断は除外されない。

関節外病変・併存症

乾癬そのもの、)を合併し得る。加えて肥満・・心血管疾患リスク上昇は乾癬と共通する併存症であり、⭐ 治療薬の選択だけでなく、の評価も定期的に行う。

PsA・RA・ASの比較

同じ小関節・体軸を侵す炎症性関節炎として、関節リウマチ(RA)・(AS)との対比は鑑別の軸として有用である。

特徴 関節リウマチ(RA) (AS)
主座 →滑膜・骨への波及 →骨びらん →新生骨形成
関節分布 非対称性が多いがDIP優位・対称性もある 手・手関節の小関節(対称性)、DIPは通常侵さない ・脊椎、下肢優位の末梢関節
、爪病変、ムチランス型 萎縮、1時間超 が運動で軽快
血清 RF・陰性が典型 RF・陽性が多い RF・陰性が典型、HLA-B27陽性が多い
画像 骨びらんと新生骨形成が同一関節に併存、 骨びらん、(骨増生は伴わない) 、syndesmophyte、
皮膚 乾癬を高頻度に合併 通常なし 乾癬合併例あり(の一部)

⚠️ PsAのX線ではRAのような骨びらん単独ではなく、同一関節内に骨びらんと骨新生(傍関節性新生骨形成、)が併存する点が鑑別の手がかりになる。

診断

CASPAR分類基準

診断そのものを確定する単一の検査はなく、炎症性の関節・脊椎・付着部病変があることを前提に、CASPAR分類基準で臨床像を支持する。炎症性関節・脊椎・付着部病変を有する患者で、以下から合計3点以上を満たせばPsAに分類する。

項目 点数
現在の乾癬 2点
乾癬の既往歴、またはの乾癬家族歴(現在の乾癬がない場合) 1点
典型的な乾癬性爪病変( 1点
陰性 1点
現在の、またはの既往歴 1点
X線で傍関節性新生骨形成(骨びらんと明確に区別される関節近傍の限局性骨増生) 1点

⚠️ CASPAR基準は分類基準であり、疫学研究・での患者集団の統一を主目的とする。個々の患者の診断は、この基準を参考にしつつ臨床像全体(関節所見、画像、既往・家族歴、他疾患の除外)から総合的に行う。

flowchart TD
    A["炎症性の関節・脊椎・付着部病変を認める"] --> B["現在/既往/家族歴の乾癬、爪病変、RF、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dactylitis'>指趾炎</span>、X線所見を評価"]
    B --> C{"CASPAR基準で合計3点以上か"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='psoriatic arthritis, PsA'>乾癬性関節炎</span>として分類"]
    C -->|"いいえ"| E["RA・OA・痛風・他のSpAなど他疾患を再検討"]
    D --> F["末梢/体軸、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dactylitis'>指趾炎</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enthesitis'>付着部炎</span>、爪病変のドメインを整理"]
    F --> G["関節外病変(ぶどう膜炎、IBD)と心血管代謝併存症を評価"]

鑑別のポイント

  • (OA):DIP優位という点でPsAと紛らわしいが、炎症所見(発赤・熱感・延長)に乏しく、骨新生はのような非炎症性の骨棘であって傍関節性新生骨形成とは性状が異なる。
  • 痛風:急性ので発症し、血清尿酸値上昇・結晶所見で区別する。PsAのと痛風の急性は臨床像が似ることがある。
  • RA:血清学的検査(RF・陽性率)、関節分布(DIP温存の有無)、画像所見(骨新生の有無)で区別する。

治療

治療戦略の考え方

治療は・皮膚乾癬・爪病変・ぶどう膜炎・という複数ドメインのうち、その患者で活動性のあるドメインをすべて挙げたうえで、できるだけ多くのドメインに有効な薬剤を選ぶという考え方が基本になる。NSAIDsとの使用は必要最小限にとどめ、が主体であれば早期にメトトレキサートなどのDMARD(csDMARD)を導入することが優先される。

flowchart TD
    A["活動性ドメインを整理(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral arthritis'>末梢関節炎</span>・体軸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enthesitis'>付着部炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dactylitis'>指趾炎</span>・皮膚・爪・ぶどう膜炎・IBD)"] --> B["NSAIDsで症状緩和を試みる(短期・必要最小限)"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral arthritis'>末梢関節炎</span>が主体で活動性が持続するか"}
    C -->|"はい"| D["メトトレキサートなどcsDMARDを早期に導入"]
    C -->|"いいえ(体軸優位・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enthesitis'>付着部炎</span>主体など)"| E["生物学的製剤を検討"]
    D --> F{"csDMARDで目標未達か"}
    F -->|"はい"| E
    F -->|"いいえ"| J["治療を継続し定期評価"]
    E --> G["TNF阻害薬・IL-17阻害薬・IL-12/23阻害薬・IL-23阻害薬から併存症に応じて選択"]
    G --> H{"併存症は?"}
    H -->|"活動性IBD"| I["IL-17阻害薬を避けTNFモノクローナル抗体やIL-23阻害薬を優先"]
    H -->|"重症皮疹"| K["IL-17阻害薬・IL-23阻害薬・IL-12/23阻害薬を優先"]
    H -->|"該当なし・軽症"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apremilast'>アプレミラスト</span>も選択肢"]
    I --> M{"目標に到達したか"}
    K --> M
    L --> M
    M -->|"いいえ"| N["作用機序を変更、またはbDMARD不応時にJAK阻害薬を検討(心血管・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombotic risk'>血栓リスク</span>評価後)"]
    M -->|"はい"| J
    N --> M

薬物療法

段階・薬群 主な選択 実践上の要点
症状緩和 などのNSAIDs 短期・必要最小限にとどめ、にもにも単独ではがない
の第一選択csDMARD メトトレキサート 皮膚乾癬にも有効。早期導入が優先される
csDMARDの代替・併用 に用いるが、や皮膚乾癬には通常無効
軽症〜中等症・限られた関節病変 。生物学的製剤を避けたい・のある症例で選択肢になる
TNF阻害薬 ・皮膚乾癬の広いドメインに有効。ぶどう膜炎・IBD合併ではモノクローナル抗体型を優先しやすい
IL-17阻害薬 皮膚・関節ともに強力だが、活動性では新規悪化のリスクがあり避ける
IL-12/23阻害薬 皮膚・関節・IBDに有効。効果発現はTNF阻害薬よりやや緩徐となり得る
IL-23阻害薬 ・皮膚乾癬に有効な選択肢として近年bDMARDの主要な一群となっている
JAK阻害薬 csDMARDやbDMARDで効果不十分な場合、または他の選択肢が不適切な場合に検討。65歳以上、喫煙歴、・悪性腫瘍・の危険因子を評価したうえで選択する

⚠️ 体軸優位型PsAに対する各薬剤の効果は、におけるほど強固なエビデンスがそろっておらず、現時点でJAK阻害薬などの新規単独に対して推奨するには証拠が限定的である。

⭐ 活動性のを合併する患者ではIL-17阻害薬を避け、重症皮疹が前景に立つ患者ではIL-17阻害薬・IL-23阻害薬・IL-12/23阻害薬を優先するというように、ドメインと併存症の組み合わせでを選ぶ発想がの治療戦略と共通する。

安全性・モニタリング

時点 確認事項
生物学的製剤・JAK阻害薬開始前 、B型・C型肝炎のスクリーニングを行う
生物学的製剤使用中 重篤・感染、(TNF阻害薬)、の新規発症・悪化(IL-17阻害薬)を監視する
JAK阻害薬使用中 、悪性腫瘍、、帯状疱疹を含む感染症を定期的に評価する
長期経過 、体重・血糖・脂質などの代謝併存症、関節破壊の進行(画像評価)を継続的に管理する

まとめ

  • は乾癬患者の20〜30%に発症するの一員で、を出発点として・爪病変が非対称かつ多彩に組み合わさる。
  • IL-23がTh17細胞を活性化し、IL-17・TNF-αを介した炎症が皮膚と関節に共通する中心機序であり、この軸を標的とする薬剤が皮膚・関節両方に有効である。
  • RAとは異なりDIP優位型・ムチランス型など多様な関節分布を取り、X線では骨びらんと傍関節性新生骨形成が同一関節に併存する点が鑑別の手がかりになる。
  • 診断はCASPAR分類基準(合計3点以上)を目安に、臨床像全体から総合的に判断する。
  • 治療は活動性ドメイン(・体軸・・皮膚・爪・ぶどう膜炎・IBD)を整理したうえで、メトトレキサートなどのcsDMARDを早期に導入し、不応例ではTNF阻害薬・IL-17阻害薬・IL-12/23阻害薬・IL-23阻害薬を併存症に応じて選び、JAK阻害薬はbDMARD不応時に心血管・を評価して検討する。