眼科学

眼科学 · ML-63

小児の赤目

Pediatric red eye

🧠 全体像:小児の赤目は年齢で原因がほぼ決まる。新生児なら出生時の感染(生後1週以内は淋菌、1〜2週はクラミジア)、幼児は、学童はなどのウイルス、思春期はクラミジア・コンタクトレンズ・の病気——と覚え、そこに年齢を問わない外傷・異物・アレルギー・眼瞼の病気を重ねる。そして「・痛み・があれば結膜炎ではない」「白く静かな眼にもぶどう膜炎は隠れる」「眼瞼の腫れは眼窩へ広がっていないか」の3点で危険な赤目を拾う。

赤目全体の鑑別(結膜炎・角膜炎・強膜炎・前部ぶどう膜炎・の対比)は赤目の鑑別、結膜炎の原因別の治療は結膜炎が正本である。ここでは小児に特有の原因と、小児で気をつける点をまとめる。

赤目は「総称」である

赤目は一つの病気ではなく、眼が赤く見える状態の総称である。どこが、何によって赤いのかを分けて考える。

視点 内容
場所 眼瞼、、上強膜、、角膜、、ぶどう膜
原因 外傷、感染、炎症、異物、構造の異常(先天・など)
広がり 眼だけの病気か、全身の病気(疾患・・感染症)の一部か

結膜炎の症状と「結膜炎ではない」徴候

結膜炎の典型的な症状は次のとおりである。

⚠️ 、眼の痛み、があれば、結膜炎以外の原因(角膜炎、ぶどう膜炎、外傷、)を考える。結膜炎は通常、見え方を損なわず、痛みもどまりである。

年齢で考える感染性結膜炎

年齢 主な原因 押さえどころ
新生児:生後24時間以内 刺激性(化学性)結膜炎 予防点眼の刺激による。24〜48時間で自然に治る
新生児:生後1週以内 淋菌 の膿性結膜炎。の危険
新生児:生後1〜2週 クラミジア・トラコマチス 全身投与が必要。肺炎を合併しうる
幼児 主に細菌(、肺炎球菌) 膿性。中耳炎を伴いやすい
学童 主にウイルス(、、) 学校・キャンプでの流行
思春期 クラミジア・トラコマチス 性感染症として。の治療
者 緑膿菌、アカントアメーバ 結膜炎ではなく角膜炎として重症化する

新生児結膜炎

()は生後28日以内に起こる結膜炎で、原因ごとに発症の時期が異なる1。

原因 発症時期 所見 治療
化学性(予防点眼の刺激) 生後1〜24時間 軽い充血と 不要。24〜48時間で自然に治る
淋菌 生後2〜5日 大量の膿性、強い。未治療では24〜48時間で角膜潰瘍・穿孔へ セフトリアキソンの全身投与
クラミジア 生後5〜14日 水様〜の、ゆっくり進む またはアジスロマイシンの内服
生後5〜14日(多くは7日以降) 眼瞼の小水疱、角膜の樹枝状病変 抗ウイルス薬の全身投与。全身感染を探す

表の発症時期と所見は1による。CDC はクラミジア結膜炎の発症を生後5〜12日としている2。

💡 時期で原因が分かれるのは、潜伏期の違いによる。はすぐ刺激し、淋菌は数日で増え、細胞内で増えるクラミジアは1週以上かかる。「生後何日目か」を必ず聞く。

の治療(CDC 2021)3

  • セフトリアキソン25〜50 mg/kg(最大250 mg)を1回静注または筋注する。1回で十分である。総説によっては上限を125 mgとするものもあるが、ここでは現行の CDC 2021 の値に従う。
  • ⚠️ の児、特に早産児では慎重に使う。カルシウムを静注中の児にはセフトリアキソンを使えないので、100 mg/kg を1回静注または筋注する。
  • 全身投与をすれば局所の抗菌薬は不要である。
  • (敗血症・関節炎・髄膜炎)の徴候を評価し、感染症の専門医と連携して管理する。
  • した眼瞼からの検体でクラミジアも同時に検査し、母親とを評価・治療する。

はでこまめに洗い流し、治るまで毎日診察する(結膜炎)。

クラミジア結膜炎の治療(CDC 2021)2

  • (塩基またはエチル)50 mg/kg/日を4回に分けて14日間内服する。代替はアジスロマイシン20 mg/kg/日を1日1回3日間。
  • 点眼だけでは不十分である。にも菌がいて、生後1〜3か月のクラミジア肺炎の原因になるからである。
  • の有効率は約80%なので、2回目の治療が要ることがある。
  • ⚠️ 生後6週未満の・アジスロマイシン内服は乳児と関連するので、嘔吐などの症状に注意して経過をみる。
  • 検体はした眼瞼から、の細胞を含めて採る(クラミジアは細胞内にいる)。

⚠️ は入院して治療し、全身感染(淋菌の、クラミジア肺炎、ヘルペスの全身感染・脳炎)を必ず評価する(結膜炎)。

予防点眼の現状

歴史的には、Credé 法として出生直後にを点眼して淋菌性の失明を激減させた。は刺激が強くを起こすため、現在はほとんど使われない。

国・機関 現在の方針
米国 出生時に0.5%を両眼に1回。帝王切開の児にも行い、多くの州で法律上義務づけられている3。USPSTF は2019年にも全新生児への予防をグレードAで推奨し続けた4
その他の国 ・テトラサイクリンなどを使う国がある一方、を重視して全例の予防点眼をやめた国もある
  • 予防点眼は淋菌には有効だが、の予防点眼はクラミジアの結膜炎と肺炎を防がない2。
  • 出生時1回の点眼だけでは防ぎきれず、妊婦健診での淋菌・クラミジアのスクリーニングと、パートナーを含めた治療のほうがより重要である1。

ウイルス性結膜炎:アデノウイルス

の結膜炎は学童で最も多く、次の2つの型がある。

項目
血清型 4・8・19・37型 3・7型
感染力 非常に強い 強い(夏のキャンプ・学校で集団発生)
眼の症状 7〜21日続く強いと充血、同側の
全身症状 目立たない 高熱、鼻炎、咽頭炎、リンパ節腫脹
経過と合併症 、下浸潤(角膜炎)、まれに細菌の 通常3〜5日で自然に治まる
  • ⚠️ 角膜のがにかかると視力が落ちる。視覚の発達期にある幼い子どもでは、これが長引くとの原因になりうる()。
  • ウイルスそのものを治す薬はなく、対症療法が中心である。何より感染の拡大を防ぐ対策が大切で、手洗い、タオルを共用しない、診察器具の消毒、登校・登園の制限を指導する。
  • ・では、眼瞼の水疱と角膜病変を確かめる。ヘルペスにステロイド点眼を安易に使わない(ヘルペス角膜炎)。

アレルギー性の眼の炎症

病型 年齢 特徴
全年齢 IgE を介する。季節性・。空中の抗原(花粉・ダニ)で起こり、鼻炎・喘息などのを伴うことも伴わないこともある
5〜10歳の小児 の()、、視力障害
思春期 などの皮膚の病気を伴い、角膜合併症を起こす
  • 治療は抗ヒスタミン薬(点眼・内服)、ステロイド、点眼で、・アレルギー科・小児科と多職種で管理する。段階的な治療の組み立ては結膜炎を参照。
  • ⚠️ ステロイド点眼を長く使うととを起こしうるので、小児でもを定期的に測る。

眼瞼の病気

麦粒腫と霰粒腫

幼い頃から多い病気である。

項目
病態 ・・の化膿性感染 の閉塞に続く
経過 眼瞼全体の腫れ・赤み・圧痛から始まり、やがて限局した膿瘍になる 限局したしこり。膿瘍のように見えることもあるが、本態は感染ではなくである
治療 、局所の抗菌薬、消炎薬。治らなければ切開 。残れば切開・
  • ⚠️ 切開は、10代より前の子どもでは全身麻酔で行う。協力が得られず、では安全に手術できないためである。
  • 眼瞼の腫れが眼瞼を越えて広がり、発熱を伴えば、蜂窩織炎への進展を考える(後述)。詳しくは眼瞼の病気。

マイボーム腺機能不全と眼瞼角結膜炎

💡 小児の眼瞼は「繰り返す結膜炎」「角膜の」として見過ごされやすい。眼瞼縁を見ずに結膜炎として治療を続けると、角膜の瘢痕で視力が落ちる。

外傷と異物

  • 幼い子どもに多く、女児より男児に多い。家庭内の事故が多く、料理中の事故などが典型である。
  • 小児では協力が得られないため、治療はしばしば全身麻酔で行う。
外傷の種類 対応
異物 ・角膜・眼窩に残る。の異物は CT で探す
・ 局所の抗菌薬
層状の裂傷・ 手術が必要
(酸・アルカリ) 緊急。ただちに大量の洗浄(小児は麻酔下で)、局所の抗菌薬と消炎薬
必ず眼底を診察する

その他の原因

原因 小児で気をつける点
・ 疾患に伴う。のぶどう膜炎は眼が白く静かなことが多いので、症状がなくても定期的なが要る(小児のぶどう膜炎、)
強膜炎・ 免疫の病気を探す(強膜炎、、と強膜炎)
それ自体は無害だが、外傷・虐待・・激しい咳(百日咳)など危険な原因を除外する()
角膜炎 者、医原性(点眼薬・処置)
蜂窩織炎 前か眼窩(隔膜後)かを分け、眼窩の蜂窩織炎と膿瘍を除外する
先天 とが続くがは白い。充血すれば二次的な結膜炎やを考える
・・角膜のと拡大。と間違えない

先天鼻涙管閉塞

先天は乳児のとの最も多い原因で、1歳までに大部分が自然に開通する。+睫毛の+白いが特徴で、で様子をみて、治らなければを行う。の時期は、1歳を過ぎても治らなければ行うという従来の整理と、生後6か月〜1歳で行う整理があり、幅がある(眼の発生異常)。詳細と、内眼角の下が青く腫れる先天ヘルニア(と感染の危険)はの病気を参照。

⚠️ に・角膜の・の拡大を伴えば、ではなくを疑って至急紹介する。

眼窩隔膜前蜂窩織炎と眼窩蜂窩織炎

小児のの多くはの副鼻腔炎から広がる。見分ける決め手は・眼球運動の制限と痛み・である。

flowchart TD
    A["小児の片側の眼瞼の発赤・腫脹"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・眼球運動の制限と痛み・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>のどれかがあるか"}
    B -->|"ない(すべて確かめられた)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='preseptal cellulitis'>眼窩隔膜前蜂窩織炎</span><br>内服抗菌薬と経過観察"]
    B -->|"ある、または腫れで調べられない"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital cellulitis'>眼窩蜂窩織炎</span>を疑う<br>入院・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV antibiotics'>静注抗菌薬</span>"]
    D --> E["造影CTで副鼻腔炎と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='subperiosteal abscess'>骨膜下膿瘍</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital abscess'>眼窩膿瘍</span>を確認"]
    C --> F{"24〜48時間で改善したか"}
    F -->|"しない"| D

⚠️ 腫れで眼を開けられない小児は、眼球運動も視力も調べられないので、として扱う。膿瘍・・頭蓋内への波及があれば手術を考える。抗菌薬の選び方と手術の適応はを参照。

危険な赤目を拾う流れ

flowchart TD
    A["小児の赤目"] --> B{"生後28日以内か"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neonatal conjunctivitis'>新生児結膜炎</span><br>生後日数で原因を推定<br>塗抹・培養・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid amplification test, NAAT'>核酸増幅検査</span><br>入院して全身治療"]
    B -->|"いいえ"| D{"外傷・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemical substance'>化学物質</span>の曝露があるか"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemical injury'>化学外傷</span>はただちに洗浄<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='blunt trauma'>鈍的外傷</span>は眼底を診察<br>異物は必要なら CT"]
    D -->|"いいえ"| F{"眼瞼の腫れに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・<br>眼球運動の障害・発熱を伴うか"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital cellulitis'>眼窩蜂窩織炎</span>として入院"]
    F -->|"いいえ"| H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・痛み・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photophobia'>羞明</span>・<br>角膜の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>があるか"}
    H -->|"はい"| I["眼科で角膜炎・ぶどう膜炎・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital glaucoma'>先天緑内障</span>を精査"]
    H -->|"いいえ"| J["結膜炎・眼瞼の病気として<br>年齢と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular discharge'>眼脂</span>・かゆみで原因を推定"]

まとめ

  • 赤目は総称で、場所(眼瞼・・上強膜・・角膜・・ぶどう膜)と原因(外傷・感染・炎症・異物・)、眼だけか全身の病気の一部かを分けて考える。
  • ・痛み・があれば結膜炎ではない。
  • :生後24時間以内は化学性、1週以内は淋菌、1〜2週はクラミジア。淋菌はセフトリアキソン25〜50 mg/kg(最大250 mg)の単回投与、クラミジアは14日間かアジスロマイシン3日間の内服で、生後6週未満ではに注意。母親とパートナーも治療する。
  • 予防点眼は淋菌に有効だがクラミジアは防がない。と治療がより重要で、予防点眼の方針は国によって異なる。
  • 幼児は細菌(・肺炎球菌)、学童はウイルス(・ヘルペス)、思春期はクラミジア、者は緑膿菌・アカントアメーバ。
  • (4・8・19・37型)は・・(幼児ではの原因にも)、(3・7型)は高熱と咽頭炎を伴い数日で治まる。感染対策が最重要。
  • アレルギー:(全年齢)、(5〜10歳、上眼瞼の)、(思春期、角膜合併症)。
  • ・はと局所治療、切開は小児では全身麻酔。思春期の眼瞼は周辺部の角膜炎と瘢痕を起こす。
  • 外傷は幼い男児の家庭内事故が多い。は緊急洗浄、は。
  • のぶどう膜炎は白く静かな眼でも進む。眼瞼の腫れは・膿瘍を除外する。乳児のは先天が多いが、と角膜のがあればを疑う。

出典

  1. 1.Ophthalmia Neonatorum(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)新生児眼炎が生後28日以内に発症する結膜炎と定義されること、発症時期が化学性で生後1〜24時間、淋菌性で2〜5日、クラミジア性で5〜14日、単純ヘルペス性で5〜14日(多くは7日以降)であること、淋菌性が多量の膿性眼脂と眼瞼浮腫を伴い未治療では24〜48時間で角膜病変へ進み穿孔・失明に至りうること、化学性は24〜48時間で自然軽快すること、予防点眼(エリスロマイシン・ポビドンヨード・テトラサイクリン)だけでは防ぎきれず妊婦の淋菌・クラミジアのスクリーニングとパートナーを含めた治療がより重要であることを確認した。閲覧 2026-09-29
  2. 2.Chlamydial Infections — Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021(Centers for Disease Control and Prevention・2021)新生児のクラミジア結膜炎が生後5〜12日に発症すること、検体は翻転した眼瞼から結膜細胞を含めて採ること、治療がエリスロマイシン(塩基またはエチルコハク酸エステル)50 mg/kg/日を4回に分けて14日間の内服、代替がアジスロマイシン懸濁液20 mg/kg/日を1日1回3日間であること、エリスロマイシンの有効率が約80%で2回目の治療が要りうること、生後6週未満のエリスロマイシン・アジスロマイシン内服と乳児肥厚性幽門狭窄症の関連、エリスロマイシンの予防点眼はクラミジアの新生児眼炎と肺炎を防がないこと、クラミジア肺炎が生後1〜3か月に起こることを確認した。閲覧 2026-09-29
  3. 3.Gonococcal Infections Among Neonates — Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021(Centers for Disease Control and Prevention・2021)予防として出生時にエリスロマイシン0.5%眼軟膏を両眼に1回、帝王切開の児にもできるだけ早く投与すること、米国の多くの州で法律上義務づけられていること、淋菌性結膜炎の治療がセフトリアキソン25〜50 mg/kg(最大250 mg)の単回静注または筋注で1回で十分なこと、高ビリルビン血症の児(特に早産児)では慎重に使い、カルシウム静注中の児にはセフォタキシム100 mg/kgの単回投与を使うこと、全身治療をすれば局所抗菌薬は不要であること、淋菌性結膜炎の児では敗血症・関節炎・髄膜炎などの播種性感染の徴候を評価し感染症専門医と相談して管理すること、同時にクラミジアの検査を行い母親とパートナーを評価・治療することを確認した。閲覧 2026-09-29
  4. 4.Ocular Prophylaxis for Gonococcal Ophthalmia Neonatorum: US Preventive Services Task Force Reaffirmation Recommendation Statement(US Preventive Services Task Force / JAMA・2019)米国における淋菌性新生児眼感染症の推定罹患率は2013〜2017年で出生10万件あたり0.4件と低いが、予防なしでは母体からの淋菌垂直伝播率が30〜50%に達し得ると評価した上で、USPSTFは2019年の再確認で全新生児への局所点眼予防をグレードAで推奨し続けていることを確認した。閲覧 2026-09-29