臨床薬理学

臨床薬理学 · 34

過敏性腸症候群の薬物療法

Irritable bowel syndrome

前提:病態
便秘薬(下剤)・止瀉薬・消化促進薬・肝胆道系薬理平滑筋作用薬・子宮収縮作用薬モノアミン再取り込み阻害薬

🧠 全体像:は、腸に目に見える病変が無いのに腹痛とがくり返す「腸と脳の相互作用の障害」である。診断は除外の積み重ねではなくで積極的に下し、があるときだけ器質的疾患を探す。治療は「説明・食事・生活」を土台に、便の形で決まる病型(・・混合型)と一番つらい症状に合わせて薬を選び、それでも残る腹痛には低用量のとを重ねる。

過敏性腸症候群という病気

項目 従来の整理(世界消化器病学会・カナダ消化器病学会、2016〜2018年) 現行の知見
欧米で10〜15% 年代別に統合した世界のは10〜12%。より厳しいでは世界4.1%、日本2.2%1
年齢 症状は15〜65歳に多く、受診が最も多いのは30〜50歳 —
性別 女性に多い 女性に1.6倍多い1

💡 数字が文献で大きく違うのは、が改訂のたびに厳しくなったためである。Rome IVは「」を外し、腹痛を週1日以上に引き上げた。

(以下と略す)の症状は長く続き、次の性格をもつ。

  • 発作的に(波をもって)現れる。
  • 多彩で、しばしば食事と、典型的には排便と結びつく。
  • 日常生活とを妨げる。
  • ストレスや先行する()をきっかけに起こりやすい。の約10%でが起こる1。
  • 腹部・骨盤の手術の後に始まることもある。

腹部の張り、、腹部膨満、げっぷを伴いやすく、うつ病、不安、、身体化、症状への恐怖、破局的思考を合併しやすい。(腸の伸展を健常者より強く痛みとして感じる)がしばしば見つかる。

IBSはがんやを増やすことも、死亡率を上げることも知られていないが、直接・間接の医療費を大きく押し上げる。やと重なることが多い。

⚠️ 「がんを増やさない」は「器質的疾患が無い」ではない。診断直後の3か月は大腸癌のが8.42と高く(癌がと診断されていた)、4〜10年後は0.95未満1。症状5年後のの発生は対照の2.6〜5倍との報告もある2。症状が変わったら診断を見直す。

なぜ症状が出るのか

ストレス、、の亢進、低度の炎症、心理的要因(抑うつ・不安・身体化・破局的思考)が関わり、腸の運動・感覚と脳の情報処理が互いに増幅し合う1。

flowchart TD
  B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='infectious enteritis (infectious enterocolitis)'>感染性腸炎</span>・腹部骨盤手術"] --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gut microbiota'>腸内細菌叢</span>の変化<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal permeability'>粘膜透過性</span>の亢進・低度の炎症"]
  C --> D["腸と脳の相互作用の乱れ"]
  S["心理的ストレス"] --> D
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral hypersensitivity'>内臓知覚過敏</span><br>腸の伸展を強い痛みとして感じる"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal motility'>腸管運動</span>の異常<br>速すぎる輸送・遅すぎる輸送"]
  E --> G["反復する腹痛"]
  F --> H["下痢・便秘・両者の交代"]
  G --> I["症状への不安・破局的思考"]
  H --> I
  I --> S

診断:Rome IV基準と病型

要件 内容
主症状 直近3か月、平均して週1日以上くり返す腹痛
随伴する特徴(2つ以上) ① 排便に関連する ② 排便回数の変化 ③ 便の形状(外観)の変化
期間 直近3か月は基準を満たし、症状の始まりが診断の6か月以上前

⭐ 腹痛は必須で、腹部の張りや不快感だけでは満たさない。 2021年版は、を重ねるより症状から積極的に診断する戦略を勧める2。

2026年5月にRome V基準が公表された(の要件の変更点は内科学のを参照)。ここで扱う治療指針はいずれもRome IVに基づくので、Rome IVで整理する。

病型は、薬の影響の無い時期に、異常な便のあった日の排便をで分けて決める(1〜2型=、6〜7型=軟便・)。25%は患者の割合ではなく排便回数の割合である2。

病型 軟便・ 補足
-D: 25%未満 25%超 男性に多い
-C: 25%超 25%未満 女性に多い
-M:混合型 25%超 25%超 最も多い病型とされてきた
-U: 25%超にならない 25%超にならない どちらも排便の25%を超えない

💡 病型は固定しない。半数を超える患者が1年で主な病型を変え2、女性患者の約75%は15か月で移った1。病型どうしの重なりもある。に移ったのに下剤を続ければ悪化するので、受診のたびに確認し直す。

除外すべき疾患と検査

器質的疾患を探すきっかけは、症状(血便・、意図しない体重減少〔日本では6か月で3 kg超〕、発熱、関節痛)、危険因子(高齢発症〔日本では50歳超〕、大腸癌やの家族歴)、通常検査の異常(陽性、貧血、、炎症反応陽性)である21。診断は病歴・・症状の除外・の評価から始め、次の検査を目的に応じて選ぶ。

検査 何を除外するか 現行の位置づけ
血算(、と形態) 炎症・貧血・出血 日本では血糖・・尿検査・・TSHなどとともに通常検査1
(、細菌、寄生虫) 出血、、ランブル は全例での腸管病原体のを勧めない2
甲状腺機能 甲状腺機能亢進症(下痢)・低下症(便秘) —
血清のIgA抗体 セリアック病 は下痢症状を伴うで強く推奨2。東アジアではが極めて低い1
と十二指腸の生検(下痢があり症状が主に上腹部) セリアック病、、 を含め6か所から生検する2
と生検(50歳超で下痢や間欠的な症状) 、大腸癌、 はの無い45歳未満ではに行わない2
便中の(、) との区別 は疑いでかとを勧める2。 0.5以下かつ40 μg/g以下ならはほぼ除外できる1
、 状況に応じて行う1

💡 にはが紛れ込んでいることが多い1が、はをの全般症状の治療としては勧めていない2。

治療の骨格

従来の整理は、治療を3段階に分ける。

flowchart TD
  A["I. 一般的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Non-pharmacological'>非薬物療法</span><br>説明・食事と生活の指導・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dietitian'>栄養士</span>の関与<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='low FODMAP diet'>低FODMAP食</span>・誘因の特定"] --> B{"生活の変更で<br>十分に改善したか"}
  B -->|"はい"| Z["継続・経過観察"]
  B -->|"いいえ"| C["II. 薬物療法"]
  C --> C1["a. 第一選択:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Antispasmodics'>鎮痙薬</span>"]
  C1 --> C2["b. 第二選択:下剤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antidiarrheal'>止瀉薬</span><br>低用量の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tricyclic antidepressant'>三環系抗うつ薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='selective serotonin reuptake inhibitor'>SSRI</span>"]
  C2 --> C3["c. その他:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rifaximin'>リファキシミン</span>・アロセトロン<br>エルクサドリン・ルビプロストン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='linaclotide'>リナクロチド</span><br>プルカロプリド・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Probiotics'>プロバイオティクス</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='simeticone'>シメチコン</span>"]
  C3 --> D{"薬物療法を1年以上続けても<br>効果が無いか"}
  D -->|"はい"| E["III. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='psychotherapy'>心理療法</span>"]

現行の指針はこの骨格を保ちつつ、の格付けを下げ、病型別の薬と低用量のを前に出し、を1年待たずに重ねる方向へ動いた。日本消化器病学会2020年版は、第1段階(食事・運動・・・調整薬と病型別の薬)、第2段階(作用の異なる薬の併用、抗うつ薬・、簡易)、第3段階(薬と・など)を、それぞれ4週ごとに評価して進める1。

第1段階:説明・食事・生活

  • 説明:腸と脳の相互作用という仕組みを説明し、誘因となる食べ物・状況を一緒に探す。
  • :は水溶性(不溶性ではない)のを強く推奨する2。日本ではポリカルボフィルカルシウムなどの・を強く推奨する1。
  • 運動と食事:指導下の運動(弱い推奨)、脂質・・香辛料・乳製品など症状を悪化させる食品を控える(弱い推奨)1。
  • :は発酵性の・・・ポリオールで、小腸で吸収されにくく、浸透圧で水を引き込み(軟便)、大腸で発酵してガスを出す(張り・腹痛)。は全般症状の改善のため期間を区切った試行を勧め(条件付き・エビデンスは非常に低い)2、制限期のあと食品を一つずつ戻して誘因を特定する。栄養の偏りを避けるためが関わる。日本では明確な優位性はまだ示されていない1。

第2段階:薬物療法

鎮痙薬

薬 作用機序 補足
メベベリン 腸管平滑筋にして弛緩させる 抗コリン性の副作用が少ない
ピナベリウム のL型を遮断 吸収が少なく消化管に選択的
4を阻害してを増やす 抗コリン性副作用が無い
など を遮断 口渇・便秘・1

排便や食事と結びついた腹痛には平滑筋の過剰な収縮を緩めるが理にかない、従来はこれが第一選択であった。現行の評価は分かれる。

  • 2021年版は、米国で入手できる(ジシクロミン・ヒヨス・ヒヨスチン)を全般症状に使わないとした(条件付き・低い)。米国外のにはより強い根拠があることは認めている2。
  • 米国消化器学会2022年版は、・の双方でを条件付きで推奨する34。
  • 日本ではと、末梢のμ・κに作用するトリメブチンを弱く推奨する1。
  • は、が条件付きで推奨し2、日本でも弱く推奨される1。

下剤と止瀉薬

薬 従来の位置づけ 現行の位置づけ
下剤:浸透圧性(・・酸化)、刺激性(など) 第二選択 はをの全般症状には勧めない(条件付き・低い)2。米国消化器学会は条件付きで推奨3。日本ではとの頓用を弱く推奨し、系の長期連用は避ける1
吸着性の: 第二選択(便を固める薬の例) 日本で挙げられるは・酸アルブミン・ベルベリン1
: 長期に使うとの障害が続くので長期使用は勧めない 重い便秘・依存性・米国の心臓へのに注意し、多くの指針は連用に反対する1。は下痢は改善しても全般症状を改善しないので第一選択にしない2。米国消化器学会は条件付き推奨(非常に低い)4

⚠️ 酸化はでを起こしうる1。高齢者や腎臓病のある人ではを確認する。

💡 は腸管のに作用して蠕動を抑え、通常量では血液脳関門をほとんど越えない。便は固まるがにはほとんど効かないので、「下痢は止まったが痛みは残る」。

神経調節薬:三環系抗うつ薬とSSRI

低用量の・は、ノルアドレナリン系などを介して内臓痛と中枢の痛み処理を和らげ、でも腹痛を和らげうる。量が多いと消化管の輸送を遅らせて下痢も改善する2。SSRIの・・は、従来の整理では精神疾患を合併する例に用いる。

論点 従来の整理 現行
三環系の位置づけ 第二選択(低用量) は全般症状に強く推奨(中等度)。10 mgから始め、副作用を見ながらゆっくり増やす2
での三環系 禁忌 米国消化器学会はでも条件付き推奨(低い)3。ただし便秘を悪化させうるので、反応しやすいのはむしろとされる2。ではのほうが比較的安全に使える1
精神疾患を合併する例に 米国消化器学会はの症状の治療として・の双方で条件付きで反対する34。日本では病態に応じて三環系とともに弱く推奨1

⚠️ 三環系の副作用は口渇、、尿閉、便秘、不整脈2、眠気1。高齢者、緑内障、、では慎重に使う。「痛みの回路に作用する薬として少量を使う」ことを説明してから始める(薬理はうつ病との薬物療法)。

下痢型の薬

薬 作用機序 使い方・注意 現行の推奨
依存性ポリメラーゼ阻害。消化管からほとんど吸収されない 2週間投与。時に最大2回のが米国で承認。呼気試験陽性の人で反応しやすい2 従来は第二選択として考慮する薬。は強く推奨(中等度)2、米国消化器学会は条件付き推奨4。日本ではに未承認で、性腸炎に注意1
アロセトロン 拮抗。大腸の輸送を遅らせる 女性に限る。2000年11月に・便秘の重い合併症・死亡で自主回収され、2002年6月にの下で6か月を超える慢性・重症のの女性に限って再導入。0.5〜1.0 mgを1日2回。血便・急な腹痛・便秘の悪化で直ちに中止2 は従来治療が無効の重症の女性に条件付き推奨2、米国消化器学会も条件付き推奨4
ラモセトロン 拮抗 日本でに承認。男性1日5〜10 μg、女性2.5〜5 μg1 日本で強く推奨1
エルクサドリン 末梢性のμ・κ作動かつδ受容体拮抗 100 mgを1日2回(一部の患者は75 mg)。主な副作用は便秘と悪心。攣縮0.5%(全例が胆嚢の無い人)、膵炎0.4%2 従来は米国のみの薬とされた。・米国消化器学会とも条件付き推奨24。日本では使えない1

⚠️ エルクサドリンの禁忌は、膵炎の既往、胆嚢の無い人、・乱用の既往、1日3杯を超える飲酒である2。胆嚢が無いとの攣縮が起こりやすく、膵炎につながる。

💡 エルクサドリンの受容体は「β・κ作動、δ拮抗」と書かれることがあるが、にβ型は無く、μ・κ作動、δ拮抗が正しい2。μ作動で止瀉し、δ拮抗で過剰な便秘を和らげる設計である。

便秘型の薬

の中心は、からの水分分泌を増やす腸管分泌促進薬である1。

flowchart TD
  A["ルビプロストン<br>ClC-2<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chloride channel'>クロライドチャネル</span>を活性化"] --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal lumen'>腸管腔</span>へCl⁻が分泌され<br>Na⁺と水が続く"]
  C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='linaclotide'>リナクロチド</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='guanylate cyclase-C receptor'>グアニル酸シクラーゼC受容体</span>を刺激"] --> E["細胞内cGMPが増えCFTRが開く"]
  E --> G
  G --> H["便が軟らかくなり輸送が速まる"]
  C --> I["細胞外へ出たcGMPが<br>内臓の求心神経を抑え腹痛を改善"]
薬 使い方・副作用 承認と現行の推奨
ルビプロストン(誘導体) 米国では成人女性のに8 μgを1日2回。多い副作用は悪心と下痢で、悪心は食事とともに飲むと軽くなりうる2 従来は米国のみの薬とされたが日本でも承認1。は強く推奨2、米国消化器学会は条件付き推奨3
米国では1日1回290 μgで第1週から効く2。主な副作用は下痢(重いことがある) 欧州・日本でも承認。・米国消化器学会・日本消化器病学会とも強く推奨231
プルカロプリド 選択的作動薬。頭痛・腹痛・悪心・下痢 欧州で承認されているが、根拠は慢性便秘の試験1。米国消化器学会2022年版の評価対象に含まれない3
テガセロド(作動薬) 主な副作用は下痢 2002年に米国で承認、心血管イベントのわずかな増加で5年後に自主回収、2019年に65歳未満の女性ので再承認2。は1つ以下で分泌促進薬が無効な場合に限って提案2、米国消化器学会も条件付き推奨3。Drugs@の登録では現在販売中止

米国ではこのほかプレカナチド(C作動薬)とテナパノル(腸管のナトリウム吸収を抑える)が条件付きで推奨される3。

💡 作動薬と心臓。 は心筋のを遮断してQT延長とを起こし、市場から消えた。プルカロプリドはへの選択性が高くを遮断しない。テガセロドもと並べて語られることがあるが、米国で適応が65歳未満の女性に限られたのはを避けるためである1(全体像は薬剤性心血管毒性)。

効果が乏しい、または評価が分かれるもの

薬 従来の整理 現行
が効かないときに使う ・・アスピリンはの腹痛に効かないとされ、は勧められない(増量で腹痛がかえって慢性化する麻薬性腸症候群を起こす)1
(など) 根拠は弱い は全般症状への使用に反対(条件付き・非常に低い)2。日本は強く推奨する1。指針で評価が正反対
腹部膨満の薬() 有効性は証明されていない と日本消化器病学会の推奨項目には含まれていない
— は行わないよう強く推奨2

⚠️ を「の腹痛止め」に使うと、効かないうえに消化管を足す。腹痛が強いときに選ぶのは低用量のやである。

第3段階:心理療法

従来の整理では、薬物療法を少なくとも1年続けても効かないときにを行う。現行の指針はそこまで待たない。

  • は腸を標的としたを全般症状に提案する(条件付き)2。
  • 日本消化器病学会はを強く推奨し、あらゆる種類をまとめたは4。、リラクセーション、、力動的がいずれも対照より有効であった1。

💡 は「気のせい」と扱うことではない。内臓からの信号への脳の反応(破局的思考・)を変えて、悪循環の輪を断つ治療である。

まとめ

  • で積極的に診断し、があれば器質的疾患を探す。病型は異常便の日の排便回数に占める・軟便の割合(25%)で決め、毎回見直す。
  • 下痢があればセリアック病の血清検査と・。の無い若年者になや全例の便病原体検査は行わない。
  • は・拮抗薬(アロセトロンは重症の女性のみ)・エルクサドリン(μ・κ作動、δ拮抗。胆嚢摘出後・膵炎・で禁忌)。は連用しない。は(下痢)とルビプロストン(悪心)。
  • 低用量のは全般症状に有効で、の「禁忌」は従来の整理。は米国消化器学会がの症状には条件付きで反対し、日本は病態に応じて弱く推奨する。
  • ・麻薬はの腹痛に効かない。は指針で評価が割れる。は1年待たずに重ねる。

出典

  1. 1.Evidence-based clinical practice guidelines for irritable bowel syndrome 2020(Japanese Society of Gastroenterology / Journal of Gastroenterology・2021)PMC7932982の全文で次を確認した。Rome IV基準による世界の有病率4.1%・日本2.2%、2012年のメタ解析で年代別の世界の有病率が10〜12%、女性に1.6倍多いこと、感染性腸炎の約10%で感染後IBSが起こること、ストレス・腸内細菌叢・粘膜透過性・低度の炎症・抑うつ・不安・身体化・破局的思考が病態に関わること、女性患者の約75%が15か月で病型を移行すること、機能性ディスペプシア・胃食道逆流症との併存が多いこと、診断後3か月の大腸癌の標準化罹患比8.42に対し4〜10年では0.95未満であること、警告症状(血便・6か月で3 kgを超える体重減少・発熱・関節痛)・危険因子(50歳超など)と通常検査(血糖・TSH・血算・CRP・尿検査・便潜血・腹部単純X線)、CRP 0.5以下かつカルプロテクチン40 μg/g以下で炎症性腸疾患がほぼ除外され赤沈とラクトフェリンは有用性が乏しいこと、東アジアではセリアック病の有病率が極めて低いこと、下痢型で胆汁酸吸収不良が多いこと。治療では食事療法(弱い)、運動(弱い)、膨張性下剤・食物繊維(強い)、消化管運動調整薬(弱い)、抗コリン薬(弱い・口渇・便秘・動悸)、プロバイオティクス(強い)、5-HT3受容体拮抗薬(強い。アロセトロンは重い便秘と虚血性大腸炎のため米国で女性に限り専門医処方、ラモセトロンは男性1日5〜10 μg・女性2.5〜5 μg)、止瀉薬(弱い。ロペラミドは重い便秘・依存性・FDAの心臓の警告に注意し、多くの指針は連用に反対。日本の止瀉薬はロペラミド・タンニン酸アルブミン・ベルベリン)、エルクサドリンがμ・κ作動・δ拮抗で日本で使えないこと、腸管分泌促進薬(強い。ルビプロストンはClC-2、リナクロチドはGC-C→cGMP→CFTRで、細胞外cGMPが内臓求心神経を抑える)、5-HT4作動薬(弱い。テガセロドは虚血性心疾患を避けるため米国で65歳未満の女性の便秘型に限定、プルカロプリドは慢性便秘の証拠で欧州で承認)、浸透圧性下剤(弱い。酸化マグネシウムの腎障害時の高マグネシウム血症)、刺激性下剤の頓用(弱い。アントラキノンの長期連用を避ける)、抗うつ薬(弱い。三環系は特に下痢型に有効で眠気・便秘・口渇、便秘型ではSSRIが比較的安全)、心理療法(強い・NNT 4)、抗菌薬(弱い。リファキシミンはIBSに日本で未承認・偽膜性腸炎)、ペパーミントオイル(弱い)、麻薬とNSAIDs・アセトアミノフェン・アスピリンはIBSの腹痛に無効で麻薬は勧めないこと、治療を3段階(各4週で評価)で進めることを確認した。閲覧 2026-09-26
  2. 2.ACG Clinical Guideline: Management of Irritable Bowel Syndrome(American College of Gastroenterology / The American Journal of Gastroenterology・2021)ACG配布の全文PDFで次を確認した。Table 2の25項目の推奨として、下痢症状を伴うIBSでセリアック病の血清検査(強い推奨)、警告徴候の無い下痢型疑いで便中カルプロテクチン(またはラクトフェリン)とCRP、全例での腸管病原体の便検査は行わない、警告徴候の無い45歳未満で大腸内視鏡を日常的に行わない、積極的診断戦略、低FODMAP食の期間限定の試行(条件付き・非常に低い)、水溶性食物繊維(強い)、米国で入手できる鎮痙薬は全般症状に使わない(条件付き・低い)、ペパーミント(条件付き)、プロバイオティクスは使わない(条件付き・非常に低い)、便秘型の全般症状にポリエチレングリコールは使わない(条件付き・低い)、クロライドチャネル活性化薬(強い・中等度)とグアニル酸シクラーゼ活性化薬(強い・高い)、テガセロドは心血管危険因子1つ以下・65歳未満の女性で分泌促進薬が無効の場合、胆汁酸吸着薬は下痢型の全般症状に勧めない、リファキシミン(強い・中等度)、アロセトロンは従来治療が無効の重症の女性、混合型オピオイド作動・拮抗薬(条件付き・中等度)、三環系抗うつ薬(強い・中等度)、腸を標的とした心理療法(条件付き)、糞便移植は行わない(強い)。本文で、Rome IVの病型は異常便のある日の排便のうちBristol便形状1〜2型と6〜7型の割合で決め、半数超の患者が1年で病型を変えること、警告徴候(血便・黒色便・意図しない体重減少・高齢発症・炎症性腸疾患や大腸癌の家族歴)、ロペラミドは下痢を改善しても全般症状を改善しないため第一選択として勧めないこと、リファキシミンは2週間投与で最大2回の再治療が承認されていること、アロセトロンが2000年11月に虚血性大腸炎・便秘の合併症・死亡のため自主回収され2002年6月にREMSの下で6か月超の慢性・重症の下痢型の女性に限って再導入され、用量が0.5〜1.0 mgを1日2回であること、エルクサドリンが末梢性のμ・κオピオイド受容体作動薬かつδ受容体拮抗薬で、便秘と悪心が主な有害事象、Oddi括約筋攣縮0.5%(全例胆嚢摘出後)と膵炎0.4%があり、膵炎の既往・胆嚢の無い患者・アルコール依存や1日3杯超の飲酒で禁忌であること、ルビプロストンはPGE1類似体で2型クロライドチャネルに作用し、米国で成人女性の便秘型に承認され、下痢と悪心が多く悪心は食事と一緒に飲むと軽くなりうること、リナクロチドは1日1回290 μgで第1週から効果が現れること、テガセロドは2002年に承認され5年後に心血管イベントのわずかな増加のため自主回収され、2019年に65歳未満の女性の便秘型に再承認されたこと、三環系抗うつ薬は10 mgのアミトリプチリンやデシプラミンから始め、下痢型で反応しやすい可能性があり、口渇・眼乾燥・尿閉・便秘・不整脈に注意すること、IBSの経過で5年後の炎症性腸疾患の発生が対照の2.6〜5倍との報告を確認した。閲覧 2026-09-26
  3. 3.AGA Clinical Practice Guideline on the Pharmacological Management of Irritable Bowel Syndrome With Constipation(American Gastroenterological Association / Gastroenterology・2022)PubMedの抄録(PMID 35738724)で、評価した薬がテナパノル・プレカナチド・リナクロチド・テガセロド・ルビプロストン・ポリエチレングリコール系下剤・三環系抗うつ薬・SSRI・鎮痙薬であり、リナクロチドを強く推奨(確実性が高い)、テナパノル・プレカナチド・テガセロド・ルビプロストン(中等度)、ポリエチレングリコール系下剤・三環系抗うつ薬・鎮痙薬(低い)を条件付きで推奨し、SSRIには条件付きで反対する(低い)ことを確認した。閲覧 2026-09-26
  4. 4.AGA Clinical Practice Guideline on the Pharmacological Management of Irritable Bowel Syndrome With Diarrhea(American Gastroenterological Association / Gastroenterology・2022)PubMedの抄録(PMID 35738725)で、エルクサドリン・リファキシミン・アロセトロン(確実性は中等度)、ロペラミド(非常に低い)、三環系抗うつ薬・鎮痙薬(低い)を条件付きで推奨し、SSRIには条件付きで反対する(低い)ことを確認した。閲覧 2026-09-26