臨床薬理学

臨床薬理学 · 29

ウイルス感染症の薬物療法:HIV感染症・B型肝炎・C型肝炎

Viral infections: HIV, hepatitis B and hepatitis C

前提:病態
抗レトロウイルス薬抗肝炎ウイルス薬

🧠 全体像:3つのウイルスは「治せるか」で治療の設計が分かれる。は治せないので、の違う3剤(または2剤)を一生飲み続けてウイルス量を検出感度未満に抑え続ける。B型肝炎も多くは治せない(肝細胞核にウイルスが残る)ので、期限つきで免疫を動かすペグか、期限なしで複製を抑えるかを選び、目標はHBs抗原の消失である。C型肝炎は治せる(ウイルスで核に潜まない)ので、8〜12週の飲み薬で95%超が治癒する。

HIV感染症の治療

治療の原則

感染症の治療は、の違うを組み合わせる、ARTである。

原則 内容
開始時期 診断後できるだけ早く始める。CD4数などで開始時期を決めていた以前の基準はもう使わない
開始前の検査 遺伝子型のを行う
合併症の治療 や日和見感染(、真菌、)の治療も治療計画に含める
目標 血中のウイルス量を検出感度未満(50 copies/mL未満)に持続的に抑える。病状の悪化を防ぎ、感染性を下げ、耐性の出現を防ぐ
期間 生涯続ける

古典的な整理では、CD4数が高くウイルス量が1,000 copies/mL未満なら原則として開始を延ばせるとされた。現行の迅速開始の推奨では、CD4数にかかわらず全例に、できれば診断当日(遅くとも72時間以内)に開始し、耐性検査は診断時に提出するが結果を待たずに始めてよい1。開始を急がない例外は、、の疑いで、それぞれの専門的な評価と治療を先に行う1。

💡 髄膜炎だけ待つ理由。 ARTで免疫が急に回復すると、潜んでいた病原体に対する炎症が一気に燃え上がるが起こる。閉じた頭蓋内でこれが起こると致命的になりうるため、髄膜炎ではまず病原体を減らしてからARTを始める。

薬の系統と作用点

系統 主な薬 と押さえどころ
の プリン系:(ジソプロキシル製剤・製剤)、。シチジン系:、 逆転写で鎖に取り込まれて伸長を止める。骨格となる2剤は「プリン系1剤+シチジン系1剤」で組む
旧世代の 、、 初回治療には使わない(が強い)。は周産期の静注予防に残る
、、、 ウイルスが宿主に組み込まれるのを止める。現在の初回治療の中心
の ドラビリン、、 逆転写酵素のポケットに結合して形を変える。にしか効かない(HIV-2は)2
、 ウイルスタンパクの切り出しを止める。単独では代謝が速いので、と併用する
、 とP糖タンパクを阻害して、併用薬の血中濃度を保つ。そのぶん相互作用が多い
CCR5拮抗薬 侵入時の補助受容体CCR5をふさぐ。CCR5を使うウイルスにしか効かないので、使う前にが要る。初回治療には入らない
CD4への結合後の イバリズマブ(モノクローナル抗体) 多剤耐性例に限って使う

💡 を「プリン系+シチジン系」で組む理由。 同じ塩基の類似体どうし(となど)は同じリン酸化経路と同じを共有するので、重ねてもにならない。塩基の違う2剤なら、互いに邪魔せず、耐性の壁も2枚になる。

💡 覚え方:・・の各系統で優先されるのは、頭文字が「D」の3剤——、ドラビリン、。

初回治療の組み合わせ

組み合わせ 従来の整理 欧州エイズ臨床学会2025年版
2剤+ 優先。(ジソプロキシルまたは)またはに、または、または(場合により) 推奨: //、(いずれか)+または+。/+とは代替で、は-B*57:01陰性かつHBs抗原陰性が条件2
1剤+ 主な代替。+、CD4数が高くウイルス量が低い場合だけ 推奨。条件はHBs抗原陰性、ウイルス量50万copies/mL未満、経口のの失敗が疑われる例ではないこと2
2剤+:のみ 主な代替。ドラビリンを優先、はCD4数が高くウイルス量が低い場合だけ ドラビリンは推奨(迅速開始には不向きで、開始前のが望ましい)。は代替で、CD4 200/µL超、ウイルス量10万copies/mL未満、胃酸を下げる薬を使っていない、食事とともに服用が条件。も代替(就寝前)2
2剤+ 主な代替。またはでした 代替。食事とともに。によるに失敗した例では優先2
その他の代替 の、の、の。理論上はを含まない+も可能 、、+は初回治療の表に載っていない2

⚠️ +の2剤療法にHBs抗原陰性の条件がつく理由。 B型肝炎を合併していると、に効くのが1剤だけになり、がすぐ耐性化する。とのでは、にも効くを必ず骨格に入れる。

治療変更の考え方

治療がうまくいっている(ウイルスが抑制されている)人でも、次の理由で薬を替えることがある。

理由 例
毒性(急性・慢性) 腎障害、骨密度低下、脂質異常、体重増加など
費用 のある組み合わせへの変更
と危険因子 心血管リスク、腎機能、骨粗鬆症
相互作用や他疾患との関係を避ける C型肝炎・B型肝炎との(肝炎治療薬との相互作用、に効く薬の確保)
妊娠の計画 妊娠中の使用経験が多い薬へ

ウイルス量が再び上がったときの流れは次のようになる。

flowchart TD
  A["検出感度未満だったウイルス量が再検出"] --> B{"ウイルス量"}
  B -->|"50超〜200 copies/mL未満"| C["治療を見直す<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='medication adherence'>服薬遵守</span>・相互作用などの原因を探す"]
  C --> D["1〜2か月後に再測定"]
  D --> E{"まだ検出される?"}
  E -->|"いいえ"| F["同じ治療を継続"]
  E -->|"はい"| G["治療を変更"]
  B -->|"200 copies/mL超"| G
  G --> H["新しい治療の前に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug susceptibility testing'>薬剤耐性検査</span>"]
  H --> I["新しい組み合わせ<br>有効な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protease inhibitors'>プロテアーゼ阻害薬</span>と<br>未使用の系統の薬を含める"]
  I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maraviroc'>マラビロク</span>を使うなら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tropism test'>指向性検査</span><br>多剤耐性ならイバリズマブ"]

💡 50〜200 copies/mLの間をすぐに「失敗」としない理由。 この範囲の一時的な上昇(ブリップ)は測定のばらつきや一過性の活性化でも起こり、耐性の出現につながるとは限らない。一方で、200 copies/mLを超えて持続する場合は耐性が選択されている可能性が高いので、耐性検査のうえで治療を替える。新しい組み合わせは、完全に効く薬を複数含むように組む。

妊娠中の注意点

妊婦の治療の目的は、母体の治療と同時に母子感染を防ぐことにある。この節は従来の整理と現行の推奨の差が大きい。

論点 従来の整理 現行(欧州エイズ臨床学会2025年版)
妊婦は常にを念頭に管理する 同じ
には使わない(肛門直腸の異常を起こしうるため)。それ以降は使う +または+は妊婦の初回治療の推奨に入っている2
のは何らかの理由で十分に効かないので、を使う /600/100 mgを1日2回で使う組み合わせが推奨に入っている2
使用経験 他の、 、ドラビリンは経験が少ない //の1日1回が推奨に加わった2
分娩様式 妊娠末期にウイルス量が検出感度未満でなければ帝王切開(静注の予防を併用) 妊娠34〜36週に400 copies/mL超なら38週に。50〜400 copies/mLでは一律ではなく個別に判断。分娩時に診断された場合は帝王切開と、またはを含む3剤の即時開始、400 copies/mL超なら静注2
授乳 感染の危険があるので勧めない で決める。服薬を完全に守り、ウイルスが抑制され、定期的にウイルス量を測れる人には支援付きの授乳を選択肢として示す2

💡 への懸念の発端は、2018年にボツワナの出生調査で後の曝露ととの関連が示唆されたことだった(肛門直腸の異常ではない)。その後の追跡で差は小さくなり、現在は妊婦にも推奨される薬になっている。が妊娠中に勧められないのは、妊娠中期・後期にと併用薬の血中濃度が大きく下がるという上の理由による。妊娠中は循環血液量や代謝が変わるので、も1日2回に分けて濃度を保つ。

B型肝炎の治療

急性B型肝炎

B型肝炎ウイルスに感染した成人の多くはの経過をとり、自然に治る。そのため急性期には通常、を行わない。

論点 従来の整理 現行(欧州肝臓学会2025年版)
治療する例 免疫不全、C型肝炎・との、他の肝疾患を持つ例、劇症化例 成人の急性B型肝炎は95%超で自然にHBs抗原が消えるため、一般には治療しない。が落ちた重症例(50%以下、 1.5以上)では直ちにを始め、施設へ紹介する3
薬 または(場合により)。は勧めない とはと同等に有効で安全3
期間 HBs抗原のから3か月、HBs抗原が消えない場合はHBe抗原のから12か月 HBs抗原の消失を確認するまで続ける3

⚠️ 急性の劇症化例でを使わないのは、が免疫を活性化して肝細胞の破壊をさらに強めるからである。重症例はへの移行を念頭に、を見据えて管理する。

慢性化と自然経過

周産期以外の感染でに移行するのは約5%だが、では90%を超える。慢性B型肝炎の経過は複雑で、いくつかの病期に分かれ、病期ごとに治療の考え方が違う。

年齢に沿った典型的な経過は次のようになる(模式的な経過で、が大きい)。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune tolerance'>免疫寛容</span>期:0〜約15歳<br>HBe抗原陽性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>高値で平坦・HBs抗原高値<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine aminotransferase'>ALT</span>は正常"] --> B["免疫排除期(HBe抗原陽性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic hepatitis'>慢性肝炎</span>):約15〜35歳<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine aminotransferase'>ALT</span>が上昇し20歳代で頂点、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relapse'>再燃</span>を繰り返す<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>は上下しながら低下"]
  B --> C["HBe抗原が消え抗HBe抗体が出現<br>HBe<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seroconversion'>セロコンバージョン</span>"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inactive'>非活動性</span>キャリア:約35〜50歳<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>低値・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine aminotransferase'>ALT</span>正常<br>HBs抗原は低めで横ばい"]
  D --> E["再活性化(HBe抗原陰性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic hepatitis'>慢性肝炎</span>):50歳以降<br>抗HBe抗体陽性のまま<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine aminotransferase'>ALT</span>が波打って<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rebound'>再上昇</span>"]
  E -.->|"病期は行き来しうる"| D
  D -.->|"病期は行き来しうる"| B

各病期の血清学的な特徴を表にすると次のようになる。

病期(旧来の呼び方) 欧州肝臓学会の呼び方 HBs抗原 HBe抗原 抗HBe抗体
期 HBe抗原陽性の 陽性 陽性 陰性 正常 約2×10⁴超〜2×10⁸ IU/mL超
免疫排除期 HBe抗原陽性の 陽性 陽性 陰性 正常または上昇 約2×10⁴超〜2×10⁸ IU/mL超
(キャリア) HBe抗原陰性の 陽性 陰性 陽性 正常 200 IU/mL未満
HBe抗原陰性の(再活性化) HBe抗原陰性の 陽性 陰性 陽性 正常または上昇 検出感度未満〜2×10⁸ IU/mL超
感染の消退 HBs抗原陰性期 陰性 陰性 陽性 正常 検出されない

現行の欧州肝臓学会の分類では、 の目安を第1期で通常10⁷ IU/mL以上、第2期で10⁴〜10⁷ IU/mL、第3期で通常2,000 IU/mL未満、第4期で通常2,000 IU/mL超とし、「」という呼び方をやめて「HBe抗原陽性の」と呼ぶ3。

💡 「HBe抗原が陰性=落ち着いた」ではない。 HBe抗原陰性でもと が上がる病期(HBe抗原陰性)がある。ウイルスがHBe抗原を作れない変異を持つようになっただけで、複製は続いているからである。だから病期はHBe抗原だけでなく、と を組み合わせて決める。

治療開始の判断

治療開始に影響する検査結果は3つあり、「1と2の両方」または「3だけ」でも当てはまれば、HBe抗原の状態にかかわらず治療を始める。

  1. 2,000/mL超(現行の指針はIU/mLで表す)
  2. ALTが男性30 IU/L超、女性19 IU/L超
  3. の組織像、または()などで肝障害が確かめられる
flowchart TD
  A["慢性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span>感染<br>HBs抗原陽性"] --> B{"肝硬変がある?"}
  B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>が検出されれば治療"]
  B -->|"いいえ"| D{"組織・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver stiffness'>肝硬度</span>で<br>有意な線維化や肝障害?"}
  D -->|"はい"| E["治療"]
  D -->|"いいえ"| F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span> 2,000 IU/mL超<br>かつ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine aminotransferase'>ALT</span>高値?"}
  F -->|"はい"| E
  F -->|"いいえ"| G["定期的な経過観察<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine aminotransferase'>ALT</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis B virus'>HBV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>を追う"]
  E --> H["治療法を選ぶ<br>ペグ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interferon (IFN)'>インターフェロン</span>か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleos(t)ide analogue'>核酸アナログ</span>か"]
論点 従来の整理 現行
基本の基準 2,000 IU/mL超と高値、または組織・での肝障害 欧州肝臓学会: 2,000 IU/mL以上かつ上昇、および/または有意な線維化で治療。肝硬変なら が検出されれば量によらず治療3。: 2,000 IU/mL超かつ上昇、有意な線維化(APRI 0.5超、7 kPa超)、・HDV・との、・肝硬変の家族歴、免疫抑制なども治療対象4
の 男性30 IU/L、女性19 IU/L は同じく男性30 U/L、女性19 U/Lをとする4。欧州肝臓学会は40 U/L以上を性別・年齢によらず上昇とみなしつつ、30/19 U/Lの低いのほうが予後を予測しやすいとする3
が測れない場合 触れていない はの持続高値だけで治療してよいとする4

治療法の選択に影響するその他の因子は次のとおり。

因子 意味
HBe抗原の状態(病期) 治療の目標と中止の条件が変わる
D型肝炎ウイルスの 従来はにしか反応しないとされた。現行ではペグに加え、のが選択肢になり、なら治療を考える3
肝硬変の有無と代償・非代償 ではペグを使わない3
の遺伝子型 遺伝子型AとBはDやCよりによく反応する3

治療の目標

段階 目標
最終目標 HBs抗原の消失(抗HBs抗体の出現を伴う)。現行の欧州肝臓学会はHBs抗原の消失と 検出感度未満を「機能的治癒」とし、抗HBs抗体の出現は必須としない3
HBe抗原陽性例 HBe抗原の
それが得られない場合 を持続的に抑え、病気の進行(肝硬変・)を防ぐ

💡 が「治らない」のは、肝細胞の核の中にウイルスがcccDNAと呼ばれる環状の形で残り、一部は宿主の染色体に組み込まれるからである。は逆転写を止めて新しいウイルスを減らすが、核の中の鋳型は消せない。薬をやめるとしやすいのはこのためである。

ペグインターフェロンと核酸アナログ

2つの治療法は性格がまったく違う。

項目 ペグ
治療中の複製抑制 40〜70% 80〜100%
あり なし
治療後の 少ない 多い
(HBs抗原→抗HBs抗体) 6〜11% 1〜8%
皮下注射 経口
週1回 1日1回
治療期間 1年 2年以上
耐性 なし あり(薬によって少ない〜非常に多い)
での使用 不可 可
腎機能低下 使える 減量が必要
副作用 大きい 最小限

💡 表の性格の違いは作用機序から出てくる。ペグは宿主の免疫を動かしてウイルス感染細胞を排除させるので、効いた人では薬をやめても効果が残り、HBs抗原の消失まで届きやすい。その代わり、免疫を動かすことそのものが副作用(発熱、倦怠感、血球減少、抑うつ、甲状腺機能異常)になり、のないでは肝炎の増悪が命取りになる。は逆転写だけを止めるので、よく効き副作用も少ないが、免疫は変わらず、やめると戻る。

ペグインターフェロンアルファ

48週間の治療を、次のような例で優先する。

優先する条件 従来の整理 現行(欧州肝臓学会2025年版)
年齢・治療歴 若年(40歳未満)で未治療 若年が反応の予測因子
遺伝子型 AまたはB AとBはDやCよりHBe抗原のとHBs抗原消失が多い3
活動性が高い(が基準の3倍超、ウイルス量2×10⁸/mL超、組織の活動性が強い) ウイルス量が低いこと、がの2〜5倍、組織の炎症が強いことが反応の予測因子3
D型肝炎の にしか反応しない。1.5年治療する ペグまたはを考慮。両者の併用も考えうる3
用量 触れていない ペグ-2a 180 µgを週1回皮下注射、通常48週。12週と24週の ・HBs抗原量で中止を判断する3

効果判定は、24週後にウイルス量2,000/mL未満なら「ウイルス学的反応」、治療終了後6か月・12か月でも保たれていれば「持続的な反応」とする。 が陰性になった例では、経過観察中にHBs抗原を測る。はのほうが起こりやすい。

ペグの欠点は、重い副作用、注射であること、全員がよく反応するわけではないこと、に使えないことである。

核酸アナログ

薬 位置づけ
、 ジソプロキシル、 現在の第一選択。耐性の壁が高い3
ジピボキシル 効果が劣る
耐性が非常に出やすい。耐性があるとにも部分的に耐性になる

欧州肝臓学会2025年版は、・・を第一選択に使う理由はもうないとしている。既治療例ではへの耐性が1年で6%、5年を超えると50%を超えるので、耐性が確かめられた例にはを使わない3。

⭐ 耐性が耐性につながる理由。 で選ばれる逆転写酵素の変異(YMDD部位の変異)は、が効くためのも一部崩す。そこに少数の変異がされるだけでも効かなくなる。だから耐性例ではに切り替える。

の利点は、がよいこと、治療中のウイルス制御がよいこと、でも使えること、免疫抑制状態でも効くことである。欠点は次の2つである。

欠点 内容
期間が決まらない 少なくともより長い。やめると一定期間後にして再開が必要になることが多い
が起こりにくい より起こりにくく、中止後のが多い

中止の条件は従来と現行でおおむね同じ方向だが、現行の基準のほうが具体的である。

状況 従来の整理 現行(欧州肝臓学会2025年版)
HBe抗原陽性 HBe後、ウイルス量が検出感度未満なら1年追加して中止 HBe後、少なくとも12か月のをしてから中止3
HBe抗原陰性 HBs抗原の後、ウイルス量が検出感度未満なら中止。数年間ウイルス量が検出されなければ、HBs抗原が陽性でも中止を考えうる HBs抗原消失の確認後に中止。進行した肝疾患がなく、 検出感度未満が3〜4年以上続き、HBs抗原量が低い一部の例では、厳重な経過観察を条件にHBs抗原消失前でも中止を考えうる3
生涯続ける例 HBs抗原が消えない例、すでに肝硬変の例 代償性肝硬変は抗HBs抗体への、またはHBs抗原消失後12か月のの後に限って中止を考え、では中止するとしても抗HBs抗体へのの後に限る3

とを併用することもある(D型肝炎の、単独でに効かない場合、を少なくとも1年続けてもが起こらない場合など)が、一般的ではない。

⚠️ は腎から排泄されるので、腎機能に応じて減量する。 ジソプロキシルは腎障害と骨密度低下を起こしうるので、腎機能を定期的に測る。

C型肝炎の治療

治療の転換

C型肝炎の治療はこの10年で根本的に変わった。

論点 以前の治療 現在
中心となる薬 (がはるかに悪い)と 、すなわちの飲み薬の組み合わせ。はハンガリーではもう推奨されず、も脇役になった
遺伝子型の意味 治療法と期間を大きく左右した 一部の組み合わせでは重要だが、遺伝子型によらず効く組み合わせが多い
治癒率 低い 95%超
期間 24〜48週 初回治療は病期などにより8〜12週。再発、免疫抑制、その他の複雑な要因がある場合は16週や24週の方法もある

ハンガリーで見られるの遺伝子型は1a、1b、2、3、4で、1型が多い。新しい治療薬はどれも非常に高価なので、ハンガリーの現行の指針の大部分は感染症学的な内容ではなく費用負担の問題を扱っており、診断された人が全員すぐに治療を受けられるとは限らない。

💡 C型肝炎が「治る」理由。 はウイルスで、細胞質で複製し、核に入り込んだり宿主の染色体に組み込まれたりしない。複製を一定期間完全に止めれば、ウイルスは細胞内から消える。これが核に鋳型を残すやとの決定的な違いである。治癒は、治療終了後12週(または24週)の時点で が検出されない持続的ウイルス学的著効、すなわち・SVR24で判定する。

DAAの系統

系統 薬
阻害薬(核酸型) 依存性ポリメラーゼの ソホスブビル
阻害薬(非核酸型) ポリメラーゼの
の形成との組み立て ベルパタスビル、、ダクラタスビル、レジパスビル、オムビタスビル、
ウイルスのポリタンパクの切り出し 、、、、

語尾で系統が分かる:「〜ブビル」はポリメラーゼ阻害薬、「〜アスビル」は、「〜プレビル」は。組み合わせは、違う系統を2〜3つ重ねて耐性の壁を作る、というと同じ発想である。と併用するは抗作用のためではなく、治療と同じく阻害によるとして入っている。

推奨される組み合わせ

すべての遺伝子型に最も有効な選択肢は次の3つである。

組み合わせ 系統 位置づけ(欧州肝臓学会2020年版)
ソホスブビル+ベルパタスビル ポリメラーゼ阻害薬+ 汎遺伝子型。肝硬変のない例で12週5
+ + 汎遺伝子型。遺伝子型1a・1b・2・4・5・6の肝硬変のない例で8週5
ソホスブビル+ベルパタスビル+ 3系統 初回治療が失敗したとき。やを含む治療に失敗した、肝硬変のない例と代償性肝硬変の例に12週5
flowchart TD
  A["慢性C型肝炎<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis C virus'>HCV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribonucleic acid'>RNA</span>陽性"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decompensated cirrhosis'>非代償性肝硬変</span>?<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Child-Pugh classification'>Child-Pugh</span> B・C"}
  B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protease inhibitors'>プロテアーゼ阻害薬</span>は禁忌<br>ソホスブビル+ベルパタスビル<br>+体重別<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribavirin'>リバビリン</span>を12週"]
  B -->|"いいえ"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct-acting antiviral'>DAA</span>での治療歴?"}
  D -->|"なし"| E["汎遺伝子型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct-acting antiviral'>DAA</span><br>ソホスブビル+ベルパタスビル12週<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glecaprevir'>グレカプレビル</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pibrentasvir'>ピブレンタスビル</span>8週"]
  D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct-acting antiviral'>DAA</span>治療に失敗"| F["ソホスブビル+ベルパタスビル<br>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='voxilaprevir'>ボキシラプレビル</span>を12週"]
  E --> G["治療終了12週後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis C virus'>HCV</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribonucleic acid'>RNA</span>を測る<br>検出されなければ治癒"]
  F --> G
  C --> G

⚠️ でを使わない理由。 は、肝機能が落ちると薬のが大きく増え、毒性の危険が高まる5。( BまたはC)と、代償性でも過去にした例ではを含むレジメンは禁忌で、ソホスブビル+ベルパタスビルに体重別の(75 kg未満で1,000 mg、75 kg以上で1,200 mg)を加えて12週治療する。が使えない、または耐えられない場合はなしで24週とする5。分類でを確かめてから薬を選ぶ。

遺伝子型に依存する代替の組み合わせ

組み合わせ 対象の遺伝子型(従来の整理) 現行での扱い
ソホスブビル+ダクラタスビル 1、2、3 欧州肝臓学会2020年版の推奨には入らないが、汎遺伝子型の新薬が使えない低中所得国では、のこの組み合わせを2016年版に従って使う5
オムビタスビル+(+)+ 1 2020年版の推奨には入らない(以前の版の組み合わせで、今回の推奨にないものは推奨されない)5
オムビタスビル+(+)+ 4 同上5
+(±) 1、4 2020年版では遺伝子型1bに使える5
ソホスブビル+レジパスビル 1、4 2020年版の推奨には入らない5
ソホスブビル+ 1、4 同上5
ソホスブビル+ 4 同上5

💡 汎遺伝子型の組み合わせが出る前は、遺伝子型ごとに組み合わせと期間を覚える必要があった。現在は遺伝子型を調べなくても汎遺伝子型の2つで高い確率で治るので、遺伝子型は「調べられるなら治療の最適化に役立つ」位置づけになっている。

まとめ

  • :診断後できるだけ早く(迅速開始ではCD4数にかかわらず当日〜72時間以内)ARTを始め、ウイルス量50 copies/mL未満を生涯維持する。開始前に耐性検査を提出し、日和見感染も治療する。髄膜炎(結核・)との疑いでは開始を急がない。
  • 初回治療の中心は 2剤(プリン系のまたは+シチジン系のまたは)+(・)。欧州エイズ臨床学会2025年版では+の2剤(HBs抗原陰性・ウイルス量50万未満)とドラビリンも推奨、したは代替。「D」の3剤で覚える。・・は初回に使わない。
  • ウイルス量50〜200 copies/mLは原因を探して1〜2か月後に再検、200超なら耐性検査のうえで変更する。には、多剤耐性にはイバリズマブ。
  • 妊娠:以前はを第1三半期に避け、を避け、ウイルスが残れば帝王切開、授乳は禁止とされた。現行ではもも推奨、はで1日2回、帝王切開は34〜36週に400 copies/mL超のとき、授乳は条件つきで選択肢になる。
  • B型肝炎:成人のは多くが自然治癒し、重症( 1.5以上)ならをHBs抗原消失まで。慢性化はで90%超、それ以外で約5%。治療開始は 2,000 IU/mL超+高値(は男性30・女性19 U/L超)か、有意な線維化・肝硬変。目標はHBs抗原の消失。
  • ペグ(48週、若年・遺伝子型A/B・非代償でない例)はが少なくしやすいが副作用が大きい。(・2製剤)はよく効き副作用が少ないが、期間が決まらず中止後にしやすい。耐性は耐性を招く。D型肝炎にはペグか。
  • C型肝炎:の飲み薬で8〜12週、治癒率95%超。汎遺伝子型のソホスブビル+ベルパタスビル(12週)と+(8週)が中心で、にはソホスブビル+ベルパタスビル+。ではが禁忌。遺伝子型別の古い組み合わせの多くは現行の推奨から外れた。

出典

  1. 1.Rapid ART Initiation(NYSDOH AIDS Institute Clinical Guidelines Program・2025)2026年9月25日更新版で、診断後できれば同日(A1)または72時間以内にARTを開始し、CD4数にかかわらず全例に推奨すること、遺伝子型耐性検査は診断時に提出するが結果を待たずに開始してよいこと、結核性髄膜炎・クリプトコッカス髄膜炎(およびサイトメガロウイルス網膜炎の疑い)では直ちに開始しないことを確認した。閲覧 2026-09-26
  2. 2.Major revision version 13.0 of the European AIDS Clinical Society guidelines 2025(HIV Medicine (European AIDS Clinical Society)・2026)PMC12757896の全文で、Table 1(HIV-1の初回治療)の推奨レジメンがTAF/FTC/BIC、TAF/FTCまたはTDF/XTC+DTG、XTC+DTG(HBs抗原陰性・ウイルス量50万copies/mL未満・経口PrEP失敗後でない)、TAF/FTCまたはTDF/XTC+ドラビリン(HIV-2に無効、迅速開始に不向き、開始前の遺伝子型検査が望ましい)で、代替がABC/3TC+DTG(HLA-B*57:01陰性・HBs抗原陰性)、ラルテグラビル、エファビレンツ、リルピビリン(CD4 200/µL超・ウイルス量10万copies/mL未満・胃酸を下げる薬なし・食事とともに)、ブーストしたダルナビル(持効型カボテグラビルPrEP失敗後の優先レジメン)であること、HIV-2はNNRTIに自然耐性であること、妊婦の初回治療の推奨にTAF/FTC/BICが加わり、TDF/XTCまたはTAF/FTC+DTG、同+ダルナビル/リトナビル600/100 mg 1日2回が従来から推奨されていること、妊娠34〜36週にウイルス量400 copies/mL超なら38週の予定帝王切開、50〜400では個別に判断、分娩時に診断されたら帝王切開とDTGまたはBICを含む3剤と静注ジドブジンを考えること、授乳は共同意思決定で、服薬を完全に守りウイルスが抑制され定期的にウイルス量を測れる人には支援付き授乳の選択肢を示すことを確認した。閲覧 2026-09-26
  3. 3.EASL Clinical Practice Guidelines on the management of hepatitis B virus infection(Journal of Hepatology(European Association for the Study of the Liver)・2025)全文で、Table 4の4病期(HBe抗原陽性慢性感染=旧来の免疫寛容期、HBe抗原陽性慢性肝炎、HBe抗原陰性慢性感染、HBe抗原陰性慢性肝炎)とHBV DNAの目安、HBV DNA 2,000 IU/mL以上かつALT上昇および/または有意な線維化で治療し(LoE 1)、肝硬変はHBV DNAが検出されれば治療すること、ALT 40 U/L以上を性別・年齢によらず上昇とみなしつつ30 U/L(男性)・19 U/L(女性)の低い基準値が予後予測を高めること、成人の急性B型肝炎は95%超で自然にHBs抗原が消え抗ウイルス療法は一般に推奨されないが、プロトロンビン時間50%以下(INR 1.5以上)の合成能低下では直ちに核酸アナログを始めて肝移植施設へ紹介し、HBs抗原消失の確認まで続けること、第一選択の核酸アナログはエンテカビル・TDF・TAFでラミブジン・テルビブジン・アデホビルを第一選択とする理由はもうないこと、ラミブジン既治療例ではエンテカビル耐性が1年で6%・5年超で50%超に達しラミブジン耐性確認例ではエンテカビルを使わないこと、ペグインターフェロンアルファ-2aは180 µgを週1回皮下注で通常48週、12・24週の停止規則があり、非代償性肝硬変では使わないこと、遺伝子型AとBはDとCより反応がよいこと、HBe抗原セロコンバージョン後は少なくとも12か月の地固め療法後に中止し、HBe抗原陰性例はHBs抗原消失の確認後に中止、進行した肝疾患のない一部の例はHBV DNA検出感度未満が3〜4年以上でHBs抗原が低ければ中止を考えうること、D型肝炎の合併例は代償性肝疾患ならペグインターフェロンアルファまたはブレビルチドの治療を考慮することを確認した。閲覧 2026-09-26
  4. 4.Guidelines for the prevention, diagnosis, care and treatment for people with chronic hepatitis B infection(World Health Organization・2024)治療対象の章(NCBI Bookshelf版NBK614987の抜粋)で、HBV DNA 2,000 IU/mL超かつALTが基準上限(男性30 U/L、女性19 U/L)を超える成人・思春期例、APRI 0.5超または肝硬度7 kPa超の有意な線維化、HIV・HDV・HCVの重複感染や肝癌・肝硬変の家族歴・免疫抑制などを治療対象とし、HBV DNAが測れない場所ではALTの持続高値だけで治療してよいことを確認した。閲覧 2026-09-26
  5. 5.EASL recommendations on treatment of hepatitis C: Final update of the series(Journal of Hepatology(European Association for the Study of the Liver)・2020)EASL公開の全文PDFで、インターフェロンもリバビリンも使わない汎遺伝子型のDAA(ソホスブビル/ベルパタスビル、グレカプレビル/ピブレンタスビル、ソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビル)が肝硬変のない例と代償性肝硬変の推奨であること、遺伝子型1a・1b・2・4・5・6の肝硬変のない例ではソホスブビル/ベルパタスビル12週またはグレカプレビル/ピブレンタスビル8週、グラゾプレビル/エルバスビルは遺伝子型1bに使えること、DAA(プロテアーゼ阻害薬やNS5A阻害薬)を含む治療に失敗した例はソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビル12週で再治療すること、プロテアーゼ阻害薬を含むレジメンは非代償性肝硬変で禁忌でソホスブビル/ベルパタスビル+体重別リバビリン12週を使うこと、低中所得国では後発品のソホスブビル+ダクラタスビルが安全・安価で2016年版に従って使えること、以前の版の推奨で今回の推奨に入らないものは推奨されないことを確認した。監査時に同じPDFで、プロテアーゼ阻害薬が非代償性肝硬変(Child-Pugh B・C)と非代償化の既往のある代償性肝硬変で禁忌であり、その理由が薬物曝露の大幅な増加と毒性の危険であること、これらの例ではソホスブビル/ベルパタスビル+体重別リバビリン(75 kg未満1,000 mg、75 kg以上1,200 mg)12週で治療し、リバビリンが使えなければ24週とすることを確認した。閲覧 2026-09-26